「リーディング」と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、いわゆる長文読解でしょう。定期試験や入試問題などではたいてい最後かその前に置かれることの多い問題です。また、授業中のリーディング活動と言えば、多くの人が教科書の本文の意味を逐語訳で確認していくものという印象を持っているにちがいありません。それだけ、日本の英語教育においてリーディング活動は画一的に行われてきたということになります。
しかし、リーディングには他にもいろいろな活動があります。ここではそれらを紹介するとともに、それらの具体的な指導法についてもふれていきたいと思います。
1. リーディング指導の目的
リーディングを「読むこと」、さらに「読み取ること」に限定するとすれば、広い意味では次のような活動がそれにあたります。
① アルファベットを見て認識すること
② 単語の発音・意味・働きを理解すること
③ 文の意味・構造を理解すること
④ まとまりのある文章の概要や要点を理解すること
つまり、簡単なことから言えば、文字を見てそれが何であるかを理解することもリーディングであり、それがどんどん広がって最終的にはまとまった量の文章の内容を読み取ることもリーディングであるという、とても幅の広い活動になります。
これに対して、現行の中学校学習指導要領では「読むこと」の指導目標を次の3点としています。
ア 日常的な話題について,簡単な語句や文で書かれたものから必要な情報を読み取ることができるようにする。
イ 日常的な話題について,簡単な語句や文で書かれた短い文章の概要を捉えることができるようにする。
ウ 社会的な話題について,簡単な語句や文で書かれた短い文章の要点を捉えることができるようにする。
これを見ると、上の①と②は含まれていないことがわかります。以前の学習指導要領には含まれていたと思いますが、それが現行のものでは指導の対象とされていません。その理由は、学習指導要領の『解説』のアの説明として次のように書かれていることから想像できそうです。
小学校の外国語科の「読むこと」の目標イ「音声で十分に慣れ親しんだ簡単な語句や基本的な表現の意味が分かるようにする」を受け,「日常的な話題」について,読み手として目的に応じて知りたいことや欲しい情報などの「必要な情報」を読み取る力を身に付けさせることを示している。
つまり、①と②は小学校で指導済みであるから中学校ではワンランク上の指導をすべきであるということです。
さらに、現行の学習指導要領では「思考力・判断力・表現力等」という観点から、「読むこと」を単に読んだ内容の読み取りに終わるのではなく、「話すこと」や「書くこと」の表現活動へとつなげることも謳っています。この点については「15. 技能を統合した活動の指導」で改めてふれたいと思います。
2. リーディング指導の実態
筆者が中・高生であった頃は、リーディングと言えば1.③の「文の意味・構造を理解すること」を指していました。教科書で長文を扱うときも長文全体の内容把握をするわけではなく、個々の文の意味と構造を順番に理解していって、結果的に文章全体の内容がわかるという活動しかやった覚えはありません。
実は、これは40年以上経った今でもそれほど変わっていないようです。それは大学の英語科指導法の授業で受講生に中学校・高校のリーディング活動について尋ねた結果でわかっています。授業中にやることは生徒一人一人が指名されて1文づつ逐語訳を行い、その後に先生が説明を加えるという授業が多数を占めています。中には先生が一方的に説明をしているだけという授業もあったとのことです。
では、どうしてこのような指導が延々と続けられているのでしょうか。それを教師側の言い分で見てみると…
・1文ずつ細かく分析をしないと正確な意味や文構造がわからない
・受験に対応するにはそれが最も大切な作業である
これらは何十年も前から言われていることであり、実は生徒自身や教職を目指す学生も同様に考えています。しかし、はたしてこれらは本当のことでしょうか?誰か実証的に調べた人はいるのでしょうか?
