発音の指導というと、単に個々の音の正しい発音を指導することと考えられがちですが、それよりもずっと多くのことが指導対象となります。相手の言っていることを正しく聞き取ったり、自分が伝えたいことを正しく表現したりするには、発音に関するいろいろな知識と技能を習得する必要があり、私たち英語教師は自分が指導する生徒のためにそれをしっかりと指導しなければなりません。
一方、「学校で正しい発音なんかにこだわるから、発音に自信のない生徒が英語嫌いになるんだ」という声も少なくなく、発音指導そのものに疑問の目を向ける人が一定数いることも確かです。では、本当に発音指導は「悪」なのでしょうか。いえ、けっしてそんなことはありません。これからお話しする内容をお読みいただければ、それをご理解いただけるでしょう。
(1) 発音指導で必要なこと
まず、発音指導が学習指導要領でどのように謳われているのかを見てみます。『中学校学習指導要領(平成29年告示)』の「2. 内容」の「(1) 英語の特徴やきまりに関する事項」に「実際のコミュニケーションにおいて活用できる技能を身につけることができるように指導する」ことの1つとして「ア 音声」(p.146)があり、そこには次のような5つの項目があげられています。
(ア) 現代の標準的な発音
(イ) 語と語の連結による音の変化
(ウ) 語や句、文における基本的な強勢
(エ) 文における基本的なイントネーション
(オ) 文における基本的な区切り
つまり、一口に発音と言っても実は指導すべきことはたくさんあり、“実際のコミュニケーションにおいて活用できる技能”を身につけさせるには、これらをしっかりと指導する必要があるということです。
そこで、ここでは「指導の方向性」と「具体的な指導内容」を記します。
(2) 指導の方向性
では、なぜこれらの指導が大切なのか、それぞれについて何をどのように指導していったらいいのかを、上記の学習指導要録の項目ごとに説明します。
① 現代の標準的な発音
学習指導要領には「現代の標準的な発音」が何であるかの定義はありません。しかし、実際には各教科書会社が教科書の音声として採用しているのがアメリカ英語(中でも“standard”とされるアメリカ中西部で使用されている英語)ですので、それを指導対象とするのがもっとも無理のない選択です。
「世界にはいろいろな英語があるのだから、そんな発音にこだわる必要はない」とか「日本以外の外国の人は自分の母語なまりの英語を話していても立派に通じているのだから、そんなことにこだわる必要はない」という意見もありますが、これらの意見はある大事な点を見落としています。それは、そのような国の人たちは何らかの理由(多くは植民地であったなど)により、普段の生活で英語を第二言語または公用語として使っている人たちで、発音は悪くても英語を使い慣れているので、表現や内容を含めて通じたり理解したりできるということです。つまり発音だけの問題ではないのです。
一方、私たち日本人は普段の生活で英語を使い慣れていませんから、つたない語彙力や表現力を補うものとして、正しい発音を身につける必要があります。そうでないと、相手の言っていることが理解できず、自分が伝えたいことも正しく伝えられません。悪くすれば、相手の意図と異なった意味だと思ってしまったり、自分の意図とは異なることを伝えてしまう可能性もあります。
② 語と語の連結による音の変化
個々の音の発音を身につけたら、次の段階として身につけさせたいのが、語と語の連結による音の変化です。なぜかと言うと、ネイティブ・スピーカーは各単語を1つずつ言っているのではなく、ある程度まとまった表現として一気に発音しているからで、そのときに語と語の連結による音の変化が起こっているので、それを知らないと聞いても理解できないからです。
例えば、Get out of here!(ここから出て行け!)という表現では、個々の発音のただの羅列である「ゲット・アウト・オブ・ヒア」とは発音されません。したがって、ネイティブがこの表現を言ったときは、語と語の連結による音の変化を知らないと、まさかこんな簡単な4つの単語でできた表現であるとは気づかないでしょう。それは、ネイティブはこれを「ゲララヒァ」と発音するからです。
ここで大切なことは、「自分が言えないことは聞いてもわからない」ということです。「自分は言えなくてもわかればいい」と言う人がいますが、それはまちがいです。つまり、普段から語と語の連結による音の変化を意識して発音できるようになっていないと、ネイティブが話す英語を聞いても理解できないのです。
③ 語や句、文における基本的な強勢
日本人が話す言語は“平坦な”印象があると言われます。それは、日本語には音の強弱があまりないからです。例えば、「はし」は「は」を高く発音すると「箸」を意味し、「し」を高く発音すると「橋」や「端」を意味します(関西では逆?)。つまり、日本語では音の高低が表現上で重要な要素になっています。これを「ピッチ」(pitch)と言います。
