1〜3では、「授業は英語で」を実現するための基本的な考えや授業場面と指導上の留意点を議論しました。これまで「授業は英語で」を実践してきた先生にはその裏付けとなる話を、実践してこなかった先生やかつては実践したもののあきらめてしまった先生には改めて実行するためのヒントとなる話がさできたと思います。
ただ、それらの指導理念や指導方法を理解し、実行する力があったとしても、「授業は英語で」が実現できるかというと、そうは簡単にはいきません。ここでは、これまでに議論してきたことを支える大切なことを話題にしたいと思います。
「授業は英語で」は、これまで取り上げてきた活動において、教師が一方的に英語を話すのではなく、教師と生徒や生徒同士がやりとりをすることを前提としています。ということは、生徒が活発に英語を話さなければ、どんなに良い指導法や活動があっても「授業は英語で」は実現できません。例えば、日本語で進める英語の授業や他教科の授業で、指導するクラスの生徒たちがほとんど口を開かないような状況があったときに、果たして「授業は英語で」が実現できるでしょうか。
日本語でさえ口を開かないような状況があったら、それよりも情意フィルターが厚い英語という状況下では生徒が口を開くはずがありません。英語の授業で生徒が活発に発言するには、それ以前に日本語で行われる授業や学級活動で活発に発言する状態ができている必要があります。
先生方の学校でも、生徒が活発に発言するクラスとそうでないクラスがあると思います。そのちがいはどこからきているのでしょうか。原因にはいろいろなことが考えられますが、共通する表面的な現象としては、活発に発言するクラスは生徒の人間関係がやわらかく、発言しやすい雰囲気があることです。また、ペアやグループ活動をさせると、みんなが笑顔で和気あいあいと活動します。一方、発言があまり出ないクラスは、生徒の人間関係がギクシャクしていて(あるいは何らかの“牽制”が働いていて)、発言しにくい雰囲気があることが多いようです。ペアやグループの活動でもみんなが暗い顔をして、あまり活発に発言したり活動したりしようとしません。
では、生徒の人間関係をやわらかくするにはどうしたらいいでしょうか。それには教師が意図的にクラスがそのような集団になるように仕向ける必要があります。その方法はいろいろあるので、具体的な方法はそれらを扱う研修や専門書に譲ります。それらの意図的な活動を総称して「構成的グループ・エンカウンター活動」と言いますが、平素から生徒同士の人間関係がやわらかくなるようなエンカウンター活動を行うことが大切です。それらの指導の中心は学級担任が担うことが多いと思いますが、教科担当がその支援にあたることはできますので、英語の授業の中でそのような活動を意図的に仕組むようにします。
また、私たち教員が日頃から生徒にどう接しているかも生徒の発言の頻度に大きな影響を与えます。例えば、生徒が何かを発言したときに、教師がそれを無視したり否定したりすることが多いと、活発な生徒でさえ発言をしなくなります。逆に、生徒の発言を、例えそれが稚拙なものや間違ったものであっても丁寧に取り上げ、それを利用して授業を進めるような授業をしていれば、大人しい生徒でも安心して発言するようになります。
そうして、日頃から生徒同士の人間関係作りに気を配り、教師と生徒の信頼関係を醸成することで、明るく元気に発言できるクラスの雰囲気を作ってあげることができれば、英語の授業でも活発に発言するようになるのです。そういう状況ができあがってこそ、「授業は英語で」が実現できるのです。
このように考えるようになったのは、自分のこれまでに教師生活の経験によります。筆者はかつてここで取り上げているようなことにあまり力を入れていなかったので、「授業を英語で」を実行してはいるものの、生徒は「言わされている」「やらされている」というような顔をしていることが多く、本当の意味で意欲的に活動しているかどうかという点では満足できない状況がありました。
しかし、今から20年ほど前に修士論文を書くにあたって日本全国の英語授業の「名人」を尋ねて密着取材をしたところ、そうした「名人」の先生方に共通することがあったのです。それこそが生徒同士の人間関係作りとそれを支える教師と生徒の人間関係作りに力を入れているということでした。そして、それからは筆者も積極的にそれらを大切にした指導をするようにしてみました。そうしたところ、筆者の授業でも生徒たちが心から英語の授業を楽しみ、意欲的に発言したり活動したりする姿が見られるようになったのです。
したがって、もしこれをお読みになっている先生が、「授業を英語で」を実行しようとしてもなかなか生徒が口を開かないという状況があるとしたら、最初に取り組むべきは、クラスの人間関係作りとそれを支える教師と生徒の人間関係作りかもしれません。思いたるようでしたら、ぜひそこから取り組んでみてください。
なお、筆者は生徒が授業中に積極的に発言するクラスを作るために、英語の授業や学級活動の他に、ある実践をしています。それはトップ・ページのリストにもある「終礼の話」です。そちらもどうぞご参照ください。
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