【きっかけ・ねらい】
この日は2年生になって最初の日でした。入学式の準備のために準備登校し、旧クラスで会場準備や周辺の掃除を行った後に、新クラスが発表されました。悲喜交々の表情が混じる中での教室移動が行われ、新たな41人がそろいました。
新しいクラスの41人は5クラスから均等に集まってきた生徒で構成されています。ただし、その中の5分の2にあたる16人は1年次に授業を持っていなかったので、学年集会や行事等でふれあう以外には接点がなく、新しい担任がどのようなスタンスで教室で話をするのかということはまったく知りません。授業に出ていた担任学級以外の生徒も、終礼に出ることはほとんど無かったので、授業以外に私がどのような話をするのかということはあまり知らないでしょう。元のクラスの生徒を含めると、担任教師である私に対する知識と印象は大きく分けて3種類いることになり、そのような生徒たちに対して初めて担任として口を開く大切な日であると考え、数日前から緊張して迎えた日での話となりました。
今回の話の第一のねらいは、とにかく新しいクラスに集まってきた生徒たちの緊張をほぐすことにありました。簡単なグループ・エンカウンター的な活動をとおして、初めてクラスメートとなる周りの人間と話すきっかけを与えることによって、見知らぬ人の中にいるという緊張感を少しでも和らげてあげようと思いました。そして第二のねらいは、新しい担任がそういうことを重視する人間であるということを伝えることでした。担任は単なる事務的な連絡をするだけの人間でも、悪いことをした生徒をしかるだけの人間でもなく、自分の目の前にいる生徒に少しでもよい環境を与えようと努力している人間であるということを感じてもらおうと思ったのです。
【手順・工夫】
話す手順の工夫としては、下校時刻が迫っていて、じっくりと話をする余裕がなかったので、具体的な行動を指図し、その行動の中に込められているメッセージを感じさせるようにしてみました。
【実際の会話】4/7
S:(全員が席に着いている。かなり緊張した面持ちでこちらをうかがっている)
T:みんさん、こんにちは。新しくみなさんの担任になりましたAAです。よろしくお願いしま~す!(頭を下げる)
S:(・・・)
T:あれっ?前回担任した学年のときは、ここで大きな拍手をもらえたんだけどなあ…。
S:(大きな拍手)
T:ありがとうございます。でも、要求しないと拍手がもらえないというのは、あまり歓迎されていない、つまり、みんなにとってはあまり嬉しくない担任ということなのかな?
S:(どう反応していいかわからないという顔)
T:まあ、私がどういう人間かわからない人も大勢いるし、いきなりそんなことを言われても反応しにくいよね?
S:(・・・)
T:さて、みなさんはこうして新しいクラスに来て、けっこう不安に感じているかもしれないので…。ちょっとみなさんに尋ねたいことがあるので、当てはまるものに手を挙げてくれませんか?選択肢は3つ。今まで慣れ親しんだ教室からこの教室に移ってきて不安だなあと思う人、別にそれほどでもないという人、嬉しいなあという人。
どれかに手を挙げてください。では、不安だなあという人は?
S:(男子が3~4名が手を挙げる)
T:(予想に反して少数であったことに驚いて)へえ、そうですか。意外に少ないんだね。では、それほどでもないという人は?
S:(全体の4分の3以上が手を挙げる)
T:そうなんだ。こんなにいるんだ。では、嬉しいという人は?
S:(誰も手を挙げない。軽い笑いが起こる)
T:そうですか。ゼロですか。それほどでもないという人がいっぱいいたというのは、それはそれでよかった。でも、不安だなあという人も少しはいるわけですよね。人が「不安だ」と感じることの原因の多くは、「よくわからない」ということなんですね。
今のみなさんで言えば、クラスメートのことがわからない、担任のAA先生のことがわからないというようなこと。そこで、その不安を取り除いてもらうことをこれからしたいと思います。
S:(いったい何を始めるつもりなのかという不安な顔)
T:まずはとなりの人と挨拶をしてもらいます。その時に必ず言って欲しいことは、「こんにちは」と名前と「よろしくお願いします」です。
S:(何組かが始めようとする)
T:まだ始めないでください。もしかしたら、となりの人はすでによく知っている人かもしれませんが、その場合でもきちんと挨拶をしてください。これはとても大切なことなので、きちんとやってください。では、どうぞ。
S:(全ペアが素直に挨拶をしている。「~組から来た○○です」と自分の意志で情報を付け加えている生徒も何人かいる)
T:はい、ではやめてください。今度は道をはさんだ反対側の人と挨拶をしてみましょう。両端の人は待っていてください。では、どうぞ。
S:(となり同士より質は落ちた感じがするが、挨拶はしている)
T:はい、終わりましたか?では、次に前後の人とやってもらいます。前後というと、どちらの人と先にやるか迷うと思いますが、適当に調整してください。では、どうぞ。
S:(前後のどちらから先にするかに迷って一瞬動きが止まったが、すぐにバラバラと始まってにぎやかになった)
T:はい、やめてください。これで前後左右のすべての人と挨拶ができましたね。では、今度は斜めの人同士でやってみましょう。これで初めて同性同士で挨拶をすることになります。では、どうぞ。
S:(同性同士だと、女子はきちんとやっているが、男子は適当にやっている)
T:はい、やめてください。さあ、これで少なくとも自分の周りにいる人すべてと知り合いになれました。
S:(さすがに少し表情がほぐれてきている)
T:次に、クラスの41人みんなのことを少しずつ知ってほしいと思います。といっても、一人一人の自己紹介は後日やってもらう予定なので、今日はそれぞれの基礎データを知ってもらうために、先生が特別に作ったプリントを配りましょう。これから配るプリントには、みんなが1年生のときの顔写真が載っています。
S:(座席の位置に顔写真を配したカラーのプリントを見せると、「ギャ~」とか「やだ~」という声が数名の女子から聞こえてくる)
T:そうそう。プリントを配るとき、英語の授業ではみなさんはあることを言いますよね。何でしたっけ?
