18. 「裸」の自分と「飾っている」自分

【きっかけ・ねらい】

HRH(=ホームルームアワー。特活と道徳を合わせた本校独自の時間で、学年一斉に行う)で2時間をかけて「自分を見つめる」シリーズの第3弾である「自分って何だろう?」、つまり「良いところ探し」の活動を行ったのですが、その最後に予定していた担任からのまとめのコメントが時間の都合で割愛せざるをえませんでした。しかし、この活動にはどうしても補足的な話をする必要があったので、それをその日の終礼時にしようと思い、話したのが今回のものです。

 

参考までにHRHの活動内容を記しておくと、①導入放送を聞く、②自分のよいところをワークシートにある約50のことばより選んでその理由を書く、③6人グループで残りの5人のよいところを同様に書く(ここまでが第1時)、④仲間に③の内容を伝え、本人はそれをメモする、⑤仲間のイメージと自分のイメージを比較してわかったことをまとめる、でした。なお、⑥まとめた内容をグループ内で発表する、⑦活動の様子を見て担任がまとめのコメントをする、の2つが時間の都合で全クラスできませんでした。

 

【手順・工夫】

今回の話は、次のような内容を考えました。

① HRH活動の成果をまとめる。

② 微妙な話を扱ったので、そのフォローをする。特に、活動によってマイナスの感情を持った生徒(実際には感想を読む限りはいませんでしたが)へのケアをする。

③ 互いの良い点を見つけることの大切さと、そのことによって自分が受ける恩恵について意識させる。

 

【実際の会話】1/29

T:今日のHRHでは、最後に先生がコメントをするはずだったのですが、みんなが最後まで一生懸命ワークシートを書いていたので、その時間がありませんでした。そこで、これから今日の活動について少し話をしたいと思います。

S:(一応、真剣に聞く態勢ができている)

T:ここにみなさんのワークシートがあるのですが、すでに全員のものにサッと目を通しました。もっとも、空き時間が1時間しかなかったので、全部を読む余裕はなく、最後の感想のところしか読んでいませんが。それを読ませてもらうと、今日の活動はみなさんにおおむね好評だったようですね。ただ、感じたことは様々だったようです。

S:(穏やかな表情でこちらを見ている)

T:(パラパラとワークシートをめくりながら)例えば、「自分で考えていたイメージと仲間が持っているイメージがほとんど同じでした」という人もいれば…

S:(何人かがうなずいている)

T「まったくちがっていました」という人もいれば…

S:(小さな笑いが起こる)

T:「みんなは自分のことをわかっていないと思いました」という人もいました。

S:(大きな笑いが起こる)

T:自分のイメージと仲間のイメージがちがっていたという人は、もしかしたら学校では本来の自分とはちょっとちがう自分を作っているのかもしれませんね。

S:(「へっ?」という顔をしている)

T:つまりね、裸の自分をさらけ出している人は仲間のイメージも同じなんじゃないかと…。

S:(「裸」と「さらけ出している」ということばに反応して笑いが起こる)

T:「さらけ出す」っていうのはおかしいかな?つまりね、え~と…。飾り気のない、そのままの自分を学校でも見せてるっていうこと。でも、多くの人は裸の自分じゃなくて、ちょっと装った、よそ行きの自分を学校で演じているんじゃないですか?

S:(話が理解できていない様子)

T:例えばですよ。先生なんかはみんなの前では本当の自分とはちがう人を演じているわけで…。

A子:え~!先生、ふだんは本当の自分じゃないんですか?

T:(一瞬、「ふだんは嘘をついているのか」と言われているように感じて「しまった!」と思ったが、そのまま続けることにした)場合によってはそうじゃないときもあるよ。だってね、考えてもごらんよ。この間も「しんちゃんの『お尻プリプリ』っていうのはね…」ってお尻をプリプリさせたけど、まさか「アラサー」どころか「アラフォー」でもない、「アラフィフティー」の先生が、本当の自分の姿でそんなことをするわけがないでしょ?

S:え~!

B子:それが本当の先生の姿でしょ?

T:あのねえ、先生はねえ、そういう時はみんなを楽しませようとして演技しているんだよ。

S:ウッソ~!

