【きっかけ・ねらい】
今回の話は、卒業式の日の終礼で話したものです。つまり、今回担任している生徒への最後の「終礼の話」となります。実は、前回の話(「87.努力か?才能か?」)を最後の話にするつもりでいたのですが、その話をしたときに生徒の方から卒業式の日の終礼でも話をしてほしいという要望があり(確かに最終日に話をしないのではしまりがないですね)、急遽この話をすることになりました。しかし、直前に話すことを決めたので、なかなか生徒の心に残るような良い話が思い浮かばず、過去何度か卒業式の日に話したことと同じ内容のものを話すことにしました。
なお、タイトルを「続・…」としているのは、前回の学年の「終礼の話」と同じタイトルを使っているためです。
【手順・工夫】
今回の話をするにあたっては、前回担任した学年で話したこと(拙著『では、最後に先生のお話です。』「68.私の賞状(卒業式前日の話)」参照)をベースにしました。すなわち、最初に3年間終礼の話をしてきた理由とその記録の利用法の説明を伝えて驚かせ、次に自分が生徒のあることをうらやましいという話をして自分の話に関心を持たせ、最後に生徒にぜひやってほしいことを伝えるという流れです。
【実際の会話①】3/16
T:では、先生の話もこれで最後となりますが…、その話をするにあたって、最初にみなさんに断っておきたいことがあります。
S:(「いったい何だろう?」という顔になる)
T:それはですね…、(手提げ袋の中に用意してあった過去に発行した冊子8冊と前回の「終礼の本」を取り出して)先生は、みなさんとこうして終礼で話したときは…、もう気づいている人も多いと思いますが…、録音したりして記録を作っています。そして、(8冊すべてを掲げて)それをこういう印刷物にしています。
S:えええ~!!!
A男:俺、やべ~! 今まで何度もやばいこと言った!
S:(笑いが起こる)
T:(A男に)大丈夫。名前は出したりしないで、「A男」とか「B子」とかしてあるから。君だってわからないから。ただ、読んだ本人は自分だとわかるだろうけどね。
A男:(安心したような顔になる)
T:それで…、(1冊を取って掲げ、中身をパラパラと見せながら)こんなふうに先生の発言とみんなの発言をすべて書き出してあります。
S:(数名が「すげ~!」と言う)
T:それで…、(1冊目を見せて)これが1年5組の人と話した1年生の4月から7月までの記録。(2、3冊についても同様に説明する。4冊目を持って)これがみんなを担任してから最初の4月から7月までの記録。(5、6冊目も同様に説明する。7冊目を持って)これが3年生の4月から7月。(8冊目を持って)そしてこれが9月から12月。で、現在9冊目を作成中でです。今日の話を入れて9冊目ができます。
S:(驚きの声がクラス中から上がって大騒ぎになる)
T:(騒ぎを止めるように)それから…、(拙著「終礼の本」を手に持って)これは前回の学年のときに話した内容を本にしたもので…。
B子:先生、自費出版したんですか?
T:そうだよ。500冊作って、何十万(円)もかかったけどね。
S:えええ~!!!
T:それで、これを卒業生全員…、自分のクラスの全員にあげました。それで、今回も本にしようと思っているので、できたらみんなにあげようと思っています。
S:イエ~イ!(続いて大きな拍手が起こる)
T:ちなみに…、(本の表紙を見せて)今回の表紙は…、まだできてないんだけど…、C子さんにお願いしてあります。
S:おおお~!!!
C子:(恥ずかしそうに笑っている)
T:前回のものは…(パラパラとめくって見せて)全部で365ページくらいだったんだけど、みんなはよく発言をするので、今回は480ページくらいになる予定です。
S:(笑いが起こる)
B子:3割増しだ!
T:そうだね。(本の厚みを示して)たぶん、この本の1.3倍くらいの厚さになると思います。
S:おおお~!
T:ただ…、これができるのは4月末頃だと思うんだけど…、みんなにこれをあげるのは、高校を卒業する時にします。
S:(驚いた顔になる)
D男:なんでですか?
E男:俺、今買うよ!
S:(笑いが起こる)
T:それは2つの理由からです。1つ目の理由は、みんなに里心をつけたくないからです。「里心」ってわかりますか?
