【きっかけ・ねらい】
今回の話は、行事や時期に関係なく、いつか話そうと準備していたものです。前回の学年でも同様の話をしたのですが(拙著『では、最後に先生のお話です。-「終礼の話」をとおして築いた生徒との絆の記録-』「53.トイレの心理学」参照)、いつかそれを今回の学年の生徒たちに合わせて焼き直して話そうと思っていました。そうしたところ、ちょうどこの時期は特に話さなければならないことがなく、また夏休み後は行事に関係した話をすることが多くなるであろうと考え、夏休み前の残りの日数を考慮して、7月に入ったところで話すことにしました。
なお、今回のメインの部分の話は、最終的には社会生活一般にも応用できる、生徒指導的意味合いの強い内容のものとして、どなたでも使える話だと考えています。
【手順・工夫】
前回の学年での経験も踏まえ、じっくりとこの話をするにはかなりの時間が必要だと思ったので、最初から2回に(場合によっては3回に)分けて話すことにしました。そして、1回目は話の導入部までとし、2回目にメインの部分を話すことにしました。また、1回目もいきなり本題に入るのではなく、なぜそのような話を持ち出したのかということを伝える導入部を考えることにしました。さらに、-そこまでやるとしつこいのですが-、導入部に興味を持ってもらうための話を用意し、メインの話が始まる前に生徒とのやりとりが活発になるようにしようと考えました。
【実際の会話①】7/2
T:一昨日ですね、肝心なことを言うのを忘れちゃったんですけど…。一昨日ですね、こういう数字を出して話そうと思ったことがあったんですが…。(黒板に「34」と書く)何だか分かる?
A子:何かの提出率。うちのクラスの提出者数。
T:ちがう。
B男:先生の好きな数。
S:(B男の発言に対して、数名がああだこうだと言う)
C子:いったい何の話が繰り広げられてるの?
D子:好きな数字とかは前に出てきたじゃん。
T:実は…、(「3/4」と書いて)こうやったらわかる?
S:(数名が「4分の3!」と叫ぶ)
B男:3月4日。
T:何の4分の3?
S:(数名がああだこうだと言う)
E子:学校生活。
T:(E子に親指を立てて「正解!」と合図する)
E子:えっ? 当たり? やった~!
A子:(大声で)あああ~!
T:もう、6月30日は中学校生活の4分の3が過ぎたところなんです。
B男:あらま~! あと4分の1?
T:もう、あと4分の1しかないんだよ。
S:(「やだ~!」とか「早い~!」とかの発言で大騒ぎになる)
T:だって、36ヶ月の中の27ヶ月が経ってんだもん。ということで、後の9ヶ月…、
C子:提出物、しっかりしないと後悔するよ!
T:これまでにできなかったことをきちんと取り返す9ヶ月です。(提出物が滞りがちなF男を見る)
F男:(目が合って苦笑いをする)
T:次…、教育実習のAA先生(保体科)からお手紙を頂戴しました。
G男:どっちだっけ? (※2人いた実習生のどちらかという意味)
S:(数名が「背の高い方」「バレーの方」などと言う)
T:そう、背の高い方の先生。それで、まあ、私に向けての手紙ですが、みんなに関係するところもあるので、そこを読みます。
S:(興味津々の顔になる)
T:こんなふうに書いてありますね。「〇〇(担任名)先生率いる…」って、この言い方が面白いな。「〇〇先生率いる3年1組を受け持つことができ、本当に嬉しく思います。先生のおっしゃるとおり、3年1組は明るくにぎやかで、それでいて、すこぶる反応のよいクラスでした。先生の生徒に対する愛情も生徒が先生を思う気持ちも毎日伝わってきました。」
A子:おお~。
T:「生徒が先生を思う気持ちも毎日伝わってきました。」
H男:2回!
C子:また言った!
H男:2回言った!
T:本当か?(※「生徒が先生を思う気持ちも毎日伝わってきました。」に対して)こんなことも書いています。(2枚目をめくって)「クラスのみんなは元気でしょうか? また3年1組の明るい声を聞きたいです。」
C子:ああ~!
