今回の指導は、筆者の勤務校(以下「本校」)で長年1年生の最初の新文型(表現)指導の際に扱う項目です。完全な英文(主語と動詞がある)の形はとっておらず、「私」と「あなた」という二者で行うコミュニケーションの基本的な意識を高めるものとして指導しているものです。
「えっ?こんな簡単なことに1時間もかけるの?」あるいは「こんな簡単なことの指導で1時間ももつの?」とお思いになるかもしれません。
前者の質問に対しては、実はここで扱うコンセプトは意外に難しく、ボーッとしている生徒はなかなかうまく言えないということを長年の経験からわかっています。ですから、ぜひとも先生方もしっかり指導していただきたいと思っています。
後者の質問に対しては、確かにこの表現を理解させるだけならそれほどの時間はかかりませんが、しっかり使えるようになるための口頭練習やペアでの実際のコミュニケーション活動まで行うと、1時間(50分)は決して長い時間ではありません。今回はオーラル・イントロダクションに絞って話を進めるので授業の全体像までは詳しく紹介しませんが、じっくり指導すれば「1時間もちます」とだけお答えしておきましょう。
◇Introduction of the New Expressions
では、具体的な指導過程をご紹介します。T: は教員の発言、S: は実際のまたは想定される生徒の発言、S1:, S2:… は生徒個人の実際のまたは想定される発言を表します。なお、発言中の太字は強調して発音する部分です。また、「スピーチ・バブル」とは台詞の吹き出しマークを描いた絵カードのことです。
(1) introduction of new words: "name tag"
T: Look at this.(名札の名前を指し)KO-I-NU-MA. Name! My name! NAME! Repeat! Name!
S: Name.
T:(名札を指し)TAG! Name tag. Repeat! Tag!
S: Tag.
T: Name tag!
S: Name tag.
(2) Input of the New Expressions
① My name tag
T: Koinuma ...? You, Koinuma?
S1: No.
T: You, Koinuma?
S2: No.
T: Oh! My name! Koinuma. My name tag.
② Your name tag
T: Kobayashi. You, Kobayashi?
S1: Yes.
T: Oh, your name. Your name tag.
(3) Check of Understanding and Mim-mem
① My pen
T: Pen.
S: Pen.
T: (スピーチ・バブルを自分に向けて)
S: ... my ... pen.
T: Yes! "My pen."
S: My pen. →Mim-mem
② Your pen
T: Koinuma.... Your pen?
S: No, ... your pen.
T: Right! "Your pen."
S: Your pen. →Mim-mem
※ここで大切なのは、「今のはどういう意味でしたか?」と問うのではなく、状況設定からインプットした表現を表出できるかどうかで理解できているかを判断することです。こうすることで、無用な日本語を使わずにすみます。
(4) Oral Practice
①ある生徒のペンを持って
T: Your pen?
S1: Yes, my pen. →Choral Practice
②ある生徒のペンを持って
T: My pen?
S1: Yes.
T: Oh, thank you! My pen! My pen?
S1: No, ... my pen. →Choral Practice
③自分のペンを持って
T: My pen?
S: Yes, your pen. →Choral Practice
T: Your pen?
S: No, your pen. →Choral Practice
いかがだったでしょう? ここまでが英語だけで生徒に "my ~" と "your ~" を理解させ、正確に言えるようにする指導過程です。
◇Further Oral Practice with a Worksheet
上記のオーラル・イントロダクションだけでは練習が足りません。そこで、他にもいくつかのピクチャーカードを示してそれらの単語を導入しつつ "my 〜", "your 〜" のコンセプトを定着させていきます。そして、ワークシート(ハンドアウト)を使って個人やペアでもう少し練習をします。ここでは左のワークシートを使って、どのようにその指導を行ったかを簡単に説明します。
なお、お気づきだと思いますが、ここまで一切黒板にもワークシートにも英語のつづりを見せていません。発音をしっかり聞き、意味を類推後に確認し、教師の発音をしっかり真似て発音することで英語をしっかり話させるためです。安易につづりを見せると、生徒はそれを頼りにして、意味も構文も意識せずにただ字面を音声化するだけになってしまいます。また、英語をローマ字読みしてしまい、その発音が頭に残ってしまう可能性が高くなります。
(1) Introduction of the Words
本練習で使う12個の単語を練習します。
T: No. 1 is ...?
S: Pencil!
T: That's right! Repeat. "Pencil."
S: Pencil!
などと生徒とやりとりしながら、正しい発音を練習していきます。この中では 3. eraser や 5. ruler、7. umbrella などが生徒にはあまりなじみがなく発音も難しいので要注意の単語です。一方ですでにカタカナ語になっている単語は母音や子音に注意して正しい発音を指導するようにします。
(2) Explanation of Step 1 奇数:自分のもの 偶数:相手のもの
【ステップ1】の課題1と課題2を行うための説明をします。全部で12の絵があるので、それら全部に対してそれぞれ "My ~", "Your ~" と言わせるのは大変ですし、同じ発言だけでは頭を使わずに飽きてしまうので、奇数番号のものを "My ~"、偶数番号のものを "Your ~" と言うように説明します。
(3) Trial Practice of Step 1
上記の【ステップ1】をコーラスで言わせます。スムーズに言えない場合はモデルを示してリピートさせます。
(4) Recording of Step 1
【ステップ1】を個人で正しく言えるかを確認するため、そして家庭学習でその音声を使わせるために、全員に配付(各時間に貸与)してある ICレコーダーに自分の発言を録音しながら言わせます。
(5) Explanation of Step 2
【ステップ2】の課題3と課題4を行うための説明をします。課題4では質問を教師がして、生徒に答えだけを言わせます。
(6) Trial Practice of Step 2 →(2)と同じ
(7) Recording of Step 2 →(3)と同じ
本時の表現に関する指導は以上です。これだけの練習を行うと1コマの授業の大部分を費やすことになります。実際にはこれらの指導の前に前時の復習(アルファベットの名前、the ABC Song)があります。
◇Communicative Activities with a Worksheet
これは本時ではなく次時の復習時に行う活動なのですが、単なる機械的な口頭練習だけでなく、実践的な活動、つまり「コミュニケーション活動」として行ったものです。
左のワークシートをご覧になるとわかりますが、練習で使った物のうちの3つを自分のものとして、ペアの相手にそれを探させるという活動です。
この活動のキモは、どれが相手の持ち物かがわからない、つまり「インフォメーション・ギャップ」があることです。それをゲーム形式で当てるという形にすることで、お互いに情報交換する必要性を持たせています。
なお、「折り線」の下の表は答えに嘘をつかせないための工夫です。また、家庭学習として家族とやってみるという課題もあります。
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