55. 先生、ひどいですよ!

【きっかけ・ねらい】

今回の話は、前回の話(「54.悩みの相談があります」)の続き-つまり完結編-として話したものです。しかし、前回の話の【こぼれ話】にもあるとおり、単なる続きと言うにはあまりにも当初の予定とは異なった内容になってしまいました。それは、前回の話をした時点で具体的な展開をきちんと考えていなかったことに加えて、この日のHRH(ホームルームアワー)に学年一斉で行われた学級自治会の話題を利用しようとしたからでした。そして、その学級自治会の話題を上手に使おうと考えた末に出てきた今回の話は、過去に一度も無かったような展開のものになりました。

 

なお、結果的にその話は生徒にとってあまりにもショック(?)であったようなので、翌日の終礼でそのフォローをすることになりました。

 

【手順・工夫】

この日に行われた学級自治会は、「附属中学校の価値はオークションで売ったらいくらになるか?」という突拍子もない(?)テーマの元で、生徒自身に生活態度を見直す話し合いをさせるというものでしたが、実際の話し合いはテーマの突拍子のなさからは想像できないくらい有意義なものでした。その話し合いを見ているうちに、それを前日の話の続きに使わない手はないと考え、学級自治会の最後に設定されていた担任の講評を保留にしてもらい、終礼でそのことに関する話をすることにしました。

 

さて、その話を考えるにあたっては、それを形だけの褒め言葉や生徒の至らなさに対する批判にしてしまうのでは面白くないので、何か生徒を驚かすような話にしようと思いました。そして考えついたのが、自分が話そうとしていたことを、HRHの話し合いに出てきた附属中の価値(生徒が考えた10項目のそれぞれについて2,000万円を基準に増減させた額)を利用した架空の話に仕立てることでした。

 

【実際の会話①】2/13

T:今日の3、4時間目のホームルームアワーのときのコメントというのをしていませんでしたが、そのコメントの前にですね、ちょっとみなさんにお話ししたいことがあり…。昨日終礼のときに相談したいことがある、という話をしましたんで、それを…、どうするかなあ…、やっぱりやめようかなあ…。

A子:ええ~? 今さら~?

B男:1日ねばったのに…。

T:まあ、信用できるみんなだから話すか…。

C男:ええ~!

T:まあ、何の話かというとですね…、え~と…、去年の4月頃から自分がやってることなんですけども…。ちょうどみんなの担任をし始めた頃からなんですが…、その頃からですね、先生、実は、投資というのを始めております。

S:(キョトンとしている)

T:「投資」というのは…、透かして見るっていう「透視」じゃないよ。

S:(大きな笑いが起こる)

D男:びっくりした~!

T:ちがう、ちがう。そんな、先生が何かわけがわからないこと…。

S:(再び笑いが起こる)

T:お金を…。

C男:捨てる。

T:捨てるんじゃないよ。

S:(小さな笑いが起こる)

A子:増やすんだよ!

T:「投資する」っていうのは、お金を増やすっていう、あの投資ね。まあ、教員生活30年間かけて貯まったものをですね、すべて賭けてここまで来たんですが…。(舌打ちをして)あああ…。

E男:まさか!

B男:はずれた? それで教師をやめる?

A子:えっ?

S:(大騒ぎになる)

T:ちょっとね…、借金をちょっと…。

C男:あら~…。

T:抱えてしまってですね…。

S:あああ…。

T:ちょっとでかい額を抱えてしまってですね…。

S:(急にシーンとなって真剣に聞いている)

T:まあ、元々は…、そうですねえ…、まあ、ずっと貯めてきたお金…、元手が1,000万一口を…。

C男:えっ!

T:…二口で2,000万ぐらい…使い…。

B男:やべえ、やめた方がいい…。

S:(ざわつき始める)

T:まあ、いろいろ…、そうですね、かれこれ10銘柄ぐらい…やりましたかね。

S:(シーンとなる)

B男:何?「めいがら」って?

A子:会社。

T:銘柄…、種類ね。で、まあ、もちろん、全部が失敗したわけじゃなくて…。ある銘柄は2,000万を賭けて2,800万ぐらい儲かったのもあるし…。(※生徒が「仲の良さ」を2,800万円と評価したことを指す)

E子:すげ~!

