三部作のアンカー

今回はタイトルをご覧になっても何のことだかわかりませんよね。このタイトルの意味するところは、これに合わせてアップした「新文型のオーラル・イントロダクション」「○There is/are/was/were ~.」の記事内容に関係することなのです。

 

同記事の中に、「そのような場面を準備したいきさつについては、…」と本欄を参照するように書かれています。件の記事は、それまでの「誰でも簡単にできる『ユニバーサル・デザイン』のオーラル・イントロダクション」とは異なり、かなり手の込んだ準備をして、ほぼ丸一時間を費やして当該文型の導入をしようというものです。本記事は、そのような導入をするに至った理由をご紹介するものとしてそれと並行して書きました。

 

筆者の勤務校(以下「本校」)では、毎年行われる研究協議会で2~3本の公開授業を行っています(「研究協議会情報」参照)。全国から大勢の先生方がそれを見に来てくださるので、授業者はその期待に応えるべく、何か提案になる内容を含んだ授業をしようと試みます。そのような中で、公開授業の1つが3年連続で2年生の「There is/are ~.」の文型の導入にあたる内容になりました。そこで、この一見するとあまり面白い導入になりそうにない文型の導入場面をそれぞれの教員が工夫したのです。そして、平成12(2000)年度の久保野りえ教諭、同13年度の蒔田守教諭、同14年度の筆者が、それぞれの視点で面白い導入場面を披露しました。

 

最初の久保野教諭の授業がすべての始まりでした。久保野は自身も附属高校で英語による授業を受けて育ち、大学ではかの若林俊輔先生から教えを受けた才女です。彼女は常に「本当にあるべき姿は何か?」ということを追い求めている人物で(その姿勢と功績が認められ、平成16(2004)年にパーマー賞を受賞しました)、There is/are ~. の導入に関しても、いかにこの文型を本来の使い方に即した自然な状況の中で導入するかということにこだわっていました。そして、ちょうど自宅を新築して引っ越したときに気づいたことを用い、「以前の家の周りにはスーパーがいっぱいあったが、今の家の周りにはない」という話から同文型を導入し、最終的に「あなたの家の近くにコンビニはありますか?」というコミュニケーション活動で締めるという授業を行いました。

 

次の蒔田教諭は、久保野教諭の授業を受けて彼独特の導入を行いました。蒔田はその授業を見た人をして「身体を切り売りにしている」、卒業生は「英語の授業をとおして道徳の授業をしていた」と振り返るほどの授業の名人です。彼はこの文型を導入するために、現在体育館は正門のところにあるが、以前は現在コート面になっている中学と高校の校舎の間にあったという状況を使って導入しました。そして、最後は久保野が行った「あなたの家の近くにコンビニはありますか?」というコミュニケーション活動で締める授業を行いました。

 

そして、"三作目"(3年目)が筆者の番でした。久保野・蒔田の二人が見事な導入を行ったので、筆者も何かやらなければならないというプレッシャーを感じていました。そんなとき、本校の最寄り駅で筆者も毎日利用している東京メトロ有楽町線「護国寺」駅のすぐ近くにある写真屋(残念ながら今はありません)のウインドーに、店の前の音羽通り(かつて護国寺の参道であった広い通り)に以前は都電が走っていたことがわかる写真が何点か飾られていたことを思い出しました。「これだ!」と思い、同店を訪れて事情を説明して当該の写真(当該記事の中のもの)を借り、コンビニでカラーコピーを取らせてもらいました。そして、そのことを蒔田に話すと、彼の父親が以前に都庁に勤めていた関係で「都電」という本を持っており、その本の中に都電の路線図があるので貸してくれるということになりました。

 

これで導入の目処が立ちました。しかし、蒔田から借りた路線図は本に三つ折りに綴じられているもので、路線名も駅(停車場)名も目の良い人でないと読めないほど小さな字で書かれています。これでは普通に拡大したのでは生徒が読める大きさにはなりません。そこで、全体を24分割してそれぞれをB4判いっぱいになるように拡大コピーし、さらにそれを「拡大くん」で拡大した上でつなぎ合わせて1枚の大きな路全図にすることにしました。何度も試行錯誤を重ねてできあがったのは、黒板をほぼいっぱいに使うほどの大きな路線図(写真①)となりました。

 

授業でその大きな路線図を広げると、生徒は歓声を上げて興味津々でそれを見てくれます。この時点で導入の成否を決める「動機付け」は成功です。実際にそれを使ってどのように導入していったかは、当該のページ(「○This is/are/was/were ~.」)を参照してください。

 

以上のようなこともあり、当該の3本の授業は「附属中 There is/are ~. 三部作」と呼ばれています(自分たちで呼んでいるだけですが…汗)。その”アンカー”を飾る筆者の授業の導入場面を、当時の指導案ノートに書かれている指導項目とあらかじめ考えてあった台詞を元に、実際の生徒の反応も加えて作成したのが今回アップしたページです。これまでのページとは少しちがう、かなり手の込んだ導入の仕方を、実際の授業の様子を想像しながら読んでみてください。(10/23/2021)

 

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