(2) “お調子者”の活用

先生のクラスに“お調子者”がいたとします。何かというと騒ぎ立て、授業中は余計なことを言うので、その生徒のせいでしばしば授業がストップしたりします。しかし、筆者の経験では、クラスにお調子者がいてくれる方が授業作りやクラス作りには助かります。それはどうしてなのかをお話ししましょう。

 

まず、その生徒はなぜお調子者なのでしょうか。簡単に言えば、こういう生徒は自分の感情や思いついたことを表現する、つまりアピールすることで自分に注目してほしいと思っているのです。では、他の大人しい生徒はそう思っていないのかというと、そんなことはありません。みんな自分に注目してほしい、つまり認めてほしいと思っているのです。しかし、大人しい生徒はそれをどう表現していいかわからないので黙っているだけです。それに対して、お調子者はそれを自由に表現する(他の目をあまり気にしない)能力に長けているのです。

 

ですから、クラスにお調子者がいたら、その生徒の発言を上手に取り上げて相手をしてあげます。そして場合によっては「君の言うとおりだ」と褒めてあげます。そうすると、ほぼ確実にその生徒は「やったね!」とガッツポーズをします。その嬉しそうな態度からもいかにその生徒が教師に認められたくて口を開いているのかがわかります。もしかしたら、それによって益々その生徒のお調子振りがエスカレートするかもしれません。しかし、このお調子者を上手に扱うことは、話を効果的に進めるために有効であるだけでなく、学級を良好な集団に育てることにも大きな効果を発揮します

 

それは、先生がこのお調子者をどう扱うかに他の生徒みんなが注目しているからです。その点で言うと、そのようなお調子者を教師が「うるさい!」「黙っていろ!」とただ切り捨ててしまったら、そこでおしまいです。なぜなら、「認めてほしい」と思っている気持ちを教師が切り捨てるところを他の生徒が見ているからです。その時点で、他の生徒にも「あの先生は自分のことも切り捨てるだろう」と思われてしまいます。それをすべての生徒が明確に意識しているわけではないかもしれませんが、潜在意識には刷り込まれてしまいます。

 

反対に、この一見するとただうるさいだけの(?)お調子者を先生が上手に相手することを見せるのは、上記の逆の意味で大きな影響を他の生徒に与えます。それは、「あのうるさいヤツでさえ先生は褒めてくれるんだ。だったら自分のことはもっと褒めてくれるかもしれない」と思って、みんながどんどん自分の気持ちを表現するようになります。そしてそういう生徒がどんどん増えれば、集団の中で自分を素直に表現できる安心感が生まれ、居心地がよくなって益々自分を表現するようになります。

 

しかも、一見すると授業を進めるためには「邪魔者」のようなお調子者も大切にする姿を教師が見せることは、クラスの安定感を作ることにも貢献します。それはその教師が一人一人の生徒を大切にしていることを示すことであり、生徒にも仲間一人一人を大切にしてほしいというメッセージを自分の態度で示すことになるからです。その逆の態度を教師が取ると、つまりお調子者は切り捨てるという態度を見せると、生徒の間にも無意識のうちにそういうことをしていいのだという雰囲気が作られてしまい、それは「いじめ」を誘発する要因にもなります。

 

筆者が最後に担任した2・3年生のクラス(2年昇級時に一度だけクラス替えがある)には2人の"お調子者"がいました。2人とも1年次はそれぞれのクラスで「うるさいヤツ」というレッテルを貼られていた生徒です。しかし、筆者にとっては彼らの存在はクラス経営上とてもありがたいものでした。筆者が投げかける話にはいつもよく食いついてくれ、いろいろ面白い反応をしてくれたからです。それを聞いている他の生徒もどんどん自分の言いたいことを言うようになり、2年間とてもにぎやかで明るいクラスになりました。その様子は「続・終礼の話」の各記事に表れています。

 

そのことは当時も意識していましたから、彼らとの個人面談時ではしばしば「君が私のクラスにいてくれて本当に良かった。ありがとう。」と伝えていました。そうすると、彼らの賑やかさはもはや授業を邪魔する存在でなどはなく、ますます授業の進みを助けてくれる方に働いてくれる存在になって行きました。そして、クラスの明るい雰囲気作りには欠かせない生徒であるということをクラスの全員が認めるようになりました。

 

このようになってくれると、英語の授業では活発に発言し、その他の活動場面では生徒同士で話し合って自分たちで進めてくれるようになります。教師の仕事はクラス全体の雰囲気の微調整くらいになります。このようなクラスにできた要因の1つが“お調子者”の存在だったと今でも思っています。ぜひ先生のクラスでもそのような生徒を上手に生かしてみてください。

 

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