S:(数名がうなずく)
T:これをすぐにあげると、このクラスのことが懐かしくなって、高校生活になじめなくなってしまうかもしれないからです。
S:(ニコニコする)
T:2つ目の理由は、中には本人が読んだら、ドキッとするようなものもあるからです。中には先生にしかられたようなものもそのまま入っています。
A男(旧1年5組):ある、ある! AA男(3年5組)が怒られたやつ!
F男(旧1年5組):絶対にあれ入ってるでしょ!
S:(他にも旧1年5組の生徒がああだこうだと言ってざわつく。その他の生徒は何のことかわらかず顔を見合わせる)
T:他のクラスの人はわからないよね? 実は旧1年5組であることがあって…。
A男:そう! AA男が先生が来てないうちに終礼を終わらせて帰っちゃった!
F男:先生が激怒した!
T:まあ、そういうことがあったねえ…。
G子:先生でも激怒するの?
T:そりゃあ、先生だって大声で怒ることもあるさ。「馬鹿者!机をすぐに元へ戻せ!」って怒鳴った。(※机を後ろに寄せて掃除を始めようとしていたことを指す)
A男・F男:(うなずく)
S:(多くの生徒が互いに顔を見合わせる)
T:そういうわけでね。今読むと余りにも生々しくてショックを受けるかもしれないから、何年か経って、もう忘れた頃に読めば、「そういえば、そういうことがあったなあ…」って懐かしく読んでもらえるんじゃないかなってことで。高校を卒業する頃に無料で差し上げます。
S:(ようやくざわつきが収まる)
T:そこで…、ここからが最後の終礼の話です。ただ、昨日はみんなのためのメッセージを送ったので(「87.努力か?才能か?」参照)、今日は先生の個人的なお願いのようなことを話します。
S:(聞く用意はあるという顔になる)
T:実は…、まずここ数日感じていたことからですが…、みんなはとても優秀だから、よくいろいろなことで表彰されるよね。昨日の予行でも、「体育優良生徒」とか、「技術…なんちゃら生徒(産業教育振興会優良生徒)」とか、教育長表彰とか…。ちょっと前にはF男くんが井上靖の感想文で最優秀賞をもらったよね?
H男:(はにかんでうなずく)
T:おそらく…、他にもみんなの中には、これまでの人生の中でなんらかの表彰状をもらったことがあると思います。もちろん、もらったことがないという人もいるかもしれない。ところが…、先生は54年間の人生の中で一度も賞状をもらったことがないんです。もちろん、任命状ならたくさんもらっています。学級委員とか生徒会長とか。でも、賞状は1枚もない。
S:(どう反応していいかわからず聞いている)
T:では、なぜもらったことがないかと言えば、それは単純で、先生が賞状をもらえるほど優秀ではないということです。何をやっても…、というか、この間も言ったけど、特に何かに秀でているということがないからです。教師としてもね。
I男:そんなことはないですよ!
J子:そうですよ!
T:いや、いや。ありがたいことばだけど、賞状をもらえるようなことじゃない。でもね、先生にはそれに代わるような…、自分にとっては「賞状」だと思えるようなものを何千枚も持っているんです。何だと思いますか?
K男:レポート?
T:レポート? それはちがう。
L子:写真!
D男:ビデオ!
T:ああ! 写真とかビデオね。確かに…。宝物ではあるんだけど、それじゃない。
M男:札束!
S:(爆笑が起こり、数名が「2億円!」と叫ぶ。「55.先生、ひどいですよ!」の内容を受けたもの。同話参照)
N男:手紙。
T:(N男に)何だって?
N男:手紙。
T:素晴らしい!
S:おおお~!
O男:結局、N男が終わらせちゃうんだよな。
S:(笑いが起こる)
T:(O男に)何だって?
O男:(少しすねた感じで)N男が話を終わらせちゃうんだよなって。(※N男が正解を出したことで、楽しいやりとりの時間が終わってしまったという意味らしい)
S:(笑いが起こる)
N男:(最初は得意げであったが、O男の発言で苦笑いに変わる)
T:(O男の発言にはそれ以上ふれないで)そのとおりなんです。手紙と言っても…、要するに年賀状ですね。みんなが高校に行ってから、少ししたら、「こんな生活しています」とか。3年後に大学受験が終わったら、「先生、○○大学に受かりました」とか、「浪人することになりました」とか。「就職が決まりました」とか、「結婚しました」とか、「子供が生まれました」とか。
A男:俺、報告できね~!