A子:あれが本当の先生ですよ。

C子:そうそう。だから「さわり」とか「オンナ」とか。

T子:(ため息をついて)ふ~。あのねえ、いつから私のイメージはそうなっちゃったの?

A子:先生がいつも変なことを言うからです。

B子:そうそう、AA先生(生徒部長)もこの間言ってた。

T:えっ?この間って、先生が休んだ時かい?AA先生が何て言ってたの?

B子:みんながいろいろ面白いことを言うのは、肥沼先生がいつもそんなことを準備室でも言っているのが伝わっているからだろうとかなんとか…。

T:AA先生がそんなこと言ってた?う~ん、まあ、なんだね…。

A子:私ね、ママに言っちゃった。先生が奥さんに毎日"I love you."とか言ってラブラブだって。

S:(笑いが起こる)<注>A子の言った内容は以前に終礼で私が話したことです。

T:あ~あ、そうやって先生のイメージが変な風に保護者に伝わっちゃうんだよなあ。3月の保護者会が心配だ…。

S:(みんなニコニコしている。この話はここで切ることにする)

T:とにかくだ。みんなもそうだと思うだけど、人と話をするときは必ずしも裸の自分であるとはかぎらないよね。先生は教室にいるときと、廊下に出たときではすでにちがう自分になっているし、準備室にいるときもちがうし、家にいるときもちがう。つまり、何種類もの自分がいる。みんなだって、学校にいるときと家にいるときではちがうでしょ?家にいるときの方が羽を伸ばしていて、学校にいるときの方が緊張しているでしょ?だから、そのときそのときによって少しちがう自分を見せていることがある。だから、仲間から見ると、いろいろちがったタイプに見えることもあると思うんだよね。

S:(真剣に聞いている)

T:でもね、だからと言って、裸の自分ではない自分を見せるということは必ずしも嘘をついているということではないと思う。場面ごとに態度や表情を変えるというのは、むしろ大人としては当たり前だからね。だから、自分としては意外な見方を仲間からされるというのもあるんじゃないかな。いずれにしても、今日は自分のことを少し客観的に見ることができてよかったと思います。今日は自分のよいところを知ってもらえたので、その部分をこれからも伸ばすようにしてみてください。では、今日はこれでおしまい。

 

【こぼれ話】

終礼後、明るく元気だが少々わがままなK子が「先生、今日のHRHは私は頭に来た~!」と笑いながら言いに来ました。彼女によると、「他の人はみんな『かわいい』とか『やさしい』とか言われているのに、私は『強い』とかとかそんなのばかりなんですよ」とのことでした。

 

確かに、自己主張が強く、いつも大きな声で話すK子に対してそのような印象を仲間が持っているであろうとは想像できました。私からもそう見えていることもあり、まったくちがう観点のことばでフォローすることもできなかったので、「いいんじゃない。『強い』っていうのは『意志が強い』ということだと思うし、生きる力があるということでしょ」と言ってあげました。彼女はそれ以上何も言わずに戻っていきました。もしかしたら、K子は仲間にそう言われたことをそれほどいやがっているわけではなく、そう言われたことが嬉しくて、単に聞いてもらいたかっただけだったのかもしれません。

 

その日の学年会では、他のクラスの担任からも今日の活動はよかったという声が多くありました。特に、日頃人間関係で悩んでいたある女子生徒が「自分がみんなによく思われていることがわかって嬉しかった」と感想に書いてあったことが紹介され、ひとまず今日の活動が有意義に終わって安心しました。

 

【参考:HRHの導入放送原稿】

今回のHRHは自分が企画したものであったこともあり、活動を開始する前に全クラス一斉に自分が導入放送をしました。そして、全クラス一斉に放送をするからにはきちんとした話ができるように原稿を準備しました。なお、、導入部は今回に先立って行われた2週間分の活動の評価を入れてみました。いずれの時間も、岡田先生のお骨折りと学級委員会のご指導により実施できたものでしたので、その成果をよい印象として生徒の記憶に根付かせることを私なりにねらったものです。ただ、実は前日までに原稿の準備ができず、その日の朝に通勤途中の電車の中で約半分を書き、残りを1時間目が始まるまでに書いたものなので、話すべきことが推敲し切れていないと感じる部分が多々あります。しかし、それでも原稿を作成する時点で、日頃生徒と交わしている会話をイメージし、投げかけのことばや必要な間を入れるように注意しましたので、参考までにここに残しておきます。