一方、英語は語や句、文おいて音の「強弱」が顕著に表れています。例えば、im-por-tant(important)であれば、"por"の部分が最も強く(第1強勢)、"im"の部分が次に強く(第2強勢)、"tant"は最も弱く発音されます。このように、英語は音の強弱(強勢)が表現上で重要な要素になっています。これを「ストレス」(stress)と言います。
以上のことから、英語を正しく聞き取り正しく相手に伝えるためには、語や句、文の強勢を正しく理解し、自分でもそれができるようになることが必要です。普段の日本語を話すように英語を平坦に話していては、正しいコミュニケーションはできません。本来の意味とはまったく異なった単語だと思ってしまったり、相手に自分の意図とはまったく異なった単語を伝えてしまったりする可能性があるからです。
④ 文における基本的なイントネーション
イントネーションとは、文の中の音の上げ下げのことを言います。いちばんわかりやすいのは、日本語でも英語でも「はい/いいえ」「Yes/No」で答えるような疑問文では、文末を上げ調子(上昇調)で言うということは誰でも知っていることですね。
しかし、このイントネーションも文によって文末を下げる(下降調)と上げる(上昇調)の2通りという単純なものではありません。例えば、This is yours, isn't it? という付加疑問文では、相手に確認しているのであれば文末は「上昇調」、念を押しているのであれば「下降調」というちがいがあります。また、Would you like coffee, tea or green tea? という疑問文では、相手に「3つの選択肢のうちのどれがいいか」を尋ねる場合は「coffee(↗)、tea(↗)、green tea(↘)」となりますが、「何か飲み物がほしいか」を尋ねる場合は「coffee(↗)、tea(↗)、green tea(↗)」となるというちがいがあります。つまり、自分の意図によって微妙に変わるというわけです。
こういった基本的なイントネーションは、単に教科書のモデル音声を聞いているだけでは習得できません。教師が意図的に伝えたい内容とそれに合った正しいイントネーションのあり方を教える必要があるのです。
⑤ 文における基本的な区切り
文の区切りとは、その文の意味のまとまりを意識するということです。したがって、「話すこと」や「読むこと」の活動では、文における基本的な区切りを理解し、それを自分でも実行できる力が身についていることが大切です。それは、英文を聞いたり読んだりしたときにその文の意味を正しく理解するためや、自分で英語を話したり書いたりするときに意図した内容を正しく伝えるために必要だからです。
例えば、多くの英語学習者がまちがって区切ってしまっている例をお話しします。それは "I think that you are right." という複文をどこで区切るかというものです。筆者の経験上、きちんと指導しないと多くの生徒や学生は "I think that / you are right." と区切って言います。しかし、これは英文の構造を知っていればまちがいだとわかります。なぜなら、この文は <主語(I)+動詞(think)+名詞節(that you are right)>の文だからです。したがって、that の前で区切る、つまり that とそれ以降の部分は1つのまとまった部分として話すのが正しいわけです。
このように、英文の正しい区切り方を知って、それを自分でも実行できることは、「聞くこと」「話すこと」において正しい意味を伝え合う上で重要なばかりでなく、「読むこと」「書くこと」においても正しく理解したり表現したりする上で重要であることがわかります。
(3) 具体的な指導内容
では、実際の英語の授業でどのような発音の指導をしたらいいでしょうか。それについては筆者の一般向けホームページ『目から鱗が落ちる英語学習』(NORY's No worRIEs on English Learning)の「発音とつづりに関すること」のコーナーで学習者が学ぶべきこととして詳しく紹介しています。それを教師が指導すべきことと捉えていただき、そこに掲載されている練習を生徒にさせていただければいいでしょう。
(2)の5項目のうち、①~④については、同コーナーの以下のサブ項目に記事があります。それぞれのリンクをクリックしてお読みください。
① 現代の標準的な発音に関して
② 語と語の連結による音の変化に関して
③ 語や句、文における基本的な強勢に関して
④ 文における基本的なイントネーションに関して
※「⑤ 文における基本的な区切り」に関しては、現時点では筆者のホームページに該当するページはありません。
あなたもジンドゥーで無料ホームページを。 無料新規登録は https://jp.jimdo.com から