P子:結婚できな~い!
T:まあ、みんなの、人生における岐路というか…、節目節目に先生のことを思い浮かべたら、手紙で…、年賀状でいいから教えてください。そういう手紙が先生にとっては賞状と同じなんです。
S:(真剣に聞いている)
T:それは、みんなが節目節目に先生のことを覚えてくれていたということが、先生にとっては、教師として…、みんなの担任としてみんなの脳裏に残ることができた…、つまり、教師としてとりあえず…、この学年では…、このクラスではうまくいったと実感できるからなんです。
A男:俺、毎日書こう!
S:(爆笑が起こる。A男がそういうまめなことをしそうもないと思われているから?)
T:ということで、賞状というものを一度ももらったことがない先生ですけど、みんなから送られてくる「賞状」を楽しみに待っています。では、これで最後の「終礼の話」を終わります。3年間先生の話を辛抱強く聞いてくれて、ありがとうございました。
S:(大きな拍手が起こる)
【こぼれ話①】
終礼の話が終わると、学級委員4人(A男、B男、C子、D子)とE子(この後のイベントの企画責任者?)が前に出てきました。どうやら、担任へのプレゼントを用意してくれたようです。次に、その時のやり取りを記しておきます。
【実際の会話②】3/16
A男:その「賞状」というものを…。授業が最後の週だった時に…、先生が「他の教科 の先生に(色紙を)作ってないのか? 先生の分はいいから、AA先生(学年主任)の分を作れ」って言った時に、実は先生のものはその時に作り始めていて、できた完成品が…。(両手で腰の後ろに隠していたものを前に出す)
F男:見しちゃうの?
A男:見しちゃう。
E子:いいんじゃない?
A男:(全員のメッセージ・カードが入ったフォト・アルバムを開いて見せ、担任に手渡す。現物は口絵写真参照)
T:お~!
S:おおお~!(続いて大きな拍手が起こる)
T:すごいなあ~。え~。
E子:(一歩前に出て)え~と、先生。先生がこのクラスの担任になったことで、「一陣の風」(生徒会本部役員である委員長陣が記録係のE子に編集を依頼して作成した全校生徒向け月刊ビデオ・メッセージ)とか…。勉強と両立するっていうことはすごく大変で、親に「『一陣の風』はやるな」ってすごい反対されてたけど…。
T:(笑う)
E子:先生のおかげでチャレンジすることができました。本当にありがとうございました。(おじぎをして他の4人の後ろに下がる)
S:(拍手が起こる)
T:(E子に)将来の夢がこの道に決まったって、あれに書いてあるよね。文集にね。(※卒業文集にE子は「映画クリエーターになりたい」と書いている)
A男:僕も同じく、小学校の時はそういう夢みたいな話はなかったんですけど…。中学校で学級委員とか議長(自治委員会議長)をやって…。まあ、「(FC)ポンデリング」(学芸発表会で蹴球部員が披露したダンス&映像企画。部顧問でもある担任が顧問を務めた)でも、「女装する」って言ったら、なんか先生、最初は「えっ?女装?」って、あまり乗り気じゃなかったんですけど…。
T:(笑う)
A男:最後まで細かいところまで指摘してくれて…。まあ、いい学校生活が送れたんでよかったです。ありがとうございました。(おじぎをして、他の4人の後ろに下がる)
T:はい、ありがとうございました。
S:(拍手が起こる)
T:(A男に)A男くんもね、小学校の経験から、中学校に入ってからこうやって随分伸びたって、書いてあったね。
S:(数名が「すごい」とささやく)(※前日に卒業文集の全員の作文を読み、「全員の内容を覚えている」と言ったが、そのことを指していると思われる)
C子:3年間でクラス替えをして、今のクラスになって、いろんな人とかと出会って、いろいろ先生が相談にのってくださり、本当に楽し過ぎる3年間でした。ありがとうございました。(おじぎをして、他の4人の後ろに下がる)
T:はい、ありがとうございました。
S:(拍手が起こる)
T:(C子に)Cちゃん(C子の愛称)は、笑顔の話だよな?(※卒業文集のこと)
B男:3年生になって、(蹴球部の)最後の引退試合の時に、先生が部活に来てくださって、メンタルなことをすごく励ましてくださったので…。まあ、結局負けちゃったんですけど、今ではそれがいい思い出になったと思います。先生のおかげで、3年間目標を持って努力することができました。ありがとうございました。(おじぎをして、他の4人の後ろに下がる)
T:はい、ありがとうございました。
S:(拍手が起こる)
T:(B男に)3年間私のクラスにいてくれて、ありがとう。
D子:う~んと…。(泣き声になって)ちょっと…。
S:(笑いが起こり、「早い、早い」「まだ、まだ」と言う声が上がる)
D子:(泣き声で)え~と、3年間…。(泣いてしまう)
S:(「頑張れ!頑張れ!」という声が上がる)
G男:お父さん、お父さん。(※D子の父親はPTA会長として卒業式で挨拶をした)
S:お父さん、お父さん!
