16. お前ら、何やってるんだ!

【きっかけ・ねらい】

昼食時に教室に行ったところ、座席移動が禁止されている放送中にもかかわらず、多くの生徒が席を移動して弁当を食べていました。この日は、担任が外部入学試験の実務担当責任者として願書受付にかかりきりで、授業も他の先生に代わってもらったくらいでしたので、生徒は昼食時にも担任が教室に来ないものと思ってそのような勝手な行動をとったものと瞬間的に察知しました。そこで、その場で「お前ら、いったい何をやっているんだ!すぐに自分の席に戻りなさい!」と厳しく叱り、とりあえずその場の収拾を図りました。

 

その後、自分も教卓横にある机で一緒に昼食をとったのですが、かなり厳しくしかったこともあって居心地が悪く、生徒も自分もほぼ無言で昼食時間を終えました。そこで、

終礼時にもう一度じっくりこの件について話すことにしました。

 

【手順・工夫】

今回の一件は、担任がいないところでは自分勝手な行動をしてもかまわないという雰囲気が学級内にあったので起こったものだと思われました。おそらく、担任がいても少しでも目を離すと席を移動しようとする女子数名がまず動き、それを見ていた他の生徒がそれに流されたものではないかと思われます。そのような生徒を制止できる指導を日頃からできていなかったことを反省しつつ、次のようなねらいで話をしようと考えました。

 

① 自分たちの行動は担任の信頼を裏切るものであるという意識を持たせる。

② その行動が巡り巡って自分たちに悪い影響を与えることを具体例を話して理解させる。

③ 担任がいないときこそ全員でしっかりとした生活を送らなければならないという自覚を持たせる。

 

なお、今回は生徒と対話をしながら進めていくという形にはそぐわない話であったので、生徒の顔色を確認しつつ言い聞かせる内容になっています。

 

【実際の話①】現場指導編 1/19 昼食時

T:(教室の前のドアを開けると、3分の1くらいの生徒が席を移動して昼食をとっている)おいっ!これはどういうことだっ! お前ら、何をやっているんだ! まだ放送中だというのに、なぜ自分の席に着いていない?すぐに自分の席に戻りなさいっ!

S:(席を移動していた者がすごすごと元の席に戻る)

T:学級委員は前に来なさい。

学級委員:(4人とも前に来て担任の前に一列に立つ。4人とも顔をこわばらせている)

T:この状況はいったいどういうことだ?学級委員は何をしていたんだ? 君たちがしっかりしてくれなくては困るじゃないか。しかも、君たちまで移動している者がいたというのはどういうことだ? 学級委員がそういうことでいいのか?

学級委員:(何も言えずに顔をこわばらせている)

T:学級委員はみんなをしっかりとまとめるのが仕事だろう?先生がいないときはなおさらしっかりしてもらわなければ困る。いいか?しっかりしなさい。わかったら、自分の席に戻りなさい。

学級委員女子A:どうもすみませんでした。

学級委員他:どうもすみませんでした…。(席に帰る)

 

【こぼれ話①】

学級委員を大きな声で叱責したのは、学級委員自身に自覚をもってもらうことの他に、彼らを厳しく叱る姿を他の生徒に見せ、自分たちの行動によってクラスの代表が叱られてしまったという思いを持たせるというねらいがありました。

 

終礼時、学級委員4人が自主的に前に出てきて、男子の1人が「注意できなかった自分たちの責任もあるんですが、みんなも先程先生におこられたように、守らなくてはいけないことは守ってください。お願いします」とクラスメートに投げかけていました。

 

【実際の話②】追加指導編 1/19 終礼時

T:みんなは「かわいさ余って憎さ百倍」ということばを知っていますか?

