中学校の英語の授業においては、すべてのアルファベットを認識し、それらを「エイ、ビー、スィー、…」と正しく読めるようにすることは基本中の基本として長年指導されてきました。読者の方も教員であるか学生であるかに関わらず、自分の英語学習経験からもそれは納得の事実でしょう。
しかし、アルファベットを「エイ、ビー、スィー、…」と正しく読めたとしても、単語や文を正しく読める(発音できる)ようになるわけではありません。それは、各文字の読み方(ここでは「名前」とします)は、母音を除くと実際の単語や文の中には出てこないからです。例えば、"b" が入っている単語のその部分を「ビー」と発音することはありません。
したがって、英語学習の入門期は特にアルファベットの実際の発音(ここでは「音(おん)」とします)をきちんと指導する必要があります。ところが、筆者が過去に指導した約350名の英語教師を目指す大学生に聞いたところでは、中学校または高校で英語の「音」について学んだことがある学生は10~15%しかいないことがわかっています。これでは英語をしっかり「読める」生徒が育つわけがありません。
そこで、すべての英語教師に対する提言として、アルファベットの「音」を指導することを提案します。もっとも、これを小学校で指導するかどうかは難しいところです。しかし、中学校では必ず指導していただきたいと思います。また、高校でも改めて指導すれば、中学校時代に習っていなかった生徒はきっと驚きをもって先生の授業を見直すことでしょう。
実は、この件に関してはすでに拙著一般向けホームページ『目から鱗が落ちる英語学習』(NORY's NO worRIEs on English Learning)の「発音とつづりに関すること」というコーナーで学習者の立場から述べています。そちらをご覧になって、それを教師という立場で実践していただければいいと思いますので、その内容をそのまま以下にコピーしておきます。
【件の記事】アルファベットの名前を読めても英語は読めない
英語学習で最初に習うのは「A、B、C、…」というアルファベットでしょう。しかし、これを「エイ、ビー、スィー」と読めたからと言って、英語が読めるわけではありません。アルファベットの「名前」を正しく発音できても、次の段階である単語は読めないのです。
例えば、dog(犬)という単語で見てみましょう。これを「名前」を学習した時点で読めば、「ディー・オウ・ジー」です。しかし、誰もが「犬」は「ドッグ」だと知っているので、この単語を無理矢理「ドッグ」と読み、生徒も dog を読めたものと思い込んでしまっているのです。
dog を「ドッグ」と読むためには、それぞれの文字が「ドゥ」、「オー」、「グ」と読むことを知らなければなりません。つまり、アルファベットの「音」を知る必要があります。そして、その3つの音をつなげて読んで初めて「ドッグ」と発音できるのです。
これを知れば、初めて出会った単語であっても、だいたいの発音を想像できます。そこで、アルファベット26文字の音を学習してみましょう。なお、日本語で表記する以上、実際の正しい発音をお伝えするのには限界があるので、細かいことは無視して、おおまかな「音」をお教えします。また、学びやすくするために、26文字をアルファベット順ではなく、別の視点で4つのグループに分けてみます。
(1) 破裂させるように発音する子音 ※いずれも「~ウ」と母音をつけないように。
・p…「プッ」。唇の先だけで音を出す。
・t…「トゥッ」。舌と上あごだけで音を出す。
・k…「クッ」。口の奥だけで音を出す。
・b…「ブッ」。唇の先だけで音を出す。
・d…「ドゥッ」。舌と上あごだけで音を出す。
・g…「グッ」。口の奥だけで音を出す。
・j…「ジュッ」。舌と上あごだけで音を出す。
※以上の7つの音を整理すると、次のようになります。
p t k
b d g j
上の段は声帯使わずに発音するので「無声音」、下の段は声帯を震わせて発音するので「有声音」と言います。また、p と b、t と d、k と g は同じ口の形で発音できる無声音と有声音の組み合わせです。なお、g は「ジュッ」という音もあります。
(2) こするように発音する子音 ※いずれも「~ウ」と母音をつけないように。
・s…「ス」。上下の歯の先の間をすべらすように音を出す。
・f…「フ」。上の前歯を下唇に乗せてその間をすべらすように音を出す。
・h…「ハ」。口の奥だけでその間をすべらすように音を出す。
・z…「ズ」。上下の歯の先の間をすべらすように音を出す。
・v…「ヴ」。上の前歯を下唇に乗せてその間をすべらすように音を出す。
