先述のとおり、筆者の勤務校ではロイロノート・スクールというアプリを使って、同年5月から6月まで遠隔で学習指導を行いました。導入当初、筆者はそれがどういうものかさえわからない有様だったのですが、ある程度使っているといろいろなことが見えてきました。そこで、同アプリを導入したことの成果と課題(次頁)及び今後の利用法の可能性(次々頁)についてまとめておくことにします。なお、ここに書かれていることはあくまでも筆者個人の見解であり、英語科の総意や学校としての立場で述べているわけではありません。
ロイロノートはリアルタイムで双方向の情報交換ができるわけではありませんが(チャットの速さレベルのやりとりは可能)、生徒が利用する前にあらかじめいろいろな教材を準備しておくことができたり、音声や映像などの視聴覚教材を提供することもできます。それらを使って指導した成果(利点)は以下のとおりです。
(1) 生徒自身の意志による学習
Zoomなどによる遠隔授業では、学習内容は基本的にあらかじめ決められたその時間だけしか提供されません(録画して再配信する場合を除く)。しかし、ロイロでは資料箱にあるすべての課題を好きなときに出して取り組むことができます。つまり、その場に拘束されて勉強するのではなく、自分の意志で学習することになります。もちろん、準備されたすべての課題をこなすことを要求されますが、学習する順番やそれぞれに費やす時間は自分で決めることができます。
本来なら学校でやるべき学習を自宅で自分の意志で行うというのは、生徒に、特に中学校生活が始まる前に学習の場を奪われてしまった1年生にとって、大変な苦労を強いることになります。しかし、それは当時に生徒にとっては主体的に学習することの大切さを学ぶよい機会でもあったように思います。
学校が再開されてから生徒にとったアンケートの結果では、多くの生徒が時間割を作って学習に取り組んでいたようです。また、英語はビデオ視聴中心で学習しやすかったのか、半分以上の生徒が毎回すべての教科の中で真っ先に取り組んだ教科であったと言っています。
(2) 学習状況のモニターと個別指導
英語科では、作業を伴う学習課題のほかに、受講をしっかり行うことを促すための「受講レポート」の提出を毎回の授業に課しました。提出頻度や内容は学年によって少しちがいますが、1年生は受講日、受講にかかった時間、受講デバイス、受信状況、理解度、感想(後半は「学んだこと」)、質問などの項目を設けて返答させました。これを週3回、計18回の”授業”で毎回提出させました。これにより、通常の授業よりも各生徒がどのような学習を行っているかについて細かくモニターすることができました。
ちなみに、2・3年生では、これを週毎に提出させました。ただし、各回毎にレポートする内容を教材の内容によって変え、生徒がそれぞれの教材をどの程度理解しているかがわかるようなものにしました。
提出されたカードには必ず目を通し、手書きでコメントを入れて返すことも行いました。こうしたことを行うことによって、1年生ではまだ直接会ったこともない生徒と、2年生はクラス替えで新たに顔を合わせる生徒と慣れ親しんだ生徒と、3年生では2年目、3年目の慣れ親しんだ生徒と双方向のやりとりを何度も行うことができました。
それぞれの生徒からカードで提出された課題は、教員側の画面にはクラス毎にサムネイル画像で表示されるので、誰が課題を提出したかが一目瞭然です。課題提出が滞っている生徒に関しては、担当よりカードでメッセージを送ったり、学級担任に報告して指導してもらったりということも行ったので、より丁寧な家庭学習の指導ができたように感じます。
(3) ストーレッジ(アーカイブ)機能
ロイロの機能で頼もしいのは、一度アップロードした課題は教師が消去しないかぎり「資料箱」の中に置かれていることです。したがって、アップロードされたばかりのときに一度だけ学習に取り組めるというのではなく、いつでも、そして何度でも取り組むことができます。これをここでは「ストーレッジ機能」あるいは「アーカイブ機能」と呼んでおきましょう(同社ではそのような呼び方はしていません)。
Zoomなどによるリアルタイム授業は、実際の授業に近い学習内容を提供できます。しかし、その時間が終わってしまえば、基本的にそれをもう一度視聴することはできません(録画して再配信する場合を除く)。つまり、聞き逃してしまったことを改めて聞いたり、質問があってもそれを尋ねたりすることはできません。また、回線の不安定さによる突発的な受信トラブル(映像が止まる、音声が聞こえなくなる、等)も心配です。しかし、ロイロでは一度受講した講座を何度でも再履修できるので、一回目に理解できなかったことを繰り返し視聴することで解決できる可能性があります。また、疑問に思ったことを「質問箱」にカードで送ることができるので、しばらくすればその疑問を解決することもできます。