T:逆に、2,000万賭けたんだけど、900万くらいにしかなんなかったというのもあるんだな。(※生徒が「登下校」の様子を900万円と評価したことを指す)。

D男:あ~あ。

T:で、まあ、10ヶ月やってきて…、ええ~、借金が5,000万円以上になってしまいました。

S:(シーンとした中で数名がひそひそ話をする)

T:まあ…、2億円くらい使ってですね…。正確に言うと、2億円くらい使って、借金が5,300万くらいになっちゃったんですね。(※生徒が総計で2億円のところを1億4,700万円と評価したことを指す)

S:(ざわつき出す)

T:そうすると、残金が…? いくらだ? 2億円使って、5,300万損したから?

S:1億…。

T:1億…?

S:4,000…。

T:4,000…?

S:700万。

T:1億4,700万。

S:(さらにざわつく)

C男:みんなで払ったらいくら?

T:(ここまで話しても何のことだか気付かないので)10銘柄くらい買ってですね…、2,800万になった銘柄もあれば、900万にしかならなかった銘柄もあり…。合計が1億4,700万円にしかなっていないんですね…。

F子(学級委員):今日の…。

T:(F子に)何? F子さん、何だって?

F子:いや、今日の筑波の値段と一緒だなって…。

T:(わざと)ああ~!

S:(偶然だと思って)おおお~!!!(続いて拍手が起こる)

T:ホントだ!

S:(まだ気付かずに、ただ驚いている)

B男:筑波を売れば、もう行っちゃう?

G男:ああ、そうだよ!

B男:そうだよ、オークションに出しちゃえばいいんだよ!

S:(ざわつく)

T:(まだ気付かないので)10銘柄ぐらい買ったんだけどねえ…。

E子:(話が嘘だと気付いて)ちょっと待った~! もう~!

T:(側面黒板に残っていた各項目の値段を見ながら)2,800万になったものもあれば…。

E子:怖いよ~!

S:(E子の発言に続いて、「怖いよ~!」「うわ~!」など様々な驚き声で騒然となる)

A子:怖いよ~! ホントの話だと思った~!

T:(まだキョトンとしている生徒がいるので、黒板を指して)2,800万になったものもあれば…、(ここで笑いが吹き出して)900万にしかなっていないものも…。

H子:(机をバンバンたたいて)もう~、やだ~!

S:(「なんだ~!」「もう~!」などと再び騒然となる)

E子:怖かった~!!!

B男:実は嘘だったんですか!?

S:(「ひどいよ!」などと大騒ぎが続く)

I子:えっ? どういうこと?

J男:(I子に)だから、合計が2億あって…(一部始終を説明するが、騒音で聞こえない)。

S:(しばらく騒然となる。時々「わかった~!」などの声が聞こえる)

K男:先生の話を聞いていたら、お腹痛くなっちゃったじゃないですか!

T:ええ~、ごめんなさい。みなさんを心配させましたけど、そんな投資なんかを私がするわけがありません!

B男:でしょうね!

S:あああ~!!!

B男:どっから2億が出てくるんだと思った!

C男:出た~! 2億なんておかしいと思った!

K男:先生、悪質ですよ!

B男:悪質!

S:(「悪質!」の連呼で大騒ぎとなる)

A子:先生、それでガチの…

T:何?

A子:ガチの相談の方は何なんですか?

S:(急に静かになる)

T:え? これだよ。

S:えええ~!!!

T:まあ、2億とかなんとかいうのは今日思いついた話だけど…、投資をしてきたっていうことは…、去年の4月頃から投資を始めてきたっていうのは…。

B男:半分ホント、半分ウソみたいな。

T:で、何を投資してきたかと言えば、みんなが仲良く、明るく暮らせればいいなっていうことに投資してきて…。

S:おおお~!

T:みんなが、2,800万に高めてくれたんです。

S:おお~!

