57. 「3、2、1」そして「0」<パート1>

【きっかけ・ねらい】

今回の話は、2年生の修業式(本校では学年末は「終業式」とは呼びません)の日に話そうと、かなり前から準備していたものでした。主なねらいは、1年間の総括を行うことと次年度へ向けての心構えを持たせることでした。本校では2年生と3年生の間にクラス替えがないので、2年生の学年末はそのまま3年生でクラスとして新たなスタートを切るための準備期間であるとも言えます。そこで、春休みをはさんだ話をすることで、担任の指導に継続性をもたせつつ、担任も生徒も新たな気分で新年度を迎えられるような話を企画しました。

 

【手順・工夫】

今回の話は、結論がやや抽象的で、時間も結構かかりそうだったので、生徒の関心を引くことと飽きさせないための工夫がいつも以上に必要でした。そこで、①生徒がよく乗ってくる数字を示すことから入る、②できるだけ生徒に問いかけて答えを拾いながら話を進める、③ところどころに全員が共通して知っている話題を入れる、などの方策をとることにしました。

 

また、あえてすべてを話さずに余韻を残すことで、春休み後の新年度当初に予定している話への期待感を持たせ、その2つの話をつなげると1つのまとまった話が完成するような構成にこだわってみました。

 

【実際の会話】3/18

T:じゃあ、一応修業式で、1年の終わりでもあるので…。まあ、来年、みなさんに会えるかどうかもわからないし…。

S:えっ?

A子:えっ、やだっ!

B男:…というのはジョークですよね?

S:(ざわつく)

C子:よほど突発的な…、先生が体をこわすようなことがないかぎり…。

D男:え? 先生、もう1回言ってください。

T:来年、みなさんに会えるかどうかわからないしって。

D男:それはウソですよね?

S:(小さな笑いが起こり、ざわつく)

T:みんさんに会えるかどうかわからないので…。それはだって、人事は水物ですから、AA先生(1年次学級担任であったが、教務主任になって担任団を抜けた)のようにポッっと抜けるということがあるでしょ?

S:あああ~。

D男:大丈夫でしょ?

S:(ああだこうだとざわつく)

T:で、一応最後の日なので、恒例ではありますが、ちょっと…。

D男:数字?

T:数字をですね…。

D男:ほら!

T:数字を出してお話しさせてもらいたいと思います。で、今日出す数字は…。

E男:4、4。4と5じゃね?

D男:多分2と…、9と9と9と9。

E男:そう、そう、そう。4と5ばかりで、「お前らなあ!」って。(※D男とE男は通知表の10段階評定に関する話をすると思ったらしい)

T:(黒板に書きながら)3、2、…

D男:ほら~!

T:…1!…です。(「3、2、1」と書く)

S:(ああだこうだとざわつく)

T:まあ、これに関連してお話をしますが、まずはここから何か思い浮かぶ人?

S:(ざわつく)

D男:3の倍数。

S:(笑いが起こる)

T:3の倍数? 

D男:321とか。

T:ちがうよ! どういう話をしそうかということをもう一度…。

C子:(サッと手を上げる)

T:はい、C子さん。

C子:次に3年になって、もう2年間が終わって、あと1年しか残っていない。

T:あああ…、

S:おおお~!

T:なるほどね。他に?

S:(数名がぼそぼそ何か言う)

F子:他に?

T:まあ、私なりに…、私なりの話はありますが、みなさんが思いつくこと。S:(数名がぼそぼそ何か言う)

T:今ので代表されちゃいますか?

G男:(手を上げる)

T:(視線で指名する)

G男:2つの山がある。

S:(意味不明の発言に爆笑になる)

D男:G(G男のニックネーム)、お前、今何の話してんの?

G男:えっ? だって…。

T:え~と、月並みな話もあり、プラス・アルファちがう話もあるんですが、まずみなさんに関係することでは…、C子さんが言ってくれたことにほぼ近いですけども…。いよいよ3年生になるという「3」。そして、中学校の2年間が終わったという…?

C子:2。

T:2。もう中学校が3分の2終わったことになります。

S:(数名が「え?」とか「ひゃ!」とか「あああ…」とか言う)

T:そう思うと、「やばっ!」とか「はやっ!」とか思いますよね?

S:(少しざわつく)

T:振り返ってみれば、どうでしょう? 長かったかな? あっという間かね?

D男・E男:あっという間!

