コミュニケーション活動の指導

コミュニケーション活動については、すでにホーム画面の項目一覧にある「コミュニケーション活動」のコーナーでその基本的な考え方と具体的な指導内容について紹介しています。ここでは、そのコーナーでふれなかったことや現行の学習指導要領の記載内容などをもとにしたより包括的な内容を扱っていくことにします。

 

1. 学習指導要領とコミュニケーション活動

現行の学習指導要領を改めて読み直してみると、実はその中に「コミュニケーション活動」ということばは一度も出てきません。さらに、前学習指導要領にはあった「コミュニケーション能力」ということばも見当たりません。その代わり、「コミュニケーション」ということばが次のように使われています。

 

<1. 目標> ※太字は筆者

外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方を働かせ…(中略)コミュニケーションを図る資質・能力を次のとおり育成することを目指す。

(1) …(前略)実際のコミュニケーションにおいて活用できる技能を身につけるようにする。

(2) コミュニケーションを行う目的や場面、状況などに応じて…(以下略)

(3) …(前略)主体的に外国語を用いてコミュニケーションを図ろうとする態度を養う。

 

他にも「2. 内容」や「3. 指導計画の作成と内容の取扱い」の中に何度か「コミュニケーション」ということばが出てきますが、すべてを取り上げると膨大な量になるのでそれらは割愛します。

 

では、学習指導要領は「コミュニケーション活動」を行う必要がないと言っているのか言うとそうではありません。代わりに何度も出てくるのが「言語活動」ということばです。「コミュニケーション活動」ということばは他者とのやりとりをイメージさせますが、「言語活動」であればより広い範囲でことばを実際に使用するという意味で使えるからであろうと思われます。

 

2. コミュニケーション活動の留意点

1.で紹介した「1. 目標」の中にはコミュニケーション活動を行う際に留意すべきいくつかの点が述べられています。それらを少し細かく見ていきましょう。

 

(1) 主文に関して

目標の冒頭にある「外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方」とはいったいどういうものなのでしょうか。『解説 総則編』には次のように書かれています。

 

「外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方」とは,外国語によるコミュニケーションの中で,どのような視点で物事を捉え,どのような考え方で思考していくのかという,物事を捉える視点や考え方であり,「外国語で表現し伝え合うため,外国語やその背景にある文化を,社会や世界,他者との関わりに着目して捉え,コミュニケーションを行う目的や場面,状況等に応じて,情報を整理しながら考えなどを形成し,再構築すること」であると考えられる。

 

これを読んでもよくわからないという人が多いのではないでしょうか。同書にはさらに次のように書かれています。

 

外国語やその背景にある文化を,社会や世界,他者との関わりに着目して捉えるとは,外国語で他者とコミュニケーションを行うには,社会や世界との関わりの中で事象を捉えたり,外国語やその背景にある文化を理解するなどして相手に十分配慮したりすることが重要であることを示している。また,コミュニケーションを行う目的や場面,状況等に応じて,情報を整理しながら考えなどを形成し,再構築することとは,多様な人々との対話の中で,目的や場面,状況等に応じて,既習のものも含めて習得した概念(知識)を相互に関連付けてより深く理解したり,情報を精査して考えを形成したり,課題を見いだして解決策を考えたり,身に付けた思考力を発揮させたりすることであり,「外国語で表現し伝え合う」ためには,適切な言語材料を活用し,思考・判断して情報を整理するとともに,自分の考えなどを形成,再構築することが重要であることを示している。

 

ここまで具体的に書いてもらうと、その方向性が少し見えてきたように感じます。上記の中の主な大切にすべき要素を抜き出してみると…

 

・伝え合う内容に関するさまざまな周辺事項について考えること

・表現やその背景にある文化や相手の立場を考えること

・常に既習事項の中から適切な言語材料を探すこと

・それを自分でよく考えて適切に運用すること

・相手に伝える際は情報や自分の考えをしっかりとまとめること

 

でしょうか。したがって、コミュニケーション活動を行う際には常にこれらのことを念頭において実施することが大切です。

 

