4. 「見方・考え方」について

今回は結構長い話になりそうですが、最後までおつきあいください。その代わり、できるだけ読者の方が読んで理解しやすいように、筆者自身の疑問を解いていった過程をお話しします。なお、本ページより前にある「1. 改訂の主旨とねらいについて」、「2. 育成を目指す資質・能力の三つの柱について 」、「3. 目標について」より先に公開する関係で、本来であればそこに書かれているはずの内容も一部本ページに入れてあります(1、2、3を公開後も念のために残しておきます)。

 

令和3年度から完全実施された新学習指導要領には、過去に例がないくらい教員に意識改革を迫る記述があります。ただ、よくよく読み込んで見れば、その多くは別に新しいことではなく、以前から大切だとされながらなかなか実現されなかったことを少し異なった角度から謳っているのだということがわかります。

 

しかし、その中で当初より何度読んでもなかなか言わんとしていることを理解できなかったのが、大幅に記述が増えた「目標」の中の「見方・考え方」という部分です。今回の改訂では、「総則」にこの表現が使われているだけでなく、各教科の目標の冒頭の1文にも必ず入れられています。いずれの文でも条件節に「~の『見方・考え方』を働かせ…」のように入れられているので、これが理解できないと主節の意図が理解できません。したがって、それを「よくわからないから…」と放っておいたのでは(実はこれを書き始めるまで筆者もそうでした…汗)、スタートでつまづいてしまうことになるので、しっかりと理解しておきたいものです。

 

最初に英語科の「見方・考え方」が他の教科と大きくちがう点を述べておきます。それは他の教科ではすべて「○○○見方・考え方」とその教科を包括する内容であるのに対して(以下の<注>参照)、英語科では「外国語によるコミュニケーションにおける『見方・考え方』」としている点です。

 

<注>他の教科の「○○○」の部分

・国語…ことばによる~ 

・社会…社会的な~ 

・数学…数学的な~ 

・理科…自然の事物・現象に関わり,理科の~

・音楽…表現及び鑑賞の幅広い活動を通して,音楽的な~

・美術…表現及び鑑賞の幅広い活動を通して,造形的な~

・保健体育…体育や保健の~

・技術・家庭…生活の営みに係る~、技術の~

 

どうして英語だけが学習内容全般ではなく、「外国語によるコミュニケーションにおける」に絞ったものになったのかということについては、『解説 外国語編』の第2章「外国語科の目標及び内容」の第1節「外国語科の目標」で四角に囲まれた「目標」の直後の第一文が以下の文であることからわかるでしょう。

 

「外国語科の目標は,「簡単な情報や考えなどを理解したり表現したり伝え合っ たりするコミュニケーションを図る資質・能力」を育成することである。」

 

つまり、英語学習は英語によるコミュニケーション能力を身に付けることを第一義にするということを教師にも生徒にも理解してもらうということなのだと思われます。これは平成10年の改訂時に初めて観点別評価が導入された際に、「関心・意欲・態度」が英語学習全般に対してではなく、「コミュニケーションへの関心・意欲・態度」とされたのと似ていいます。

 

では、具体的な文言を見てみましょう。教科の冒頭にある「目標」には次のように書かれています。なお、学習指導要領上は「外国語」ですが、筆者の説明の中では以下すべて「英語」で進めていきます。 

 

外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方を働かせ,外国語による聞くこと,読むこと,話すこと,書くことの言語活動を通して,簡単な情報や考えなどを理解したり表現したり伝え合ったりするコミュニケーションを図る資質・能力を次のとおり育成することを目指す。

 ⑴ 外国語の音声や語彙,表現,文法,言語の働きなどを理解するとともに,これらの知識を,聞くこと,読むこと,話すこと,書くことによる実際のコミュニケーションにおいて活用できる技能を身に付けるようにする。

 ⑵ コミュニケーションを行う目的や場面,状況などに応じて,日常的な話題や社会的な話題について,外国語で簡単な情報や考えなどを理解したり,これらを活用して表現したり伝え合ったりすることができる力を養う。

 ⑶ 外国語の背景にある文化に対する理解を深め,聞き手,読み手,話し手,書き手に配慮しながら,主体的に外国語を用いてコミュニケーションを図ろうとする態度を養う。

 

さて、ここにはそもそも「見方・考え方」がどういうことなのかが書かれていないので、『解説 総則編』の中を探してみると、「第1章 総説」→「2 改訂の経緯及び基本方針」→「(2) 改訂の基本方針」→「 ③「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善の推進」のオに次のように書かれています。