T:ということで、お二人には「ぜひ運動会と学芸発表会は見に来てください」って言ってありますから、たぶん来てくださるのではないかなと思います。
S:(話を聞くのに飽きてきたような様子)
T:さて、私ですね、ちょっと前に話したことで気になっていることがありまして…。何が気になっているかと言うと、校長先生とBB先生(社会科)の話が前にありましたよね?(※「65.伝えたいことを印象的に話す方法」参照)あの話が「とても印象的でいい話だったね」っていう話があったと思いますが、その時に「う~ん、〇〇先生のバカ話とはちがうよなあ」って、冗談半分に言ったら、みんなが(首を縦に振りながら)「ふ~ん、ふ~ん、ふ~ん」って反応したのが私としては大変…、
A子:傷ついた?
T:(苦笑いしながら)傷ついたのでありまして…。
A子:冗談半分には冗談半分に応えたんです。
T:まあね、実はまったく傷ついちゃいないんですけど…。で、3年生になりましたので、〇〇先生も少しハイレベルな話をしなければいけないなと。
A子:おっ?
T:少し…、みなさんには〇〇先生が持っている専門的な話をしようかと…。
S:(数名が「おお~!」と言う。別の数名が「また長話かよ…」のような顔をする)
T:まあ、今日はそんなに長話はしないから、安心してください。どんな話をするかと言うと、先生は教師ですので、普段のみなさんの言葉遣いや行動に大変関心があります。そして、それは必ず…、言葉や行動はその人の心を表している、と思っています。それは私もそうです。なぜ、今私がこんな話をしているか? 私の心を分析すれば、なぜこんな話をしているのか、説明しようと思えば説明することができます。
S:(真剣に聞いているが、飽きてきて耐えているという感じ)
T:で、みなさんの言葉や行動を大抵は説明できます。こういうことを研究する学問を何て言うか知っていますか?
S:(数名が一斉に)心理学!
A子:ゲーム理論!
T:ゲ…? ホント? 「ゲーム理論」って言うの?
A子:(回りをキョロキョロして)えっ? ちがうの?
T:心理学ですね。はい。心理学です。
A子:大分ちがうね。
T:(黒板に「心理学」と書きながら)ちなみに、みなさん、心理学って英語で何て言うか知っていますか?
I男:サイコロジー。
C子:シンリーガクー。
A子:メンタリズム?
D子:メンタリズム? そうだあ~!
I男:サイコロジー。
T:(I男に)素晴らしい! どういう綴りで書くか知ってる?
A子:p、s、y...って書くイメージがあるけど…。p、s、y...?
T:すごい! よく知ってるねえ!("psychology"と板書する)
J男:ああ~!
C子:(A子に)お前、何者なんだよ~。(※A子の知識に驚いている)
T:はい。実はこれで「サイコロジー」と読みますが、高校生の時これは「『プシチョロギー』と覚えろ」というふうに習いましたが…。
A子:「プシ」に無理がある!
J男:I(I男の愛称)はどんなやつなんだよ!
T:「プシチョロギー」ではなく、みんなに教えた phonics…、単語の読み方だと何て読む? そのまま読んだら?
C子:「プサイ…」
T:プサイ?
C子:「チョロジー」
T:チョロジー。ピンポーン! 「プサイチョロジー」って読みますね? はい、ということで心理学ですが、ただの心理学を話すとみんなには難しいので…、今日はしませんが、予告だけしておきます。(黒板の「心理学」の前 に「○○○の」と書き足しながら)「○○○の心理学」。ここに漢字…、いや失礼、カタカナ3文字が入ります。
A子:こ、ど、も。
T:カタカナ3文字。
H男:(笑いながら)〇、〇、〇。(※担任名の最初の3文字のことらしい)
S:(笑いが起こる)
T:つまり、カタカナ3文字ですから、外来語。さて、何て入るでしょう?
S:(数名がああだこうだと言い、笑いが起こる)
H男:B(B男の愛称)。(※カタカナ3文字)
K男:B(B男の愛称)!
T:その話はしませんが、みなさんがここ(板書を指して)を当てるところまで話をしましょう。ヒント! みなさんの家には必ずあります。
A子:トイレ!
T:(いきなり正解が出たが無視する)
D子:テレビ!
H男:ピアノ!
A子:カメラ!
T:カメラ?
S:(他にも数名がああだこうだと言う)
H男:お風呂!
T:だから、カタカナ!
L子:トイレ!
A子:スマホ?
T:さっき、実は真っ先にA子さんが言って、今L子さんが言いましたが、(黒板に向かって)ここには…(○○○の中に「トイレ」と書きながら)「ト、イ、レ」。
S:えええ~!!!
