14. 最後の席替え

【きっかけ・ねらい】

12月の最終週から学級委員に席替えを考えさせていましたが、冬休み前に完成することができませんでした。当初の目論見は、12月の最終日に席替えをして、新年より新しい座席にするということでしたが、あせって失敗するより、じっくり考えさせてよりよいものを作成させた方がいいと考え、年越しもやむなしとしました。そして、新年になってからの2日間で最終調整をさせ、この日の終礼時に席替えをさせました。

 

なお、本校では伝統的に学級委員(男女各2人)に席替えの原案を考えさせる慣習があり、担任教師にはわからない生徒同士の人間関係を知る上ではよい機会であると思います。もちろん、原案をそのまま通すはずはなく、担任が何度も修正部分を指摘して再検討させ、両者の共同作業結果としてクラス全員に示します。

 

<追記>学級委員に過重な負担をかけないためとより公平なやり方をするために、学年によっては毎回くじ引きで座席を決めることもあります。

 

【手順・工夫】

席替えは生徒にとっては大きな関心事です。その席替えを行う時の注意は、できあがった席において隣になった生徒に露骨に嫌な態度を示すことがないようにすることです。事前にそういうことがないようにできるだけペアリングを工夫していますが、それでも何組かには若干の不安をかかえての公開となります。そこで、毎回次のような手法をとっています。

① 現在の席の前後、左右、近隣の人に「お世話になりました」と挨拶させる。

② 新しい席を発表する前に、それは最終的に担任が承認したものであり、原案を作った学級委員に文句を言わないように言う。

③ 誰の隣になったから嬉しいとか嫌だとかは絶対に言わないよう注意する。

④ 誰とでも良好な人間関係を作るように努力するように言う。

⑤ 席替え後に、新しい席の前後、左右、近隣の人に「よろしくお願いします」と挨拶させる。

 

【実際の会話】1/13

T:では、大変遅くなりましたが、席替えを行いたいと思います。

S:(「ようやくその日が来たか」という少々うきうきした顔をしている)

T:まだ机の上に書写の道具が残っている人がいますが、移動できますか?

A男:(視線を送ると)大丈夫です。

T:ペットボトルに水の入っている人もいますが大丈夫ですか?

B子:先生~、まだダメで~す!

C子:キャップないからこぼれちゃう!

T:早くしなさい。

S:(数名がそそくさと机上を片付ける)

T:では、慣れ親しんだ周りの人たちともこれでお別れです。前後、左右、それから近くの人たちと「ありがとうございました」と言いましょう。

S:(クラス中が「ありがとうございました」の明るい声でいっぱいになる)

T:それでは新しい座席表を貼ります。座席表は先生用なので前後が逆になっています。

 位置をわかりやすくするために上下を逆さまに貼ります。みんなの名前がひっくり返しになりますがいいですか?

D男:オレの名前は簡単だから、ひっくり返しでもわかりやすいや。

T:それから、これはあらかじめ言っておきますが、学級委員がかなりの時間と労力をかけて作ったものです。作っては先生にダメ出しをされ、直してはまた修正しろと言われ…。そうして作ったものです。最終的に先生がOKを出したものですから、学級委員には文句を言わないこと。

E子:先生ってそんなに文句を言うんだ…。

T:あのね、先生もね、必要があっていやな人間を演じているわけだから、そこは理解しなさい。では、貼りますから見に来なさい。

S:(座席表を貼るとみんなが一斉に見に来る。歓声が上がる)

T:では、みんな荷物を持って移動しなさい!

S:(移動する。その間にもいろいろな声が聞こえる。話をしていて動かない者もいる)

T:早く席に着きなさい!

S:(みんな席に着く)

T:では、まず隣の人と「よろしくお願いします」と挨拶をしましょう。

S:(みんな挨拶をしているが、恥ずかしいのか「ありがとうございました」ほどの盛り上がりはない)

T:次に、前後の人と挨拶をしましょう。

S:(挨拶をする。同上)

T:次に、斜めの人と挨拶をしましょう。

S:(挨拶をする。同上)

T:では、残り約2ヶ月間、みなさんはここで新しい隣人と仲良くやっていきます。もしかしたら、今まであまり話したことがないような人が周りにいるかもしれませんが、そういう人と新たな人間関係を作るのも勉強です。みなさんはきっと将来見知らぬ人の中に入っていかなければならないことがあるでしょう。そいういった時のために学校で人間関係作りの勉強をするわけです。

S:(みんな真剣な顔で聞いている)

T:(ここで関連の話題が思い浮かぶ)学校というのは、そういうことを勉強するところでもあるわけですね。よく、もう学校なんかいらないんじゃないかという話が出てきます。インターネットとか自宅学習教材で勉強できますからね。実際、そういう人もけっこういるようです。でも、もしみんながそうするようになったら、大人になったときにきちんとした人間関係を築けない人が多くなって、問題がけっこう増えるでしょうね。だって、それまでにそういう訓練をしてきていないわけですから。

S:(相変わらず真剣な顔で聞いている)

T:というわけで、誰のとなりがいいとか、誰のとなりがいやだとかいうのではなく、どんな人ともうまくつきあえるように努めましょう。いいですか?

S:はい!(かなり素直に返事している)

T:あと、今日も「○○の時間がうるさかった」という反省がありましたが、みんなは仲がいいのはいいけれど、だからと言っておしゃべりをしていいということにはなりません。新しい座席になって、またしかられるということがないように緊張感をもって過ごしなさい。

S:(少し下向き加減で聞いている)

T:それから、掃除当番は今週いっぱいは前の座席の人にやってもらいます。

S:(該当者から「え~!」という声が起こる)

T:(その声は無視する)では、今日はおしまい。

 

【こぼれ話】

終礼後、3人の女子生徒がやってきて、「T子さんが前回と同じ席です」と言ってきました。再三確認したつもりでしたが、最終調整をした時に見逃してしまったらしく、「しまった!」と思いました。しかし、それを言いに来た生徒達は「もう1回席替えをやり直しましょう!」と言うので、これは新しい席が気に入らないという気持ちでわがままを言いに来ていると察し、「一度やったらそれはない。Tさんには私から謝って納得してもらう」ときっぱり断りました。

 

その後、今度は学級委員のM子がT子を連れてきて、「先生、T子さんが前と同じ座席です。気づかなくてすみません。どうしましょう…」と困った表情で言いに来ました。そこで、M子にも「一度みんなに公開したら、それを撤回するのはよくないから、やり直すつもりはありません」と言い、T子には「ごめんね。実は最終決定をする前に確認したところ、前の座席と同じ人がいたので、その人を動かしたら、あなたが同じ位置になってしまったことに気づかなかった。隣の人がちがうから、このまま納得してくれないだろうか?」と言うと、「大丈夫です。周りの人もみんなちがうし、特に問題はありません」と笑顔で言ってくれました。「さすがT子さんだね。あなたならきっとそう言ってくれると思った」と褒め、一件落着しました。

 

実は、T子は以前に「『ありがとうございました』の気持ち」(第6話)で紹介した「テストを受け取るときにも自然に『ありがとうございました』を言える人」として紹介した女子だったので、その子の好意に甘える形で今回のトラブルを乗り切ることができました。

 

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