H子:お父さん、見てないよ!(※教室の窓越しに見える中庭に保護者が大勢いる)
E子:お父さん、見てない!
I男:DD(D子の父親の名前)さ~ん!
S:(笑いが起こる)
D子:(泣き声のまま)3年間…、先生のクラスで…、本当に…、先生のクラスでしか作れない…、思い出を作れたし…。中学校生活3年間は…、本当にこの学校で…、先生のクラスで…、良かったってすごく思ってるし…。もう黒板見てもわかるけど…、もう本当にいいクラスだなって思うし…。泣かないって決めてたんですけど…、無理でした~!(笑いながら泣く)(※黒板に書かれた内容は口絵写真参照)
I男・H子:(かぶるように)無理じゃねえ!
S:(爆笑が起こる)
I男:化粧はねえ! ※どうやら「化粧」ではなく「消しよう」と言っていたらしい(?)
J男:化粧はねえ!
D子:(笑い泣きしながら)3年間ありがとうございました~。
T:はい、ありがとうございました。(おじぎをして、他の4人の後ろに下がる)
S:(大きな拍手が起こる)
T:(D子に)D(D子の愛称)もね、中学校に入ってからいろんなことにチャレンジしたことが載ってたね。
D子:(うなずく)
T:(フォト・アルバムをしげしげ見て)ああ、みんなの一言一言がここに入ってるんだね…。嬉しいな。(少し涙を浮かべる)
E子:泣かないで。
D子:(笑い泣きしながら)泣かないで。
E子:(笑いながら)先生、泣かないで。あ、は、は、は…。
T:(涙をこらえながら)ああ~。
B男:じゃあ、みんなで言いましょう。お礼を。
E子:立つ?
A男:じゃあ、立ってください。
S:(全員ががやがや言いながら立ち上がる)
B男:先生、ありがとうございました!
S:ありがとうございました~!(頭を下げる)
T:(大きな声で)卒業、おめでとう!
S:(ものすごい大きな声で)イエ~イ!(続いて大きな拍手が起こる。その後にがやがやしながら座る)
E子:(担任に)やった~。泣かせられた~。イエ~イ!
T:ちぇっ!
【こぼれ話②】
生徒たちとの最後のやりとりは、この2年間(3年間)の集大成のようなものでした。すなわち、他のクラスであれば感動の涙でいっぱいになるような状況でも、それを許さずに笑いに変えてしまう明るい雰囲気にあふれた空間であったということです。数日前に行われた「卒業宣言」という生徒全員によるスピーチでも、1組では話している者が涙声になるとみんなでそれをいじって笑いに変えてしまい、話している本人も辛かった(?)思い出さえ最終的には笑って振り返ることができました。
終礼後はすぐに最後の「さようなら」をして解散しました。その後、他のクラスの先生方は生徒と写真を撮ったりして名残を惜しんでいたようですが、私はこの日の午後に校外のホテルで行われる「卒業を祝う会」で上映してもらうための「卒業記念DVD 予告編⑤」を作成するために、すぐに英語科準備室に行って編集作業を始めました。その予告編は1カ所を除いて事前にできあがっていたのですが、完成させるには当日撮影した卒業式の退場シーンを埋め込む必要があったからです。しかし、“運び屋”担当の生徒が学校を出るまでには間に合わず、事前にそれを見越して残ってもらっていたある保護者に開始時刻に間に合うぎりぎりの時間まで待ってもらい、なんとか完成品を持って行ってもらうことができました(汗)。
あなたもジンドゥーで無料ホームページを。 無料新規登録は https://jp.jimdo.com から