S:(他にも数名が小声で「あっという間」と言う)

T:あっという間。そうでしょうね。はい。振り返ってみると、あっという間だと思います。

S:(ざわつく)

T:はい。次…、じゃあ、「1」はな~んだ?

E男:残り1年。

C子:あと1年。

T:残り1年の「1」。でもあるし…、

C子:一番上の学年の「1」。

T:みなさんが…

F子:1階の「1」。(※3年生は全クラスが校舎の1階が教室となること)T:1階の「1」?

F子:(大笑いをする)

S:(他の生徒も笑い出す)

T:そういう…、物理的なものではなく、感覚的なものとして…。

C子:1組の「1」?

T:1組の「1」? まあ、近づいたね。

C子:えっ?

E男:まじで?

D男:一番の「1」。

S:(笑いが起こる)

T:1組で過ごした1年間の終わり、ですよね? という意味の「1」というつもりで、私はこの「3、2、1」を書きました。で、みんなとですね、過ごした1年間を振り返りますと、本当に私は楽しかったなと思っています。実は、保護者会で言いましたけども…、

S:(数名の生徒が何のことかわかってうなずく)

T:今まで担任した学年の中で…、まあ、卒業生には申し訳ないけれども、一番楽しかったなというふうに思っています。

F子:過去形。

C子:過去形?

S:(笑いが起こる)

T:ちゃう、ちゃう、ちゃう。これは3年生で習う…、過去形ではなくて、3年生で習う現在完了です。

S:(数名が「おおお~!」と言い、拍手が起こる)

T:って言ってわかるか?

D男:予習をやってるわけね?

T:ここまではずっと楽しかったなという…、それから現在完了進行形っていう高校で習う文法で言うと、今後も続くというイメージを与えるものがあるんですが…。(大きな声で)もちろん! 順調だったわけではない、と思います。みなさんにとってですよ。最も残念だったのは…、実はちょっと前まではカットしようと思っていたのですが、H子さん(※長欠生徒)がね、またここにはいませんけど…。さっきチラッといたのはみんなも知っていると思いますけど、41人が全員そろう日がですね、少なかったというのが残念であります。

S:(真剣な顔で聞いている)

T:彼女もね、一生懸命努力して、今日もねこうやって、I子さん、それからJ子さんの2人が呼んできてくれたりしたこともあって、ここまで来たということもありました。(※この日H子は保健室登校したところをI子とJ子に無理矢理(?)教室に連れてこられたが、H子は大掃除後に帰宅してしまった)ただ、みんながそろっていなかったのが残念だなと思っています。もう1つは、みなさんの個々の良さをクラス全体の良さに生かし切れなかったな、という私なりの反省とそれからみなさんへの期待という意味でそれがあります。

S:(真剣な顔で聞いている)

T:例えば、聞き飽きたことですが、「うるさい」ということ。あるいは、「いろいろ勝手な行動がある」。すぐ立ち歩く、すぐしゃべる。何度言っても直らないなんていうことがあるわけであります。そういったようなこともあります。ただ、全体として言えば、みんながですね、明るく元気で1年間を送ってもらえたということ。それから、とても活気のあるクラスであったということが大変良かったなと思っています。

S:(真剣な顔で聞いている)

T:もちろん! 元に戻りますが…、それで満足はしていません。先ほどの3年という意味の「3」で言えば、3年生になったら、みんなにはさらにもう1歩、もう2歩、もう3歩、伸びてもらいたいと思っていますので…。私も、もし返ってくるのであれば…、この教室に返ってくるのであれば、新たな気持ちでやっていきたいなと思っています。

S:(真剣な顔で聞いている)

T:まあ、そんなみんなの良い点、足らない点も含めて…、こんな言葉は恥ずかしいですが、私はみんなのことを愛しています。

K男:(拍手をする)

S:(K男の拍手が広がらず、笑いが起こる)

T:「愛しています」という言葉は、どういうことかと言うと、みんなのいいところも悪いところも含めてみんなを私は受け入れているつもりでいます。そして、いいところをできるだけみんなに伸ばしてもらいたいというつもりでみんなに接してきたつもりでいるし、また来年も戻ってくるようであればそういうふうに接したいなと思っています。

S:(真剣な顔で聞いている)

T:で、そんなみなさんに、1年の最後に…、まことに勝手ではありますが、ちょっと個人的な話をして終わりにしたいと思います。みなさんに関係なくはないんですけど、個人的な話です。

S:(少し緊張が和らいだ顔になる)

T:3、2、1と来たので、私はもう1つ数字を加えたいと思っています。

S:(数名が「0!」(ゼロ)と叫ぶ)

T:そのとおり。「0」です。(「3、2、1」の右側に「0」を書く)さて、この0が何を意味するか…でありますが、0が使える場所が2カ所ありまして、今日みなさんにお話ししたい0は…、(「3、2、1、0」を「30、20、1、0」と書き替える)30と20になります。まず、「20」から行きます。「20」は何かというと、何だと思いますか?