同じ学校で指導方法を劇的に変えてみての結果を報告した例はありません(少なくとも筆者は知りません)。しかし、上記の言い分はまちがっている可能性を指摘できる例を2つ紹介します。
① 筑波大学附属高等学校の例
同校は筆者の前任校の上級校ですが、1947年の学制改定までは同じ東京高等師範学校附属中学校でした。そのような事情もあり、同校は現在も英語の授業はほとんど英語で行っており、オーラル・イントロダクションで教科書本文の内容を導入した後は、リテリングなどの表現活動を行ったりすることがほとんどで、授業で一文一文逐語訳を行うということはしていません。しかし、大学入試の英語の成績は昔から大変良いことがわかっています。
② 横浜市立南高等学校附属中学校の例
同校は最近話題になっている「5ラウンドシステム」を最初に実施した学校です。これは1年間で教科書を5回繰り返して使用する新しい授業スタイルで、①内容理解(リスニング)、②音文字の一致、③音読、④穴あき音読、⑤リテリング の5回の活動が行われます。ここには逐語訳という活動はありません。この指導を受けて南高校へ進んだ生徒が3年後の大学入試で英語の成績が大変良かったということは当時ちょっとした話題になりました。今では埼玉県熊谷市や川口市の全市立中学校でも実施されています。
さあ、先に示した教師の言い分はもはや幻想でしかなかったことが証明されました。次世代を担う先生方は新しいリーディング指導を行うことが求められます。
3. 逐語訳に代わるリーディング指導
では、逐語訳に代わるリーディング指導は何を行ったらいいでしょうか。その答えは先程取り上げた学習指導要領にあります。同書に次のような文句がありました。
・必要な情報を読み取る
・文章の概要を捉える
・文章の要点を捉える
すなわち、一文一文を細かく丁寧に分析的に読み進めるのではなく、素早く直感的に読み取る指導を行うことが求められているのです。
(1) 必要な情報を読み取る指導
これは別のことばでは「情報検索」(scanning)という力を育てる指導を指します。教科書の本文を前にして1文ずつ読んでいくのではなく、読む前に読み取ってほしい内容を課題として与えてから読ませる指導です。
「必要な情報を読み取る」ということですから、文章の概要や要点のような大きめのものではなく、語句レベルの内容を見つける(検索する)活動が主になります。この点について、『解説』には次のように書かれています。
例えば,学校での連絡事項の中から自分が所属する委員会の活動場所を確認することや,取扱い説明書から必要としている説明を読み取ることなどが考えられる。
筆者がこれまでに行った情報検索活動としては、以下のようなことを行ったことがあります。
・世界の天気図を見て、各地の天気や気温を答えたり該当する天気の都市を選ぶ
・アメリカの新聞のテレビ欄を見て、8時台の科学番組のチャンネルを探す
・4つのレストランの中で水曜日に中華が食べられる店を選ぶ
・4つの図書館の中で車で行けてお茶も飲める場所を選ぶ
以上のものは情報検索活動を行うために特別に設定したもので、それぞれ条件のちがう選択肢を見て、最適なものを選ぶという活動です。指導要領で示されているものよりやや複雑な情報処理が必要ですが、個々の必要な情報を探すという点では情報検索がまず必要な活動と言えるでしょう。
上記のような特別な教材でなくても、この活動はすでに何代か前の各社の教科書でもリーディングの課題として載っていて、それは現行の教科書にもあります。例えば、現行(令和3~6年度版)の『ニューホライズン』(東京書籍)2年生の Let's Read 3 のパート1では "In-reading" の課題として次の2点があがっています。
① What book did Michio read?
② What did Michio do?