・m…「ム」。唇の先だけで音を出す。
・n…「ン(ヌ)」。舌と上あごだけで音を出す。
・l…「ル」。舌の先を上の前歯の根元につけて音を出す。
※上記の8つの音を整理すると、次のようになります。
s f h
z v m n l
上の段は「無声音」で、下の段は「有声音」なのがわかりますね。また、sとz、fとvは同じ口の形で発音できる無声音と有声音の組み合わせです。
(3) その他の子音
・r…「ル」。「ルウ」と母音をつけないように、舌先を口の中のどこにもふれさせないで音を出す。
・y…「(ャ)イッ」。「ヤ」の口の形を作って「イ」という音を出す。
・w…「ワウ」。唇をとがらせ、その形のまま唇だけで「ウ」という音を出す。
・q…「クワ」。「ク」の直後にwの音を出す。
・x…「クス」。母音をつけないように「クス」という音を出す。
・c…「ク」または「ス」。前者はkと、後者はsと同じ音を出す。いずれも無声音。
(4) 母音
母音の音は2種類あります。それは「名前読み」と「音読み」です。
<名前読み>※正式な呼称ではありません。
こちらはアルファベットの名前のとおりですから簡単です。いわゆる長母音というやつで、a「エイ」、e「イー」、i「アイ」、o「オウ」、u「ユー」です。
<音読み>※正式な呼称ではありません。
いわゆる短母音です。音の出し方を説明します。
・a…「(ェ)ア」。最初に「エ」の口の形を作り、その形のままで「ア」の音を出す。
→結果的にやや「エ」の音を含んだ「ア」の音になる。
・e…「エ」。少し短めに「エ」の音を出す。
・i…「(ェ)イ」。最初に「エ」の口の形を作り、その形のままで「イ」の音を出す。
→結果的にやや「エ」の音を含んだ「イ」の音になる。
・o…「(ァ)オ」。最初に大きく「ア」口の形を作り、その形のままで「オ」の音を出す。
→結果的にやや「ア」の音を含んだ「オ」の音になる。
・u…「ア」。のどの奧の方をせばめて、やや暗い「ア」の音を短く出す。
以上のことからわかるのは、特に子音は単語の中で「名前」のとおりに発音することはないということです。つまり、「名前」を発音できても「音」を発音できなければ単語を読むことができないということです。改めてそれを知ると、「目から鱗が落ちる」気がしませんか? (11/3/2018)
<追加記事> 「アブク・ソング」を歌ってみよう!NEW
アルファベット26文字の「音」がわかったところで、発音練習のために「アブク・ソング」を歌ってみましょう。「なに、それ?」と思いますよね。要するに、みなさんが知っている「ABCソング」という歌のアルファベットの部分を「名前読み」ではなく「音読み」にして歌うのです。
つまり、「エイ、ビー、スィー、ディー、…」ではなく、「ア、ブ、ク、ドゥ、…」と歌っていくわけです。これを歌う練習をすると、瞬時にアルファベットの音を発音できるようになります。ぜひチャレンジしてみてください。
a, b, c, d, e, f, g, h, i, j, k, l, m, n, o, p, q, r, s, t, u, v, w, x, y, z
これを名前読みすると、以下のようになります(発音記号が示せないので、上記のカタカナ表示)。
ア、ブ、ク、ドゥ、エ、フ、グ、ハ、(ェ)イ、ジュ、ク、ル、ム、ン、オ、プ、クワ、ル、ス、トゥ、ア、ヴ、(ワ)ウ、クス、(ャ)イ、ズ
※青字は無声音なので、母音をつけて発音しないように注意。
最初はすごく変な感じがして歌いにくいのですが、練習して歌えるようになると、なんだか英語が読めるような気分になってくると思います。
<YouTube で練習する!>
英語の「音」に関して筆者の声で録音した映像3本をYouTubeで限定公開(下記のURLでのみたどり着ける)しています。いずれも2020年のコロナ禍による休校中に新入生のためのオンデマンド視聴用教材として作成したものです。どうぞご覧になって一緒に練習してみてください!
① A New アブク Song … アルファベット26文字の音を連続で言う練習ができます。ただし、歌はNHK『基礎英語』で使われた "A New ABC Song" です。映像製作 by 植野、声 by 肥沼
② アルファベット・チャンツ … アルファベット26文字を含む単語をリズムに乗って練習できます。映像製作 by 植野、声 by 肥沼
③ アルファベット・チャンツ(カラオケ)… ②のカラオケ・バージョンです。映像製作 by 植野
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