T:「トイレの心理学」。これは…。
S:(数名が顔を見合わせて何かコソコソ言う)
T:真面目な話です! すごくマジな話ですので。ちょっと、今日は時間がないので、時間があるときにこの中身について話したいと思います。真面目な話です。
S:(疑うような視線でこちらを見る)
T:くだらない話だと思わないように。はい、以上、おしまい。
【こぼれ話①】
【手順・工夫】にもあるとおり、今回は話に興味を持ってもらうための導入という意味合いがありましたが、その前の部分が長すぎて、肝心の導入部がうまく話せませんでした。そのせいか、導入部の辺りでは一部の食いつきの良い生徒を除くと多くの生徒がつまらなそうな顔をしていました(外が雨で蒸し暑かったということも、生徒の集中力を削いでいたように思います)。もっとも、導入の前の部分ばかりを一生懸命考えていて、導入部は「前に一度話したことがあるし、生徒の反応を見ながら進めればいいや」程度にしか考えていなかったので、そういうことになったも仕方ありませんでした。
そこで、2回目のメインの部分はしっかりと準備をし、かつ生徒が集中して聞いてくれそうなタイミングを見計らって話すことにしました。
【実際の会話②】7/14
T:先程チラッと話が出てきましたけど、A子さんとの生活もちょうど丸一日…、あっ、丸一日もないんだ! 明日はね、そういうことで…。
A子:(自分のことが話題になっいることに気づかず、おしゃべりをしている)
B子:(A子は)ニコニコしていますよ。ニッコニコですよ。
T:明日はね、お別れをしなければいけないわけですけども…。(※A子は翌日をもってイギリスの中学校に転校することになっていた)このままだと、A子さんは〇〇先生はくだらない話しかしない先生だと思われてしまうので…。
A子:(まだ気づいていない)
B子:(A子に)お前が聞けよ!
A子:(ようやく気づいて前を見る)
T:少しですね、高尚な話をしようということで…。
C子:コウショウ?
T:高尚。高いに和尚の尚ね? 高尚な話をしようということで、ちょっとこの間、テーマを出しました。何だったか覚えていますか?
D男:トイレ!
S:(続いて数名が「トイレ!」と言う)
T:トイレ。トイレだけじゃないだろ?
E男:トイレの心理学。
T:トイレの心理学。「トイレの心理学」って言ったら、どういう話だと思いますか?
F男:あの、便器をどれを選ぶかとかっていう…。
T:(いきなり正解が出たが無視して、他の生徒がああだこうだと言うのを黙って聞く) 実は、さっき、F男くんが言ったやつなんだけども、この話からわかることが色々あって…。これ、ホントに真面目な話なんだよ。
S:(まだ信じられないというような顔をしている)
T:真面目な話なんだよ。トイレったって、家のじゃない。(黒板に向かって図を描きながら)例えば、駅のトイレだったとしよう。
B子:ああ! どこに入るかっていうこと?
T:(右図のようなものを描いて)男子の便器を…、1、2、3、4、5。
S:ああ!
T:女子の場合は…。
G男:入口はそこですか? 右下ですか?
T:(右下に「入」と書いて)入口はここ。
B子:ちゃんと考えてるやん!
T:女子の場合は、これがボックス…、部屋になっているとします。で、そこでまず聞きます。誰もいなかったことを想像して入って行ったときに、何番を…。
G男:先生、1番にはあれ、ありますか? バーみたいなの、ありますか?
S:(大爆笑になる)
T:あのね…、条件…、そういう条件なし。
G男:でも、たいていどこにもあるよな?
S:(再び爆笑になる)
T:(爆笑が収まるのを待って)聞くぞ。まず、おおまかに聞くからね。入ってったときに、どこだとか考えずに行くか、それとも考えるか、どっちか。聞くよ。
S:(ああだこうだと騒ぎ出す)
T:「考えない」っていう人?
S:(3分の2近い生徒が手を上げる。ああだこうだと騒いでいる)
T:はい、半分以上の人ね。じゃあ、「考える」っていう人?
S:(残りの生徒が手を上げる。ああだこうだと騒いでいる)
T:でね、条件は一緒なんだけども…、考えるか考えないかで…、これは私の勝手な解釈なんだけども…。「考えない」っていう人は、おそらく、あんまり周りの環境とかそういうことについて、深く追求しないというか、気にしないというか…。そういう人だと思うんです。「考える」っていう人は…、「考える」っていう人は何を考える?
H男:床のきれいさ。
J子:ああ、そういうこともあるか!