T:で、相談があるというのは、これホントの相談で、先生が助けてほしいなと思ってるのは、みんなが900万…、900万の登下校のところは俺にはわからんけど、掃除の1,000万とか…、あと何だっけ…? さっきメモしておいたんだけど…。(手帳を取り出して見て)掃除の1,000万とか、終礼の1,100万とか…、あとはお昼の放送をちゃんと聞くという1,100万とか…。そのあたりのね、先生も、ちょっと、2,800万の方に投資をし過ぎたかなと、反省をしているのであります。

S:(数名が何かつぶやく)

T:これは…、その借金の方を先生は返すことはできないので、それをみんなに助けてもらいたいなという相談。

C男:(どういう意味か拍手をする。しかし他の生徒には広がらない)

T:で、今日は終礼が借金を少し返せたかなっていう気がしますけど。

S:(拍手が起こる)

T:少し上がったね!

S:(数名が何か言う)

T:で…。

E子:怖かった~!

T:そんなに怖かった?

S:(「怖かった~」と大騒ぎになる)

T:ごめん。一生懸命笑っちゃいけないと思って我慢してたんだ…。

S:(「うわ~!!!」と大騒ぎになる)

T:ごめん。心の中はおかしくておかしくて仕方がなかったんだけど…。

S:(「ひどいよ~!」などと大騒ぎになる)

T:でも…。ちょっと、ごめん! そのたとえ話はみんなの3、4時間目の話を見ていて思いついたことなんだけど…。

S:(「うわ~!」「ひどい~!」などと大騒ぎになる)

T:それそのものは…、昨日のは本当の話。

C男:おお~。

S:(数名がああだこうだと言う)

T:その…、だから…、先生はホントにそっちのね、みんなが一緒に明るく元気な方には一生懸命頑張っていたんだけど、ちょっと先生抜け落ちちゃったかなというところがあり、そこは申し訳ないけど、みんなが少し頑張ってやってもらわなきゃいけない。そういう話をしなければいけないなと思っていたところに、今日面白い話があったので、ちょっとそれに乗っかっちゃいました。

S:おお~!

T:で、まあ、そういうことでね…。ちょっとこれは過去の話に戻るんだけど、前に私が(黒板を指して)ここにあることばを書いて、「これはこれからみんなに関係することだから」って書いたことばがあるのを覚えていますか? 多分、半月くらい前に。(※実際には書いてはおらず、話しただけであった)

S:(反応はない)

T:書いたことばを誰か覚えてる?

S:(反応はない)

T:3文字。書いた…、ちがう! 言ったことば! 3文字。

A子:ああ!

T:あることば。否定語が付いて3文字。

S:否定語?

T:否定語。

B男:不思議?

T:ちがう。近いけど、ちがう。「不」じゃない。

B男:不可能。

T:「不」じゃないって!

A子:「非」!

C男:無限大!

B男:無限大!

T:ちがう。

L男:無責任!

T:無責任?

A子:無関心。

T:(A子に)A子さん、何だって?

A子:無関心!

T:そうです。(黒板に「無関心」と書く)

A子:パクったんだけど…。

T:無関心。で、これがね、結構大事なところかなって思うのは、例えば、掃除をするなんていう時に、サボってしまうという人は、おそらく掃除をしている人がどういう思いでやってるかっていうことに無関心。

S:(真剣に聞いている)

T:終礼が始まるよっていう時に廊下でおしゃべりをしている人は、やっぱりこれから何をやらなければいけないかっていうことに関して無関心。いろんなことがきっと無関心…。つまり関心を持てば、いろいろなことがね…、(「無関心」の「無」を消して)良くなっていくんじゃないかなっていうふうに思ってるんです。だから、例えば誰かが話しているその時に、おしゃべりをしてるってことは、その話している人に対する関心がないわけですよね? 自分のことだけ考えていて、その人がどういう立場でやってるか、周りのみんながどういうふうになっているのかっていうことに関心を持たなければならない。だから、やっぱり大事なことって言うのは、広い意味で言う「関 心」。そういうことをやっぱりきちっともってもらえたらなと思います。

S:(少し飽きたような者もいるが、多くは真剣に聞いている)

T:今日ね、HRHでみんながいろいろな話を聞いている中でね、M子さんがこんなことを言いました。(手帳を開き、メモを見て)「掃除ができれば、他のことはすべてできるようになると思います」。

M子:(顔色を変えずに聞いている)

T:で、その心っていうのは…、やっぱり掃除をきちんとやるっていうのは、さっき言ったように、他の人のことも考え、そして教室のことも考え、という、そういう気持ちで…。そういう気持ちさえあれば、全部他のこともつながっていると思います。ですので、そんなところから1つ1つ形になって、みんなの動きがこれから出てきてくれるといいなと思っています。

S:(真剣に聞いている)

T:という話だけをしたかったんですが…、すいません、ちょっと話をドラマチックにし過ぎました。

S:(「し過ぎでしょ!」「ひどい!」など、ああだこうだと騒ぎ出す)

T:えっ? そんなに信じちゃった?

