0. コミュニケーション活動とは
コミュニケーション活動とは、英語科の授業においては、目標言語(英語)を使って生徒同士でやりとりのある言語活動を行うことを指します。したがって、同じ言語活動でも発表活動(例:スピーチ)のように一方通行のものは含まれません。もっとも、発表活動でもその後にその内容に関するやりとりの活動などがあれば、その活動はコミュニケーション活動と言えます。
また、一般的に「コミュニケーション活動」と言う場合は、授業中に教師によって仕組まれた一連の活動を指します。したがって、授業中に教師も生徒も英語をつかって授業を進めるような場面は含まれません。しかし、筆者は後述するように、授業全体を英語で進める中で教師と生徒、生徒同士の間で英語でやりとりを行う活動もこれに含めています。
そこで、ここでは授業においてコミュニケーション活動を行う際に心がけておきたいことや、コミュニケーション活動の実際の指導例を紹介します。
生徒の「聞くこと」「話すこと」の力を育成するものとして、「コミュニケーション活動」という言語活動が定着しています。その中には、旧学習指導要領でいうところの「積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度」を育成することをねらったものから、実際に「コミュニケーション能力」を高めることをねらったものまで、いろいろな活動があります。
コミュニケーション活動がここまでもてはやされることになったのは、やはり「言語は実際に使いながら学ばなければ身に付かない」という考えからでしょう。もちろん、これは赤ちゃんが母語を習得していく過程を考えてみれば、至極当然のこととも言えます。日本の英語教育で問題とされてきた「使えない英語」は、この「実際に使わせる」機会を授業で保証してこなかったことによるのではないでしょうか。もちろん、授業が終わってしまえば英語を使う必要のない環境にも一因はあります。しかし、少ない授業時間の中で生徒の「聞くこと」「話すこと」の力を伸ばすことに成功している先生もいるので、もはや英語教師はそのような言い訳をできなくなりました。
また、コミュニケーション活動は、生徒の活動を中心とした student-centered の授業形態を進めることにもつながりました。それまでは、とかく文法中心の解説調の退屈な授業(単調な反復練習を中心とした授業でもオーラルで行われるならまだ良心的)が多くを占め、最初は「英語を話せるようになる」と輝いていた生徒の目を、落胆の目へと変えてしまっていました。それがコミュニケーション活動の台頭で大きく様変わりしました。生徒は覚えたての文型を使って情報交換をしたり、それまでに習ったことを総動員してゲーム的な活動に取り組んだりしています。そのような時の生徒の目は実に生き生きとしており、「英語の授業は楽しいな」と感じる生徒はかなり増えたのではないでしょうか。
このように、言語教育の目的の大きな部分を達成するためにも、また学校教育の中で生徒を生かし育てる授業を行うためにも、「コミュニケーション活動」の果たす役割は大きいと考えられます。
しかし、一方で「コミュニケーション活動が重視されてきてから、生徒の基礎学力が低下した」と指摘する声も以前はありました。学力の低下そのものは、高校の先生からよく指摘されることなので、ある程度は信頼のおける現象だったのででしょう。それをそのままコミュニケーション活動の重視の結果ととらえたくはありませんが、その一因となっていることは否定できないかもしれません。なぜなら、実際の授業場面では、生徒に活動場面を与えることに注意が行き過ぎて、性急に活動に移ってしまう場合が多いからです。立場上、これまでに100人以上の先生の授業を拝見させていただきましたが、その比較的多くの授業で十分な基礎訓練を積まないまま活動を開始している場面を目撃しました。極端な例では、黒板にいきなり新文型を書き、説明の後に数回読ませただけで理解できたと判断して活動に移った授業がありました。言語学習理論の点で言えば、「聞くこと」「話すこと」のコミュニケーション活動を行うためには、最低でも個人個人に聴覚心像(acoustic image)が作られるまで徹底した訓練をする必要があります。
また、自分が行おうとしている活動が、本当にコミュニケーション能力を育成するものなのかということも分析しなければならないでしょう。この議論に関しては次項に譲ります。
2.コミュニケーション活動の分析
(1) コミュニケーション活動の条件
