1. リーディング・ショー


(1) リーディング・ショーとは?

「リーディング・ショー」(Reading Show。以下「RS」)とは、音読発表会のことです。生徒にとっては日頃の音読練習の成果を発表する場で、教師にとっては生徒の音読技術を評価する場です(要するに「音読テスト」ですね)。

 

RSがいつから実施されるようになったかの記録は定かではありませんが、遅くとも筆者が着任した翌年の平成8(1996)年には1年生で実施していたと記憶しています。当初はその学年を担当した蒔田・肥沼の共同企画でしたが、その翌年からは他学年でも行われるようになり、平成17(2005)年には英語科の「話すこと」の評価項目として年間指導・評価計画に位置づけられ、それが現在まで続いています。

 

音読は前学習指導要領までは「読むこと」に位置づけられていましたが、本校では「話すこと」の指導・評価項目としています。それは、音読は「話すこと」の基礎を支える活動だと考えているからです。すなわち、音読を繰り返し行うことで英語の発音やイントネーション、感情の表し方を身につけ、英文の構造もいつのまにか頭に入って、結果的に話す力をつけると考えています。

 

(2) 実施計画

上記のとおり、現在ではRSはどの学年でも定期的に行われる活動です。ただ、日頃はなかなかそのような時間が取れないので、普通は長期休業の直後に行われます。これは、長期休業中は教科書等の既習ページの音読練習を課題の1つとしているので、その成果を評価する(生徒の立場からは「披露する」)機会を設けたいということからでもあります。

 

3年間の実施時期はどの学年でもだいたい以下のとおりです。

 

<1年生>

・第1回…夏休み後

・第2回…冬休み後

<2年生>

・第3回…春休み後

・第4回…夏休み後

・第5回…冬休み後

<3年生>

・第6回…春休み後

・第7回…夏休み後

・第8回…冬休み直前

 

なお、上記の“定期開催”の他に臨時のものを追加する場合もあります。

 

(3) 教材

音読する対象の教材は、基本的には教科書本文の既習ページです。ただし、学年が進むにつれて、教科書に加えてNHKラジオ『基礎英語1~3』の既習ページや副読本の既習ページを使うこともあります。また、3年生になると名演説などを教材とすることもあります。元々感動的な内容のものが多いので、生徒も気持ちを込めて発表します。

 

音読するテキストのページは、多くの場合で生徒個人が好きなところを選べるようにしてあります。こうすることで、発表以前にその箇所を集中して練習させて、パフォーマンス・レベルを上げたいという思惑があるからです。ただし、場合によってはどの箇所をいきなり読まされてもきちんと読めるかどうかを評価したいこともあり、そういう時には「リレー方式」を採ることもあります。これは、前の生徒が制限時間が来た時に読んでいた最後の文の次の文から読み始めるというものです。

  

 


名演説の暗唱発表(3年生。ノーベル平和賞受賞者ジョディ・ウィリアムズのスピーチの再現)

 

(4) 実施方法

基本的に各クラスで公開発表形式で行います。つまり、一人一人の生徒が教卓のところで仲間の前で発表するという形です。1単位時間で1クラス40~41人すべての生徒の発表を終わらせたいので、一人50秒の「持ち時間制」で行っています。もちろん、そのためには持ち時間が切れたことをチャイムで繰り返し伝えるタイマー(MDプレーヤーやタブレット)を使います。

 

発表の具体的な流れは

① 待機場所(前の発表者のすぐ横)でスタンバイする。

② 前の生徒の持ち時間のチャイムが聞こえたと同時に次の生徒が発表場所に移動してすぐに音読を開始する。

③ 次のチャイムがなったら途中でも終了してその場を立ち去る。

という方式です。①で次の発表者をすぐ横に待機させるのは、ロスタイムを最小限にして行うためです。

 

なお、音読であっても「話すこと」の評価項目に入れていますから、テキストに目を落としたまま漫然と音読することは好ましくありません。そこで、Read and Look up で読むことを基本としています。しかし、多くの生徒がこの活動に力を入れているので、そういう生徒は自分が読む箇所を暗記して、演技も入れながら発表しています。

 

(5) 評価項目

評価項目は、初期の頃は担当者によって様々でしたが、現在はおおむね以下の3つの観点となっています。

 

① 態度…Read and Look up で聞き手に話しかけるように読んでいるか。

② 英語…英語らしい発音やリズム、イントネーションで読んでいるか。

③ 演出…場面や登場人物の気持ちなどが表れるように工夫して読んでいるか。

 

上記の評価項目は事前に生徒にも示しているので(実施要項の現物はこちら)、生徒はこれらの評価観点でよい成績をあげられるように事前によく練習してきます。また、上記の評価項目にしたがって仲間同士でも相互評価を行い、優秀発表者を投票することが恒例になっているので(相互評価票兼投票用紙はこちら)、多くの生徒が仲間の前で自分の工夫点を披露しようと頑張っています。

 

