どのような話が生徒の関心を引くのでしょうか。ここではそれをまとめてみます。もちろん、毎回の話にすべての要素が入っていなければならないということではありません。
A. できれば毎回取り入れたい内容
① 驚きのある(聞く価値のある)内容にする
当たり前のことや答えがわかりきっている話はあまり人を引きつけません。それに対して、「へえ~!」とか「そうだったんだ!」とか「ホントに?」と思うような話であれば、多くの人が興味を持って聞いてくれます。生徒も聞く価値のある話なら聞こうとしますので、そのような内容になるように心がけてみてください。
② 生徒の生活に身近な内容にする
いきなりあまりにも普段の生活とかけ離れたような一般論の話をしても、中学生は興味を示しません。もしそのような話をしたい場合は、生徒の生活に身近な話題の中に伝えたい内容に近い現象を見つけ、その話から一般論へ導くようにするとよいでしょう。そうすると、それが例え少し難しい話であっても、自分がわかる範囲のことを基準にして考えるので、話に着いてきます。
③ 達成目標がわかり、考えれば答えが見つかる内容にする
生活改善を求めるような話をする場合は、どうすれば今より良い状態になるのかを具体的に示してあげると、生徒はそれを目指すようになります。よく「そんなことは自分で考えろ!」という先生がいますが、それも程度ものです。自分の生活経験の範囲内にないことは、考えても思い浮かびません。ヒントを与えたり、ステップを示してやったりして、その生徒が自力で答えが出せるように仕向けてあげるのがよいでしょう。そういう話をしてあげれば、生徒は話を聞くようになります。
④ 「叱る」より「褒める」内容を多くする
誰でも自分が責められる話は聞きたくないものです(筆者だけ?)。反対に褒められる話なら聞きたくなります。生徒の言動について気になることがあったら、直接そのことを責めたり問いただしたりせず、その対極にある良いことだと褒められる状況を話題にします。すると、生徒はそういう状況になれば自分も褒められるのだと思ってそうするようになります。「叱るより褒めろ」と言われる所以です。
⑤ 個人を責める内容にしない
それでも場合によっては生徒を叱らなければならないこともあるでしょう。しかし、そのような場合、内容は同じでも個人を責めるような話にしないことが肝心です。
ここで話題にしているのは、あくまでも学級、学年、全校生徒という集団に向かって話す場面です。そのような場面で、ある生徒を責めるような話を出すのは、その生徒を集団の中で吊し上げることになります。もしそのような場面を生徒同士の話し合いで見つけたら、先生ならどうするでしょうか。きっと止めるはずです。
しかし、教師自身がそのような吊し上げにあたる発言をしてしまうと、生徒に対する指導と矛盾が生じます。生徒は「先生は自分たちにやってはいけないと言っていることを自分でやっている」と思ってしまいます。責められた生徒自身は萎縮してしまうか反発するかのどちらかでしょう。しかも、教師が率先してそれをやっている姿を見せることは、生徒同士でもそれをやっていいというメッセージを送ることになります。
B. 場合によって取り入れたい内容
① 具体的なデータを示す
生徒に直接関わるようなことについて、少し謎めいた数字を出すようにします。すると、生徒は「いったい何のことだろう?」と興味を示します。そしてそれが何を表すと思うかを生徒に問うようにします。筆者の経験では、このようにすると生徒の頭が回転し、話によく乗ってきます。
その具体例として、「2. 生徒が耳を傾ける話」の「(1) 全校生徒に挨拶をしっかりするように話した例から」にそのような場面があります。また、「終礼の話」のいくつかにもそのような話があります。ぜひそれらの話に生徒が食いついてきている姿を記録から思い浮かべてみてください。
ただし、このタイプの話をするには少し前から準備をする必要があります。なぜなら、生徒に示す数字を探す必要があるからです。あるいは、生徒に話すための数字を得るための何らかの具体的行動が必要になることもあるからです。そして、話の方向性が決まったところで、その話に生徒が関心を持ってくれそうな数字を得るための作業、調査、観察などを行います。つまり、話をよく聞いてもらうための資料を用意するということです。これは授業のために教材研究をするのと同じことです。
② 教師の弱さや過ちを認める内容を入れる
教師は生徒より人生経験が豊富で、生徒に比べていろいろな見方ができます。しかし、万能ではありません。不得意な(弱い)こともあれば、気づかないこともあります。人生経験が豊富だということは、「失敗した」ことも生徒よりも多いはずです。それを素直に生徒に話す内容を入れるようにします。すると、生徒は「いつもしっかりしていそうな先生でもそういうことがあるんだ」とか「よく僕たちにそれを話してくれた」とか「先生は正直で信頼できる」と思ってくれます。
実は、筆者はよくこの手の話をします。自分ではその効果を意識して入れていたわけではないのですが、教科指導の研修のために来校されたある先生が筆者の終礼の話をご覧になって、「生徒が先生の話をよく聞くのは、先生が自己開示をしているからだと思います」とおっしゃったのを聞いて、それを明確に意識するようになりました。なるほど、「自己開示」か…。自分の弱さや過ちを素直に生徒に伝えることが大切なのだということを気づかされたできごとでした。
もちろん、教師が自分の弱さや過ちを生徒に話すというのは勇気がいることです。それによって生徒にバカにされるのではないかと心配するからです。ただ、日頃から先生の話に矛盾やブレがなく、一貫して生徒のことを考えて行動していれば、その心配はいりません。むしろ、いつも強がって虚勢を張っている先生より生徒にとっては身近な存在に感じてもらえるでしょう。先生にとってもその方が気持ちが楽です。
③ 生徒に相談するような内容を入れる
「教師は生徒の指導者であり相談役である」。生徒も無意識のうちにそう思っているので、教師に頼ろうとします。ただし、この認識の裏には「生徒は教師より劣っている」という意識が隠れています。ところが、話の内容によっては教師より生徒の方がよく知っていることがあったり、教師とか生徒とかに関係なく一人の人間としてどう考えるべきかということもあります。そのようなときには、教師から生徒に相談するような内容を入れるようにします。すると、生徒は教師が自分たちを同等の立場に扱ってくれたことを嬉しく思い、どんどんいろいろなことを話してくれます。
お互いに自分の気持ちや考えを素直に表現し合える場面ができると、信頼関係を築くことができます。信頼関係が築ければ、話が通りやすくなります。逆に、教師が一方的に生徒を説き伏せるような話ではそれはできません。特に、思春期の真っ直中にある中学生は、権力を笠に着たり上下関係を強調したりする大人に嫌悪感を抱く年頃ですから、自分を下に見て話す大人に反発します。反対に、自分を対等な一人の人間として扱ってくれる人は信頼して心を許します。そこで、話したいことについて生徒にどう思うかを尋ねるのです。「答えを知っているか?」という態度ではなく、「どう思っているかを教えてほしい」という問いかけをすると、生徒は喜んで自分の考えを語ってくれます。
以上が筆者が考える「生徒が耳を傾ける話の内容」です。
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