S:(数名が「男子の数」と言う)

T:これまで…「男子の数」ではない。私の個人的なことです。

L男:先生の歳。

T:(爆笑が起こる)

M男:いや、いや、いや、いや!

D男:若い!

T:ねえ、まだ成績付けてなければ、もう一段階アップだね。

S:あああ~!!!

T:3年の前期、一段階上げようか!

S:(数名が「いいなあ~!」と言う)

T:(L男が赤面しているのを見て)よっぽど言って恥ずかしかったのか、真っ赤になっちゃってる。

S:(笑いが起こる)

D男:いつも、いつもです!

M男:いつもです!

T:そうなの?

D男:何か発言すると、赤くなるんです。

T:まあね、はい。実は、これは私がこの学校に来てから、満20周年になりました。

F子:そうなんだあ~。

S:(「イェーイ!」という声と共に大きな拍手が起こる)

T:で、その20周年ということで言うと、実は今日BB先生(生徒部長兼第2学年主任)がお話しされちゃったことを私も話そうと思ってたんですが…。BB先生が話したこと、覚えてる?

S:(反応はない)

T:ちょっと前はこういう生徒がいたとか。

S:あああ~!!!

T:そう。

F子:社会の先生の前でしゃべってたとか…。

T:そう。それはね…、驚きました。私が以前いた埼玉大学附属中学校のみんなっていうのは、今のみんなと同じようにちゃんと話を聞いてくれる人たちだったんです。この学校に来たときに、びっくりしたのは、まず…、新任で来ましたよね? で、校長先生が紹介してくれます。で、私はとりあえず新任の挨拶をします。み~んなおしゃべりしてる。

S:(緊張した顔で聞いている)

T:いやあ、オレ、そこで、来て早々、「なんだお前ら!」って言おうかなっと、(喉元を右手でさわって)ここまで来たんだけど、さすがに初日にそれはできないなって思って、それはやりませんでした。だけど、たまたまその年、3年生5クラスとも担当していましたので、全クラス1時間つぶして道徳の授業をしました。「なんだ、お前らのあの態度は?」と。で、一発で3年生から先生は怖いと思われ…、私の顔を見ると、みんな襟ホックを閉め…。

S:(小さな笑いが起こる)

T:まあ、前から「こらっ!」って注意してたせいもあるけど…。というようなことがありました。そして、そういう時代がね、実は10年以上は続いたかな…。

F子:えっ?

T:段々、段々と良くなってきた。でも、校長先生のお話の間にもちょっとおしゃべりがあるなんて時代も含めると、10年以上続いたと思います。それが改善されたのは、今でもはっきり覚えていますが、現在大学2年生の代。その時に「とてもいい学年だ」と言われましたが、その学年がこの学校を変えてくれました。そして、今の状態が当たり前だというふうに変えてくれた学年です。

S:(真剣な顔で聞いている)

T:そういう先輩があって、みんながいる。もしかしたら、10年前のところにみんながポンっと入ったら、みんなもそういう学年になっちゃったかもしれない。でも、そうではなく、みんながきちんとした学年になっているので、ぜひ今度入ってきた1年生にも、またこのきちんとした先輩の姿を見せてもらいたいなというふうに思っています。

S:(真剣な顔で聞いている)

T:はい、それが「20」。では、「30」は何だろう? 

F子:教師歴。

T:(はっきり聞こえず)歳?

F子:教師歴。

T:はい、そのとおりです。教師歴、今年で満30年になりました。

S:(「おおお~!」という声と拍手が起こる)

T:では、なぜこの「30」…。あっ、私はこの学校に20年、その前に埼大附属中学校に7年、その前に埼玉県の県立高校の教員を3年。で、都合30年になります。担任学年は、みなさんがちょうど…。(過去の担任学年を指折り数えて)1回、2回、5回だから、8回目…です。

S:(話の方向を測りかねているような顔)

T:で、30年なんですが、実は私、30年間一日たりとも怠らなかったことがあります。

N男:コーヒーを飲む。

S:(笑いが起こり、数名がああだこうだと言う)

O男:ネクタイ。

T:(誰が言ったかわからず)今ネクタイのことを言ってくれたの誰?

