【きっかけ・ねらい】
今回の話は、夏休み前最後の日(本校は2期制なので「1学期の終業式」とは言わず、「特別日課」と呼んでいます)に話すものとして用意していたものです。中学校に入学してから最初の区切りとなるこの日は、生徒に自分のそれまでの歩みを振り返らせるよい機会であると考えました。そこで、その間にあったごく日常的なエピソードの中から、生徒が自分の成長を感じられるようなことを取り上げ、その先の生活への心構えを作るような話をしようと思いました。
【手順・工夫】
今回の話をするにあたっては、まず行事などの特別なことはあえて取り上げず、日常生活の中から話題を選ぶことにしました。それは、行事などのもともと生徒にとって印象的であったことの話をすると、かえって生徒にも話の先が読めるありていの話になりかねなかったからです。では、日常生活の話で生徒の興味・関心を引くためにはどうするかというと、過去に何度か使った、ある数字が何を意味するのかという手法を利用することにしました。
【実際の会話】7/13
T:さて、今日も随分遅くなってしまいましたが、今日は夏休み前最後の日でもあるし、富浦後期の人と次に会うのは夏休み後かもしれないので、ちょっとだけ話をしたいと思います。
S:(すでに長時間活動した後だったので、珍しく「まだあるの?」という表情になる)
T:では、今日はみんなに関係する3種類の数字を示して話をすることにしましょう。
S:(少し集中力が高まった顔になる)
T:最初の数字はこれです。(黒板に「12」と書く)これは何を意味するでしょう?
S:(3~4名がスッと手を挙げる)
T:はい、A男くん。
A男:生徒指導を受けた人の数。
S:(多くは何のことかわからかったのか、シーンとなる)
T:(驚いて、A男に)「生徒指導」って、しかられた人数ということ?
A男:そうです。
T:残念ながら、ちがいます。
S:(安心したような顔になる)
B男:先生に「おはようございます」と言った人の数。
T:ちがいます。
C男:月の数。
T:(C男に)「月の数」って?
C男:12ヶ月経った。
T:おしいなあ。ヒントは、以前にこれに関係する数字として「36」を示しました。
D男:わかった! 12分の1でしょ?
T:ほ~。何の12分の1?
D男:中学校生活!
T:正解! 以前、入学式から1ヶ月経ったところで「36分の1」という話をしましたが、すでに3ヶ月ちょっと経ちましたよね? だから「12分の1」です。
S:(改めて「へえ、そうかあ~」と思ったという顔をしている)
E子:早い~!
T:そうでしょ? これがね、夏休み中に8月8日になると4ヶ月だから、9分の1になっちゃうのよ。
F男:えええ~!
T:さすがに、分母が一桁になると、随分経ったなあと思うでしょ?
S:(数名がうなずく)
T:1年生ということを考えれば、3ヶ月はもう4分の1だしね。
G男:はやっ!(※「早い」ということ)
T:では、次。この数字は何を表すでしょう? (「17」と板書しようとして)あっ!事前に考えてきたやつより今日2つ増えてしまったから、これだな。(「19」と書き、さらに「19(1)」と修正する)
S:(どうやら(1)の意味がわからないらしく、「何だろう?」とざわつく)
T:わかった。じゃあ…、((1)を手で隠して)これならどう?
A男:(サッと手を挙げて)先生にしかられた人の数。
S:(笑いが起こる)
T:う~ん、ちょっとちがうんだけど、まちがいともいえないなあ…。
S:えええ~!
H子:男子の数!
T:しかられた男子の数? ちがいます。
E子:「ありがとうございました」と言った人の数!
T:ちがいます。
S:(その他にもああだこうだといろいろなものが出てきたが省略する)
T:これはですね、先生がみんなに「~は気をつけなさい」とか「~はやめなさい」とか、言動を注意した数です。
S:(驚いて緊張した顔になる)
T:手帳に今日はこういうことを注意しようとメモしてあったこと、後で今日はこういうことを注意したってメモしておいたことを数えたものです。それが17あって、さっき2つ注意したから19になりました。3ヶ月ちょっとで19ということは、1ヶ月あたりいくつくらいになるだろう?
B男:6個ちょっと。
T:そうだね。そうすると、1週間あたりは?
I男:1個半。
T:まあ、週に1.5回というところか。感覚的にはもっとあったと思うけど…、おそらくメモしてなかったものもけっこうあると思うんだけど…、まあ、記録されているのはその数ということだね。
S:(廊下が他のクラスの生徒で騒がしくなっているが、真剣に聞いている)
T:これが多いか少ないかは他のクラスや学年と比べたわけじゃないからわからないけど、おそらく1年生の最初ということで…、たぶん多めなんじゃないかなと思う。ただ、それも1年生の最初だから…、まだ中学校生活がどういうものかっていうことがよくわからなかったわけだから、仕方がないと思う。これから徐々に少なくなっていくと思うよ。これが増えていくようなことがあったら大変だ。学んでないどころか、入学したときより悪くなっているということになるわけだからね。
S:(緊張でこわばった表情になる)
T:ところで、この「(1)」っていうのは何でしょう?
S:(周りとああだこうだと相談してざわつく)
J子:先生がどなった数。
S:(J子の発言を聞いて、多くが「ああ、あの時か…」と思い出した様子)
K子:先生に「さようなら」を言わないで帰っちゃおうとしたやつ。
T:そう。これはみんなを強くしかった数だ。
L男:えっ? 先生、この間のHRHでおこったやつは?
