(3) 西部山岳編(1984年5月24日~6月4日)

 いよいよアメリカ留学生活も終盤を迎えました。大学生活では授業と最終のテストも終わり、後は帰国の途に着くだけです。しかし、それだけではつまらないので、最後にもう一度旅に出ることにしました。目指す地域はロッキー山脈を中心とした観光地。西海岸まで足を伸ばしても良かったのですが、その地域は「新婚旅行にとっておこう。」という理由でパスしました(結局は新婚旅行でも行っていないのですが。※2010年8月に息子との10日間ドライブ旅行で実現しました)。
 今回の足もグレイハウンド・バス。日本から格安チケットを送ってもらい、移動中のバスで夜を過ごすというできるだけ旅費を切りつめた作戦を三度敢行することになりました。

 

○歩いて回るには広すぎる観光地
 高速バスで一人旅をする以上、バス停から先は自分の足で歩かなければなりません。本当はてっとり早くツアーにでも参加してしまえばいいのでしょうが、どこに行けばそのようなものに遭遇できるのかもわからず、結果的にはガイドブックを頼りに目的地まで徒歩で行くことになりました。しかし、日本とは比べものにならないくらい国土の広いアメリカのこと。「最寄りの」バス停であっても、目的地までは相当の距離を残していることがしばしばです。次に紹介するコロラド・スプリングスの「パイクス・ピーク」という山に登るときも、結局は登山列車の駅まで片道15㎞も歩くことになり、帰路でバス停にたどり着いたときには、足の裏はマメだらけでひざはガクガクという状態でした。
 なお、写真は、まだまだそのつらさを知らない、歩き始めの頃にとったのんきな気分の時点でのものです。

 

○4,230mの頂上までケーブルカーで行ける「パイクス・ピーク」
 富士山では、自分の足を使わずに車で行ける5合目は約2,500メートル。最も高い場所まで行ける乗鞍岳でも約2,700メートルどまりで、残りの約300メートルは自分の足で登らなければなりません。しかし、コロラド州コロラド・スプリングスにある、アメリカでも有数の高山である「パイクス・ピーク」(Pikes Peak)は、4,230メートルの頂上までケーブルカーで行くことが出来ます。その上、自動車道も頂上まで来ているという具合です。ケーブルカーは麓の駅から約2時間半をかけて螺旋状に山を登っていきます。写真はその頂上駅で撮ったのもですが、この後付近を歩いて驚いたのは、空気が薄くてすぐに息切れがしたことでした。

 

○蒸気機関車に乗れる「デュランゴ」
 同じコロラド州でもロッキー山脈の西側に位置するデュランゴ(Durango)という街は、かつて山から採れた銀を運び出す所として栄えました。今ではその頃の名残を生かして、蒸気機関車が走る街として観光地になっています。実は、私は蒸気機関車という物に一度も乗ったことがなく(小さい頃にユネスコ村で乗った小型のものを除く)、このチャンスを逃すまいとこの地を訪れました。ところが、蒸気機関車の発着駅に行ってみると翌日分の切符はすべて売り切れ。しかし、そこであきらめてはならぬと、当日の朝にキャンセル待ちの列に並びました。すると、運良く切符が、しかも16両中2両しかないという「オープン・デッキ」のものが手に入り、片道2時間余りの列車の旅を楽しみました。
 写真は、終点の「シルバートン」(Silverton)という場所で撮ったものです。

 

○これぞ絶景!「グランド・キャニオン」
 日本でもその名をとどろかせる「グランド・キャニオン」(Grand Canyon)は、カリフォルニア州にもほど近いネバダ州にあります。バス停は案内所の所まで行きますが、そこでは建物と林が邪魔で何も見えません。「グランド・キャニオンってどんなところだろう?」すでに日本各地の絶景を目にしてきた私にとっては、その時点ではそれは新たな景色の追加でしかありませんでした。ところが、案内所を抜けて目に飛び込んできた景色を見た途端、私の中の価値観が吹っ飛びました。「め、目の前に見えているものは実際のものか?」距離感がつかめないほどの絶景。視界のすべてを支配するその景観は、「この世のものとは思えない。」という印象でした。しかも、それは丸一日眺めていても変わる物ではありませんでした。
 写真は、行きのバスで意気投合し、この日一日一緒に歩いたドイツ人の女性(左)と、その場で知り合ったドイツ人の青年(右)と撮ったものです。

 

○世界一きれいな都市「ソルト・レイク・シティー」
 次の冬季オリンピックの開催地であるユタ州のソルト・レイク・シティー(Salt Lake City)は、敬虔なモルモン教徒の街でもあります。ユタ州に入っただけで、バスの中は禁煙になりましたが、さらにソルト・レイク・シティーではコーヒーを飲むことも禁止でした。バスを降りて街に出て一番驚いたのは、道路を始め、街のどこにもゴミがまったく落ちていないことでした。「世界一きれいな都市」と言われているのもうなずける経験でした。
 写真は、モルモン教の総本山の教会にあるパイプ・オルガンで、何と世界一大きいのだそうです。教会の内部は、日本人の案内人が丁寧に説明をしながら見せてくれました。ただ、モルモン教への勧誘もされました。

 

○アメリカ最古の国立公園「イエローストーン国立公園」
 ロッキー山脈を北上し、ワイオミング州まで行くと、そこにはアメリカで最初に国立公園に指定された「イエローストーン国立公園」(Yellowstone National Park)があります。ところどころに見える岩肌が黄色いことからこの名前がついたそうですが、面積は日本の四国と同じくらいという規模を誇ります。もちろん、徒歩で見て回れる大きさではありませんので、入口でバス・ツアーに参加しました。公園内の見所を1日かけて見て回るツアーでしたが、ロッキーの雄大な自然を満喫できる、価値あるツアーでした。
 写真上は、公園内の一角に住むバッファローです。野生のものは開拓時代に大量殺戮のために絶滅してしまい(その様子は映画「ダンス・ウイズ・ウルブズ」でも描かれています)、今ではこのような国立公園内で少しずつ繁殖させています。

写真中は、本公園の名所の1つである間欠泉が吹き出している場面で、一定の間隔(確か1時間くらい?)で水柱が上がるのが人気となっています。

写真下は、ツアー途中でシカやビーバーを見つけた川原に降り立った時に撮ったもので、ツアー途中で運転手さんが何かを見つけると、車内にアナウンスをしてくれたり、時にはこのように止まって降ろしてくれたりというサービスがありました。
 

 

 なお、前出のデュランゴからは、グランド・キャニオンまで(1泊)、ソルト・レイク・シティまで(1泊)、イエローストーンまで(1泊)、オマハまで(1泊)の連続4泊はすべて夜行バス内ということを経験し、時間と費用の節約をしました。

 

以上で、アメリカ大陸バス旅行のダイジェストを終わります。

 

※2019年の時点で35年も前のことなので、ここに記した内容のいくつかは今では変わっているでしょう。

※写真の色合いがやや暗いものが多くなっていますが、これはアメリカの安いお店でプリントしたためで、数年で色あせしてしまいました。コダックや富士フイルムを使ったプリントは今でもきれいに残っています。

 

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