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はじめに
平成元年度の学習指導要領の改訂によって文法事項の学年枠がはずされ、各教科書には1年生の最後に一般動詞の過去形が取り入れられました。過去形が早期に登場したことで、自己表現活動にそれまで以上の広がりが生まれ、表現の中身にも深まりを持たせることができるようになりました。しかし一方で、やや複雑なルールを伴う文法事項が早めに登場したことが、生徒に負担となっているようにも感じられます。
そこで今回は、規則動詞の過去形の用法を、①既習事項を活用してオーラルにより導入し、②場面を重視したコミュニケーション活動の中で練習させ、③まとめの文法学習を行うことで理解を深めさせる、という流れで指導する方法を示したいと思います。なお、過去2回と同様に、自分が平成8年度に行った授業の記録をもとに指導の一方策を例示することとします。
1.既習事項を活用した導入と練習
まずは、現在の習慣的な行為を表す表現から入り、オーラル・インターアクションを行う中で過去形を導入します。ポイントは、既習事項を上手に利用して、話の流れから過去のことを言っているのだと想像できるようにすることです。
<第1時> ※文法指導の箇所のみ抜粋
① Oral
Introduction
T: Let's talk about sports. I play tennis every
day. So you say...?(自分を指して)
S: You play tennis every day.
T: What sport do you play,
Sato-kun?
S1: I play soccer.
T: Do you play it every day?
S1: Yes, I do.
T: How about yesterday? Today is Monday. Yesterday
is Sunday. You played soccer yesterday?
S1: Yes.
T: Oh, you played soccer
yesterday.
※ 何人かの生徒にと同様の対話をする。
※ listen to music についても対話をする。
T: You talk about 'every day,' then you say, "I
play something every day." But you talk about 'yesterday,' then you say, for example, "I play tennis yesterday."?
S: "played."
T: That's right. How about "listen to music"? "I
listen to music last night"?
S: No, "listened."
② Mim-mem
T: Let's practice. Repeat,
"played."
S: "played"
T:(自分の上に「吹き出し」マークをもって) I played tennis
yesterday.
S: I palyed tennis yesterday.
T:(「吹き出し」マークをとって) I played tennis every
day.
S: You played tennis every day.
※ listen についても同様に練習する。
※特に[d]の音を強調して練習させます。
③ Oral
Practice(Chorus→Individual)
次のPCを示して、口頭練習させます。[t]という音があることにも注意させます。
(平成5~8年度版 New Horizon Book
1より→省略)
④ Consolidation
[d][t]という音からつづりを想像させます。③で練習した文をノートに書かせます。
<第2時> ※文法指導の箇所のみ抜粋
① Review(Recollection of the Main
Point)
前時のPCを使って表現を思い出させます。
T: Look at this picture. Ken likes TV. Does he
watch TV every day?
S: Yes, he does.
T: Long answer, please.
S: Yes, he does. He watches TV every
day.
T: Then, how about yesterday? In this case you
say,...?
S: Ken watched TV yesterday.
T: Good! Ken watched TV
yesterday..
S: Ken watched TV yesterday.
※残りの人物についても同様に。
② Pair Practice
目標文が正しく言えるようになったかを、次のワークシートを使ってペアで確認させます。
(省略)
③ Oral
Introduction
今回の指導内容は過去形の疑問文の問答です。すでに do, does
は頭に入っているわけですから、それらとの相違を上手に利用して無理なく理解させたいものです。疑問文の導入方法としては、前回は生徒とのインターアクションをとおして教えていく方法を示しましたが、今回はモデル対話を聞かせるという方法を採りました。ALT がいなかったので、腹話術で行いました。題して「ケンちゃんといつでもティーム・ティーチング」。
1) Input of the Target
Expression
T: Ken-chan, we are talking about TV. Do you watch
TV every day?
K: Yes, I do. I watch TV every
day.
T: Then, how about yesterday? Did you watch TV
yesterday?
K: Excuse me?
T: Did you watch TV yesterday?
K: Oh, yes, I did.
T: You did?