T:ああ、床のきれいさ。他には?
I男:何かひっかかってないかなとか。
T:何かひっかかってないかとか見る? 要するに、便器が汚いかなとか見る?
I男:はい。
S:(ああだこうだと言う)
T:他には?
B子:ふたが開いているかいないか。
T:ふたが開いているかいないか? なに? 全部確認してから入るの?
K男:ええ~っ!
B子:基本的に、女子のトイレって(ドアが)閉まってないから。
T:閉まってないから、きれいかどうか確認してから入るの?
B子:基本的に、開いてる方がいい。
T:ちょっとご免なさい。なんか汚い話みたいなんだけど、とても大事な話で…。そういう、気にするとか気にしないとかっていうもの、1つのあれなんだけど…。じゃあ、次に行くよ。
S:(ああだこうだとざわついている)
T:「そんなことは気にしない」っていう人も含めて、もし、この中に誰もいない時に入って行ったとしたら…、「1個選べ」って言われたら、どれ選ぶ?
L男:5!5!
M男:5!
S:(その他にも色々な数字が出てきて、大騒ぎになる)
T:じゃあね、直感でいいかい? 手を上げてください。いいね? 「1」?
S:(数名が手を上げる)
T:(数えて)1、2、…、5。(①の下に「5」と書いて)はい、「2」?
S:(半分以上の生徒が手を上げる)
B子:えええ~!!! チョー多くない?
S:(大騒ぎになる)
T:(数えて、②の下に「21」と書いて)はい、「3」?
S:(数名が手を上げる)
T:(数えて、③の下に「7」と書く)
K男:ええっ! ええっ! 多い!
T:はい、「4」?
S:(数名が手を上げる)
T:(数えて、④の下に「3」と書いて)はい、「5」?
S:(2名が自信を持って手を上げる)
H男(手を上げた1人):えっ? これしかいないの? うそっ!
T:(数えて、⑤の下に「2」と書いて)これで色々なことがわかるんですけど…。実は、同じようなことがネット上とかでもやられていて、どこが一番人気があるところかっていうこともわかっているんです。
H男:(笑いながら)人気~!
S:(ああだこうだと大騒ぎになる)
T:いや、人気のある場所があるんだよ。さあ、一番人気があるところはどこかって言うと…。
S:(ああだこうだと言う)
T:実は、一番人気があるのは…、(⑤の下に「1」と書く)
M子:やった~!(※どうやら、答えを予想して言っていたらしい)
N子:考えられない!
S:(ああだこうだと大騒ぎになる)
T:(静まるのを待って)でね…。じゃあ、ここから行くけど…、みなさんが一番最初に誰もいない状態で入って行ったとしますよね? その時にどこを選ぶかっていうことで、こういうふうに選んだわけだけど…。みなさんが1人で入る時が前提ですよね? その後にも人が来るかもしれないなと思った時にだよ!(パンと手をたたいて)今度行くぞ…。と思った時に、どこに入るのがいいと思いますか?
S:(ああだこうだと言う)
J子:5じゃないの?
S:(ああだこうだと大騒ぎになる)
T:(しばらく言わせて)そこでね…。(②を指して)ここさ、半分いるんだけど、なんでここなんだろ?
B子:なんで2なんだよ!
S:(ああだこうだと言う)
T:(①を指して)なんで、ここ選ばないの?
E男:端って、なんか圧迫感があるじゃない。
B子:ない、ない!
S:(ああだこうだと言う)
T:あのね、今E男くんが言った「圧迫感がある」っていうのは、実は1つのキーワードなんだけど…。
S:おお~!(続いて拍手が起こる)
T:キーワードなんだけど…。我々人間っていうのは、「パーソナル・スペース」っていうのがあって、それを作ろうとするんですよ。
K男:なんか、聞いたことある!
T:しかも、男子トイレで言えば、これ、あんまり他の人と近づきたくない場所でしょ?
S:(うなずく)
T:そりゃ、そうだよね? それを考えた時に、一番に君たちが入って行ったとするよね? それを考えた時に、どこに一番に入るのがいいと思います?
S:(数名が「5」と言う)
T:5? なんで?
O男:「1」とか、なんか「いるな?」っていうか…、後ろを通られると、いや…。
T:…だよね?
