終礼の話

これは英語学習指導とは直接関係のない話ですが、実は筆者の英語の授業を支える大切な教育実践であり、しかもすべての教育活動のベースともなっているであろうと思うことに関係する内容なので、ここでそれを紹介します。

 

1.「終礼の話」とは

「終礼」は、「帰りの会」とか「帰りの学活」などとも言われる学級の時間です。小学校や中学校であれば、一日の日課の最後に位置づけられている学校がほとんどでしょう。高校であれば、「(ショート・)ホーム・ルーム」として朝の授業前や一日の最後に位置づけられている学校も多いと思います。「終礼の話」とは、その終礼の時間に学級担任が生徒に向かって話す時間のことです。ここまで読んで、「司会を担任がしていて常に話しているから、そんな独立した時間なんてないね」とか、「事務連絡をしたり、生徒に注意したりする時間のこと?」などと思った方もいらっしゃるでしょう。それを筆者は特別に「終礼の話」という独立した指導時間として考えています。その時間をとおして、学級担任としてクラスの生徒に伝えたいことを話すのが「終礼の話」です。

 

ここで取り上げる「終礼の話」は、そうした考えから平成21年度に入学した生徒と平成25年度に入学した生徒にそれぞれ3年間にわたって話した内容を、ICレコーダーによる録音または直後の記憶により書き起こした記録です。学級担任の話と言っても、教師が一方的に話すものではなく、生徒とやりとりをしながら進めていくものです。したがって、書き起こしたものを読んでいただくと、教師と生徒が代わる代わる発言しています。また、それぞれの記録には、実際の会話だけでなく、その話をすることになった「きっかけ・ねらい」、その話をするにあたって考えた「手順・工夫」、そして話し終えた後の感想や出来事を記した「こぼれ話」も載っています。

 

2.なぜ「終礼の話」なのか

筆者が「終礼の話」を特別のものと考えているのは、勤務校独特の都合と筆者の英語教師という事情から来ています。

 

筆者の勤務校では、「終礼」の時間がその日の最終授業の5分後に設定されています。司会は学級週番が行い、授業連絡や係や委員会からの連絡、一日の反省の発表などがどのクラスでも行われています。そして、最後に司会から「では、最後に先生のお話です。」と振られることになっています。終礼に限らず、諸活動のほとんどを生徒中心に行っている勤務校では、終礼における担任の話も“付け足し”みたいな時間なのです。生徒もそう思っていますから、その時点で多くの生徒が「さあ、部活動だ。」とか「すぐに帰ろう」などと頭を切り換えています。そのタイミングで話し始めますから、機械的に事務的な話をしてもほとんどの生徒は聞く耳を持っていません。そのような生徒の心を自分の話に向けさせるためには、何らかの工夫が必要です。

 

一方、筆者が基本的に授業は英語で行っていることは、「入門期指導」、「コミュニケーション活動」、「授業は英語で」等のページをご覧になった方ならご存じだと思います。授業を英語で行うためには、生徒と教師が活発にやりとりできる状態でなければなりません。しかし、授業を英語で行っていると、自然に無駄話はしなくなるので、授業中に冗談を言ったり生徒と気軽に話したりして、授業をとおして生徒との人間関係を作るというのが難しくなります。英語の授業を活性化するには、他に生徒と活発に会話できる場を設け、そこで人間関係作りをしなければなりません。

 

以上のような状況の中で出てきた答えが、「終礼の話」なのです。

 

3.意味のある「終礼の話」のために

生徒が用意してくれた時間とはいえ、ただ単に事務的な話をしても生徒は聞いてくれませんし、ましてやその話で生徒との人間関係つくりなどできません。生徒の心を動かし、生徒の心に残る話をするためには、話の内容や話し方を工夫しなければなりません。しかも、それを一方的に話すのではなく、生徒とやりとりをしながら話を進めていく方法を採ることも必要です。

 

まず、生徒に話す意味のある話になるように、話題(トピック)を考えます。話題は、季節によるものや行事によるものが多くなりますが、ふと思ったことや見聞きしたこと、その日の出来事などから考えたことを話題にすることもあります。どのような話題であっても、必ず生徒に関係がある内容になるようにします。

 

次に、あらすじを考えます。行き当たりばったりや思いつきで話すと、途中で話の方向がずれてしまって、伝えたいことを話せなくなってしまったり、生徒が関心を持ってくれる話にならなくなってしまう可能性もあるので、起承転結を考えて話を構成します。特に、筆者の場合は臨機応変に話をするのがあまり得意ではないので、身のある話にするために、事前にきちんと話の内容を考えて整理しておくことが重要です。たいていの場合、話のあらすじを手帳にメモしておき、忘れないように直前に再確認したり、話している途中で確認できるようにしたりしておきます。

 

そして、これはすべての話がそうではないのですが、手帳に自分の具体的な発言を箇条書きにメモしておいたり、生徒の予想される反応とその回答を用意しておいたり、話す内容をすべて話し言葉で書いておいたりすることもあります。

 

以上のように、ここで取り上げる「終礼の話」は、明確な目的と周到な準備のもとで行われた教師と生徒の会話の記録なのです。

 

4.「終礼の話」の行き先

「終礼の話」の記録は、そのままデジタル・データになっているだけでは何の価値もありません。そこで、ある程度まとまった数の話の記録ができたところで印刷して小冊子(A5判)にし、同僚や外部の希望者に配ってみました。そうしたところ、「これまでにない記録ですね。」とか、「隣のクラスで担任の先生がどんな話をしているかがわかって勉強になりました。」などの声をいただきました。

 

褒められると嬉しいもので、一定期間毎に次々と続刊となる小冊子を発行しました。最終的には、1回目の実践(平成21年度入学生用)では7冊、2回目の実践(平成25年度入学生用)では9冊もの小冊子を手印刷で作成して(各50~100冊)配布しました。

 

そして、当時の副校長の勧めもあり、それぞれ3年間たまったものを1冊の本にすることにしました。

 

しかし、このような“教育実践記録”などを本にしてくれる出版社などありません。そこで、なじみの印刷会社で自主制作本として作成することにしました。そうしてできたのが、1回目の実践をまとめた『では、最後に先生のお話です。』(A5判、364頁)であり、2回目の実践をまとめた『続・では、最後に先生のお話です。』(A5判、500頁)です。

 

一冊目は勤務校の研究協議会で宣伝販売したこともあり、最初に200冊作成したものがあっという間に無くなり(最高で一日に80冊売れたことがありました)、追加で300冊作成したものも無くなってしまいました。それだけ多くの先生方の琴線に触れる(?)実践記録を提供することができたのかなと自負しています。二冊目は最初から600冊作成しましたが、こちらも残部が少くなりました。

 

5.「終礼の話」の実践例紹介

前置きが長く、散々お待たせしましたが、「終礼の話」の実践例をご紹介します。下記のタイトルをクリックしていただくと、それぞれの「目次」があります。リンク先のあるタイトルは、それをクリックしていただくとさらに別ページで話を読むことができます。

 

本2冊で計156話、総頁数864頁(各頁40字×40行)にもなる膨大な記録なので、生徒に評判の良かった面白そうな、そして先生方に役に立ちそうな話から順次アップしていきます。

 

「終礼の話」本の目次

『では、最後に先生のお話です。』(平成21-23年度実施の「終礼の話」集)2012.4 発行

 

「続・終礼の話」本の目次

『続・では、最後に先生のお話です。』(平成25-27年度実施の「続・終礼の話」集)2016.4 発行 

「終礼の話」本の表紙

「続・終礼の話」本の表紙