アルファベットの歴史といっても、アルファベットがいつ、どこから来たかという話ではありません。そのような言語学的見地からの難しい話はその分野に興味がある生徒だけが自分で勉強すればよく、中学校の授業で全員に教えるものではないと考えます(それでも興味のある方は、アルファベットの出自に関する拙著一般向けホームページ『目から鱗が落ちる英語学習』の当該記事である「アルファベットはどこから来たのか?」を参照ください)。
ここでは、授業においてすべての生徒が参加できて盛り上がり、かつアルファベットの本質に迫ることができる以下の2点について扱います。筆者の元勤務校では中1のはじめの頃に必ず扱う内容で、生徒がとても喜んで取り組む活動ですので、ぜひやってみてください。
① 大文字と小文字はどちらが先にできたのか?
② ○文字から○文字はどのようにできたのか?
※①の答えがわからないように「○文字」とします。
① 大文字と小文字はどちらが先にできたのか?
この点については先生方もご存じない方が少なくないと思います。それは想像で言っているのではなく、これまでに筆者が実施した英語教師向けの研修会等で尋ねた経験からわかっています。したがって、以下の記事をお読みなる前に、まずご自身で考えてみてください。
この点については、拙著一般向けホームページ『目から鱗が落ちる英語学習』に当該記事がありますので、以下にそれを転記します。それを教材と考えて指導に生かしてみてください。
【当該記事】大文字と小文字はどちらが先にできたのか?
アルファベットには大文字と小文字があります。2つが同時にできたとは考えられないので、どちらかが先にできたはずです。いったいどちらが先にできたのでしょうか? ネット等で調べればすぐにわかることですが、それでは面白くないので、少し考えてみましょう。
筆者が生徒に尋ねた経験では、第一印象ではたいてい大文字派と小文字派が半々です。
次に、それぞれどうしてそう思うのかを尋ねると、次のような答えが返ってきます。
【大文字派】
・大きくて書きやすいから。
・直線が多くて書きやすいから。
・大文字から小文字ができたように思える。
【小文字派】
・小さくて書きやすいから。
・小文字だけだと文頭がわからないので、大文字ができた。
・小さい物から大きい物ができるように思える。
どの答えももっともな気もします。そこで、もう少し考えてみましょう。
文字はそれを使う人々の生活の中で生まれ、変化していきます。つまり、その文字を使う人々の「文化」の一部と言えます。人間の文化は、ある視点で見るとどの人種や民族でも同じように変化してきています。それは「言語」です。したがって、他の言語で文字がどのように生まれ、どのように変化してきたのかを見れば、英語のアルファベットにもそれが当てはまる可能性が高いと言えます。そこで、「他の言語」の代表として、日本語の場合を考えてみましょう。
日本語には、漢字、カタカナ、ひらがながあります。この3つのうちで最初にできたのは漢字ですね。文字を持っていなかった日本人は、それを中国から輸入しました。そして、そこからカタカナとひらがなができたというのはご存じのとおりです。
では、なぜ漢字からカタカナとひらがなができたのでしょうか? なぜ漢字だけではダメだったのでしょうか? 2つ目の質問に対しては、おそらく生徒から次のような反応が返ってくるでしょう。
・漢字は数が多すぎて、覚えるのが大変である。
・漢字は画数が多くて、書くのが大変である。
・漢字は複雑なので、文字が大きくなる。
以上のことは、今でもみなさんがそう思っていることでしょうから、真実と言っていいでしょう。そうだとすると、逆にカタカナやひらがなの利点は以下のようになります。
・数が少なくて、覚えやすい。
・画数が少なくて、書きやすい。
・簡単なので、小さく書ける。
ここまで確認できたところで、人間の文化がどう発達するかを考えてみましょう。仮に、ある文化の中で、「複雑だ・大変だ・不便だ」と思うことと、「単純だ・簡単だ・便利だ」と思うことがあった場合、どちらが先にできるでしょうか?
そうですね。前者が先にあって、後者が後に作られるのが普通です。後者が先にあったら、わざわざ前者を作るはずがありません。実際の私たちの生活を見ても、不便なことがあれば、それを便利にする新しいことが生まれます。その逆に後戻りすることはありません。先ほど、文字も文化の1つだと述べました。つまり、文字も不便なものが先にあって、便利なものが後からできたのです。
ここまで確認できたところで、アルファベットの大文字と小文字を改めて見てみましょう。
・数は大文字も小文字も同じ。
→これについてはちがいなし。
・画数は大文字が小文字より多い。
→小文字の方が速く書ける。
・大文字は小文字より大きい。
→小文字の方が多く書ける。
つまり、小文字の方が便利だということです。これで答えはわかりましたね。
そうです。大文字が先にできて、そこから小文字ができたのです。
実際の答えは、ローマ帝国時代の遺跡に刻まれている文字を見ればわかります。当時は大文字しかありませんでした。ネットで探してみれば、すぐに以下のようなものが見つかるでしょう。
<豆知識>
ここからは余談です。では、小文字ができたきっかけは何だったのでしょうか。それは、ある物が発明されたことによります。それは、文字を「もっと多く書きたい」「もっと速く書きたい」「もっと簡単にそれを誰かに読んでもらいたい」という人々の欲求から広まったものです。
そうです。それは「紙」(パピルス)の発明です。紙の登場によって、人々は自分が伝えたい情報を手軽に相手に伝えられるようになりました。しかし、そうは言っても、当時は紙はまだ貴重品でした。ですから、できるだけ多くの情報を1枚の紙に書きたかったわけです。それに対応したのが小文字でした。大文字に比べて小さいので多く書ける、速く書ける、等の利点があり、長年使われているうちに現在の形になったというわけです。
② ○文字から○文字はどのようにできたのか?
