※ページの一番下に挨拶活動の変遷と指導経過がわかる筆者の授業映像へのリンクがあります。
ただ、いきなりそれをご覧になるのではなく、ぜひ以下のことをお読みになってください。
筆者が教員向け研修会等で受講者の先生方に尋ねたところでは、中学校の教員の約80%、高校の教員の約40%は授業の最初に何らかの挨拶活動を行っているようです。授業の最初に毎回挨拶の表現を生徒に言わせるかどうかは議論の分かれるところですが、せっかくやるのであれば有意義な時間にしたいものです。そこで、ここでは附属中学校で全教員が共通で行っている挨拶活動のやり方について紹介します。
(1) 「教師→生徒」から「生徒→教師」へ
筆者が過去に他の先生方の公開授業を見たり研修会等で参加者に聞いたりしたところでは、多くの先生方が授業で次のような挨拶活動を行っています。
教師:Hello, everyone/students/boys and girls.
生徒:Hello, Mr./Ms. A.
教師:How are you?
生徒:(I'm) Fine, thank you. And you?
教師:(I'm) Fine, too, thank you.
これをお読みの先生もきっと上記と同じかこれに近い挨拶をなさっているのではないでしょうか。この挨拶活動は、筆者が中学生の頃の英語の教科書の最初の方に必ず載っていたもので、そのせいもあって、それを使って育った世代の先生はご自身の授業でもそれを実践なさっていることが多いようです。
さて、筆者は何もこの内容を否定したいわけではありません。また、「そもそも英語の授業でネイティブはこのような挨拶はしない」という考えを主張しようとしているわけでもありません。ここで言いたいのは、基本をおさえた上で生徒をより主体的にこの挨拶活動に取り組ませるためには工夫が必要であるということです。
では、どのような工夫ができるかと言えば、上記の典型的な挨拶活動で気になることから考えていくと答えが見えてきます。それは以下の2点です。
① 生徒は答えの文しか口頭練習ができない
② 生徒は教師が尋ねるから答えるという受け身の姿勢になる
①は典型例を見ればわかりますが、生徒は And you? 以外に質問をしていません。How are you? という簡単な質問さえも言う機会がありませんから、せっかく毎回の授業で行っている活動が表現の定着にはつながっていないのです。
②は授業の初めはいつも先生が何かを言わないと始まらず、生徒は先生が何かを言うから仕方なく応じているという図式が定着してしまうことを意味します。例え生徒がこれらの表現を元気に言っていたとしても、彼らは暗記している表現をただ言っているだけで、彼らの脳はほとんど働いていません。
これらの気になる点を改善するにはどうしたらいいでしょうか。最も簡単な方法は挨拶を言う順番を逆にすることです。すなわち、生徒から挨拶を始める流れにするのです。
生徒:Hello, Mr./Ms. A.
教師:Hello, everyone/students/boys and girls.
生徒:How are you?
教師:(I'm) Fine, thank you. And you?
生徒:(I'm) Fine, too, thank you.
このようにすると、生徒は挨拶の中の疑問文を練習でき、かつ次に何を尋ねたらいいかと頭を使うことになります。また、上記以外にも What day is it today?、What's the date today?、How is the weather today?、Who is absent today? などのやりとりをしている先生もいらっしゃるでしょう。これらの質問も生徒にさせるようにすると、これらの表現を毎時間練習することができます。つまり、1回かぎりの導入及び練習で終わってしまうのではなく、毎時間の授業で使わせることで確実に身につけさせることができるというわけです。
(2) 曜日・月日・天候・出欠などの確認を入れる
「新文型のオーラル・イントロダクション」で紹介した「曜日」、「月日」、「天候」、「出欠」ですが、それらの言い方と尋ね方の表現は導入してちょっと練習しただけではなかなか身につきません。できるだけ頻繁に繰り返しこれらの表現を実際に使わせる必要があります。
その一番の方法は、毎回の授業の最初に必ずこれらの表現を使って曜日、月日、天候、出欠の確認作業を入れることです。上手にやれば、すべての確認に30秒もかかりません。それだけでこれら4つの表現を定着させられるのです。
ちなみに、筆者や筆者の元同僚が前任校で共通実践していた挨拶からこれらの確認までの典型的な流れは概ね次のようでした((1)の「生徒→教師」の内容と若干異なります)。
週番A:Hello, Mr. Koinuma.
生徒:Hello, Mr. Koinuma.
教師:Hello, everyone. How are you?
生徒:I'm good, thank you. How about you?
教師:I'm good, too, thank you.
週番A:What day is it today?
