※記事の一番下に雑誌記事の現物(PDF)があります。
はじめに
一般的に、生徒の思考力・判断力・表現力を試験で測るには記述式の問題(解答形式)がよいとされている。しかし、特に評価の妥当性・信頼性・実行性の担保が必要な入試問題ではそれを採用することは難しい。
では、記述式でなければ「思考・判断・表現」の観点の評価を適切にできないのであろうか。ここでは記述式以外の解答方法によって「思考・判断・表現」を評価する試験問題について議論していくことにする。
1.「知識・技能」との区別
現行の学習指導要領下における3つの観点別評価の中で、「知識・技能」と「思考・判断・表現」をどう区別するのかということは、現場の教員がもっとも悩んでいることのひとつであろう。なぜなら、「知識・技能」の問題であっても、解答を書くまでに思考したり判断したりする必要があるからである。
これに対して筆者は、試験問題を作成する際に次のような視点で両者を区別している。
◯「知識・技能」…単一の情報や知識で、または複数のそれらを直線的に重ねて得られる答えを示す技能を問うもの。
◯「思考・判断・表現」…複数の情報や知識を比較したり相互に関連させたりして思考・判断・表現することで正解になるもの。
<注>以上は評価観点別の問題を作成する上で筆者が便宜的に考え出したもので、一般的に承認されているものではない。
例えば、英語の文法問題で、現在形の文を示して、現在進行形の文に書き換えさせる問題は、生徒が現在進行形は「be動詞+動詞の-ing形」で表すという知識とそれを正確に書き表す技能があることを評価する。一方、末尾をevery dayとした現在形の文とnowとした現在進行形の文を示して「be動詞+動詞の-ing形」の部分を空欄にして答えを書かせる問題は、末尾の2つの表現から時制のちがいを思考し、2つ目の文が現在進行形であることを判断し、その結果を正確に表現する力を必要とする。
2.解答方法のバリエーションと問題例
試験問題の解答方法としては、国内外で次のような解答方式が知られている。
①正誤判断式(true or false)
②多肢選択式(multiple choice)
③穴埋め式(fill-in-the-blank)
④短答式(short answer)
⑤記述式(free-form / essay)
ここでは、一見すると「思考・判断・表現」の問題の解答方法としては相応しくなさそうに思われる、①~③の問題でもそれが可能なことを具体例を使って示してみる。
⑴ 正誤判断式
例えば、筆者が現在大学で担当する「中等英語科指導法」の試験では次のような正誤判断式問題を出題している。
「外国語学習で重要なのは生徒に十分なインプットを与えることであり、それが与えられれば生徒は自然に発話ができるようになる。」(答え:×=誤)
この問題に正解するには、英語学習には十分なインプット(聞く・読む)活動が必要であるという知識だけでなく、適切なアウトプット(話す・書く)活動が必要であるという知識を合わせて総合的に考えて判断しなければならない。したがって、「思考・判断・表現」の問題と言える。答え方が記号(◯か×)の二者択一であることが表現になるのかという疑問については、思考し、判断した結果の答えの表し方がたまたま記号だっただけであるととらえればよい。
⑵ 多肢選択式 ※左を四角枠の中に
次の問題は、以前から筆者が作成する試験で度々出題してきたタイプのリスニング問題のスクリプトである。
【問題文】
Taro went to the park near his house to play soccer with some of his friends. He got there at three o'clock. Later four other boys came and joined the game. Taro and his friends finished playing it at five o'clock and went home.
【質問】
How long did Taro play soccer in the park?
【答え】
ア. Two hours. (正答)
イ. Three hours.
ウ. Four hours.
エ. Five hours.
この問題では、問題文を聞き終えた時点では聞こえてきた内容の中に答えに直接つながる明確な情報がない。しかも、錯乱肢の中に放送で実際に聞こえる数字がすべて出てくるので、それにつられて誤答を選びやすくなっている。正解を導くには、「3時に公園に着いて始めた」と「5時にやめて帰宅した」という2つの情報から時間の引き算をするという作業が必要である。まさに「思考・判断」が必要な問題である。
なお、この問題は、答えの文を He played it for ( ) hours. と記述して答えを入れさせれば、穴埋め式とすることもできる。
⑶ 穴埋め式
これは長文読解問題である。ただし、詳細な内容を問うものではなく、全体を読んで要点を理解できるかを問うものである。
【問】次の文章を読み、( )の中に入るべき日本語をローマ字で書きなさい。
It is said that there are four seasons in Japan; spring, summer, fall and winter, but actually there is one more season. It comes between spring and summer and there are a lot of rainy days during the season. It is called "( )" in Japanese.
(正答)tsuyu ※「梅雨」「つゆ」も正解とする。
この問題には答えにあたる単語が問題文の中に見当たらず、全体を読んで答えを導かなくてはならない。話題が日本の季節に関すること、四つの季節に加えて春と夏の間にもうひとつの季節があること、その季節には雨天の日が多いことなどの情報から、「tsuyu = 梅雨(つゆ)」という語を導き出す。答えは簡単な日本語であるが、これも複数の情報を総合的に判断して答えを導き出す「思考・判断・表現」の問題である。
なお、答えの日本語が思い浮かばないと「知識」を問う問題になってしまうという批判に対応したい場合は、文中に答えとなる語を入れ、それを抜き出して書くという答え方にすればよい。
おわりに
以上のことから、記述式以外の解答方式でも「思考・判断・表現」を評価することは十分に可能である。参考までに、過去に作成した中学校三年間の評価観点別定期試験問題の実例を、拙著ホームページ『次世代を担う先生方のための英語学習指導』で紹介している。
(『指導と評価』2023年12月号、図書文化)
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