 

<放送用原稿>

みなさん、おはようございます。第1学年HRH委員の肥沼です。手元には今日使うワークシートがあると思いますが、顔を上げてしばらく私の話を聞いてください。(間)

 

新年になってからすでに2回のHRHがありました。1回目は、みなさんに今年一年の決意を漢字一文字に表してもらい、それを発表してもらいました。自分のクラスの人のもの以外も廊下に掲示してあったのを見せてもらいましたが、それぞれの気持ちがよくわかる作品だったと思います。みなさんも仲間の作品に目を通したでしょうか?そういえば、担任団の先生方の作品も掲示してあり、誰の物かを当てるクイズがありましたね。正解者には抽選で賞品が当たるとありましたが、よくあるような、どこにでも売っているような景品ではなく、小山先生がみなさんのことを考えてわざわざそのゆかりの地へ行かれて手に入れられた物が渡されます。できれば私ももらいたいなと思っているくらいのものです。期待していてください。2回目は係別の合同会合とクラス目標の達成度評価に関する話し合いがありました。1時間目の係別会合では、他のクラスの同じ係の活動の様子を聞いて、自分のところもやってみようと具体的に動き始めた係もあるようです。この会合では学級委員に進行役を務めてもらいましたが、全部の教室を覗かせてもらったところ、とても上手に議事を進めてくれていて、頼もしく思いました。2時間目はクラス目標がどの程度達成できているかを話し合ってもらいました。クラスによって多少の差はあったようですが、どこのクラスでも今の状況を見直してよりよいクラスにしていこうという気運が高まったと聞いています。

 

前置きが長くなりましたが、今日は新年になって3回目のHRHです。今回は第1学年で「シリーズもの」としている『自分を見つめる』の第3回です。過去2回は、みなさんの大先輩である吉野源三郎さんが書いた『君たちはどう生きるか』の主人公であるコペル君と彼を取り巻く仲間の言動やその裏にある心理を分析することで、同じ中学生であるみなさんにも起こりうるできごとを本の中で体験してもらい、そこに自分の気持ちを投影してもらうことで、同じような状況に出会ったら自分ならどうするかということを考えてもらいました。

 

そこで、今回はそれをもう少し進めて、より直接的に自分の心の中を見つめてもらうことで自分自身を理解し、みんさんのよいところをさらに伸ばしてもらう企画をもちました。

 

では、手元にあるワークシートを見てください。タイトルに「自分って何だろう?」とあります。これは、中学生になった頃、つまりいわゆる思春期に入る時期の生徒たちの多くが心の中で自分に問いかける質問です。自分という人間の存在する意味は何か?自分は周りの人たちにどう思われているのか?等、自分の心の中でモヤモヤした気持ちが渦巻いているということです。みなさんの中には、まさに今自分がそういう状況であるという人もいるのではないかと思います。そこで、今回はまず自分自身をどう考えるかを深く掘り下げて見つめてもらい、さらに仲間から自分の印象を話してもらって、自分のことを客観的に、より深く理解してもらおうという企画を立てました。

 

最初に、今日の作業の概略を簡単に説明します。まず、課題1では選択肢の中から自分の良さを表していると思われることばを選んでその理由を書いてください。続いて、課題2ではグループに分かれた後にそのグループの仲間の良いところを表すことばを同じ選択肢の中から選んで理由を説明してください。次に、課題3では仲間にそれを伝えてもらいます。そして、最後の課題4ではそれまでの活動をとおして感じたことをまとめてもらいます。以上が今日の活動の概略です。

 

最後に、1つだけ注意があります。今日の活動の目的は、自分や仲間のよいところを発見するということですので、ことば選びには十分気をつけてください。例えば、いろいろなことによく気がつくということを伝えたいときに、「細かい部分まで配慮できる」と言うのと「神経質だ」と言うのとではまったく逆の意味を伝えることになります。したがって、くれぐれも自分のことばで自分自身を、仲間を傷つけないように気をつけてください。

 

では、この後は担任の先生の指示にしたがって活動してください。以上で導入放送を終わります。

 

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