【きっかけ・ねらい】
この話をしようとしたきっかけは2つありました。1つは、その日の昼休みに数学科のAA先生から「先生のクラスは反応がいいね。よく手を挙げて発言するし、ユニークな答えも出てくる」というような内容で褒めていただいたことです。そしてもう1つは、5時間目の英語の授業の時にあることに対して「こうあってくれたらいいな」と思っていた反応を生徒がしてくれたことでした(その内容は本文参照)。
そこで、これら2つのことについてふれ、生徒がその日一日を何となく嬉しい気分で終えることができるように、そして生徒のよい点を具体的に取り上げて褒めることで、生徒にその部分を益々伸ばそうと思ってもらえるように、この話をすることにしました。
【手順・工夫】
今回の話は、急に思いついたことでもあり、6時間目に他のクラスの授業があったので、終礼が始まるまでに話の細かい手順を考えておくことができませんでした。ただ、これはいつものことなのですが、一方的に話をするのではなく、生徒の反応を確認しながら、随所に「何だと思う?」と期待を持たせるような問いかけを入れて、生徒の関心を引きながら話そうとだけは考えておきました。
【実際の会話】5/11
T:まずは「お小言」です。
S:(「えっ?何?」という顔)
T:終礼がちょっとうるさい。ずっとうるさいというわけじゃないけど、誰かが連絡をしている時に話をしている者がいる。こういう終礼をしているようでは困る。明日からはもう少し考えて終礼に臨みなさい。わかりましたか?
S:(下を向いていて反応がない)
T:さて、次は「お小言」とは正反対の話をします。今日、先生はちょっぴり嬉しいことがありました。そのことについて話します。
S:(しかった直後で語気が強かったためか、まだ緊張がほぐれていない)
T:いい話をしようというのに、こういう話し方をしていたら、何だかしかられているみたいだよね?ということで、ちょっとニッコリして(わざと大げさに笑顔を作る)話をすることにしましょう。
S:(小さな笑いが起こる)
T:まず、今日の昼休みにこんなことがありました。数学のAA先生と話していたら、AA先生が「5組はとても反応のいいクラスですね。よく手を挙げて発言するし、ユニークな答えも出てくる」というようなことをおっしゃっていました。
S:(まだ喜んでいいのかわからないという様子)
T:よく手を挙げて発言するというのは本当ですか?
S:(顔を見合わせて何か言っている)
T:えっ?そうじゃないの?みんな積極的に発言しているんじゃないの?
A子:(何かぶつぶつ言っている)
T:A子さん、何だって?
A子:記録ノートをつけるのが大変なんです(注:「記録ノート」とは授業中に教師や生徒が発言した内容をすべて記録しておくもので、国語、数学、理科で実施されている。生徒は輪番でそれを担当する)。
T:それって、みんながいい加減なことばかりを言っているということではないよね?
A子:はい。
T:いい意見がいっぱい出るから書くのが大変だということ?
A子:そうです。
T:それならよかった。これからも記録ノート担当が大変なくらい、みんないっぱい発言してください。まあ、AA先生に褒めていただいたので、先生も嬉しく思いました。
S:(ありきたりの話だったので、聞き流している感じ)
T:次は私の感想です。今日の5時間目の英語の授業の時に、先生はちょっと嬉しい気分になりました。
S:(一部は関心を示したが、多くは無表情)
T:それはね、実は本当に小さなことなんだけど…、きっとこの話をしたらみんなは「なんだ、そんなことか…」って思うかもしれないことなんだけど…、先生にとってはとても嬉しいことだったので、それを話したいと思います。
S:(多くが「何だろう?」という関心を示す)
T:先生はね、この学校に来てから…、え~と、平成9年、14年、18年、20年、そして今年と5回2年生を教えているんだけど、実は2年生のちょうどこの時期に同じ内容を同じ方法で教えて、その時に生徒がどういう反応をするかで、そのクラスがいいクラスかどうか、この時点でわかるんだよ。つまりね、その反応がそのクラスが今後よいクラスになるかどうかのランドマークなんだ。
A子:先生、「ランドマーク」って何ですか?
T:え~と、ランドマークっていうのは…、横浜のランドマーク・タワーとか、目印になるもの。指標とかいうのかな。とにかく、目印っていうこと。
A子:(「わかりました」とうなずいている)
T:そしてね、今日の授業の中にそれがあったんだよ。いったい何のことだかわかる?
S:(となり同士でコソコソ話している)
T:それはねえ…、ある写真を見せた時のみんなの反応なんだけど…
B子:赤ちゃんの?
T:そう!まずはその写真の時。あの写真を見せてね、What is she doing?って聞いたでしょ?その時、先生が Don't say "She is eating her finger."って言ったら、みんなが笑ったじゃない。それから、泣いている方のやつで、She is hungry.って言ったら、「だからオモチャをかじってるんだ~!」ってみんな笑ったでしょ?
S:(うなずいたり、その場面のことを周りと話したりしている)
T:そういうね、素直な反応をしてくれるというのが先生には嬉しいんだなあ。ああいう時に、シラ~とされちゃうと困るんだよ。
S:(みんなニコニコしている)
A子:先生、あの時に笑わないクラスなんてあるんですか?
T:そりゃあ、あるよ。
S:え~!うそ~!
T:いや、君たちのようにはなかなか反応してくれない。
S:え~!
T:本当だよ。今までだってそう多くない。それからね、もう1枚ワンちゃんの写真を出したでしょ?
C子:かわいい~!
T:そう、その「かわいい~」っていうことば。こういうことを言うと大げさかもしれないけど…、本当にみんなにとっては小さなことかもしれないけど…、そのちょっとしたことばが出るかどうかが大事なんだ。
C子:だって、かわいかったよ~。
D子:かわいかった~。
T:そういうね、素直な気持ちがごく自然に出てくるというのは、このクラスがすでにいいクラスになりつつあるというランドマークなんだ。「バロメーター」と言った方がわかりやすいかな?先生の経験だと、あの写真を見せたときに「かわいい~」っていう声が出たクラスはみんな気持ちの優しい、すてきなクラスだったなあ。
S:(嬉しそうな顔をしている)
T:だからね…、実を言うと、あの写真をみんなに見せるとき、先生はすごくドキドキしていたんだ。
S:(驚いた顔をしている)
T:何でかっていうと、あの写真を見せたときに、自分のクラスの生徒が「かわいい~」って言ってくれなかったらどうしようって心配していたからなんだよ。そうしたら、みんな「かわいい~」って言ってくれたじゃないですか。だから、先生はホッとしました。「ああ、このクラスはもういいクラスになっているなあ」って。
S:(嬉しそうにニコニコしている)
T:だからね…、これは最初の頃にも言ったと思うけど、いいものや素敵なものを見たり聞いたりしたときは、素直に認めて、それをことばに表すことができる…、そんな雰囲気のクラスに…、これからもみんなにそうあってもらいたいと思っています。
ということで、今日はみんなのちょっとしたことばで、先生はとてもいい気分になりました。では、今日はこれでおしまいにします。
【こぼれ話】
今回の話は生徒はとても気に入ってくれたようでした。なぜかというと、この直後の「さようなら」の挨拶がとても明るく元気な声だったからです。もっとも、褒められるという心地よい話ばかりでしたので、それも当然と言えば当然ですが…。
なお、話の中にもありますが、タイトルは「~のバロメーター」とした方がよかったと思います。話の中で「ランドマーク」と言ってしまったので、タイトルにもそれをそのまま使いました。
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