54. 悩みの相談があります

【きっかけ・ねらい】

今回の話は、生徒の生活態度を改善するために、過去にやったことのない方法を試してみようと思って話したものです。それは、それまでの自分の生徒指導のやり方に行き詰まりを感じていたからでした。生徒達は相変わらず明るく元気に学校生活を送っていましたが、生活態度のだらしなさは改善されておらず、その主な原因は担任の生徒に対する接し方にあるのではないかという思いが強くなっていました。すなわち、生徒との人間関係を壊さないことを優先するあまりに指導が甘くなり、それが原因で生徒の生活態度が改善されていないと思っていたのです。そこで、厳しく指導する、諭すように指導する、に続いて、自分の気持ちを悩みとして伝える(つまり「情に訴える」)という、今までにやったことのない方法で生徒を指導してみることにしました。

 

【手順・工夫】

いつものように、いきなり本題に入って生徒が身構えないよう、まず生徒にとって心地よく響く話から入っていくことにしました。具体的には、2日前に生徒の自主性を高めるために課した作業(入学準備説明会用の講堂の椅子並べと正門付近の清掃)を評価することと、前日(建国記念の日)に自宅でビデオを編集していた際に思ったことを伝えることでした。そして、生徒の気持ちが柔らかくなったところで、こちらが伝えたいことを真剣に話そうと思いました。

 

ところが、本題に入ったところで、生徒が当初の想定とは異なった反応をしたので(真剣な内容なのに、何か面白そうな話が出てくるのではないかと期待するような様子が見られた)、急遽そこで話をやめ、改めて話を作り直すことにしました。

 

【実際の会話】2/12

T:それでは、最初に火曜日…。

S:(ざわついている)

T:(静かになるまでしばらく待って)…椅子並べと音羽の坂(学校敷地北東側にある坂道)の掃除はご苦労様でした。椅子並べの方は…、どんな風にやったの?

A男:流れ作業で。

T:流れ作業で?

B子:そう、なんか、まず椅子を大量に組み立てて…。

A男:最初おおざっぱに。

B子:そのうちに、並べる役と組み立てをひたすらにやる役がなんとなくできて…。で、ざっと並んだら、みんなで微調整。

T:ふ~ん。じゃあ、やっている間に何となく役割がこう分担されていって…?

B子:なんとな~く済んだみたいな…。

C子:(B子に何か言い、大きな声で笑う)

A男:効率が非常に良かった。

T:効率が非常に良かった? じゃあ、みんなで協力してできたってことだね。

S:(多くがうなずく)

T:あと…、じゃあ、音羽の坂の方はどうでしたか?

D男:もう、超順調でした!

T:(D男に)どう順調だったの?

D男:ゴミもないのがわかっていたので、ちょっとピロってやって…。

E男:(D男に)ちげーよ! ちゃんとやったじゃんか!

T:ちょっとピロってやったって言ったな?

S:(爆笑が起こり、数名がああだこうだと言う)

T:なんか、あんまりちゃんとやったような気がしないけど…。

D男:ちょっとピロってやりました。

E男:ちゃんとやりましたって!

F男:数人に分かれて、ちゃんとやりました。

T:で、育鳳館(講堂)の方は…。

F男:(音羽の坂の掃除について)なんか少なくてあまりやりがいがありませんでした。

T:そうだね、いっぱいあった方が逆にやりがいがあったとは思うんだけど…。で、育鳳館の方はね、みなさんのやり終わったのは、見せてもらいました。あの時にも言いましたけど、後から改めてAA先生(入試担当)やBB先生(副校長)から、「1組の人たちは本当によくやってたね」とほめてもらいました。

S:(作業直後は大きな拍手が起こったが、2度目だったのでほとんど反応がない)

T:まあ、みんなが本当によくやってくれたなと思います。あと、音羽の坂の方は、私は行ってないんですけど、実はみんながどんな感じでやっていたかっていうのは…、実は、ちょっとこっそり眺めていました。(※事前に、育鳳館の椅子並べも音羽の坂の掃除もクラスの自治活動として行うので、見に行かないと言ってあった)

S:(数名の男子が「おお!」「おおっと!」などと言い、互いに顔を見合う)

T:英語科準備室から眺めていました。

S:(数名がああだこうだと言う)

T:まあ、見える範囲でしか見えてません。

D男:ちょうどロータリーのところにいた時だ。

T:うん。ただね、え~と、終わってから、みんなそろって帰って来たよね? その、みんなそろって帰って来た時に、「やった~!」(手を振って歩くジェスチャーをする)という感じの…、楽しそうに帰って来てる姿が見られたので…。

C子:(笑いながら)恥ずかしい!

T:まあ、みんな、一生懸命楽しくやってくれたのかなと思います。あと、学級委員さんもしっかりやってくれました。

F男・G男・H子・I子(学級委員):(満足そうな顔)

T:直前に学級委員さんには厳しいことを言いましたけど…。(※作業の指揮を執ることがわかっていながら、終礼前におしゃべりをしていたので、呼んで注意をした)

F男:(うなずく)

G男・H子・I子:(苦笑いをする)

T:でも、そんな中でもよくやってくれたと思うし。あの時も…、音羽の坂の方もね、終わったときに、あれはH子さんだったかな、なんか真っ赤な顔をしてすっ飛んで来て、「先生、終わりました!」って報告に来てくれたよね? なんか、随分走って来たんだろうなって…。

H子:いなかったから。

T:うん?