本文全体の意味を理解する前でも、上記2つの質問に対する答えの部分を「抜き出す」ことで質問に答えることができる、まさに「必要な情報を読み取る」活動です。ちなみに上記の答えとしては、① a book about Alaska、② So, he wrote a letter to the mayor of the village. が抜き出せればいいことになります。①は what の内容が句ですからほぼ単純な情報で、②は「きっとこの文のことだな」と判断できれば抜き出せる情報だと言えます。
(2) 文章の概要を捉える指導
このは「概要把握」(skimming:すくい取ること)という活動です。「概要」とは、ある程度まとまった文の要旨のことを指します。物語であれば「あらすじ」、論説文であれば作者の「もっとも伝えたいこと」などです。この点について『解説』には次のように書かれています。
例えば物語などのまとまりのある文章を最初から最後まで読み,一語一語や一文一文の意味など特定の部分にのみとらわれたりすることなく,登場人物の行動や心情の変化,全体のあらすじなど,書き手が述べていることの大まかな内容を捉えることである
筆者がこれまでに行った概要を捉える活動には次のようなものがあります。
・白文(本文のテキストのみをコピーしたもの)を読んで決められた文字数で物語のあらすじや作者の主な考えを書く
・白文を段落で切り離してバラバラになったものを読んで順番通りに並べ替える
さて、以上のような活動を行う際に考えるべきは新出語句の扱いです。つまり、新出語句を事前に導入(意味の確認を含む)するかどうかということです。「えっ?新出語句がわからなかったら、文章全体の意味なんてわからないに決まっているじゃない。導入しないでやるなんて選択肢はない」という方もいらっしゃるでしょう。
しかし、ここで求められているのは全体の概要です。細かい内容についてはわからない部分があってもかまわないのです。たとえわからない語句があったとしても、前後関係から想像したり無視したりしながらでも全体で何を言おうとしている文章なのかを捉える力が概要を捉える力なのです。試しに生徒にやらせてみてください。事前に考えていた以上に生徒は概要を捉えることができると思います。
さらに言えば、公立高校の入試問題などを除いて、一般的なリーディング・テストでは未習語の注などは付いていません。いつまでもそのようなものがないと長文を読むことができないようでは、世界基準の英語力テストに対応できる力はつきません。中学生の頃から慣れさせてあげてください。
(3) 文章の要点を捉える指導
「要点」とは文章全体の中の大切な情報のことです。これについて『解説』は次のように説明しています。
例えば説明文などのまとまりのある文章を最初から最後まで読み,含まれている複数の情報の中から,書き手が最も伝えたいことは何であるかを判断して捉えることである。一語一語や一文一文の意味など特定の部分にのみとらわれたりすることなく,文章全体を読み通す点はイと共通するが,ここでは,文章全体の大まかな内容を把握するのではなく,文章から複数の情報を取り出し,どの情報がその説明の中で最も重要であるかを判断する点が異なることに留意する必要がある。
これは筆者の授業でも昔からよくやっている指導です。例えば何かの文章を読んだときに、後からその内容に関する質問をいつくか英語で出して生徒に答えさせるというものです。質問は口頭ですることもありますし、ワークシートに書かれた質問を読んで答えさせることもあります。
この活動も以前から教科書の読み物教材では多く見受けられます。たいていは本文の下に2~3つの英語の質問が書かれていますから、先生方も利用したことがあると思います。
気をつけたいのは、『解説』の説明にもあるとおり、この活動ではあまり細かい語句や文の意味・構造などに時間をとらないことです。この活動のねらいはあくまでも「内容把握」であり「語句や文の分析」ではありません。そのような活動をここにはさんでしまうと、全体を読み切るのに時間がかかるばかりか、しばしば進行が滞るので、生徒が飽きてしまったり、「読むこと」をつまらないと感じたりしてしまいます。
【コラム①】音読は「リーディング」なのか?