N子:私なんか、40人で払うとなると、一人130万とかなるのかと思って、ドキドキしました。

K男:俺、絶対株なんかやらない!

S:(爆笑になる)

T:これで先生は嘘をつくことがあると思われちゃうかなあ…。

S:思う!(続いてああだこうだと言う)

T:いや~、やっぱりまずかったかなあ…。

A子:当たり前ですよ!

S:(「そうだ!そうだ!」のような発言が続く)

T:(これ以上はまずいと思い)今日はこれでおしま~い!

 

【こぼれ話①】

今回の話は、結果的にどう評価して良いのかわからない話になってしまいました。最終的に言いたいことはきちんと伝えられたと思うのですが、そこに至るまでの作り話が生徒にとってあまりにも刺激が強かったようでした(終礼後も何人もの生徒から「先生、ひどいですよ!」「だまされました!」と笑いながら言われました)。生徒のことを思って一生懸命考えた話とはいえ、少し悪のりしすぎたなと反省しました。

 

さて、件のHRHでの話し合いでは、クラスを6つのグループに分け、10項目のそれぞれを2つのグループが1,000万円を基準に査定するという作業が行われました。つまり、結果的に各項目を2,000万円を基準に査定し、総計では2億円が分母の査定額になるという活動でした。それぞれの項目の査定額とその理由は以下のとおりでした。

・仲の良さ…2,800万円→◎生徒同士も先生と生徒も仲がいい。学校生活が楽しい。

・授業…2,100万円→○よく発言する。▽おしゃべりが多い。▽居眠りする人がいる。

・行事…1,900万円→○燃える。○一生懸命やる。▽本気になるまでが遅い。

・服装…1,700万円→○誇り高い。○スカートが短くない。▽ホックを閉めていない。

・週番…1,300万円→▽朝そろわない。▽仕事を忘れる。▽声がけができていない。

・部活…1,100万円→▽あまり活動できていない。▽幽霊部員がいる。

・昼…1,100万円→×全校集会がいらない。▽会合が多い。▽放送中うるさい。

・終礼…1,100万円→×うるさい。▽授業連絡を直前に聞きに行く。

・掃除…1,000万円→×サボる人がいる。▽丁寧にやっていない。

・登下校…900万円→×通行人に迷惑をかけている。○私立校ほど悪くない。 

 

一方、このような事件的な話をした時の余波についても心配が出てきました。つまり、「先生は本当に多額の借金をかかえているのではないか?」と疑われたり、この話を間接的に聞いた保護者や他のクラスの生徒に「肥沼先生は多額の借金をかかえているらしい」などという事実無根の噂が広まってしまうということでした。そこで、次の日の終礼で生徒への謝罪と間違った噂の阻止という意味での「火消し」の話をすることにしました。

 

【実際の話②】2/14

T:(教卓横のサイドテーブルにある学級自治会で使った100万円札の束を持って)あの…、この何万円とかいうものはどうするの? 使う?

A男(学級委員):こういうふうにやったのは、たぶん1組だけ…、わかんないけど、他は作ってないから…。

T:何かに使うかもしれないから、ちょっとだけ置いとく? 使わない?

A男:使わない。

B子:捨てちゃえば?

C男:それはもう仕方ない。

T:それは学級委員にお任せします。学級委員が処分するなら処分してください。

A男:はい。

T:で、え~と、ちょっと昨日の話について補足しておかなければならない話があるんですが…。え~、昨日ちょっと衝撃的な…、あまりにも衝撃的な話をしたので、みんなが大分お怒りのモード…ではないですが、「ひど~い、先生!」みたいなことですね…。大分私の信用が落ちてしまったかなと…。

C男:地に落ちた!