授業において「コミュニケーション活動」を行うとき,本当にそれが生徒のコミュニケーション能力を育成するものなのかを考えなければなりません。さらに言えば,「コミュニケーション能力」とは何かを理解した上で活動を考えないと,苦労して準備し行った活動も効果があがりません。
さて,Dance & Larson(1976)は,「コミュニケーション」という語には様々な分野から126もの定義がなされているとしていますが,より身近なところでは「社会生活を営む人間の間に行われる知覚・感情・思考の伝達」(広辞苑)と定義されています。注目すべきは,ことばそのものよりもそのことばによって伝え合う内容に視点が置かれていることです。
また,Canale(1983)は,Savignon(1983)とともにコミュニケーション能力(Communicative Competence)には4つの下位構成能力(Grammatical, Discourse, Strategic, Sociolinguistic の各 Competence)があるとしていますが,ここでもこの仮説を支持することにします。したがって,言語活動によってコミュニケーション能力を育成することを考えるときには,その活動が上記のどの要素を伸ばすものなのかを分析し,4つの要素を総合的に高められるように計画的に行うことが大切です。
そこで,ここでは授業における「コミュニケーション活動」成立の条件を次のとおりとします。
① 4つの Competence のいずれかまたは複数を伸ばす活動
② 内容を伝え合うことに重点を置き,結果的に表現の習得ができる活動
③ 活動を行う必然性(動機,インフォメーション・ギャップ等)がある活動
(2) コミュニケーション活動の留意点
授業における学習活動や言語活動を考えるとき,最も重視しなければならないのは,生徒が主体的に活動できるようなものを提供することです。それは,受け身の姿勢では学習効果があがらないからです。ただし,それは必ずしもゲーム的活動のような表面的な楽しさを必要とするものではありません。筆者のこれまでの実践研究では,次の4つの点が重要であることがわかっています。
① 活動のねらいが明らかな活動
タスクがはっきりしていて意欲がわく。また,目標を持たせることでより充実した活動を行うようになる。
② 活動の達成度を自己評価できる活動
達成度を評価させることによって成就感や課題を意識させ,次の活動への意欲を喚起する。
③ 活動の主体を生徒に預ける活動
活動時間をできるだけ多く確保し,生徒同士が活動する中でお互いに高め合う機会を与える。ただし,事前に十分な教師主導の活動が必要である。
④ 継続的に行える同一内容の活動
小さな積み重ねで確実な力をつけられる。また,生徒の創造性や豊かな発想を引き出すことができ,変容ぶりも観察できる。
なお,これらの条件を満たす具体的な活動例の1つは肥沼(1995)で詳しく紹介しているほか、次項の指導例でも紹介しています。
3.コミュニケーション活動の指導例
授業で行うコミュニケーション活動には、様々なスタイルや内容のものがあります。ここでは、それらを次の3つの形態に分け、それぞれの指導方法を具体的な活動の例を使って説明します。個々の活動の詳しい説明は他のページにありますので、活動名をクリックしてそちらにジャンプしてください。
目標文の定着を図る活動は、コミュニケーション活動のもっともポピュラーなものとして、広く授業で行われています。しかし、ともすれば性急に活動に走ってしまうために、やや上滑りな活動になって、かえって定着度が下がってしまうという指摘もあります。
そこでここでは、いくつかの文法事項の導入を例にとって、理解、練習、活動の一連の流れを紹介します。
○文法指導 ※メニューの「文法指導」に飛びます。
総合的なコミュニケーション能力を付けさせたいと思ったら、目標文の定着を図る活動をさせているだけでは不十分です。なぜなら、それらは目標となる文型の使用のみに限定された活動で、それまでに習ったことを使う機会を与えないからです。また、前後の時間に習った事柄との関連も薄く、なかなか総合的な力を伸ばすことはできません。
そこでここでは、既習事項を駆使して行う活動を紹介します。これらの活動は、すべて投げ込み的に単発で行うものではなく、毎時間の5~10分程度を使って継続的に行うもの(いわゆる「帯活動」)です。そして、小さな活動の繰り返しによって、時間をかけて総合的なコミュニケーション能力を育成しようとしたものです。
① What Am I?
