今回は初めて三人称の主語の代名詞を導入する回です。その際に最も注意すべきことは、人称代名詞は必ずその前にそれが指し示す具体的な人物が登場していなければならないということです。ともすると、生徒だけでなく教員も男性を示していきなり "He is ~." と言ってしまいがちですが、そうではないことを徹底したいものです。そこで、ここではこれまで人以外のものの紹介に使われてきた "This is ~." を使って紹介したい人物を登場させ、その後に He/She ~. という表現にもっていきます。
さて、この文型の導入においても四半世紀以上前から英語科としてずっと使ってきている教材があります。それは国民的人気のテレビ・マンガ『サザエさん』です。そのレギュラー登場人物と準レギュラー登場人物を使い、その登場人物たちの関係を家族及び親戚の家系図を用いて示すことで "-'s ~" という表現を理解しやすくさせます。しかも、その過程で家族関係を示す多くの単語を導入することも比較的自然に行うことができます。もっとも、最近は以前に比べると同番組を見ている生徒が少なくなったので、登場人物を念入りに紹介しなければなりませんが…。
では、具体的な導入方法を紹介します。導入過程の中の T: は教員の発言、S: は全体または大勢の生徒の実際のまたは想定される発言、S1:, S2: は生徒個人の実際のまたは想定される発言を表します。なお、発言中の太字は強調して発音する部分です。
<準備するもの>
・『サザエさん』の登場人物の顔のイラスト
◇Introduction of the New Expressions
(1) Input of the new expressions
①(サザエの絵を見せて)
T: Look at this picture here. What is the woman's name?
S: Sazae!
T: That's right! This is Sazae. What is the woman?
S1: Character?
T: Good. She is an anime character. Once again, listen. This is Sazae. She is an anime character.
※ここでは聞かせることに留めます。以下同様。
②(波平の絵を見せて)
T: Look at the next picture. What is the man's name?
S: Namihei!
T: That's right. What is the man?
S: Anime character!
T: Well, yes, an anime characer, but Sazae's...?
S: Father!
T: Right. This is Namihei. He is Sazae's father.
(サザエと波平を結ぶ線を書いて親子関係を示す)
③(フネの絵を見せて)
T: Look at the next picture. What is the woman's name?
S: なんだっけ…
S1: フネ!
T: That's right. This is Fune. She is Sazae's...?
※同じパターンの2度目なので she を強調して使ってみます。
S: Mother!
T: Right. This is Fune. She is Sazae's mother.
(フネを家系図に加える)
④(カツオの絵を見せて)
T: Look at the next picture. What is the boy's name?
S: Katsuo!
T: Right. He is Sazae's...?
※同じパターンの2度目なので he を強調して使ってみます。
S1: 息子!
S2: ちがうよ、弟だよ!
T: That's right. Katsuo is Sazae's brother. Listen again. This is Katsuo. He is Sazae's brother.
(カツオを家系図に加える)
※以下、⑤ワカメ(sister)、⑥マスオ(husband)、⑦タラオ(son)、⑧ノリスケ(cousin)も順に紹介する中で "This is ~. He(She) is ー's ~." を繰り返し聞かせて、文のパターンと意味を理解させます。同時に家族・親戚を表す単語も導入します。そして、最終的にサザエさん一家の家系図を黒板に完成させます(あるいはプロジェクターで見せます)。
(2) Check of Understanding and Mim-Mem
(スピーチ・バブルを自分にかざして)
T: Now, everyone. This time, your turn. You are me, and say something about the characters.
①(サザエの絵を見せて指さし…)
S: This is Sazae. She... is... an... anime character.
T: Right. Say that again?
S: This is Sazae. She is an anime character.
T: Good. Repeat after me, "This is Sazae."
S: This is Sazae.
T: "She is an anime character."
S: She is an anime character. →Mim-mem
※まずは(1)で繰り返し聞かせた表現が生徒から出てくるかを確認します。その上で口頭練習を行います。その際にはコーラスだけでなく個人にも言わせて言えるか確認します。
②(波平の絵を見せて)
T: How about this man?
S: This is Namihei. He... is... Sazae's... father.
T: Say that again?
S: This is Namihei. He is Sazae's father. →Mim-mem
(3) Quick Consolidation of the Grammar Points
ここまで来たところで、生徒が気づいたことを日本語で確認しておきます。英語できちんと言えていれば理解もできているはずですが、中にはそれに気づいていない生徒もいるでしょうから、そのような生徒の理解を助ける意味合いがあります。また、わかっている生徒にも構文を論理的に理解させることを目指します。ただし、この時点では書いて示すのではなく、話しことばのやりとりだけですませるようにします。
T: では、ここまでのことでわかったことを整理しておきましょう。サザエさんの登場人物を紹介する文をたくさん言いましたが、どんなことに気づきましたか?
S1: he とか she を使う。
T: どんなときが he で、どんなときが she でしたか?
S2: 男が he で、女が she。
T: そうですね。男性には he を使って、女性には she を使います。でも、それらをいきなり使っていましたか?
S3: This is ~. と言ってた。
T: そのときに何か思いませんでしたか?
S4: 人にも this を使うんだと思いました。
T: そうですね。人に対して「これは」というのも変だから、どんな日本語を宛てたらいいでしょう?
S5:「こちらは」?
T: そうですね。「こちらは~です」と考えた方がいいですね。では、he や she はどういうときに使うのでしょうか?
S6: 一度出てきた人。
T: なるほど。一度名前を紹介した人に対して使うということですね。そうすると、男性と女性に分けて使うということは、それぞれどんな意味になるでしょうか?
S7: 「彼」「彼女」
T: そうですね。「彼は~です」「彼女は~です」というときに he や she を使います。でも、いきなり「彼、彼女」と言ったら誰のことかわからないので、he や she は誰のことかがわかってから使うということを覚えておいてください。
(4) Oral Practice
今回の目標文の意味を理解し、詳細な使い方も理解できたところで、(1)の登場人物の残りのすべてについてきちんと紹介文を言えるように練習をします。
◇Vocabulary for Further Practice
今回学習した表現を使ってさらに活動するために、そこで使う関連の単語を導入し、練習させます。
ここで使うのは『NHKサウンドペディア』というリズムに乗ったチャンツのような音声です。
<課題1>
1つずつ教師の発音で導入していきます。次に上記のリズムに乗って言う練習をします。
<課題2>
家系図を見て家族関係を表す単語を言えるか試します。
<課題3>
課題2では示しきれていない、しかし知っておいた方がいい家族・親戚関係を表す単語を導入して練習させます。
◇Oral Practice with a Worksheet
左のようなハンドアウトを渡し、個人やペアで言う練習をさせます。
<課題1>
This is ~. と名前をしっかり言えるかを確認します。
<課題2>
This is ~. に続いて He(She) is ~. を使って正しく登場人物を紹介できるかを確認します。
<課題3><課題4>
"-'s" の立場を変えて家族・親戚関係を正しく言えるかを確認します。直前に導入した語彙を場面に応じて正しく使えるようになる、つまり思考力・判断力・表現力を育成する活動です。
【おまけ】
今回の文型の導入を2016(平成28)年に行ったときの場面が筑波大学が発行する雑誌『ツクコム』(Tsukuba Communications, 2016.10)に載っています。そのときに取材に来た記者の目で見たこの場面の解説が載っていますので、そちらもご覧になってみてください。件の記事は こちら からダウンロードして読むことができます。
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