S:(あまり反応しない。どうやら昼食時の一件でしかられると覚悟しているらしい)

T:これは、例えば、自分が大好きな人がいて、その人のことがあまりにも好きだから、ちょっとしたことで、その人のことが憎くなるということです。なんでこんな話をし始めたかもうわかっていると思うけど、別にみんなのことを憎いと思っているわけはないんだけど…、今は信頼していたみんなに裏切られたという思いがあります。「かなしい」「残念だ」…、いや「がっかりした」というのが一番正確かもしれない。

 お昼の放送時は、「ご馳走様」が済むまでは自分の席で食べるというのが約束だったはずだ。それが今日は先生が来たときにそれが守られていなかった。おそらくみんなは、私が今日は願書受付作業で忙しいから教室に来ないと思っていたんだろう? なにせ、授業さえも植野先生に代わってもらったくらいだから。一番がっかりしたのはそこだ。「先生が来なければ何をしてもいいや」という発想をしたところだ。君たちは何かい? 〇〇先生(筆者)の前で良い子にしてればそれでいいってことかい?だから、他の先生授業のときもうるさくなるのかい?もしそうだったら、先生はみんなの教育をまちがっていたということだ。先生はみんなの本当の姿を見誤っていたということだ。先生はみんながもっと自分たちでしっかりやってくれるものだと思っていた。だから、今日は本当にがっかりした。

S:(真剣な顔でこちらを見ている生徒と下を向いている生徒が半分くらい)

T:「先生、そんな固いこと言わずに、自由にしたっていいじゃん」と思っている人もいるだろう。そう思っている人に言いたいんだが、それは大まちがいだ!ここまで、みんなの中では「5組はいいクラスだ」という気持ちがあったと思うが、それはこれまで守るべきことを守ってきたからだ。それをなし崩しに崩すヤツが出てきたら…、そう、そういう自分勝手なヤツにかぎって、クラスの雰囲気が悪くなったら「このクラス雰囲気がよくないよね~」なんて言いだしやがる。自分がその勝手な行動で大切なものを壊しているのに全く気づいていない。私はだてに25年間も教師をやっているわけではない。そういう自分勝手な行動がクラスの雰囲気を悪くしている例を、自分のクラスでも自分の周りのクラスでもいっぱい見てきている。逆に、よい雰囲気のクラスは、みんなが協力してきちんとルールやマナーを守っている。そういうクラスが「いいクラス」なんだということを経験として知っているんだ。

S:(多くの生徒が顔を上げているが、席を移動していた者の多くは下を向いている)

T:だから、5組の人たちにもきちんと守るべきことは守るという意識を改めてしっかり持ってもらいたい。そうすれば、最後まで「いいクラスだな」って思い続けられると思う。逆にそれが崩れたら、クラスは崩壊してしまって、みんなが結果的にいやな思いをすることになる。さっきは学級委員をしかったけど、彼らが悪い訳じゃあない。もちろん、注意すべき立場でありながら自分も一緒になって移動していた者はダメだ。もっと責任感をもってもらわなければならない。本当に考え直してもらわなければならないのは全員だ。先生がいない時こそ、みんなの力でしっかりやっていこうという意識をもち、お互いに声を掛け合ってほしい。ここで「いいですか?」って聞いて、みんなが「はい!」なんて答えても意味はない。今後のみんなの行動を見ていきたいと思う。では、今日はこれでおしまい。

 

【こぼれ話②】

さすがにかなりの勢いでしかったので、生徒達もかなり反省したようです。まず、ある男子が清掃時に私から黒板消しを取って黒板をきれいにしてくれました。また、翌日以降の終礼でも週番やフロアーから私の話に触れて反省が出てきました。もっとも、いつものことではありますが、特定の教科の授業では相変わらずおしゃべりで注意されることが多いようで、なかなか一度にクラス全体をよい方向に導くのは難しいと感じました。

 

ところで、生徒を本気でしかったこの日は精神的にかなり疲れました。帰りの電車の中でもイライラし、帰宅してからも1人でトイレや風呂に入っているときはブツブツとつぶやいている自分がいました。生徒の行動をしかっている一方で、内心では自分の指導の至らなさに自分で嫌気がさしていたのではないかと思います。本当に疲れた一日でした。

 

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