S:(笑いが起こる)

A男:ストレート…。

T:地に落ちた? 「信じてたのに!」とか?

D男:(何か言う)

C男:(D男の発言に大笑いする)

T:(C男に)何?

C男:(ビンタをするジェスチャーで)エア・ビンタ。

S:(笑いが起こる)

T:(C男に)何、それ? そういうシーンがあるの?

C男:(ビンタをするジェスチャーで)「なんだ、お前は?」みたいな。

S:あああ~!

T:それ、何の話?

C男:よくありそうな話。

D男:「あるある」。

S:「あるある」。(※「あるある大辞典」というテレビ番組の再現ドラマの話らしい)

T:あ、そう。はい。え~と、ま、まさかあの話を家で親にしたとかいないよね?

E子:した!

S:(他にも数名が手を上げて「した~!」と言って大笑いが起こり、ざわつく)

F男:「だまされた!」って!

T:「先生にだまされた」って?

F男:だまされた。

G子:信じてたのに!

T:「信じてたのに」って? それは本当に申し訳なかったね。

E子:「先生もいろいろ考えますね」って。

T:ああ、「先生も考えますね」って? あ、そう。(日頃おとなしいH子に)H子さんはどういうふうに話したの?

H子:(はにかんで)えっ? ふつうにこんな話があったって。

T:「こんなことがあった」って話題にしたわけね? 実は、こういう話って、けっこう怖くってですね。何気なく話したこともそうですが、まったく話してないことがいつの間にか保護者の間で広まったりということがあるんですよ。

S:(興味津々の顔になる)

T:例えばね…、これは本当の話ね。嘘じゃないよ。

I男:先生、何やったんですか?

S:えええ~!

T:何をやったって…、何もやってないよ! 何もやってないんだけど、やったことになっちゃった話。それは、前に私が勤めていた埼玉大学の附属中学校の時の話です。

S:(興味津々の顔になる)

T:ある保護者から、3年生の時に電話がかかってきました。「肥沼先生、こういう噂があるんですけど…」。この方はクラスの理事さん。今で言うJ子さんのお母さん(保護者会の現クラス理事)みたいな方ですね。

J子:(急に話題にされてオロオロする)

T:電話がかかってきて、「こういう話があるんですけど、そんなことはないと私の方から否定しておきましたが、そういう話があることだけはご承知おきください」って。その話は何かっていうと、「肥沼先生は、高校へ送る調査書…」。調査書っていうのは成績表ね。「肥沼先生は、高校へ送る調査書は3件までは無料だけども、4件目からは1通につき1万円取る」と。

S:(笑いが起こり、そのことでざわつく)

C男:どういうこと? 一人4枚目とかいうこと?

T:だから、埼大附属っていうのは、附属高校がないから、みんな外へ行くわけです。そうすると、5校、6校、7校、8校と受ける生徒がいるわけだけど…。

E子:ああ~!

T:そうするとね、4校目からは調査書を書くのに1校につき1万円も取るそうだと。

S:(笑いが起こる)

T:そんなことするわけないしさ…。

S:(笑いが起こる)

T:そんなこと言うわけもないのに…。そういう噂が保護者の間で回ってるので…。というのは、理事さん、J子さんのお母さんみたいな方のところに「肥沼先生がそういうことを取るっていう話があるんですけど、本当でしょうか?」って電話がかかってきたって言うんですよ。

K子:それはないでしょ!

E子:こわ~!

T:ありえない。怖いでしょう? あともう1つはね、これは同僚の話なんですけど、

 その先生…、美術の先生…、とってもいい先生だったんだけど。その先生がね、エイズ教育…。エイズ(AIDS)って病気知ってますね?

S:あああ~。

T:エイズ教育を頑張っていて、それがNHKの朝の7時からのニュースで取り上げられたんですよ。

S:おお~。

T:すごい? それで放送されたんですね。そうしたら、1週間後に、その先生が前に受け持った…、ずっと前に担任した卒業生の親から電話が学校に掛かってきて、(受話器を持つジェスチャーをして)「あのう…、すみません…」、その先生は○○先生って言うんだけど、「○○先生がエイズになったって本当ですか?」

E子:うわ~!