(2) 補足文に関して

現行の学習指導要領から目標が“主文”と“補足文”に分けて記述されるようになりました(注:“主文”及び“補足文”ということばは筆者が便宜的に付けた名称です)。ここで改めて“補足文”の全文を見てみましょう。

 

⑴ 外国語の音声や語彙,表現,文法,言語の働きなどを理解するとともに,これらの知識を,聞くこと,読むこと,話すこと,書くことによる実際のコミュニケーションにおいて活用できる技能を身に付けるようにする。

⑵ コミュニケーションを行う目的や場面,状況などに応じて,日常的な話題や社会的な話題について,外国語で簡単な情報や考えなどを理解したり,これらを活用して表現したり伝え合ったりすることができる力を養う。

⑶ 外国語の背景にある文化に対する理解を深め,聞き手,読み手,話し手,書き手に配慮しながら,主体的に外国語を用いてコミュニケーションを図ろうとする態度を養う。

 

それぞれから読み取れる大切な要素は以下のようなことでしょう。

 

(1)について

・英語そのものに関する様々な知識を習得する。

・実際のコミュニケーションで活用できる技能を身につける。

 

(2)について

・コミュニケーションを行う場合は、その目的や場面、状況などを意識する。

・情報や相手の考えを理解し、それを活用して表現したり伝え合ったりする力を身につける。

 

(3)について

・対象言語に対して興味・関心を持ち、主体的に学習しようとする力を身につける。

・他者に配慮し異なった文化や価値観を受け入れ、多面的な思考ができるようになる。

 

上記をよく読んでいただくと、あることに気づくと思います。それは、(1)~(3) は「育成すべき資質・能力の三つの柱」、すなわち順に「知識及び技能」思考力・判断力・表現力等」学びに向かう力・人間性等」に対応しているということです。したがって、コミュニケーション活動を行う際にはこの「三つの柱」をよく理解し、それを踏まえた活動を行う必要があるということです。なお、「育成すべき資質・能力の三つの柱」については「学習指導要領」のコーナーで詳しく解説していますので、そちらも参照ください。

 

3. 授業で行うコミュニケーション活動

では、授業で行うべきコミュニケーション活動(ここでは「言語活動」に置き換えます)とはどのようなものでしょうか。具体的な活動を取り上げていたら紙幅がいくらあっても足りないので、ここではその方向性について述べたいと思います。

 

少し前の学習指導要領では、言語活動といえば4領域の領域ごとの活動を指していました。しかし、前学習指導要領あたりから理解系の技能(聞くこと・読むこと)と発信系の技能(話すこと・書くこと)が統合された活動も含まれるようになりました。そして、現行の学習指導要領ではそれがさらに明確にされ、それは「2. 内容」の[思考力、判断力、表現力等]の部分に「次の事項を身に付けることができるように指導する」として示されています。

 

ア 日常的な話題や社会的な話題について,英語を聞いたり読んだりして必要な情報や考えなどを捉えること

イ 日常的な話題や社会的な話題について,英語を聞いたり読んだりして得られた情報や表現を,選択したり抽出したりするなどして活用し,話したり書いたりして事実や自分の考え,気持ちなどを表現すること

ウ 日常的な話題や社会的な話題について,伝える内容を整理し,英語で話したり書いたりして互いに事実や自分の考え,気持ちなどを伝え合うこと。

 

アは理解系、つまり受容面に焦点が当てられていますが、イとウは受容的な活動に終わってしまうのではなく、それを利用して発信的な活動を行うことの重要性を謳っています。つまり、「15. 統合的な活動の指導」で述べたような4領域(5領域)を統合的に扱う言語活動をより増やすべきであるということを述べているわけです。しかも、単に事実を伝えるだけでなく、自分の考えや気持ちなどを表現することの大切さも謳っています。

 

ここが重要な点で、とかくコミュニケーション活動というと「聞くこと」や「話すこと」ばかりに目が行ってしまいますが、「読むこと」や「書くこと」も合わせた言語活動も積極的に設定していく必要があります。その具体的な活動例は「15. 統合的な活動の指導」でも紹介していますので、併せてご覧になってみてください。