思考力・判断力・表現力の育成

「思考力・判断力・表現力」(学習指導要領では「思考力・判断力・表現力」)は現行の学資委指導要領において重要なキーワードになっています。これは、新たに提示された「育成を目指す資質・能力の三つの柱」の1つとして取り上げられていることからわかります。

 

○知識及び技能

○思考力・判断力・表現力等

○学びに向かう力・人間性等

 

そして、これらは単なるお題目ではなく、実際に評価を行う際の観点の1つとして私たち教師がいやおうなしにかかわらなければなりません。

 

◇知識・技能

◇思考・判断・表現

◇主体的に学習に取り組む態度

 

そこで、ここでは「思考力・判断力・表現力」とはどういうものであるのかを明らかにし、それらを育成するには何をどのうように指導していったらいいのかということを述べていきたいと思います。

 

1. なぜ「思考力・判断力・表現力」なのか?

今回の学習指導要領の改訂で「育成を目指す資質・能力」及びその評価の観点を上記の「三つの柱」に整理した理由は、『中学校学習指導要領 総則編』の「第1章 総説」→「1 改訂の経緯及び基本方針」→「(2) 改訂の基本方針」→「② 育成を目指す資質・能力の明確化」に次のように書かれています(太字強調は筆者)。

 

「中央教育審議会答申においては,予測困難な社会の変化に主体的に関わり, 感性を豊かに働かせながら,どのような未来を創っていくのか,どのように社会や人生をよりよいものにしていくのかという目的を自ら考え,自らの可能性を発揮し,よりよい社会と幸福な人生の創り手となる力を身に付けられるようにすることが重要であること,こうした力は全く新しい力ということではなく学校教育が長年その育成を目指してきた「生きる力」であることを改めて捉え直し,学校教育がしっかりとその強みを発揮できるようにしていくことが必要とされた。また,汎用的な能力の育成を重視する世界的な潮流を踏まえつつ,知識及び技能と思考力,判断力,表現力等をバランスよく育 成してきた我が国の学校教育の蓄積を生かしていくことが重要とされた。このため「生きる力」をより具体化し,教育課程全体を通して育成を目指す資質・能力を,ア「何を理解しているか,何ができるか(生きて働く「知識・技能」の習得)」イ「理解していること・できることをどう使うか(未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」の育成)」ウ「どのように社会・世界と関わり,よりよい人生を送るか(学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」の涵養)」の三つの柱に整理するとともに,各教科等の目標や内容についても,この三つの柱に基づく再整理を図るよう提言がなされた。」

 

これは、過去の日本の教育の成果や課題をPISAなどの国際指標を元に分析した結果、今後の日本の教育のあり方として導き出されたものと思われます。ただ、少し内容が難しいので、核心の部分を筆者なりに整理したのが以下です。

 

・長年育成を目指してきた「生きる力」を今後も学校教育は重視していくことにする。

・「生きる力」とは、社会の変化に主体的に関わり、どのように社会や人生をよりよいものにしていくかという目的を自ら考え、自らの可能性を発揮し、よりよい社会と幸福な人生の創り手となる力である。

・「生きる力」を具現化し、教育課程全体を通して育成を目指す資質・能力を

 ア)何を理解しているか、何ができるか

 イ)理解していること・できることをどう使うか

 ウ)どのように社会と関わり、よりよい人生を送るか

という視点で考え、それぞれを

 ア)生きて働く「知識及び技能」の習得

 イ)未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」の育成

 ウ)学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」の涵養(※かんよう=ゆっくり養い育てること)

とする。

 

つまり、「生きる力」を育成するには「三つの柱」に整理された資質・能力を確実に育成することが大切であるということです。そして、そのうちの1つが「思考力・判断力・表現力」ということになります。

 

2. 英語科における「思考力・判断力・表現力等」とは?