生徒:It's Monday.
週番B:What's the date today?
生徒:It's June 1st.
週番C:How's the weather today?
生徒:It's sunny.
週番A:Who is absent today?
生徒:Ken is absent.
教師:Who else is absent?
生徒:No one else is absent.
※「週番」とは学級週番のことで、各クラス3人一組で務めることになっています。だれがどの表現を言うかはあらかじめ3人で相談させておきます。
これだけのやりとりを毎回の授業の最初にやれば、生徒はこれらの表現をしっかり身につけることができるでしょう。教師はそのうちの3回しか登場していませんから(紫色太字)。
(3) リズムに乗って言う
「生徒→教師」の順番で挨拶活動を行う利点は理解できたと思いますが、ここで実際の指導を思い浮かべたときに疑問を持った人もいるでしょう。それは「生徒から始めさせるときのタイミングはどうしたらいいのだろうか?」です。教師から始めるのであれば教師の意志で任意のタイミングで始められますが、生徒から始めるとなればそのタイミングの取り方がわからないと考えるのは当然です。
もちろん、すでにそれを行っている先生は、例えば "All right, let's say hello to each other." とか "I want to check if everyone is here." と言ったり、単に "Roll Call!" などと宣言して、"Ready, go!" などと生徒の発言を促すようにしている人もいるでしょう。ただ、それでもまだ教師の指示にしたがって言っているという感は否めません。それを解決するのがリズムを使うことです。
筆者の前任校では約20年前から『チャンツでノリノリ英語楽習』(高橋一幸著、NHK出版)の中の「ワッタイム・チャンツ・カラオケ」を使っています。この曲(リズム)はリズム感のある短い前奏の最後に「ア~ア、ハッ!」という掛け声があるので、生徒はそれをきっかけに最初の質問文を言い、残りもリズムに乗って言っていけば、無駄な間もなくスムーズにすべてを言い切ることができるというわけです。
ところで、挨拶の表現をリズムに乗せて言うのは意外にに難しく、研修会等で経験してもらった際も戸惑う先生方が多かったように思います。それは、日本語のように1文字ずつ1音に載せるのではなく、さらに通常の英語の歌のように1音節に1音載せるのでもないからです。
例えば、
Hello, everyone. How are you?
であれば、多くの先生が次のように1音節に1音を載せて言おうとします。
Hel-lo, ev-ery-one. How are you?
● ● ● ● ● ● ● ●
しかし、これでは英語らしいリズムにはなりません。そのためには次のように言います。
Hello, everyone. How are you?
● ● ● ●
下に実際の授業の模様をビデオで紹介しているYouTubeの案内を記しますが、それも参考にして練習してみてください。
【特別公開映像】YouTube限定公開 ※限定公開なので検索では出てきません。以下のリンクをクリックしてください。
『Mr. Koinuma's 英語授業の挨拶活動-個人の変遷と共通実践の指導経過-』(約10分)
※生徒の個人情報保護の観点から、顔にはモザイクを入れて指名音声等は消してあります。そのため映像/音声が多少見にくく/聞きにくくなっていることをご了承ください。
<内容>
・第Ⅰ部…教師個人の実践の変遷
→1996年~2021までの25年間の挨拶活動の進歩を筆者の5つの授業ビデオで振り返ります。
・第Ⅱ部…共通実践の指導経過
→リズムを使って「生徒→教師」の流れで挨拶活動を行うまでの指導過程を紹介します。
【備考】後輩たちによる挨拶活動の新たな展開
筆者が2021年度をもって前任校を定年退職したあと、筆者の後任を含めた後輩4人の先生方は、挨拶活動を新たな展開へと発展させています。2022年度の研究協議会から始まった新たな研究「即興的に表現する力を養うための授業実践研究」では、授業の最初の挨拶活動からそのままチャット活動に移行するという指導過程を新たに開発しています。リズムに乗って「学級週番→生徒全員→教師」という流れはそのまま、その後はペアで How are you? の質問をし合うことをきっかけとしたチャット活動に移るというものです。2023年度の研究協議会の公開授業を見せてもらいましたが、生徒たちは主体的で楽しそうにその活動に取り組んでいました。
筆者が在職中はその最後の年に行っていた活動が自分を含めた英語科としてのその時点での“完成形”であったのですが、後輩の先生方はそこで満足することなく、さらによいものを生徒に提供しようと努力し続けています。今後の同校の先生方の活躍にご期待ください。なお、同校の公開授業をご覧になりたい方は、「筑波大学附属中学校」のコーナーの「(5) 研究協議会情報」のページをご覧ください。
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