P男:そう、そう、そう。
T:そういうことを考えるんですよ。
S:(数名がああだこうだと言う)
T:そういう心理があるから…。そして、できるだけ離れたいっていうのがありますよね? だから、一番人気があるのが…。(⑤を指す)
S:(数名がああだこうだと言う)
T:じゃあ、(⑤を指して)ここが一番だとするとね、じゃあ、2番目に入ってきた人はどこがいいかと言うと…?
J子:「3」。
B子:いや、もっと離れたところの方がいい! 「1」か「2」!
J子:じゃあ、「2」。
S:(数名がああだこうだと言う)
T:実は、それを考えると、その人は…、2番目に入ってくる人は、次のことを考えなきゃいけない。
J子:じゃあ、「1」。
G男:「3」もいいんじゃね?
J子:「2」か「3」だよ。
S:(ああだこうだと言う)
T:自分も考え、次の人のことも考えるとすれば…?
J子:「1」!
S:(他にも数名が「1」と言う)
T:ねえ! そうしたら、3人目の人はどこへ行けばいいの?
S:「3」!
B子:もう出てきてると思うけど…。(※「最初の人は出てきている」という意味?)
T:もちろん、終わっちゃうというのもあると思いますけど…。これって、実はとても大事なことで、これは他の人への配慮とか、そういうことも含めて、これ「トイレの心理学」っていう、ちゃんと真面目に議論されていることなんです。どこに入ったらいいかっていうね。
J子:おお!
T:これ、ホント。ネットで「トイレの心理学」って打ってみ。出てくるから。
E男:へえ!
T:まあ、それは別にネットだけで言われているわけじゃなくて、昔からある話なんです。でね…、ということから考えて…、私はこれで終わるつもりはないんだけど…。実は、トイレはトイレなんだけど…。同じような場所で、ふだんみんなが使っているような場所があるんだけど…。
R子:電車!
S:(他にも数名が「電車!」と言う)
T:ああ、電車の席。まず電車の席…。
S:(大騒ぎになる)
T:絶対、どこから埋まるかっていうと…?
K男:端っこの席!
T:端から埋まるでしょ? それはなぜ?
S:(ああだこうだと大騒ぎになる)
T:でしょ? でさ、その後さ、埋まることが前提だったら、端っこに座った人の隣に座ることもあると思うんだけど…。空いてれば、そういうことしないよね?
K男:1個空ける!
S:(ああだこうだと大騒ぎになる)
T:1個空ける?
J子:1個どころか、2個空ける!
S:(笑いが起こる)
T:それは、みんなの意識というか、意識している時もあれば、無意識の時もあるけど、自分のパーソナル・スペースを確保しているわけです。
S:(ああだこうだと言う)
T:はい、そこで、電車がそうなんだけど…、もう1つ、電車に乗る前に同じように5つ並んでいるものがあるんですけど…。
K男:ベンチ?
T:ベンチ。どこのベンチ?
K男:ホーム。
T:ホームのベンチ! ホームのベンチが5つあるの、知ってる?
B子:ある、ある、ある、ある。
T:護国寺の駅のも5つなんだよ。
S:(数名が「ああ~!」と言う)
T:君たちが座りたいと思ったら…、(図を指して)どこに座るんだ?
S:(ああだこうだと大騒ぎになる)
T:だから! 本当は…、(⑤を指して)ここに座るのが他の人にとっては一番いいわけね? だよね? さあ、これね、なぜそんなことを言っているかというと…、みなさんもね、1人の時はいいんだけど、2人とか3人の時は少し気にしておいてほしいんです。なぜそんな話をするかっていうと、私ね、昔ね、疲れて疲れて、「護国寺のあのベンチに座りたいな」って思って帰った時に…。それはなぜかっていうと、某なんとか中学の…、この辺のなんとか中学の…。
O男:ああ!
G男:AA?(※地元の公立中。見当違い)
O男:BB?(※地元の私立中。見当違い)
T:ちがう。
O男:CC!(※地元の私立中。正解)
T:…の中学の生徒がどうやって座っていたかというと…。
K男:寝てた!
T:(④と①に印を付けて)こうやって座っていて…、(③と②に別の印を付けて)こうやって荷物を置いて…。
S:あああ~!!!
D男:仲が悪い! 基本的に仲が悪い! (※間を空けて座っていることを指している)
S:(爆笑が起こる)
T:こうやって座って、しゃべっていたわけで…。これって、困りますよね?
S:(数名がああだこうだと言う)
T:これって、(⑤を指して)ここに座れませんよね?
J子:座れる!
G男:座れますよ!
T:座れる?
K男:俺、座れない!