 

(前略)各教科等の「見方・考え方」は,「どのような視点で物事を捉え,どのような考え方で思考していくのか」というその教科等ならではの物事を捉える視点や考え方である。(後略)

 

あくまでも一般的なことであることもあって、これを読んでも英語科における「見方・考え方」がどういうものなのかはよくわかりません。英語科においてはどう考えたらいいのかがわかる記述を探すと、「第2章 外国語科の目標及び内容」→「第1節 外国語科の目標」の目標の下に次のような説明が載っています。

 

「外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方」とは,外国語によるコミュニケーションの中で,どのような視点で物事を捉え,どのような考え方で思考していくのかという,物事を捉える視点や考え方であり,「外国語で表現し伝え合うため,外国語やその背景にある文化を,社会や世界,他者との関わりに着目して捉え,コミュニケーションを行う目的や場面,状況等に応じて,情報を整理しながら考えなどを形成し,再構築すること」であると考えられる。

 

ここでみなさんに質問です。上記の説明を読んで何を言いたいのかすぐに理解できたでしょうか? もし読者の方の中に「はい」という方がいらっしゃれば、その方はこの後は読まなくてけっこうです。

 

恥ずかしい話ですが、当初筆者はこれを何度読んでもよく理解できませんでした。国立大附属中に勤めている立場上、学習指導要領はよく理解していることを期待されていますが、この部分だけはよくわからず、他校の先生の話を聞いたり書籍などの説明を読んだりしてもよくわかりませんでした。

 

さて、同書にはさらに次のような説明が続いています(太字は筆者)。

 

外国語やその背景にある文化を,社会や世界,他者との関わりに着目して捉えるとは,外国語で他者とコミュニケーションを行うには,社会や世界との関わりの中で事象を捉えたり,外国語やその背景にある文化を理解するなどして相手に十分配慮したりすることが重要であることを示している。また,コミュニケーションを行う目的や場面,状況等に応じて,情報を整理しながら考えなどを形成し,再構築することとは,多様な人々との対話の中で,目的や場面,状況等に応じて,既習のものも含めて習得した概念(知識)を相互に関連付けてより深く理解したり,情報を精査して考えを形成したり,課題を見いだして解決策を考えたり,身に付けた思考力を発揮させたりすることであり,「外国語で表現し伝え合う」ためには,適切な言語材料を活用し,思考・判断して情報を整理するとともに,自分の考えなどを形成,再構築することが重要であることを示している。

 

ここまで来ればなんとなくわかったような…、いや、むりやりわかったふりができそうな…。ということで、筆者なりの考えをみなさんにもわかりやすくまとめてみます。太字に示した部分が主旨のようなので、その内容を実際の授業での指導に宛てはめて考えてみましょう。

 

① 最初の太字の部分

この部分からは、英語を使ってコミュニケーションを行う前提として、次の2点を指導することが大切であるということが読み取れます。

伝え合う内容に関するさまざまな周辺事項について考えること

表現やその背景にある文化や相手の立場を考えること

つまり、単にことばを聞いたり発したりして通じればいいということではなく、伝え合う内容に関して場面や自分と関わりなどを考え、使う表現自体やその背景にある文化、さらに相手の立場などにも十分配慮するということかと思います。

 

② 最後の太字の部分

この部分からは、①の留意点を具体的に実現するための方向性が示されているように思います。すなわち、コミュニケーションを行う際には…

常に既習事項の中から適切な言語材料を探すこと

それを自分でよく考えて適切に運用すること

が大切であるということでしょう。さらに、そのために大切なことは…

・相手に伝える際は情報や自分の考えをしっかりとまとめること

とも言っているのだと思います。

 

このように整理してみると、ようやく何を言わんとしていたかがある程度わかったように思います。ただ、それを授業でどのように生徒に指導したらいいかということまではここでは説明されていません。おそらくそれは、「目標」の後半の部分((1)~(3)の記述)を細かく分析していけば見えてくるでしょう。それについては、「3. 目標について」で改めて掘り下げてみたいと思います。

 

今回は「見方・考え方」に対する筆者の解釈をお伝えしました(これでようやく筆者の頭の中もある程度まとまりました)。ただ、細かく分析してみた(?)自分でもまだすっきりしないところがあるので、読者の方には「結局何だかわからなかった…」という感想を持たれた方もいるかもしれません。ぜひご自身でじっくり『学習指導要領』と『同解説』をお読みになってみてください。文科省のホームページのここにそれらがあります。

 

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