⑨ This(That) is a / an ~.

このフレーズを見て、ドリフターズの荒井注のギャグである「This is a pen!」を思い浮かべた方はある一定年齢以上の方ですね(笑)。冗談はさておき、この表現は筆者が中学生の頃は1年生の教科書(New Prince、現在の Sunshine)の Lesson 1 の Part 1 の新出文型でした。つまり、中学生になって最初に出会う英語の文だったわけです。

 

しかし、その後はこの表現が最初に出てくるのはおかしいという認識が広がり、同じ This is ~. の文でも This is my/your ~. の方が先に出てくるようになりました。ただ、ある一定年齢以上の英語教師は This is a pen. から習い始めたという記憶があるため、中にはなぜこの文が後ろに追いやられているのかを理解していない人もいるようです。

 

また、当時から今まで、This is a pen. には「これは(1本の)ペンです」という訳が与えられてきたので、"a" は「1つの」という意味だと思っている教員は今でも多いと思います。その証拠に、おそらく小学校や塾で英語を習ってきた生徒の多くが "a" の意味は「1つの」だと思っています。

 

しかし、"a" にはもう1つ重要な意味があります。それを教えるために、筆者の(元)勤務校ではこの文を⑨、すなわち9時間目に教えています。それまでに my/your、-'s、his/her などの表現、そして Whose ~? の疑問文まで扱っています。そしてそれは、"a" の意味をそれらから生徒に類推させるためでもあるのです。今回はそれを先生方にご理解いただくためのページです。また、これを読んでいただければ、なぜ "a" を「不定冠詞」と呼ぶのかということを、「定冠詞」the との比較とは関係なく明確に理解していただけるでしょう。

 

前置きが長くなりましたが、具体的な指導過程をご紹介します。T: は教員の発言、S: は実際のまたは想定される生徒の発言、S1:, S2: は生徒個人の実際のまたは想定される発言を表します。なお、発言中の太字は強調して発音する部分です。また、「スピーチ・バブル」とは台詞の吹き出しマークを描いた絵カードのことです。平叙文を言わせるための空のスピーチ・バブルの裏側に疑問文を言わせるための「?」マーク入りのスピーチ・バブルを用意して、使い分けます。

 

◇Introduction of the New Expressions

(0) Review of the Previous Expressions(Recollection)

①(初登場の新しいペンを持って)

T: Look at this pen.  Is this your pen?

S: No, it is not.  It is not my pen.  

T: Oh, this is not YOUR pen.  This is not MY pen, either.  Then, ...(「?」マークのスピーチ・バブルを自分の頭の上にかざして)my question is ...?

S: Whose pen is this? →Mim-mem 

T: Let me check it....  (サックをはずして「小山」と書かれているのを見せる)Oh, it is Mr. Koyama's pen.  ※Mr. Koyama は学年主任 

②(初登場の新しい消しゴムを少し遠くに置いて)

T: Look at THAT eraser.  That is not my eraser.  Is that your eraser?

S: No, it is not.  It is not my eraser.

T: Oh, that is not your eraser.  It is not my eraser, either.  Then,(首をかしげながら)Then, my question and your question is ...?

S: Whose eraser is that? →Mim-mem

T: Then, let me check it.... (カバーをはずして「小林」と書かれているのを見せる)Oh, it is Ms. Kobayashi's eraser. ※Ms. Kobayashi は女性の学級担任

※ここで大切なのはいきなり新しい表現に入るのではなく、前時の復習をしながら新しい表現を学ぶ土台作り(既習の文のどこをどう変えれば新しく習う文になるのかに気づきやすくする)をすることです。

 

(1) Input of the New Expressions ①

①(初登場の鉛筆を持って)

T: Look at this pencil here.  (首をかしげながら)Then, my question is...?

S: Whose pencil is this?  

T: Let me check it....  (鉛筆の周囲を確認しながら)No name on it....  Is this your pencil?

S: No, it is not. It is not my pencil.

T: This is not my pencil.  This is not your pencil.  This is not Mr. Koyama's pencil.  This is not Ms. Kobayashi's pencil.  Whose pencil is this...?   No name on it.  This is no one's pencil.  In this case, you say, "This is A pencil."  

②(初登場のノートを見せて)

T: Look at that notebook.  That is not my notebook.  Is that your notebook?

S: No, it is not.  It is not my notebook.

T: Then,(首をかしげながら)Whose notebook is that?  No name on it.  That is not your notebook.  That is not my notebook.  That is no one's notebook.  In this case, you say, "That is A notebook."      

※状況設定をしっかりして、既習の表現を生徒に使わせながら未習の表現をインプットします。ここでは聞いて意味を類推できることに焦点をあてます。

 

(2) Check of Understanding and Mim-mem ①

①(先程の鉛筆を持って) 

T: This is not my pencil.  This is not your pencil.  This is no one's pencil.  In this case, you say, ...? (スピーチ・バブルを自分の頭の上に乗せて)

S: This is a pencil. →Mim-mem

②(先程のノートを見せて)

T: That is not my notebook.  That is not your notebook.  That is no one's notebook.  In this case, you say, ...? (スピーチ・バブルを自分の頭の上に乗せて)

S: That is a notebook. →Mim-mem

※スムーズに答えが出れば "This is a ~." の意味が理解できたと判断します。したがって、ここで「どういう意味ですか?」などと説明する必要はありません。

 

(3) Mid-consolidation ①

T: では、ここでみなさんが新しく学んだ表現についてまとめてみましょう。(先程の鉛筆を持って)この鉛筆の持ち主は誰ですか?