A男:Here you are.
T:受け取ったら何て言うの?
B子:Thank you.
T:そうしたら、渡した人は?
C男:You're welcome.
T:そうでしたね。Here. Thank you. You're welcome.でした。これを日本語で言ってプリントを回しましょう。
S:(ニコニコしている)
T:それから、ただことばを発すればいいというものではありませんでしたね。もう1つ重要なことがありました。それは何でしたか?
D子:笑顔。
T:それです!こうやって(にっこり顔を作る)にっこり笑って渡しましょう。では、一番前の人には何人分必要かを聞きますから答えてください。
S:(一番前の生徒がみな後ろを振り返っている)
T:では、あなたの列は何枚ですか?
E子:7枚です。
T:はい、どうぞ。
E子:ありがとうございます。
T:いいえ、どういたしまして。
<以下、同様のやりとりを6列やっていく>
S:(ほとんどの生徒が真面目に指示したとおりのやりとりをしながらプリントを渡している)
F子:(自分の写真を見て)やだ~!私、ずいぶん幼い~!
S:(他にもざわざわと声が聞こえる)
T:写真は去年の4月に撮ったものなので、けっこうみんな変わっていると思います。特に、男子がずい分大人っぽくなっているんじゃないかな。
S:(何人かがまだ写真を見ながら周りの者と話している)
T:このプリントはね、写真を1枚ずつ切り貼りして作ったんですよ。元はデジタル写真だから、パソコンを使って作れば簡単なんだろうけど、先生はけっこうアナログな人間なので、今回は手作りにこだわってみました。
S:(私の話などどうでもいいかのように見入っている)
T:では、裏側を見てください。
S:(みんな裏側を見る)
T:こちらには、みなさんの基礎データが載っています。名前の読み方が書かれていますが、まちがっている人はいますか?
S:(互いに周りを見回しているが、誰も手を挙げない)
T:その横の数字の中で1部とか2部とか書いてあるのは附属小の人の元のクラスです。附属小以外の人は5部になっています。これを見て、クラスメートのことをよく知ってください。あと、同じ物を拡大したやつを側面黒板に貼っておきます。(A3版に拡大し、パウチした写真座席表を側面黒板に貼る)
S:(多くの生徒が手元のものと側面黒板のものとを見比べている)
T:では、このプリントを家に持って帰って、家族に今度はこんなクラスメートがいると話してください。あっ、それから5組になって、担任はAA先生になったと言うことを忘れちゃだめですよ。
<以下、事務的な連絡をして終礼を終える>
【こぼれ話】
今日のエンカウンター活動は、1年前の入学式予行でも所作指導をする前に新入生全員に対して行ったものでした。私はこの活動が生徒の心をほぐす大切な指導の第一歩であると信じているのですが(だから、英語の授業でも、毎回の席替えでも必ず行います)、その効果がすぐには現れないこともあるようです。BB(学年主任の名前)学年の生徒では心を開かせるにはもう少し時間と労力がかかりそうです。それは、生徒間の人間関係の緊張度が高いためなのか、自分が教師として生徒から信頼を勝ち得ていないのか、あるいはその両方か、はたまたまったく別の理由によるものなのか、よくわかりません。
実を言うと、最初に自己紹介をしたときに何の反応もなかったのはショックでした。明るく元気に振る舞ったことに対して、前回の学年では生徒も明るく応じてくれましたが、今回はどうやら様子見をしたようです。もっとも、「新しいクラスが嬉しい人?」という質問も含めて、そういう軽い乗りには簡単に乗ってこない、真面目でシャイな生徒が多いのかもしれません。そんな少し落ち込んだ気持ちでいたところ、10日に書かせた「2年生になって」という作文の中に次のような一節がありました。「2年生のクラス替えで、どきどきの中、クラス表を見ると、自分はAA学級の中にいました。クラス替えが終わり、先生に『うれしい人』と聞かれたとき、誰も手を挙げなかったけど、私は心の中で手を挙げた。とてもうれしかった。…」-これを読んだとき、こんな優しい気持ちを持っている生徒たちの心を開くのが私の今後の努めだと心に誓いました。
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