6. 「ありがとうございました」の気持ち

【きっかけ・ねらい】

前期終業式の日に個人面談を行った際、ほとんどの生徒が始める前に「よろしくお願いします」と言い、終わるときに「ありがとうございました」と言い、準備室を出るときに「失礼しました」と言っていました。これは驚くべきことですが、実は、これらの礼儀は前期中間考査後の個人面談を終えた際に、一部の生徒ができていたことなので、それをすごく褒めたことがあり、生徒がそれを覚えていたことによると思われます。ただ、それを覚えていて実践しようとした生徒がほとんどであったというのは、褒めるべきことであると考え、再度この話を取り上げることにしました。

 

しかし、後期始業式の日に話すつもりがタイミングを逸してしまい、その後もなかなかそのチャンスが無く、結局は面談の日から1ヶ月余り経った研究協議会明けの火曜日になってしまいました。そこで、個人的な気持ちも付け加えることに…。

 

【手順・工夫】

今回の話の手順、工夫は以下のとおりです。

① 個人面談の時に驚いたことがあるという話から、礼儀正しい生徒に成長しつつあることを褒め、益々努力しようという気持ちを醸成する。

② 研究協議会の公開授業で頑張ってくれたことをねぎらうとともに、感謝の気持ちをことばにして伝えることの大切さにふれる。

 

【実際の会話】 11/17

T:昨日は終礼の時間が無くて話せなかったんだけど、どうしてもみんなに話しておきたいことがあるので聞いてください。これから話すことは、みんなの素晴らしさに感心したという話だから、安心して聞いてください。そんなに身構えなくていいですよ。

S:(何人かが背筋を伸ばす)

T:まあまあ。実はね、今から1ヶ月前、前期の終業式の日に面談をしたよね。あの時のみんなの行動に感心したんです。何だと思いますか?

S:(・・・)

T:実はね、面談を終えた時に、こういう言い方はあまりよくないかもしれないけど、確か2人くらいを除いて他の全員が「ありがとうございました」って言って立っていったんですよ。

A子:あ~っ!私言わなかった!(実際には言っていた)

B子:私言っていたか覚えていない!(実際には言っていた)

C男:オレ、言ったぜ。覚えてるもん。

T:ちょっと待って。言わなかった人を責めているんじゃないんだよ。そうじゃなくて、別にね、先生に呼ばれて来ている面談で、「ありがとうございました」って言えるのがすごいと思って。

D男:でも、先生、中間考査の後の面談で、先生が「ありがとうございました」って言いなさいって言ってたからですよ。

T:そうだったかね?まあ、じゃあ、それを覚えていて言ったんだからたいしたもんだ。でも、今回の面談ではそれだけじゃなかったよ。終わりの時だけじゃなくて、多くの人は始まりの時に「よろしくお願いします」って言ってたでしょ?

E男:オレ、言った!

F子:私、言ってな~い!

T:先生に呼ばれてきたのに、「よろしくお願いします」って言えるのはすごいと思う。

 そして、さらにね…。

S:(みんなの目が光る)

T:さらにね、その中の半分くらいの人は、準備室を出て行く時に「失礼しました」って言ってた。

B子:私、言うの忘れてた~!

C男:オレ、覚えていないよ。

T:それからね。これはもっとすごいことなんだけど、このクラスでは2人しかやっていないことで…

C男:オレっ!オレっ!

B子:それ、私!(その他大勢が「私だ」と言う)

T:あのなあ、まだ何のことかも言ってないだろう?ちなみに、今自分からなんだかんだと言っていた人はみんなちがいま~す。

S:(みんな笑う)

T:それで、そのすごいこととは、なんとテストを返すときにも、ちゃんと「ありがとうございました」って言って受け取る人がこのクラスに2人います。2人とも女子です。それが誰かは今日は言いません。テストを渡すだけで感謝されることはないんだけど、そう言われると、返すこちらも嬉しいよね。中にはさあ、渡したとたんにバッと取って行っちゃう人もいるしね。

S:(みんな笑う)

T:さらにひどいのは、このクラスにはいないけど、受け取ったとたんにグシャグシャと丸めちゃうのもいる。

S:(みんな大爆笑する)

D男:オイ、C男、それ、お前だろ?

C男:ふさけんな!オレはそんなことやってないぞっ!

T:コラッ!D男、このクラスじゃないって言っただろ?勝手に決めつけるな!

D男:すみません…。

T:それでだ。その時に「ありがとうございます」って言った2人は、面談の時に「何でそう言ったの?」って聞いてみたんだ(該当の2人を見ると笑ってうなずいている)。

 そうしたら、2人はなんて言ったと思う?

S:(・・・)

T:そうしたら、2人とも「いいえ、自然に出ただけで、理由はわかりません」だって。

G子:へえ、すご~い!

T:そうだよね。自然にそういうことばが出るっていうのはすごいよね。先生はそういう人を尊敬しています。なんで尊敬しているかっていうと、私はね、かなり意識していないと「ありがとうございました」って言えない人なんじゃないかなって自分のことを思っているからなんです。みんなに英語の授業で Thank you. って言えって言っているくせに、自分ではそれがあまりうまくできてないと思っているんです。でね、こうした礼儀がきちんとできるということは大切なんだよ。そして、それはおそらくみんなのご両親がきちんとみんなにしつけられたんだと思うし、小学校の先生から教えられたのかもしれない。もしかしたら、自然に自分でそれができるようになった人もいるかもしれないけど、そういうことができるようになる素晴らしい環境で育つことができたことにみんなは感謝しなくちゃね。

S:(やさしい顔になっている)

T:さて、そんな私からみなさんに気持ちを込めて感謝のことばを。先週土曜日にあった研究協議会の公開授業ではみんなよく頑張ってくれました。お陰様で、大勢の先生方から授業が好評でした。

S:(改めて言ったためか、下を向いた生徒が多い)

T:直前にみんなに言ったと思うけど、「私には夢がある」の3つのうちの1つ、「授業を見に来てくれた先生方に、みんなの元気な姿を見せて夢と希望を持って帰ってもらう」という夢を果たすことができました。そこで、改めて「みなさん、どうもありがとうございました。」

S:(無反応)

H男:いえいえ、どういたしまして。でも、ぼくはその日はインフルエンザでいなかったけど。

T:そうだったね。では、今日はこれでおしまい。

 

【こぼれ話】

この話によって、後期中間考査後の面談では、女子生徒のほとんどが英語科準備室への入室時に「失礼します」、始まる時に「よろしくお願いします」、終える時に「ありがとうございました」、退出時に「失礼しました」と言っていました。どうやら、繰り返し取り上げることで、すっかり根付いたようです。男子は放送室を使った関係でやや条件が異なっていたために単純な比較はできませんが、女子に比べると入室時と退出時までは気が回らない生徒が多かったように思います。

 

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