音読が「読むこと」の活動なのかどうかは現行の中学校学習指導要領には書かれていません。したがって、音読がどの領域の活動なのであるかはわからなくなってしまいました。しかし、それ以前の学習指導要領では明らかに「読むこと」の活動の1つとされていました。例えば、平成20年度告示の学習指導要領では、「2 内容」→「(1) 言語活動」→「ウ 読むこと」に次のように書かれています。
(イ)書かれた内容を考えながら黙読したり,その内容が表現されるように音読すること。
これは長年音読が文字通り「読むこと」の活動であったことを示すものであり、英語教師の多くは今でも音読は「読むこと」の指導及び評価項目だと考えています。
なぜこのようなテーマを掲げたのかというと、筆者の前任校・筑波大学附属中学校では今から25年くらい前から音読を「話すこと」の指導・評価項目に入れているからです。その理由は主に次のようなことによります。
・音読とは単に文字面を追いながらそれを音声化するのではなく、読み取った内容を自分のことばで再生する活動である。
・音読は実際に会話をする際の表現力の基礎を養う活動である。
したがって、音読の指導にあたっては、最初は文字を見ながら再生することから始めますが、回数を重ねるにしたがって文字から目を離して自分のことばとして音声化させるようにしています。いわゆる "Read and Look up" 方式の活動を最終目標とするわけです。
そして、そうして培った音読の力を定期的に発表する「リーディング・ショー」という発表活動を全学年・全クラスともに年に数回(基本は夏休み後、冬休み後、春休み後)行っています。また、毎年行う「学芸発表会」という文化祭では、その成果を生徒互選で選ばれた15クラスの代表生徒がほぼ一日かけて保護者や外部見学者に披露しています。
※音読は「話すこと」と捉えていますが、この活動自体は代々「リーディング・ショー」という名称になっています。
【特別映像】リーディング・ショー ※YouTube限定公開
音読を「話すこと」と捉えて指導した結果としての「リーディング・ショー」(音読発表会)の映像をYouTubeでご覧いただけます。
「リーディング・ショー」(「英語科プロモーションビデオ2020」より)2分40秒
→限定公開ですので検索では出てきません。リンクをクリックしてください。
※生徒の肖像権保護のため顔にはモザイクを入れてあります。
【コラム②】伝統的な「読解問題」の問題点
さっそくですが、ある高校入試の長文読解問題を見てください。
<問題文> ※紙幅を取るので省略
<設問> 問1 文中の下線部(A)・(B)・(D)の日本文を、次の( )内の語に2語を加えて、英文にしなさい。※文中の下線部の日本語は以下のとおり。 (A) 私はバスケットボール部に所属しています。 (to / basketball / the / I) (B) これは京都への私の2回目の旅でした。 (Kyoto / this / trip / my / to) (D) 私はおばと彼女の家族に会えてとてもうれしかった。 (see / I / my / and / was / to / her / aunt / very)
問2 下線部(C)が「20年以上」という意味になるように、( )にあてはまる英語を2語で答えなさい。 ( )( ) twenty years
問3 ( 1 )( 2 ) にあてはまる語を下の( )から1つずつ選び、その語を○で囲みなさい。 (1) (on at in to) ※問題文中では "I have to study (中略) at home ( 1 ) the evening." (2) (with by over for) ※問題文中では "I returned home ( 2 ) train."
問4 次の文の中から本文の内容と合っているものを2つ選び、その記号を○で囲みなさい。 ア Akiko is a student of Jonan Junior High School. イ Akiko doesn't enjoy her school life, because she is so busy. ウ Akiko visited her aunt in Kyoto during the spring holidays. エ One day Akiko's aunt took Yoko, Masao and Akiko to Kiyomizu Temple. オ Jane was from Australia and spoke good Japanese. カ Akiko saw many foreign people when she returned home.
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このような長文読解問題は私たち英語教師も経験してきたもので、多くの先生方も自分で作成する定期テストの問題として出題していることでしょう。しかし、このような問題には大きな“問題点”があります。それは何でしょうか?
「じっくり検討してみなければわからない」「そもそも問題文が無くては判断のしようがない」と思った方は、ご自身で作成する長文読解問題の作り方を根本から考え直す必要があります。
詳細は「テスト作りの基本と事後指導」を参照していただくとして、ここてはポイントのみお話しします。上記のような問題は「読解問題」としては不適切であるということです。その理由は、読解問題なのに語彙の問題(問2)、文法の問題(問3)、表現の問題(問1)が入っているからです。かろうじて問4は読解問題と言えます。
このようないわゆる「総合問題」を出題した場合、この問題の大問の合計得点は何を表すのでしょうか?けっして読解力を表すものではないことは明白です。したがって、読解力を測りたいのであれば、読解に特化した設問のみで問題を構成すべきなのです。
具体的な出題方法は、各種外部検定試験や大学入試センター試験などをご覧ください。それらの長文読解問題はきちんとした問題で構成されています。もちろん、先述した「テスト作りの基本と事後指導」でも具体的な問題例をご覧いただけます。
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