①の答えがわかったら、ぜひこの活動もやってみてください。本ページの冒頭で「アルファベットの本質に迫ることができる」とした理由を理解していただけるでしょう。この活動は「知っている/知らない」の知識ではなく、考える力を養うものとしても有効です。つまり、「思考力・判断力・表現力」を養う活動でもあるのです。
①と同じく拙著一般向けホームページに当該記事がありますので、以下にそれを転記します。具体的なやりとりも書かれていますでの、ぜひ参考にして指導してみてください。ちなみに、この活動は小学校の授業でも十分行うことができることが、筆者が過去に担当した小学校の先生方向けの講習会でわかっています(その後に実際に指導なさった先生方から絶賛の感想をいただきました)。
【当該記事】○文字から○文字はどうやってできたのか?
タイトルは、それを見ただけで「2. 大文字と小文字はどちらが先にできたか?」の答えがわかってしまうので、その部分を隠してあります。そちらを未読の方は、先にそちらをお読みください。
アルファベットは、大文字が先にできて、そこから小文字ができました。では、どのように変化してできたのでしょうか? これも調べればわかることですが、少し考えてから確認しましょう。
「2. 大文字と小文字は…」では、大文字から小文字ができた理由を以下のようにまとめました。
・小文字は大文字より画数が少ない。
・小文字は大文字より小さい。
したがって、大文字から「画数を少なく」「小さく」するようにすれば、小文字ができあがるわけです。もちろん、小さくしただけのものもありますが、ここではそうではないものについて考えてみましょう。
それを考えるにあたっては、日本語で漢字からひらがなやカタカナができた過程を改めて振り返ってみるとそれがヒントになります。小学校4年生の国語の教科書には次のような図が載っていますので、それらを参考にしてみてください。
1. 実習① :B → b
例えば、大文字の「B」から小文字の「b」はどのようにしてできたのでしょうか?一見してわかることは、上側の出っ張りが無くなったわけで、それがどうやってなくなったかということです。
実は、大文字からみなさんが知っている小文字がいきなりできたわけではなく、その途中の形も実際に存在するのです。そこで、次のような変化の過程を考えたとき、段々と変化していく途中の形はどのようなものであったかを考えてみてください。
B →_→_→_→ b
ここでヒントです。
①「画数を少なく」から、究極的には画数を「1」にする
→途中で止めずに一気に書く、「一筆書き」にする。
②最初は上から下に書き下ろす
→スタートは2方向しかない。
これで、上の出っ張りを消してください。
どうでしょうか。答えが書けたところで、正解を見てみましょう。
いかがでしたか。正解できたでしょうか。
2. 実習②:D → d
では、もう1つやってみましょう。こちらは難題です。何せ、多くの人がおそらく疑問に思ってきたであろうことを解決しなければならないからです。
D →_→_→_→ d
そうです。小文字になると、なぜ出っ張りが反対方向になるのかを解決できる途中経過を考えてください。こちらも、やり方は B → b のときと同じです。
どうでしょうか。答えが書けたところで、正解を見てみましょう。
いかがでしたか。正解できたでしょうか。
3. 原典・参考資料
繰り返しますが、正解として示した「途中経過」は実在するものです。これらは、今では絶版となっている研究社『VISTA英和辞典』の各アルファベットの冒頭に示されているものです。また、アルファベットの歴史に関する書籍にはたいてい載っているものでもあります。
ここまでわかると、残りのアルファベットもどのように変化したのかが気になりますよね。そういう人のために、26文字の変化がわかる一覧表を作ってみました。上記の英和辞典の該当箇所をコピーして、つぎはぎしたものです。こちらをクリックしてください。
<実際に授業でやってみてください>
いかがだったでしょうか。筆者の前任校では2000年頃から毎年中1の文字指導の時間にこの活動を行っていますが、いつも生徒たちがわいわいがやがやと楽しそうに取り組んでいます。先生の学校でもきっと同じような光景を見ることができるでしょう。ちなみに、この活動は小学校の授業でも好評です。筆者が埼玉大学と神奈川大学で受け持った小学校の先生方を対象にした中学校教員免許状認定講習でこの活動を紹介したところ、さっそく実施なさった先生が大勢いらして、児童がとても喜んで活動していたという報告を受けています。
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