(4) セキュリティー機能
今回の臨時休業中には、多くの学校や教育機関が YouTube を使ってメッセージ動画や授業動画の配信を行っていました。勤務校でも入学式と始業式の校長訓辞、始業式の副校長の話を YouTube で配信しました。YouTube は手軽に映像をアップして見ることができますが、不特定多数の人が見ることができるのが問題です。本校を含めて各学校ではホームページなどで生徒や保護者しか入れないページから該当映像へリンクを貼るという最低限のセキュリティーを施していたと思いますが、これであればタイトルなどを頼りに検索しても、該当の映像にたどり着くことはできません。
その点、ロイロノートは生徒個人にIDとパスワードを発行して視聴させるので、たとえ個人情報を含んだ教材を載せたとしても、よほどのことがないかぎり外部の人に見られることはありません。したがって、教師も安心して情報提供をすることができます。1年生の第1回と第4回に担当教員の自己紹介を動画で提供できたのもそのためです。
また、リアルタイムに教材を配信したり、課題を受領するのではないので、内容をよく吟味せずにうっかり公開してしまったというミスを減らすことができます。もちろん、不特定多数が見ないと言っても、生徒の画面の向こう側には保護者の厳しい目が光っていますし、削除しないかぎりは残っていますので、内容には十分な注意が必要です。
ただし、それでも音声・画像(映像)を録音・録画して、それをロイロノート外のインターネット上にアップできるというリスクは残ります。したがって、生徒にはいかなる教材もネット上にアップしたりしないように指導したことは言うまでもありません。
(5) 教科内の協力体制の強化
最後に、学習を行う生徒側のことではなく、教材を準備し提供する教師側の成果について述べます。
これまで誰もやったことのない未知の学習指導を行うにあたっては、教科内の協力体制が通常の授業以上に必要でした。一定期間の指導をやり終えて感じることは、この指導は特に常勤教員4人の協力体制があったからこそできたのだということです。また、4人の教員のそれぞれの得意分野がいかんなく発揮されたことで、1+1+1+1が4ではなく、6にも8にも、いや10以上にもなったように思います。
具体的には、最も若い(と言っても10年選手の)栖原先生はロイロノートを使った経験を元にどのようなことが可能であるかの道しるべを示してくれ、どんなことにもチャレンジする中堅の中島先生は筆者が思いつかないようないろいろな教材作りを実践してくれ、細かい作業させたら右に出る者のいないベテランの植野先生は全学年の完成作品を公開前に細部までチェックしてまちがいを探してくれました。一方、筆者は得意のビデオ編集に凝り(?)、わかりやすく取り組みやすい教材を作成できたように思います。それらの個々の資質が上手く融合して、全体として質の高い教材を提供することができたと思っています。
また、通常の授業以上に丁寧な教材及び授業作りを行うようにしました。勤務校では各学年とも複数の教員がクラスを分けて授業を持っていますが、それだけに各学年の主担当が指導構想表、指導計画、指導案等を通常よりも丁寧に作成して、副担当と綿密な打合せを行ってから教材作成に取り組みました。また、文型導入用のビデオ撮影では各学年とも主担当と副担当が協力して撮影に臨んだだけでなく、1年生では担当外の教員にも”出演”してもらい、教科総出で制作を行いました。その”撮影会”は、在宅勤務が推奨された期間でも週に1~2日は合同撮影日を設けて行いました。なんとGW中も数日間丸々勤務して"教科会"を行ったくらいです。
そうした作業を通じて完成した作品と制作過程で培われた教科内の絆は、英語科にとってまさに宝物となっています。
<教員アンケートの結果より>
勤務校の研究部は、7月にロイロノートの指導に関するアンケート(教員向け、生徒向け)を実施しました。その結果が校内研究会で披露されたので、教員向けアンケートの中から「成果」の主な意見をいくつか紹介します。
・休校中に生徒に授業を提供できた。
・提出箱を「非公開」にすることで、いつもより自分の意見をしっかり考えて提出させられた。
・提出箱を「共有」にすることで、生徒同士の作品や考えを共有することができた。
・休校期間中でも生徒とやりとりができた。
・生徒が質問しやすい環境を提供できた。
・生徒の質問にていねいに答えることができた。
・課題を回収することが容易だった。
・反復学習を可能にしたため、「理解が深まった」という声を聞いた。
・欠席生徒への連絡が容易であった。
あなたもジンドゥーで無料ホームページを。 無料新規登録は https://jp.jimdo.com から