S:(大騒ぎになる)

T:なんでそんな話になっちゃうんだろうね?

C男:何の聞き間違い?

T:ああ、そうね。聞き間違いが本当のことのようになってしまうので。だから、昨日の話は…、いや、ぼくは何を恐れているかって言うと…?

E子:本当は借金をしてました。

T:「肥沼先生は、株に手を出して、5,000万円以上の借金をしているらしい」と。

S:(爆笑が起こり)あああ~!!!

C男:ホントはやってたんでしょ?

T:やってねえよ!

S:(爆笑が起こる)

T:私は賭け事は…、パチンコもやってないし…。

E子:麻雀!

T:麻雀は遊びでやったことはあるけど、お金は掛けたことはない。

D男:ギャンブル!

T:ギャンブルは、やりません。やるのは宝くじだけ。

S:おお~!

T:宝くじは、ジャンボを10枚3,000円買うだけ。

L男:当たりました?

T:1万円が2回当たった。

S:おおお~!!!(続いて拍手が起こる)

E子:すげ~!

T:あと、3,000円も2回当たった。基本的には300円しか当たんないけどね。

S:(宝くじのことでざわつく)

T:ちょっと話がずれちゃった。で…、ごめん、本当に言いたいのはそこじゃあない。

 本当は、真面目な話をするはずだったの。本当は「相談があるんだけど」っていうのは、その時点ではすごい真面目に話をするつもりでいたんだけど…。

B子:後悔してるの?

E子:先生、後悔してるんですか?

S:(E子の発言にざわつく)

T:後悔はしてないんだけど…。本当は真面目な話をするはずだったんだけど、みんなが…、ホントに「今日は時間がないからやめよう」って言ったときに、「ええ、先生、そこまで言って話さないんですかあ?」っていう、みんながそういうモードで来ちゃったから、これは話を面白くしなきゃいけないなと。

E子:(大笑いする)

S:えええ~!!!

L男:いや、いや、いや。必要ない。

S:必要ない!

T:ごめん、そういう発想だったんだ。本当は、その話の後ろにあったのは、そろそろみんなにもいろんな仕事をちゃんとやってほしかった、お願いしなきゃいけないなっていうか…。先生自身がいろんなことをやり過ぎちゃってるのがいけないのかなあ。例えば、(あまりきれいでない黒板を見て)黒板とかね…。(いじけた態度で黒板のさんをキレイにする仕草で)いつも先生がやってるからねえ…。

C男:(大きな声で笑う)

T:やらない日はこういう状態になっちゃってるんだなあ…。

N子:昨日Bちゃん(B子の愛称)やってなかった? (※B子は時々手伝ってくれる)

O男:やってた。

T:(少しあわてて)そう、そう、そう。そうやってやってくれる人が出てくれるといいなあと。ま、そういうような、ことですね。はい、ま、先生がやってないときは誰かやってくれるとかね…、先生がやらずともやってくれる…。まあ、そういうふうになってってもらえるといいなっていう話を本当はしようと思ってたんです。

S:(真剣に聞いている)

T:そういう、みんなの自主性を、ちゃんと先生が育ててないかなと。それが先生の今の悩みなんです。ていう話に持って行こうと思ってたんだけど、全然ちがう話になっちゃって、すみませんでした。

S:(ニコニコした顔でやわらかい笑いが起こる)

T:ということで、一応補足をしておきます。はい、じゃあ、おしまい。

 

【こぼれ話②】

今回の話(【実際の会話②】)は、なんとか前回の話(【実際の会話①】)の「火消し」になったでしょうか。生徒への謝罪と噂話の阻止という目的が達成できていたとしたら、胸をなで下ろします。

 

一方、前回と今回の両方で本当に伝えたかったことも話しましたが、それが生徒の実際の行動にまで影響を与えたかというと疑問を感じざるをえません。実際、その日の午後の授業で「うるさい」と叱られたり、終礼も騒がしくて担任からやり直しをさせられたりしました。話を面白おかしくしてしまったことにも原因がありますが、具体的な行動目標を明確に示さなかったことが一番の原因であったと思います。今後は、生徒の自主性を大切にしつつ、それを後押しする刺激を与え続けていこうと思います。

 

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