「私は誰でしょう」というクイズを生徒が個人で出題し、残りの生徒がグループ対抗で答えを探す活動です。ゲーム性があって生徒がとても意欲的に取り組むことと、突発的な状況を切り抜ける方策能力を育成できることが特徴です。元勤務校では平成8年度から平成22年度までの15年間、1年生後期のカリキュラムにこの活動が位置づけられ、英語科教員全員が共通実践を行っていた、生徒に最も人気のある活動です。平成23年度以降はカリキュラムの変更によって帯活動ではなくなりましたが、不定期にいろいろな学年で行われています。
② 教科書のQ&A
教科書本文の内容をコミュニケーションの教材にした活動です。内容に関してのQを生徒に作らせ、生徒同士、対教師で出題させます。Q&Aは「教師→生徒」という固定概念を打ち破る活動です。
③ 4行対話発展活動
目標文を含んだ4行対話を与え、それをペアでできるかぎり長く対話を引き延ばさせる活動です。目標文の定着を4行対話という小さな場面の中で練習させ、さらに既習事項を駆使して対話を続ける力を伸ばします。
④ 古畑-コロンボ活動
語句定義の練習に異文化理解の側面を加えたショート・スピーチ活動です。日本独特のもの(行事、生活、芸術など)を課題として与えられた個人が、外国人にわかるようにそれを説明するというものです。聞き手はその説明の内容を評価します。活動名は、いずれも最初から犯人(答え)がわかっている活動であることをテレビの刑事ドラマの主人公の名前で表しています。
⑤ ディスカッション・タイム!
テーマに沿って自分の意見を相手に伝えたり、相手の意見を聞いてそれに対してさらに自分の意見を言う活動です。毎回2名が与えられたテーマで1分程度自分の意見を発表し、それに対して自分の意見をグループで言い合うというものです。3年生後期の帯活動として全部で約20回行った3年間の総決算的活動です。
テーマに沿って自由にペアやグループで話す活動です。chat =「おしゃべり」ということから、授業中に生徒にきちんと活動させるのは難しいと考えられてあまり行われていないようですが、工夫次第できちんとした活動になります。それをいろいろなやり方で行った例を紹介します。
コミュニケーション活動は、何も特別に設定されたものだけではありません。いや、むしろ設定された活動は、あくまで疑似コミュニケーションだという指摘もあります。実は、授業の中には本当のコミュニケーション活動を行うことがてきる場面がいっぱいあります。
それは、授業を英語で行う中で生み出されます。簡単な指示はもちろんのこと、生徒との必要なやりとりが英語でなされれば、それがすなわち本当のコミュニケーション活動となるのです。したがって、学習指導要領に言われるまでもなく、できるだけ多くの授業場面を英語で進めまてみしょう。そして、1時間の授業を可能な限りすべて英語で進めてみてはどうでしょうか。最近では、公立中学校の先生でも多くの方が実践されています。
ここでは、筆者が中1に対して行ったある授業の中で発言されたすべての台詞(教師・生徒とも)を紹介します。特にどこがコミュニケーションの場面かは解説しませんが、シナリオをお読みいただく中でつかんでみてください。
○英語で行う中学校1年生の授業:ケンちゃんといつでもティーム・ティーチング(授業の全台詞)
かつて筆者の得意技であった「腹話術」を、ウォーム・アップや目標文導入に効果的に使った授業です。
また、「新文型のオーラル・イントロダクション」のコーナーには、中学校で教えるすべての文法事項を英語を使ってオーラルで導入する方法を順次アップしてあります。導入のために生徒と英語でやりとりする過程はまさに実際のコミュニケーション活動です。授業において英語を使う機会を圧倒的に増やす方法の1つとして参考になさってください。
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