S: 誰でもない

T: それを英語で何と言っていましたか?

S: This is a pencil.

T: そうですね。新しい表現は?

S: "a"

T: "a" ってどんな意味なんだろう?

S: 「1つの」

T: う~ん、もしかしたら、みんなはそれを知っていたからそう言っているのではないですか? ここまでの状況からすると、別の意味があったと思うのですが? This is a pencil. の "a" の場所には今までどういうことばがありましたか?

S: my, your, ー's, his, her

T: それぞれ持ち主を表す表現でしたね。その部分が "a" で「誰でもない」ということは?

S: 持ち主がいない

T: そうなんです。"a" は持ち主がわからないときに使うことばなんです。「1つの」という意味もありますが、もっと重要なのは「持ち主がいない」とか「わからない」という意味です。

※(2)の時点で意味を確認する必要はありませんが、中には意味を類推できていない生徒もいるでしょうから、そうした生徒の理解を助けることと、この後に予定している口頭練習をスムーズに行わせるための構文のチェックをします。ただし、ここのキモは教師がすべてを説明してしまわないことです。せっかく英語でオーラル・イントロダクションをしたのですから、そこからわかったことを日本語でも生徒から引き出すようにしてまとめていくようにします。さらに、多くの生徒はどこかで聞きかじった経験から "a" の意味が「1つの」だということは知っています。しかし、"a" にはより重要な「誰のものでもない」「持ち主がいない」という意味があることをここで、または最後にしっかり確認しておく必要があるでしょう。

 

(4) Input of the New Expressions ②

①(初登場の消しゴムを持って)

T: Look at this eraser here.  Is this your eraser?

S: No, it is not.  It is not my eraser.  

T: This is not my eraser.  No name on it.  This is no one's eraser.  In this case, you say, "This is AN eraser."

②(初登場のりんご/卵を見せて)

T: Look at that apple/egg.  No name on it.  That is no one's apple/egg.  In this case, you say, "That is AN apple/egg."

※状況設定をしっかりして、既習の表現を生徒に使わせながら未習の表現をインプットします。ここでは聞いて意味を類推できることに焦点をあてます。 

 

(5) Check of Understanding and Mim-mem ②

①(先程の消しゴムを持って) 

T: This is not my eraser.  This is not your eraser.  This is no one's eraser.  In this case, you say, ...? (スピーチ・バブルを自分の頭の上に乗せて)

S: This is an eraser. →Mim-mem

②(先程のりんご/卵を見せて)

※①と同様に

S: That is an apple/egg. →Mim-mem 

※スムーズに答えが出れば "This is an ~." の意味と使い方が理解できたと判断します。

 

(6) Mid-consolidation ②

T: では、ここでもう1つみなさんが新しく学んだ表現についてまとめてみましょう。今回は鉛筆、りんご、卵を紹介しました。それぞれ持ち主はいましたか?

S: いません。

T: そういうときは "a" を使うはずですが、今回は少しちがっていました。何と言っていましたか?

S: "an"

T: では、どういうときに "an"なんでしょう?

S: 次の単語が母音で始まるとき。

T: 母音って、具体的には何ですか?

S: あ、い、う、え、お

T: なるほど。では確認してみましょう? 消しゴム/りんご/卵 は何と言う音で始まっていましたか?

S: い/あ/え

T: 確かにそうでしたね。どうやら、母音で始まる単語のときは "an" を用いるようです。では、なぜ母音のときは "an" なのだと思いますか?

S: ・・・。

※こちらも(5)の時点で意味を確認する必要はありませんが、中には意味を類推できていない生徒もいるでしょうから、そうした生徒の理解を助ける意味でこの時点で確認しておいてもいいでしょう。生徒の中にはすでに "an" を使う条件を知っている者もいるはずなので、そうした生徒の発言を拾いつつも、あまり教師がそれに乗って言い過ぎないように、他の生徒の頭の中も整理するようにします。なお、最後の質問に対する答えはここで話してもいいでしょうし、最後までとっておいてもいいと思います。

  また、生徒には教える必要はありませんが、"a/an" を「不定冠詞」と呼ぶのは、まさにそれが直後の名詞の持ち主が「不定」だということを表す冠詞だからです。

 

◇Oral Practice with a Worksheet

左のようなワークシートを使って本時に学習した表現を口頭練習します。なお、ワークシートに英文が書かれていないのは、本校の方針として文字を見せずに口頭導入及び練習をしているからです。

 

(1) 最初に各ステップの課題をまず全員で練習をします。本校ではこの時点でICレコーダーに教師や生徒の発言を録音し、家庭で復習するときの模範の音源としています。

(2) 次にペアで練習をします。片方が出題役、もう一方が言う役です。もちろん、役を交代してもう一度行います。

(3) 最終的には家ですべての表現を口頭で言えるように練習する課題を出します。

 

具体的な細かい指導過程は、① My(your)~? Yes(No), my(your)~. とほぼ同じなので、そちらをご覧ください。