筆者は「評価」についての研修会の講師をときどき務めます。そのときに必ずと言っていいほどたずねられるのが、「『知識・技能』の問題と『思考・判断・表現』の問題の区別をどうしたらいいですか」という質問です。それほどこれは先生方を悩ませている“問題”なのだということでしょう。
しかし、両者の区別は基本線を理解できればそれほど難しくありません。そこで、ここでは両者を分ける基本的な考え方を具体的な問題を使って説明します。
(1) 基本的な考え方
まず、「知識・技能」は、「あることに対して知識があり、それを実行できる技能があること」と理解できます。したがって、問題を解くポイントとなることを知っていて、それを答えとして表せる力があれば解けるような問題であればいいわけです。つまり、知っていれば答えが書けるような問題です。
次に、「思考・判断・表現」は、「あることに対して答えにたどり着く道筋を考えることができ、それを答えだと決めることができ、それを答えとして表せることができること」と理解できます。したがって、正解を導くためには、単に知識があるだけでなく、複数の情報を総合して考え、答えを導き出し、それを表さなければ正解とならないような問題である必要があります。
(2) 具体的な問題
① 語彙の問題
語彙の問題は、多くの場合で次のような問題が出されるでしょう。
【問】次の[ ]の日本語の意味を表す単語を書きなさい。
The movie was ( ). [面白い]
この問題の答えは interesting ですが、この問題では「面白い」を表す単語は interesting だということを知っていて(「知識」があり)、それを interesting と正しく書くことができる(「技能」がある)かどうかを問うています。したがって、「知識・技能」の問題です。
② 文法の問題
文法の問題は基本的には同じ領域に入りますが、レベルはいろいろ変えることができます。
【問1】次の上段の文を下段の文に書き換えたとき、空所に適語をいれなさい。
I like tennis very much.(私はテニスが大好きです)
Kenta ( ) tennis very much.(ケンタはテニスが大好きです)
この問題の答えは likes ですが、これは①空所には一般動詞の like が入る、②主語が Kenta という三人称単数でこの文は現在の文である、という2つの文法的な知識があってそれを正しく表せるかを問うてきます。したがって、「知識・技能」の問題です。①と②の2つの知識を総合しなければなりませんが、知識・理解の範囲を越えるまでのものではないでしょう。
【問2】次の文をYes/Noで答えられる疑問文に書き換えなさい。
Kenta played tennis yesterday.
この問題の答えは Did Kenta play tennis yesterday? ですが、ここでは過去の一般動詞の疑問文は ①Did を文頭に置くこと、②played は原形の play にすること、という2つのルールを知っていて、それを正しく書き表せるかということを問うています。したがって、「知識・技能」の問題です。ルールを知っていて、元の文をそれにしががって書き換えればいいので、例え1つの文を丸々書かせるものであっても、「思考・判断・表現」の問題とまでは言えません。
【問3】次の文を太字の部分(本HPでは下線が引けないので…)が重要な(新しい)情報になるように書き換えなさい。
Soseki Natsume wrote Bocchan in 1905.
この問題の答えは Bocchan was written by Soseki Natsume in 1905. です。この問題では、①英文では重要な新しい情報は文の後ろに来るので(「エンド・フォーカス」)、Soseki Natsume を新情報にするには文の後半に持って行く必要がある、②人を文の後半に持って来るには「~される」という受動態の文にする必要がある、③行為者のいる過去の受動態は「was/were + 過去分詞 + by」で表す必要がある、ということを知っていて、それを正しく書き表せるかどうかを問うています。問1に比べるとより多くの、深い知識が必要ですが、①→②→③という流れで作ることができるので、これも「知識・技能」の問題と言えます。ただ、悩ましいのは指示文の示し方で、この問題のような出し方をした場合は、問題の指示文の意図をくみ取り、さらにここまで深い知識を駆使しなければ解けないと考えれば、これはもはや「思考・判断・表現」の問題だとすることもできると思います。
なお、筆者の元勤務校では、「能動態の文を受動態の文に書き換えなさい」のような問題は出しません。授業でもそのような「たすき掛け」で受動態を作るということは教えていないからです。受動態は受動態で表す意味があるから使うのであって、それは行為者を新しい情報として文の後半に持って行く(エンド・フォーカスする)ためには受動態にする必要があるからということを教えています。詳しくは拙著一般用HP『目から鱗が落ちる英語学習』の「能動態と受動態は交換してはいけない」を参照してください。
③ 読解の問題
まず断っておきたいことは、読解問題とは「読んで理解する」問題に限定したものだということです。したがって、長文読解の問題でも、その中に語彙力を問うもの、文法力を問うもの、表現力を問うものなどを入れてはいけません。俗に言う「総合問題」は読解問題ではありません。その前提で、次のような読解問題を見てみましょう。
【問】次の文章を読んで、(ア),(イ)に入る適語を文章中から探して入れなさい。
[2人の男が散歩中に財布を拾う]
A: Oh, I have a purse with a lot of money. I am rich now.