S: Yes, I did. I watched TV
yesterday.
T: Then, did you watch TV last
Sunday?
S: Last Sunday? No, I didn't.
2) Check of
Understanding
T: All right, everyone. Did Ken-chan watch TV
yesterday?
S: Yes,...I...did.
T: "I"?
S: "he"!
T: Did Ken-chan watch TV
yesterday?
S: Yes, he did.
T: Did he watch TV last Sunday?
S: No, he didn't.
④ Mim-mem
1) 答え方
Yes, he did./No, he didn't.の他に、主語を you
に代えて生徒に質問し、Yes, I did./No, I didn't.も練習する。
2) 質問文
T: Repeat, "He watched TV
yesterday."
S: He watched TV yesterday.
T: Question!(注:疑問文にするというcue)
S: Did he watched TV yesterday?
T: "Watched"? No, in this case you say,"Did he
watch TV?" Again!
S: Did he watch TV yesterday?
⑤ Oral Practice
前時と同じPCを使って練習させます。
⑥ Consolidation
did のつづりを音から想像させてみます。また、実際にそれまでに口頭練習した文を書かせ、-(e)d
が疑問文では落ちることなどを再確認させます。
2.場面を重視したコミュニケーション活動
さて、ここまでに十分な口頭練習ができましたので、少しだけ場面を重視した活動ができるようにしましょう。
<第3時> ※文法指導の部分のみ抜粋
◎規則動詞の過去形を使った情報収集活動
本活動の目的は、情報交換を行うという場面をとおして、規則動詞の過去形の問答文を使うことに慣れさせるというものです。(ワークシートは次ページ参照)
本活動の第1のポイントは、「答えを予想する」というところにあります。こうすることによって、相手に尋ねて情報を集めようという動機を持たせることができます。ペア活動などにも大変有効なので、よくこの方法を採ります。
第2のポイントは、尋ねた結果を報告させるために、集めた情報をまとめて客観的な立場の文に書かせる活動(Step
5)を入れたことです。ともすれば、ワイワイ・ガヤガヤと楽しく情報集めができたで終わってしまいそうなこの種の活動を、より地に足の着いたものとするためのpost
activity です。
3.理解を深めさせる文法学習
(1)
コミュニケーション活動と文法指導の両立
このことは、ここ数年大きな議論の的になっています。私自身も何度か各種学会のパネリストとなってこの点を勉強しましたが、それでも明確な答えは出せていません。ただ、1つだけ言えることは、両者は対立するものではなく、共に教える中でそれぞれの効果を相乗的に高め合うものだということです。ですから、授業においても両者をバランスよく指導する必要があります。そして、中・長期的な視点でスパイラルに積み上げるのだという考え方で、授業計画を立てるようにします。
(2) プリントによる文法学習
授業で文法のまとめを扱う場合、最も一般的な方法は教科書の「文法のまとめ」のページを使うことでしょう。ところが、このようなページは、たいていスペースの関係で十分な説明は記されず、扱い方は教師に委ねられています。
私は、このようなページを扱うときは毎回そのページをベースとした自作プリントを作成し、半自習的な授業を行います。文法のまとめの時間は、このようなプリント学習に切り替えてしまった方が、ダラダラと口頭で説明するような授業をしなくてすみます。また、あらかじめプリントを作っておくことで、クラス毎に説明する内容がちがってしまったというようなことを防ぐこともできます。
プリントを作成する際の留意点は、自分の生徒の実態とそこまでの授業内容を踏まえ、あと何をおさえておけばよいかということを見極めることです。また、演習問題は、答えが教科書の例文になるような問いにすると、答え合わせをしやすくなります。
おわりに
これまで3回にわたって1年生の文法指導の例を紹介しました。いずれの回も、「これが理想の方法だ」というような机上の論理を展開するのではなく、自分が実際に行ったことをその理念と共に示しました。したがって、大切なことを落としているかもしれませんが、その点はご容赦ください。
※『楽しい英語授業』第18号(明治図書、1999.12)に掲載されているものを加筆・修正しました。
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