M子:あれは5組だけじゃないじゃん。
T:そう。これはこのクラスで先生がおこったやつ。まあ、これもこの1回だけにしてほしいな。
S:(数名が下を向く)
T:では、これで最後です。この数字は何でしょう?(「38」と板書する)
B男:先生と生徒の歳の差!
S:(一瞬の沈黙の後、大爆笑になる)
T:(予想しなかった面白い答えに戸惑い、B男を笑顔で見つめる)
N男:でもさ、1つちがうんじゃない?(※52歳-13歳≠38歳ということらしい)
A男:先生にしかられた人の数!
S:(笑いが起こる)
T:今日のA男くんはそういうことにこだわっているのかい?
A男:(だまったままニコニコしている)
O子:面接で「失礼します!」って言った人の数!
T:そのとおり! 先週の個人面談で最初にそれを言った人の数。
S:(「なんだ、やはりそれか」のようにニコニコしている)
T:ということは、次は何だっけ?
S:「よろしくお願いします」!
T:じゃあ、それは何人いたと思う?
S:40人!(他にも40付近の数字がいろいろ出てくる)
T:これも38人でした!(「38」を追加で板書する)じゃあ、次は何だっけ ?
S:「ありがとうございました」!
T:じゃあ、それは何人?
S:41人!(他にも40付近の数字がいろいろ出てくる)
T:これは39人でした。(「39」を追加で板書する)じゃあ、最後は?
S:「失礼しました」!
T:それは何人でしょう?
S:41人!(他にも40付近の数字がいろいろ出てくる)
T:これも39人でした。(「39」を追加で板書する)
S:(興奮状態が収まる)
T:というわけで、4つとも全員というわけではありませんでした。ただ、前回と比べると…、前回はそれぞれ何人だったか覚えてる?
L男:B男がいた! (※B男の出席番号が17であることを指している)
M男:確か、B男が2ついたよな?
B男:(ニヤニヤしている)
T:(「38」を指して)これは何人だっけ?(※以下、順に4つの数字を指していく)
S:17人!
T:そうでした。(「17」と板書する)じゃあ、これは?(次の数字を指す)
S:5人!
T:よく覚えてたな。(「5」と板書する)じゃあ、これは?(次を数字を指す)
S:39人!
T:そう、今回と同じ。(「39」と板書する)じゃあ、最後は?(次を数字を指す)
S:17人!
T:そうでした。(「17」と板書する)
S:(回答が一段落して、再び静かになる)
T:このように、今回は全体として前回よりもずっとよくなりました。もちろん、それは前回の後にこれを話題にしたからでしょう。ただ、たとえそうだったとしても、そうやってあることができるようになったのがこんなに増えたっていうことは、それだけみんなが成長したっていうことです。
S:(廊下の喧噪にも関わらず、真剣に聞いている)
T:人生なんて、そういうものです。1つ1つできることが増えていく…。みんなそうやって大人になっていく。これから富浦生活(千葉県南房総市で行われる4泊5日の臨海学校)があり、そこでもいろいろ学んで…。夏休みの部活で真っ黒に日焼けしながら体力をつけて…。運動会でみんな頑張って、そこでもいろいろ学んで…。いつの間にかできることが増えている。みんなそうやって成長していくんです。
S:(ありていの話であったためか、多くが話に飽きたような顔をしている)
T:ということで、夏休み前の話はこれでおしまい。富浦前期の人はそのときに、後期の人は9月に会いましょう。(※宿舎の収容人数の関係で生徒は前後期の2つに別れており、担任は前期に行くことになっていた)
L男:先生、8月31日でしょ? ※今年はその日から学校が始まる予定であった
T:ああ、そうだったね。とにかく、また全員が元気に学校に来てくれることを楽しみにしています。では、今日はこれでおしまい。
【こぼれ話①】
今回の話は、すでに話し始める時点で他のクラスの生徒がが終礼を終えて廊下に出ており、最初からやや落ち着いて話す雰囲気を作りづらい中で行ったので、最後の結論の部分を予定していた内容よりかなり簡単なものにしました。そのせいもあり、数字で引きつけた生徒の興味・関心を上手に利用して印象深い話にできたかという点ではやや不満の残るものでした。ただ、そのような中でも生徒が一生懸命話に食いついてきてくれたのだけは、過去の話の時と同様に嬉しいことでした。
【こぼれ話②】
ここまで3ヶ月あまり、前回の生徒(平成21年度入学生)に対して行った話の一部やその時にうまくいった手法などを利用して、新しい自分のクラスの生徒にいろいろな話をしてきました。それらの話は、第一義としては「学級」という生活集団をそこに所属する生徒にとって過ごしやすい、居心地のよい環境にすることでしたが、一方で前回の学年で話した内容をまとめた拙著本のタイトルの副題(「-終礼の話をとおして築いた生徒との絆の記録-」)にあるとおり、担任である自分と生徒との良好な人間関係を築くということもありました。前者についてはまだその効果を実感できるまでに至っていませんが、後者については段々とこちらがイメージしているものに近づいたように感じています。
その生徒たちも夏休みを挟むと心身ともに大きく変化するでしょう。その生徒たちに有益な話をするには、これまでと同じ方法ではうまくいかないこともあると思われます。前回(平成21年度入学生)のときもそうでしたが、その生徒の変化に対応した話ができるように、こちらのアプローチの仕方も工夫していこうと思います。
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