【きっかけ・ねらい】
この話は、当初は①と一緒に話すつもりだったのですが、時間がなかったことと、内容が多くなりすぎて生徒があきるのではないかと思い、別の機会に話そうととっておいたものです。3年生の学年合唱では、指揮者がかなり派手な演技をしながら生き生きと指揮をしていましたが、3年生はそれをしっかりと受け止め、指揮者の演技に合わせて歌も変化するという、まさに理想的な指揮と歌のコラボでした。
一方、それを見ていた1年生と2年生は、クスクス笑いながらそれを見ていました。こういう状況があるというのは、例えば授業で何かを発表させる際にも、仲間に笑われることを恐れて、心を開いて思い切った発表ができないことを意味します。そして、それは特に1年生においてこれまでの授業の中で見てきた生徒の実態と合っていました。この状況を変えるには、生徒の意識を変える必要があると思い、まずはその第一歩として、この話をすることにしました。
【手順・工夫】
この話は、自分が所属する集団において、安心して自己実現ができる心理的な環境整備をさせることと、一方でクラスの問題点となっている、授業中や終礼中のおしゃべりを改善するための糸口を与えるために考えたものです。そこで、この話をするにあたっては、次のような手順と工夫を考えました。
① 3年生の学年合唱の指揮者のことをどう思ったかを尋ね、話のきっかけとする。
② なぜ3年生はあの派手な指揮を受け入れ、かつ楽しんでいたのか考えさせる。
③ 1年生であの指揮者が出てきたら、どういうことが起こるか予想させる。
④ 授業中や終礼中のおしゃべりと③の予想されるできごとに共通する問題点は何かを考えさせる。
【実際の会話】12/15
T:合唱発表会についてどう思ったかというのは先日聞きましたね。そして、学級委員さんに感想を述べてもらいました。今日はその続きです。みんなは3年生の学年合唱を覚えているよね。あの時の指揮者を見て、どう思った?
A子:O先輩でしょ?
T:O男くんです。
A子:すごかった!
T:彼とはね、去年1年間、授業で一緒にお付き合いしたから、ああいうパフォーマンスが出てくるだろうというのは何となく予想していたし、出てきたときは彼らしいなあって思った。みんなはどう思った?
B男:かっこよかった!
C子:美しかった!
D子:芸術家って感じでした。
T:へえ、そうかあ。そう思って見てくれたんだったら、少し安心したな。でもね、最初からそう思ったかい?最初は「何、あれ?」とか「変!」とか思わなかったかい?
S:(・・・)
T:なんでそんなことを言うかっていうと、彼が最初に指揮を始めたとき、1年生がけっこうクスクス笑っていたからさ。
S:(みんなの顔が緊張している)
T:1年生だけじゃない。2年生もそうだった。中には、3年生が立っていたから見えない人たちが、みんなが笑っているから見たくなったんだと思うけど、1年生も2年生も立ったり横に移動したりして、面白そうに見ていた。そういう人たちは、「すごい」と感動しているというより、なんか見せ物を見て楽しんでいるように先生には見えた。
S:(これはかなりまずい話になってきたという顔をしている)
T:ところで、3年生はどうだった?笑っていたかい?
D子:笑っていませんでした。
T:そうだっただろう。彼らにもO男くんがあのくらいのことはするだろうという予想はあっただろうし、おそらくリハーサルでも見ていただろうから、慣れていたということもあるだろうね。でも、それだけだろうか?私には、彼らはO男くんの指揮を純粋に楽しんでいたように見えたし、彼の指揮に合わせてどんどん歌が盛り上がっていったでしょ?
D子:そう、すごかった!
T:じゃあ、なんでO男くんにはあれができたんだろうね?実は、あの日の翌日、彼に会ったときに、彼にこう言ってみたんだよ。「O男くん、昨日の指揮は素晴らしかったねえ。やっていて楽しかったでしょ?」ってね。そうしたら、彼は「はい、みんなが真剣な顔をして一生懸命歌ってくれたんで、本当にやりやすかったです。」ってね。だから、先生は言ったよ。「先生は君がうらやましいなあ。あれだけの大胆な指揮をすんなり受け入れてくれる仲間がいて」ってね。そうしたら、彼は「ありがとうございます。本当にいい仲間に恵まれて幸せです」って言ってたよ。
S:(真剣な顔で聞いている)
T:さて、この間も話したけど、今年の1年生の課題は3年生を見ているとわかるんです。もし、あのO男くんがみんなの学年合唱の指揮をやったらどうだろうか?
D子:笑っちゃうかも…。
T:そうだろうねえ。みんなゲラゲラ笑っちゃって、合唱にならなくなっちゃうかもしれないな。それはどうしてだろうか?
S:(・・・)
T:その答えは重要だから、じっくり考えてもらいたい。それから、以前から授業や終礼がうるさいって学級自治会を開いているよね。それによって改善されてきてはいるけど、まだまだ十分とは言えない。いったい、なんでうるさくなってしまうんだろう? なんでおしゃべりしちゃうんだろうね?
S:(・・・)
T:私にはね、O男くんの指揮で笑ってしまうんじゃないかということと、おしゃべりが止まらないという2つのことには、ある共通点があると思うんだよ。
S:(多くが下を向いている。学級委員と議長団はこちらを見ている)
T:今日はこの後に面談もあるからこれ以上は話さないけど、冬休み明けの学級自治会ではそのあたりを深くえぐってもらいたいな。今のみんなに欠けていることを。そこに気づかないと、いくら表面的に「~をする」という目標を決めても、結局はうまく機能しないと思うし、機能したとしても長続きしないと思う。根本にある、気持ちの部分を変えないとダメだと思う。
S:(まだ多くが下を向いている)
T:それはさ、おそらくまだみんながその大切なことに気づいていないだけなんだよ。一人一人はすてきな心の持ち主なんだから、きっとできるようになるよ。
S:(顔が上がってくる)
T:だって、そうじゃないか。これまで9ヶ月間、学校生活を送ってきて、いろいろなことを学んで、頑張って成長してきただろう。だから、そのみんななら、必ず今よりよい方向に変われるはずだよ。でも、そのためには、今までより少し努力しないといけない。それを期待しています。では、今日はこれでおしまい。
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