B: Don't say "I," say "we." It's our purse.
A: No, no. I found the purse, so it's my purse.
[そこへ警察がやってくる]
A: Oh, what shall we do? We will be in jail!
B: Don't say "( ア )," say "( イ )." It's your purse.
少し難しいかもしれませんね。答えそのものはとても簡単な単語です。
そうです。アは we、イは I です。警察が来たところで「俺たちどうしよう?俺たちは刑務所行きだ」と言った A に対して、B は上から2行目と同じ形の文で「『俺たち』じゃないだろ。『俺』だろ。『俺の財布だ』と言っていたんだから」と罪をもう一人に着せてしまおうという B の狡猾さと A の間抜けなところが「落ち」になった話です。
実は、上記の文はイギリスの笑い話で、オリジナルはこの3〜4倍長く、全文を読めばもっと答えを出しやすくなりますが、ここではみなさんを試すためにあえて短縮してみました。
さて、この問題を解くには、前半のやり取り及び具体的な表現と後半のやり取り及び具体的な表現を比較して、最終行の B が何を言おうとしていたのかを考え、2行目の台詞から入りそうな答えを想像し、そしてその答えを書くという過程を必要とします。つまり、「思考・判断・表現」の問題と言えるわけです。
なお、読解問題は本来のねらいにあった作りがなされていれば、多くの場合で「思考・判断・表現」の問題になるはずです。
④ リスニングの問題
リスニングの問題は、作りによって両方の問題が作れるでしょう。以下はすべて放送台本であるとします。
【問1】放送されるア~ウの文を聞いて、絵の内容とあっているものを選びなさい。
(少年がお腹に手をあてて満足そうな顔をしている。目の前には空の弁当箱がある)
ア.Kenta is eating his lunch now.
イ.Kenta will eat his lunch soon.
ウ.Kenta has just eaten his lunch.
上記の答えは「ウ」ですね。聞こえてきた3つの文はそれぞれ時制が異なっており、アが現在進行形、イが未来、ウが現在完了であることを知っていて意味が理解できているということが前提の問題です。絵の状況を食べ終わったシーンだと判断する必要がありますが、問題の質としては時制(文の形と意味)の知識があるかどうかの「知識・理解」の問題に分類できます。
【問2】次の短い文章を聞き、後から放送される問いの答えを放送されるア~エの選択肢の中から答えなさい。(※答えは印刷しておいてもいいでしょう)
Kenta went to the park at two o'clock and played soccer with his friends. Then he left the park at five o'clock and went home.
Q: How long was Kenta in the park?
A: ア)Two hours. イ)Three hours. ウ)Four hours. エ)Five hours.
答えはイ)Three hours. ですね。この問題を解くには、文章から①「2時に公園に行った」と②「5時に公園を出た」という情報を聞き取る必要があります。それらの1つ1つを聞き取る力は「知識・技能」ですが、それだけでは答えは出せません。次に、質問文の③「何時間公園にいたか?」という意味を理解する必要があります。これ自体も「知識・技能」です。しかし、①と②と③を総合して、②から①を引き算しないと答えが出せないということに考えが及ばなければなりません。しかも、選択肢には①で聞こえる two と②で聞こえる five という錯乱肢もあります。その中で適切に答えを当てるには思考力と判断力が必要です。したがって、これは「思考・判断・表現」の問題です。
なお、答え方が記号だからと言って、「表現」にならないわけではありません。頭の中で考えた答えを発することができれば表現したのと同じです。ただ、もし「表現」にこだわるのであれば、How long...? という問いに対して時間を表す表現を導き出せるかという点まで選択肢にバリエーションを持たせたり、答えを書かせたりしてもいいかもしれません。ただし、答えを書かせた場合の採点基準は考慮が必要です。細かいつづりミスで☓にしてしまっては、正しく思考・判断できたことを認めてあげられなくなってしまいます。
この問題は結構レベルが高いですね。実は、筆者が約45年前に受けた県立高校の入試のリスニング問題に同様のものがあってよく覚えている設定です。現物はもっと長い文章でしたが…。以来、同様の問題をときどき出題しています。
(3) まとめ
以上のことから、次のようにまとめられます。
●「知識・技能」の問題…1つの情報に対する知識で答えられたり、複数の情報に対する知識を順番に積み重ねていけば答えられるような問題
●「思考・判断・表現」の問題…複数の情報を並べて比較したり関連させたりして考えなければ答えられないような問題
上記のように考えて問題を作れば、比較的容易に2つの領域を区別した問題を作ることができます。なお、以上のことはあくまでも筆者の個人的な考えによるもので、評価やテスト作りの分野で権威のある先生方が言っていることではありません。
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