『いだてん』ロス?

「~ロス」ということばは、「~が(い)なくなって寂しい状態」のような意味でしょうか。いつ頃から使われだしたことばかは知りませんが、筆者が初めて耳にしたのは平成25年度前期のNHK連続ドラマ小説『あまちゃん』が終わったときです。同番組の直後に放送されている『あさイチ』の出演者たちが何度か言っていたのを聞いて、「へえ、そんなふうに言うんだ…」と思ったものです。筆者はそんな「~ロス」状態を久しぶりに味わっています。それは、タイトルにもあるとおり、『いだてん』ロスです。

 

同番組は、「大河ドラマ史上最低の視聴率をとった番組」などというレッテルを貼られてしまいましたが、第1回から欠かさず見ていた筆者にとっては、「なんでみんな見ないんだろう?」と思うほど面白い番組でした。特に、最終回はとても感動的で、「これで見納めなんだなあ…」と感慨に浸ったものです。こんな面白い番組を数回見ただけで「つまらない」と離れてしまった人は、本当にもったいないことをしたと思います。再放送やオンデマンドで連続して見る人が増え、その面白さが再認識されることを期待しています。

 

もっとも、筆者も初回を見たときに少し違和感を感じたのは事実です。歴史などで有名ではない人たちばかりが、2つの時代を行き来するように登場するオープニングで、話に付いていけないと思った人も多いことでしょう。そのような中で、筆者にはその感覚を払拭するようなある資料がありました。おそらく、それがあったからこそ、初期の違和感を乗り越えられ、中盤の頃のあまりドラマチックではない展開にも耐えられたのかもしれません。それは…? それは次回のこのコーナーで改めてご紹介しましょう。

 

また、同番組への関心が高まったことで、個人的にNHKが出しているガイドブック3冊(前編版、後編版、完結編版)を買って、さらに細かく番組をフォローしていたこともあるでしょう。細かい点まで理解することで、ボーッと見ていただけではわからないことも理解できたからです。もとより原作者の宮藤官九郎氏は、ストーリーの中にいろいろな小ネタをちりばめることで有名ですが、そういうことはガイドブックを読んで初めて気づいたということが少なくありません。

 

さらに、10月13日の『いだてん』の直後にNHKスペシャルとして放送された『東京ブラックホールⅡ 破壊と創造の1964年』という番組も、『いだてん』を深く理解するのに役立ちました。『いだてん』はどちらかというと、来る東京オリンピック2020を応援する意味で作られた作品ですが、『東京ブラック…』は同じNHKがそれまであまり描かれてこなかった東京オリンピック1964の“ダークサイド”(負の面)に焦点を当てて作ったところが面白いですね。「へえ、そんなことがあったんだあ…」と、番組を見ながら思わずつぶやいてしまいました。

 

『いだてん』自体も、過去の大河ドラマにありがちな主人公の派手な人生の表の部分だけを肯定的に描くようなものではなく、日本が最初に参加したオリンピック、1940年の幻の東京オリンピック、そして1964年の東京オリンピックに至るまでの、どちらかと言うとあまり表には出したくないような裏側の事情を丁寧に描いていました。両者を並行して見ることができたことで、オリンピックが日本にとってどのような存在であったのかを深く理解することができ、『いだてん』を一層深く理解して楽しむことにつながりました。(12/22/2019)

 

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