※記事の一番下に雑誌記事の現物(PDF)があります。
1 経験則の危うさに対する警笛
私たち教員は、ともすると自分の経験則に頼って教育活動を行いがちである。特に、授業研究などとちがって研修の機会があまりないテスト作りでそのようなことをしてしまう。しかし、そうした教師の姿勢を鋭く批判した『無責任なテストが「落ちこぼれ」を作る―正しい問題作成への英語授業学的アプローチ 』(若林俊輔・根岸雅史著、1993)という本の登場で、少なくとも同書を読んだ英語教師の多くは自分のテスト作りを一から考え直したにちがいない。筆者もその一人であった。同書は、テスト理論を無視した作りのテストを何の疑問も持たずに自分の生徒に実施してしまう教師へ警笛を鳴らしたのである。
2 複数の評価観点が混在する問題
同書の指摘内容をわかりやすくするために、読者の誰しもがかつて入試問題等で出会ったことがあるであろう英語の長文読解問題を例に説明を加える。ある長文読解問題に、単語を書く問題、単語を並べ替えて英文を完成する問題、英文を和訳する問題などがあったとする。これはいわゆる「総合問題」と呼ばれるもので、今でも入試問題として出題する私立高校等は少なくない。ただし、そのような問題を「長文読解」問題だと思い込んで、自分が作成する試験にも出題する教師がいることは大きな問題だと同書は指摘する。
このような問題は「長文読解」とは言えない。それは、「読解」を謳っていながら、その中に語彙問題、文法問題、表現問題等が含まれているからである。当然、その問題の合計点は生徒の読解力を表しているとは言えない。
3 評価観点別問題の作成
したがって、定期試験で生徒の特定の力(例えば、語彙力、文法知識、表現力等)を測りたいのであれば、それぞれの評価観点に合った問題を独立させて出題し、その評価観点毎に部分点を付けて集計すべきである。
筆者の勤務校(以下「本校」)では、遅くとも件の本が発行された翌々年の平成7(1995)年度には、英語科全員が定期考査において評価観点別問題の大問を作成するようになった。そして、後にそれを「表現」「理解」「知識」という3項目に再集計して評価データとするシステムを確立し、それを現在まで続けている。
(1) 英語科全員の共通実践
「表1」(PDF版を参照)は、ある学年の3年間の定期考査の評価観点別問題の項目名一覧である。本校は二期制を採っており、各学期で2回定期考査を行うので、3年間で計12回の試験がある。その中では、教科書を使わずに口頭でのみ指導する期間の1年前期中間考査のみ評価項目が特殊であるが、残りの試験では学年が進むにつれて新たな項目が追加されたり複数の項目が統合されたりすることはあっても、毎回ほぼ共通の評価項目(観点)で試験が構成されている。
ここで大切なことは、それを一教員が個人的に実践しているのではなく、長年にわたって英語科全員が共通実践しているということである。しかも、それをある教員が他の教員に強要して行うのではなく、毎年全教員のコンセンサスを得て行っている。
もちろん、英語科の場合は「分野」という考え方がないので、このような3年間を通した共通の評価観点を設定することが容易なのかもしれない。他教科の場合、例えば社会科であれば、地理、歴史、公民などの分野によって評価観点が異なることもあるであろう。理科なども同様かもしれない。しかし、どの教科であっても絶対に避けたいことは、評価観点が不明確な問題や複数の評価観点が混在する大問を作成して、そこで得られたデータを総得点だけで表してしまうことである。
(2) 英語科の評価観点の例
ここでは、特に英語科教員の参考になるように、「表1」にある評価観点と実際に作成される問題の関連について説明することにする。なお、ここで紹介する「表現」「理解」「知識」の集計項目は、新学習指導要領の評価観点に対応した項目に変更する予定である。
【表現】の問題
○理解表現…放送で聞いた内容に対して正確に書いて応答できるかを問う。
○本文再生…放送で教科書本文を聞き、指定された一文を正確に書けるかを問う。
○表 現 力…穴埋め、語順整序、和文英訳、エッセー作文などで、正確に書いて表現できるかを問う。
【理解】の問題
○基礎英語…全員に聴取させているNHKラジオ『基礎英語』の内容と表現について理解しているかを放送で問う。
○内容理解…初めて聞く会話や説明文の内容を理解できたかを放送で問う。
○表現理解…主に試験範囲内に学習した表現を理解しているかを放送で問う。
○読 解…単文、複数文、長文を読んで内容が理解できたかを問う。長文は既読と未読の両方の素材を用いる。
【知識】の問題
○語 彙…主に試験範囲内に学習した単語と連語を正しく書けるかを問う。
○文法知識…主に試験範囲内に学習した文型や文法事項を理解しているかを問う。
4 テスト結果を形成的評価に生かす方法
試験が終わったからと言って、それで指導が完結するわけではない。そこで、ここでは本校で長年にわたって英語科の全教員が共通実践しているテスト結果を形成的評価に生かす方法を紹介する。
<資料1>評価観点別得点レーダーチャート(PDF版参照)
<資料2>評価観点別結果度数分布(PDF版参照)
(1) 評価観点別結果のフィードバック
評価観点別問題の結果を生徒にもわかりやすくフィードバックするために、解答用紙には大問毎の部分点を記入する欄と、「表現」「理解」「知識」の中集計点を記入する欄がある。採点時に各部分点は手書きで書き入れるが、集計時にそれをパソコン上で観点別に打ち込むと中集計点と合計点が自動計算されるようにしてあり、それらの点数を該当箇所に手で書き入れている。さらに、パソコンに打ち込んだ各評価観点の学年全体の結果をフィードバックして、各生徒に自分の学習課題を意識させている。
本校英語科では全学年で「資料1」のような評価観点別得点レーダーチャートを生徒に渡している。そして、そこに自分の各データを記入させて図を描くことで、自分の課題点を明確にさせるのである。図表には平均点も示されているので、同じ学習を行った仲間の中での相対的な達成度も意識できるようになっている。また、必ずしも全員の共通実践ではないが、筆者が担当する学年では「資料2」のような度数分布表を、総得点だけでなく評価観点別についても示したもので生徒に渡すことがある。
このような詳細なデータを示すことは、過度な競争意識や下位生徒の劣等感を助長する可能性があるという考えもあろう。しかし、この後に紹介する主体的な学習をしっかりと行わせる資料としてはとても大切なデータなのである。
(2)「テストノート」の作成
本校では、定期考査後に「テストノート」という課題を生徒に課している。英語科以外では、国語科、数学科、理科が実施している。
紙幅の関係で現物の提示は割愛するが、英語科の場合、全学年共通で次のような課題を与えている。
① 問題用紙、解答用紙、放送台本の貼付
② テストのやり直し(別の解答用紙準備)
③ レーダーチャート等の資料の作成・貼付
④ 誤答分析まはた*正答分析
*正答への道筋を解説する。
⑤ 過去の学習の反省と今後の学習への目標
テストノート作成は、各教科において数十年も前から行われている課題である。おりしも、新学習指導要領で重視される「主体的で対話的な深い学び」を行うための大切な要素の一つである「振り返り」の学習とその目的を共有する。生徒が自らの力で自分の学習を見直し、自分に合った学習内容・学習方法を生み出すための形成的
評価に定期考査の結果を利用している。
<参考>
紙幅の関係で示せなかった定期考査の具体例やテストノートの実物等は、本ホームページ内の「テスト作りの基本と事後指導」のコーナーで紹介している。
(『指導と評価』2021年7月号、図書文化)
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