このことに関しては、『中学校学習指導要領 外国語編』の「第1節 外国語科の目標及び内容」→「第1 目標」の中で補足項目の(2)として次のように説明されています。

 

(2) コミュニケーションを行う目的や場面,状況などに応じて,日常的な話題や社会的な話題について,外国語で簡単な情報や考えなどを理解したり,これらを活用して表現したり伝え合ったりすることができる力を養う。

 

上記が「思考力・判断力・表現力等」に関するものであることは、『解説 外国語編』には次のように書かれていることからわかります(太字は筆者)。

 

(2)は,外国語科における「理解していること・できることをどう使うか」という「思考力,判断力,表現力等」の育成に関わる目標として掲げたものである。コミュニケーションを行う際は,その「目的や場面,状況など」を意識する必要があり,その上で,「簡単な情報や考えなどを理解」したり,理解したことを活用して「表現したり伝え合ったりする」ことが重要になってくる。「思考力,判断力,表現力等」の育成のためには,外国語を実際に使用することが不可欠である。 

 

コミュニケーションを行う際は、その「目的や場面、状況など」を意識した上で、「簡単な情報や考えなどを理解」したり、理解したことを活用して「表現したり伝え合ったりする」ことが重要だということです。そして、「思考力、判断力、表現力等」の育成のためには、外国語を実際に使用することが不可欠だということです。

 

つまり、私たちが授業を行う上では、目的や場面、状況などを意識して、情報や考えなどを理解したり、表現したり伝え合ったりするコミュニケーション活動(言語活動)をしっかりと行うことが重要であるということになります。

 

3. 英語科における「思考力・判断力・表現力」の育成

ここからは、上記の説明を受けて筆者が独自に考えた英語科において「思考力・判断力・表現力」を育成するための重要ポイントについてお話しします。

 

まず前提として、「思考力・判断力・表現力」の育成は従来からある旧態依然とした授業を行っていては実現できないということです。では、どのようなことを目指して授業をしたらいいのでしょうか。それを3つにまとめてみました。

 

確かな知識・技能を育成する活動を設定する

「説明したからわかっただろう」「活動させたから身についただろう」という表面的な指導では確かな知識・技能は身につきません。何をどのように教え、何を目的にどのように活動させれば真の学力が身につくのかということを常に考えて授業をする必要があります。これは、本コーナーの「~の指導」シリーズの全項目にも通じる内容でもあります。しかし、それを実現するには「教科書を隅々まで教えなければならない」「とにかくすべてを教えなければならない」という発想からの転換が必要です。

 

➁ 思考し、判断し、表現する機会を多く設定する

これは当たり前のことのように思われますが、旧態依然とした教師中心の説明調授業ではけっして実現できないことです。それは、そのような授業では生徒は自分で考える(思考する)ことはしませんし、何が正解なのかを判断しようとしませんし、たどり着いた答えや自分の考えを表現しようともしないからです。その状況を改善するには、

「教え込み」から「考える/気づく」学習活動への転換が必要です。一見するとそのような授業は非効率的なものに思われますが、最終的には生徒の確かな学力となります。

 

③ 教材の目的・内容に合った学習活動を設定する

英語の授業は、他教科の授業以上に教科書の内容をきちんと扱うことが一般的です。そのこと自体は否定しませんが、単に教科書を扱いさえすればいいという考えからは抜け出すべきです。生徒は年齢とともにより高度な思考を求めるようになり、教科書を読めばわかるような知識だけでは満足しなくなります。そこで、教科書の各題材に関して何が学べるのかということを教師自身が考えて設定する必要があります。つまり、よく言われる「教科書」から「教科書」指導するという授業をしていくことが大切であるということです。

 

では、①~③のようなことをどのような授業をしたら実現できるのでしょうか。

 

これについては様々な考えがあり、具体的な活動例もたくさん紹介されています。ただ、筆者としてはそのとっかかりとしてあることを提案したいと思います。それは…

 

「授業は英語で行うことを基本とする」

 

です。なぜかと言うと、これには上記の①~③のすべてが含まれているからです。

 

教師だけでなく生徒も英語を使うようになり、使っているうちに確かな学力が身につく。

 

➁ 教師の話す英語を聞いて理解するために思考・判断し、自分で英語で表現するために思考・判断・表現するようになる。

 

題材に関して英語を聞くことから入ることで題材について考えるようになり、それについて英語でまとめたり自分の考えを構築したりすることで題材に関する理解を深められる。

 

いかがでしょうか?

 

なお、この件に関しては「授業は英語で」のコーナーを参照ください。