S:(他にも「座れる」「座れない」で大騒ぎになる)
B子:ちょっと気まずいでしょ?
T:(騒ぎが少し収まるのを待って)じゃあ、2人で座るときにどうやって座ったらいいの?
B子:端っこに…。
S:(数名が「5、4!」と言う)
T:せめて…、荷物がいっぱいあれば…?
K男:下に置く!
T:下に置く。そうだよなあ…。でも、椅子の上に置きたきゃ?
B子:「3、4!」
S:(数名がああだこうだと言う)
B子:3、4で、荷物が2、5。
D男:3,2で、1でしょ!
T:まあ、色々あるけどね…。できるだけ少なく使うには?
S:(数名がああだこうだと言う)
G男:1、5で2、4に荷物なんて、最悪だよな?
S:(笑いが起こる)
T:まあ、なんでこんな話をしているか、わかりました?
B子:気遣い。
T:ね? まずは気遣いね。実は、こういう心理学から出てくることっていうのは、それぞれのパーソナル・スペースっていうのをみんなが設けたいと思っているから、できるだけ中学生のみんなも他の人のことを考えて、パーソナル・スペースをうまく作ってほしいということです。
S:(数名がまだ続きのおしゃべりをしているが、ほとんどは真剣に聞いている)
T:ということで…、まさかみんながこの話にこんなに食いついてくるとは思いませんでしたが…。
S:(数名がああだこうだと言う)
T:ということで、これからみんながトイレに行くときとかベンチに座るときとか、何か考えるようになったでしょうか?
S:(数名がああだこうだと言ってざわつく)
T:(P男に)何?
P男:なんか、3人で護国寺に帰るときに…。(O男を見る)
O男:ぼくがいつも…。
Q男:R男(欠席生徒)が絶対に2番に座るんですよ。
O男:ぼくがいつも先頭で5番座るんですよ。そうすると、5、2、3で…。
Q男:「R男、こっち来てよ」って言うと、「ああ?」って。
S:(笑いが起こる)
O男:で、R男が4に座って、P男が3に座って…。
T:で、最終的には5,4、3って座るってこと?
Q男:R男、絶対に2番に座る。
T:もしかしたら、R男はちょっと広めのスペースを作りたいのかもしれないね?
O男:ああ~!
G男:1、3、5。
O男:あ、は、は、は!
K男:最悪じゃん!
S:(笑いが起こってざわつく)
T:これ…、こんなことを考えるのって面白いでしょ?
S:(静かになる)
T:ということで、人間の心理は大変面白いなということです。ごめんなさい。時間とっちゃいましたけど…。
O男:なんか、1時間くらい授業受けたような感じがします。(※実際は約16分)
T:そうかい? じゃあ、これで終わります。
【こぼれ話②】
「続・トイレの心理学」と題した今回の話は、前回受け持った生徒に対して話したこととほぼ同じ内容を扱ったつもりでしたが、生徒が違えば、機会が違えば、こちらの話し方が違えば、全く異なった話の展開になるものだということを改めて感じた話になりました。
ところで、この日は話の最後の方に出てくるR男が休みだったのですが、休みが1週間くらい続いていたので、夕方に家庭訪問をしました。その時にこの日の話を彼にもしたところ、彼から面白い話を引き出すことができました。それは、最初に「トイレに行った時にどこを使うか考えるか考えないか」ということに対するクラスの生徒の反応についてでした。彼の答え(「考える」)を聞いた後に「クラスの3分の2くらいが『考えない』と答えた」という話をすると、彼は「それはうちのクラスのみんなが、普段からあまり細かいことを気にしない人が多いからじゃないですか?」と言いました。自分自身もその結果について同じことを漠然と感じていたのですが、それを彼の口から聞いて、漠然とした印象が確信に変わりました。「そういう人が多いから、おしゃべりが無くならなかったり、人の話を聞いていなかったりするんだね。そもそも、元々周りの人や周囲の状況に関心を持っていない人が多いんだ。こりゃあ、いくら言っても良くならないのも仕方ない」と言って、R男と笑い合いました。さらに、これを別のクラスで実施したら、1組とは異なる結果が出るかもしれないと思いました。例えば、5組は1組とちがって周囲の状況をきちんと判断して行動できるクラスなので、1組とは正反対の結果(「考える」が多い)が出るかもしれません。そこで、夏休みが明けたら、英語の授業中に聞いてみようと思いました。(※実際には卒業までその機会は持てませんでした)
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