P子(O男の隣の女子):(O男であることを手で表す)

T:(O男は旧1年5組であったので)その話、1年生の時にした?

O男:(反応しない)

D男(旧1年5組):してない。

T:してないよね? 私は、みなさんに…、教室で前に立つときは、必ずネクタイをしていると思います。

E子:あっ、してる!

D男:してた! 1回聞いた、それ。5組のとき聞いた。

T:(D男に)聞いた? 行事のときとかはしてませんけど、教室に来てみなさんに授業するときとかこういう場面とかに来たときとかは、ネクタイをしています。それは、30年間一日たりとも忘れていません。だから、家からネクタイを忘れちゃったときのために学校に置いてあります。

S:えええ~!!!

T:で、これは30年間ずっとこだわってきたことです。その理由は何かと言うと…。

O男:ネクタイをしてないと…。

T:(O男に)何?

O男:ネクタイをしてないと、落ち着かなくて、緊張しちゃうから。

T:ちがいます。そうではありません。

G男:(何か言うが聞き取れない)

S:(G男の発言に笑いが起こる)

T:ネクタイを締めることによって、「これから仕事に行くぞ!」という気合いを入れるためです。

Q男:(ネクタイを締めるジェスチャーをして)ピュッと締める。

T:そうです。ピュッと締めます。行事のときはさすがに、そういうのは場違いなのでしませんけれども、そうでないときは…、教室に来るときはします。で、30年間それをやってきて、常にみなさんには…、とりあえず格好だけなんだけど…、「オレは教師として前に立つ」ということを30年間続けてきました。で、そこから何が言いたいかというと、私はこれにすごくこだわってきているんですが、ぜひみなさんにも、何でもいいから、「私はこれをずっとやり続ける」という…、

M男:(E男に小声で)ゲーム…。

T:何か、前向きなことにこだわりをもってもらいたい。(M男を見ながら)ゲームをやり続けるとか、そういうんじゃないんだよ。

M男:(ばつが悪そうにクスクス笑う)

E男:D(D男のニックネーム)!

D男:そこかよ。

T:そういうのじゃなくて、生きる上で、みなさんの人生を送る上で、みなさんが一歩でも上になるようにとか、いまの自分をきちんとするようにとか、というような意味で、何かずっと続けられるものを持ってもらいたいなというふうに思っています。それが、30年です。

S:(少し飽きてきたような顔の生徒がいる)

T:そして実は、もう1つの「0」の使い方の最後の「0」。この話、実は今日しようと思って考えていたことがあるんですが…。1日ちがいで自分の心がそれにきちんと向かっていないので…。ちゃんとそれを実感してからお話ししたいと思うので、4月の9日にお話をしたいと思っています。

K男:あ~は、そんなあ…。

T:いや、何のことかわかる? 

E男:いや、わかんないんじゃね?

T:ええ…、ということで。1日ちがい。明日にならないと、私の心が「0」にならない。

M男:明日って何の日だっけ?

E男:ちょっと待って、待って…。(生徒手帳をめくりだす)

T:明日になったところで…、気持ちを改めて考えて…、そして4月9日にお話しします。

S:(ざわつく)

T:では…、最後の、今年最後の話に付き合ってくれてありがとうございました。

S:(拍手が起こる)

T:すみません。今日の話は録音させてもらいました。(スイッチを切る)

S:あああ~!!!

D男:やっぱりね!

R子(教卓の前の生徒):そうだと思ってた。

T:じゃあ、おしまい。

 

【こぼれ話】

ボイス・レコーダーによると、今回の話は17分30秒という、過去最長のものになりました。しかし、生徒は終始きちんと話を聞いてくれ、問いかければしっかりと反応してくれました。とかく「うるさい」とか「がちゃがちゃしている」と評価されがちな我がクラスの生徒たちですが、担任にとっては本当に可愛い生徒たちです。本当に彼らには感謝しています。あと1年間この生徒たちと過ごす日々がどのようなものになるのか。卒業式を迎える日まで期待を持って見守り、愛情を持って接していこうと思います。

 

ところで、話の最後の方に出てきた「明日にならないと、私の心が「0」にならない」とは、いったい何のことでしょうか? それはこの話の後半(「58.『3、2、1』そして『0』<パート2>」、次号に掲載予定)で明らかにします。どうぞお楽しみに!