H子:先生がいなかったから。

T:で、あっちこっち探し回っちゃった?

H子:(うなずく)

T:そうか、それは申し訳なかった。でも、よくやってくれたと思います。で、そんな君たちの姿ですね、また改めて良かったなと思ったことが昨日ありました。昨日、遅ればせながらですね、合唱発表会のビデオを編集したんです。で、カメラ2台で撮ってたので…。

S:(数名が何か言う)

T:1台はクラスの時はピアノ用ね。

J男:ああ~。

T:これはCC先生(学年主任)に置いておいてもらったんですけども、メインは私の方で撮りました。そんな中、前も言いましたけど、みんなの顔をアップにして、眺めていて…。なんだろうなあ…。正直に言うと、なんかいつまでも子供かなあと思ってたみんながそうじゃなくなったんだなあって…。

S:おおお~!!!

T:そういう、ちょっとなんだろうなあ、ジーンとくるような感じがしながら編集しました。

S:(真剣に聞いている)

T:で、その中で、事前にも言ったけど、みんなが一生懸命やってる顔が写せたのがよかったと思います。特に印象的だったところが2カ所ありました。どこかって言うとね、これ、編集し終わったところで自分なりにうまく編集できたなと思ってるんですが、1カ所はK子さん(伴奏者)の間奏のシーンなんですけど…。

K子:(急に話題にされて戸惑った顔になる)

T:全クラス、一番最初の前奏のところと間奏のところだけを別窓でこうやって(四角を描くジェスチャーをする)入れてるんですよ。全体の中で別窓みたいに入れているんです。で、間奏の時にK子さんがね、弾きながらみんなの方を見てニコって笑うんですね。

S:(優しい笑いが起こる)

T:これがねえ、なんともいいんだな。

S:(数名が何か言う)

T:これはね、後で見てもらうとね、とっても自然に弾きながらニコって笑っていて、これがね、ちょっとゾクってくるんです。

S:(ざわつきが起こる)

K子:(顔を赤らめる)

T:あともう1つはね、先生が「歌い終わった時に、『やった~!』っていう顔をするんだよ」って言ったじゃない? その時にそれをちゃんと覚えてくれていたのか、みんなも「よし、歌い終わったぞ!」という顔をしてくれたんだけど…、中でも「○○コンビ」(名字の最初の文字が同じ漢字のB子とC子)がよかったな。

B子・C子:(大声で笑う)

T:○○コンビがなんか2人で手を合わせて「ウ~!」みたいなことをやったでしょ?

C子:「やろうね!」って言ってたんです!

B子:(大笑いする)

T:本当は…、合唱のときにあれをやるのは邪道なんだけど…。

B子:「邪道」だ…。

T:やっちゃまずいことなんだけど、でも自然に出てきたのか、「やろうね」って言ってやったことなのかは別として…。

B子:っていうか、(台に)上がったときに、どっちもガチガチで、やり終わったら、握手でもしましょうかみたいな…。

T:楽しく打ち合わせしてたの?

B子・C子:(うなずく)

T:ま、とにかくね、その2カ所がとても印象的でした。あとでまた、もう1回編集し終わったやつをみんなに見てもらおうと思います。

S:(ざわつく)

T:はい、そんなみんなに…、

B子:そんなみんなに?

T:1つ先生相談したいことがあるんですけど…。

S:(数名が「おっ?」「おおっ?」と言う)

T:相談したいことがあるんですが…。実は先生ね、あることに悩んでいるんです。

B子:怖いよう~!

S:(数名がああだこうだと言う)

T:あることに悩んでいるので、ちょっとみなさんに相談に乗ってもらいたいんですが…。ただ、相談に乗ってもらうには時間がないので、また今度改めて…。

S:えええ~!!!

A男:そこまで話して?

S:(他にも数名が「そこまで話して?」と続き、大騒ぎになる)

T:ちょっと待って…。今日は自治委員会もあるから…。(※学級委員が終礼後に自治委員会に出席することになっているので、終礼の時間を延ばせないという意味)

S:えええ~!!!

B子:いいよ、自治委員会なんて!

L子:(時計を見て)まだある! まだある! (※「時間はまだある」という意味)

T:いいよ。

S:えええ~!!!

T:(仕方なく)相談の…、相談の仕方をまだちゃんと考えてないの!

S:(ざわつく)

T:相談の仕方を考えてないので…、もうちょっと相談の仕方を考えてからみなさんに相談します。

S:(ざわついている)

T:はい、ということで。以上、おしまい。

 

【こぼれ話】

今回の話で元々考えていた内容は、「みんなの日頃の生活態度を見ていると、先生はこれまでのみんなに対する指導が適切であったのかどうかということに疑問を感じて悩んでいる。その悩みを解決するために協力してほしい」というような内容のものでした。しかし、【手順・工夫】にもあるとおり、話が肝心な部分まで来たところで、生徒はその「悩み」が自分たちに関する真面目なものであることに思いが至っていないようでした(それは、そこに至るまでの話の内容や話し方にも原因があったように思います)。そこで、その反応に見合った話に組み立て直して改めて話すことにしました。

 

ところが、そうして考えた話は、結果的には元々考えていたものとはまったく異なった、壮大な(?)内容のものになってしまったので、【実際の会話②】として同じタイトルの中に入れるのではなく、別タイトルの独立した話として収録することにしました(「55.先生、ひどいですよ!」参照)。

 

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