(6) 事後指導

本校では以前から「振り返り学習」を大切にしています。何事もやりっ放しで終わらせず、必ず振り返りをさせて、自分で自分の学習成果を評価させ、次の学習目標を立てさせるように指導しています。これによって、「自立した学習者」を育てようというものです。令和3(2021)年4月に施行される新学習指導要領でも、「主体的・対話的で深い学び」の「深い学び」の中で振り返りの重要性が謳われていますが、本校ではそれを以前から行ってきたいうわけです。

 

その振り返りを確実に行わせるために、遅くとも平成13(2001)年には発表を録音させて(当時はカセットテープ、2013年からはICレコーダー)、実施後に振り返りのレポートを提出させています。これは自分の音声が残っていないと発表を振り返るのが難しいからです。

 

レポート(現物はこちら)では、まず自分の発表を聞き返して、すべての「発言」を書き出させます。そして事前に自分が工夫したと考える部分を青で、失敗したり工夫すればよかったと思う箇所を赤でコメントさせます。次に、自分が「優秀発表者」として投票した数名(たいていは3名)について、どこがその思う点なのかを説明させます。これによって、仲間の発表から自分の改善点が見えてくるからです。そして最後に次回の発表に向けての努力点や決意を表明させます。

 

ここまでの指導で一連の活動を終了します。 

 

(7) 実施上の工夫

ここまでの説明の中にこの活動をきちんとしたものにするための工夫をまとめてみると以下のとおりです。

 

① 実施時期を固定することで、生徒に心の準備をさせる。

② 複数回行うことで、各個人に成長していく機会を与える。

③ 教材を選択させることで、よりよい発表を行う機運を高める。

④ 公開方式で行うことで、緊張感のある発表を行わせる。

⑤ 持ち時間制にすることで、無駄な時間(ロスタイム)を最低限にさせる。

⑥ 評価項目をあらかじめ示すことで、教師のねらいに沿った発表をさせる。

⑦ 生徒同士の相互評価をさせることで、互いに学び合う機会を与える。

⑧ 発表を録音させることで緊張感を持たせ、事後指導にもそれを利用させる。

 

これらの他に、次のような工夫をして、生徒によりよいパフォーマンスを行うように仕向けています。

 

⑨ 発表は必ず録画する。こうすることで生徒に適度な緊張感を持たせることができる。また、生徒が録音に失敗したときはビデオから音声を取ることができ、教員が何らかの理由でその場で評価ができなかった場合は映像を見て評価することができる。また、映像は個人の成長の記録として残すことができ、優秀発表者ダイジェスト版を作成することもできる。

⑩ 2回目以降は「優秀発表者」部門に加えて「前回より上達したと思う人」部門の投票を行い、相対評価では上位に入らなくても個人内上達評価としては高評価を得られることを伝え、すべての生徒に活動への意欲を持たせるようにしている。

⑪ 投票結果は各部門ごとに集計して結果を発表する。各部門上位5名にはステッカーを与えている。また、学年毎の優秀者名簿を作成して英語科通信などで発表している。

⑫ 生徒互選による優秀者のビデオを集めたダイジェスト版を学年全員で観賞し、クラスを越えた学びの場を与えている。単に観賞するだけでなく、どこが学べるところなのかを生徒同士で議論させている。また、このダイジェスト版を下級生に見せることで、その学年の生徒に達成目標を映像で示すことができる。

 

(8) 一般公開

本校には「学芸発表会」という行事があります。一般校で言うところの「文化祭」にあたる行事です。「学芸」というタイトルにあるように、授業や学校生活全般の活動の成果を披露する場です。毎年10月末の土曜日または文化の日(11/3)に行われ、保護者だけでなく、本校の受験を考えている外部の一般客(毎年約4,000名が来校します)にも公開しています。

 

その学芸発表会に、平成22(2010)年度から「英語科・英語係」のメイン企画としてRSも披露しています。具体的には、夏休み後のRSで優秀発表者に選ばれた各クラス8~10名に、貸し切りした教室で発表してもらうというものです。朝9時から午後3時まで、1クラス20分の枠を設けて、3学年15クラス全部が参加します。

 

この発表会は保護者及び一般客から大変好評で、特に1年生の発表時間帯は教室に入りきれないほどの参観者が集まります。発表者の生徒たちも、保護者や一般客に見られるとあって、おお張り切りです。クラスで行ったときと同じ教材であっても、まったくちがう世界を演じているのかと思うくらいの演技が数多く登場し、参観者を楽しませています。毎年外部の一般客の投票で「良かった発表」の展示部門の上位に入っており、1位を取った年もありました。

 

運営は、学芸発表会が生徒会行事なので生徒にほぼ任せています。「英語係」という名前が付いているところが他教科の発表(他教科はすべて作品の展示)とちがうところです。もちろん、元になったものはほとんど教員が作ったものですが、2020年の時点ですでに10年間の経験があるので、現在は発表時間割の作成、会場の飾り付け、当日の司会・進行やなども生徒(英語係)の力で行われています。


学芸発表会「英語科・英語係」における発表(左は英語で司会をする英語係)