(3) 漫画の登場人物-達海 猛[サッカー監督]

「書籍等で出会ったロールモデル」の第3弾は、ある漫画の主人公です。「マンガの主人公がロールモデル?」などと侮ってはいけません。教員としてぜひ目標にしたい人物像がそこに描かれています。


今回紹介する『GIANT KILLING』(ジャイアントキリング)は、週刊『モーニング』という大人向けの漫画雑誌に2007年から連載されているサッカー漫画です。2010年のサッカーワールドカップに合わせてNHKでアニメ化されたものも放映されました。NHKで放映されたことからも、その内容の質の高さは保証付きでしょう。

 

物語の舞台は、サッカーJリーグ一部の架空のチームである「ETU」(East Tokyo United)。かつてそのチームの花形選手であった達海猛(たつみたけし)が古巣の監督として戻ってきて、弱小チームとなっていたETUを立て直すという話です。「ジャイアント・キリング」とは、スポーツにおいて実力差のある格下の者が格上の者を倒すことを表すことばで、まさに物語の根幹をなす部分を表したタイトルが付けられています。

 

◇出会い

筆者は、近年ほとんど漫画を読まないので、この話との出会いはテレビ・アニメでした。それを、「お父さん、面白いサッカーアニメをやってるから一緒に見ない?」と娘に言われるままに見始めた筆者は、すぐにこの話ー特に達海の人物像ーの虜になってしまいました。そして、娘が3ヶ月毎の発行日に買ってくる単行本も読むようになり、既刊本はすべて読んでいます。

 

監督としての達海は、普段はだらしなくて、いい加減で、何を考えているのかが見えにくいキャラクターですが、実は洞察力に優れ、研究熱心で、選手の個性を引き出し伸ばすのに長けた人物です。イギリスの弱小チームを監督として率いて選手たちの力を引き出し、日本で言えば「天皇杯」のような大会で、上部リーグのチームさえも次々と破ってしまった実績により、自分の監督としての手腕にも自信を持っています。その達海の指導のもとで、ETUの選手たちは強豪チームを、浮き沈みを繰り返しながらも、打ち破っていきます。まさにタイトルのとおりの話です。

 

◇教育活動との共通点

以上のことから、達海猛という人物キャラクターは、まさに生徒を指導するリーダーとしての立場である教師の理想像と言ってもいいでしょう。彼の興味深い言動は、進みの遅い(個々の場面の心理描写が長い)物語の中では、数話に1回くらいしか描かれていませんが、肝心な場面で彼の予測不能な態度から繰り出される“金言”ともいうべき台詞は、そのまま教師の生徒指導にも活かせるものだと思っています。

 

アニメでは第4話のことです。チームの最若手である椿という選手がその回の話の中心人物でした。椿は、まだほとんどの人が知らない隠れた才能を持った選手であるのに(後の話で日本代表メンバーにも選ばれます)、気持ちの弱さからミスを連発して、チームの足を引っ張ってしまうことになり、すっかり自信を無くしてしまっていました。夜のグラウンドで一人で練習している椿に達海が声をかけたところ、椿から悩みを打ち明けられます。

      

椿:…俺、変わりたいんす。嫌なんです、自分のことが、昔から。情けなくて。自分で自分に腹が立って。悔しくて。こんなんじゃ駄目なの、わかってんすけど。でも…。

達海:それでいいよ、お前。

椿:(はっ?)

達海:イメージ・トレーニングなんだって? 昔から練習後、一人でボール蹴ってたらしいじゃん。

椿:なんで、それ?

達海:電話で聞いた。お前の中学・高校のときのサッカー部の先生に。サテライト見てたコーチにもね。長年自分を変えたいと思ってきたその思い。お前のすげえパワーになってると思うよ。お前には過去の実績は何もねえ。それでもお前は今、プロのトップチームにいる。お前を育てた人たちはみな同じようなことを言ったよ。「10回のうち9回はヘマをするが、たった1回輝かしいプレーですべての人を魅了する。」お前に魅せられた人たちがここまでお前の背中を押したんだ。お前の実力だ、椿。そのまま行け。何度でもしくじれ。その代わり、1回のプレーで観客を酔わせろ。敵の度肝を抜け。お前の中の…ジャイアント・キリングを起こせ。

 

上記の達海のせりふの中で見習いたいのは…

 

① 相手の現状を無条件に受け入れている。

② 相手が努力してきたことを調べて、それを認めている。

③ 数々の失敗よりもたった一度の成功を評価している。

④ 相手の周囲にいる人が相手を認めていることを伝えている。

⑤ 現状を変えるよりも現状をさらに生かす道を勧めている。

⑥ 成功目標を与えている。

 

ということです。

 

そうです。もし自分で自分に自信を失っているときに、このようなことを自分が言われたことを想像してみてください。どれほど勇気づけられることでしょうか。ましてやそれが生徒だったら…。

 

教師として、達海の態度から見習いたいのは、その生徒のことを否定するのではなく、そのままの姿を肯定し、良い点-特にその生徒が努力していること-を認め、それを続けることを強く勧めるという姿勢です。

 

おそらくそのようなことができれば、その生徒はどんなに自信を失っていたとしても息を吹き返すのではないでしょうか。少なくとも、悪い点-できていないこと-を責め立てて指導するよりはるかに効果があがるのではないかと思います。

 

たかが漫画の、架空の人物の話だと片付けられない、教師として学ぶべきことが多い登場人物です。関心を持った方は、アニメ(WOWOWオンデマンドで視聴可能)またはマンガ本をご覧になってみてください。筆者の言っていることを納得していただけると思います。

 

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