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1.入門期の文法指導の考え方
今(注:1999年当時)から数年前に、中1の授業で新出事項の導入を次のようにされている先生に出会いました。
「(板書しながら)今日は He is a student.『彼は生徒です。』という表現を勉強します。この he は『彼は』という意味で、すでに一度出てきた人を指すときに言います。」
このように文法事項を明示的あるいは演繹的に示すことは、場合によっては学習効果の上で大変有益です。しかし、やはりこれでは英語学習において「気づく、考える」というよりダイナミックな学習の面白さを経験させることはできません。また、この時期にあまり文法そのものを意識させることは、かえって生徒に余分な負担を強いることになります。自然な流れの学習の中で帰納的に習得させるようにしたいものです。
一方、この時期は音声を重視した指導を徹底したい時期でもあります。したがって、余分な説明はできるだけ避け、口頭練習の「質」を高めつつも「量」を保証する必要もあります。そして、学習したことを単なる知識の段階でとどめるのではなく、運用できるレベルまで引き上げるような活動を日々の授業の中に設定する必要があります。
2.本校の入門期指導
(1) カリキュラム
勤務校の英語科では、90年以上も前から H. E.Palmer の The First
Six Weeks of English の考えにのっとり、入門期を音声のみによって指導するという形態を続けてきています。現在は、中1の最初の約20時間を音声のみによって指導する期間と位置づけ、文法シラバスを大体次のように構成しています。(以下は平成8年度に実施した指導内容。より新しいものは「入門期指導」をご覧ください)
① オリエンテーション、挨拶の仕方
② 英語の発音
③ My(Your) name is ~.
④ This(That) is ~.
⑤ This(That) is my(your) ~.
⑥ Is this(that) ~? Yes/No, it
is/isn't.
⑦ This(That) is a ~.
⑧ Is this(that) a ~? Yes, it's a
~.
⑨ What is this(that)? It's a ~.
⑩ Is this(that) a ~ or a ~?
⑪ This(That) is ~'s ....
⑫ Is this(that) ~'s ...(or ~'s
...)?
⑬ Whose ~ is this(that)? It's
~'s.
⑭ What is your(his,her) name?
⑮ He(She) is ~'s brother(sister).
⑯ This(That) man(woman) is Mr.(Mrs.)
~.
⑰ Is he(she)~? Yes/No, he(she)
is/isn't.
⑱ Who is this boy(girl)? He(She) is
~.
⑲ I like ~. I don't like ~.
⑳ Do you like ~? Yes/No, I
do/don't.
なお、I am ~./You are
~.は、上記20時間の後に行う教科書の学習の中で導入します。
(2) 単位時間の構成
さて、これらの文法事項を音声を中心に指導するにはどのように1時間の授業を構成したらいいでしょうか。本校英語科の入門期授業の指導過程は、大体次のような構成になっています。
1. Greetings
2. Warm-up(歌やリズムトレーニング)
3. Review
4. Oral Introduction of the Target
Sentence
5. Oral Practice
6. Communicative Activity
7. Consolidation(重要表現のテープ録音)
3.指導の実際
では、以上の指導方針ならびに指導計画のもとで、入門期における文法指導を実際にどのように行ったかを記すことにします。ここでは、ごく初期の段階で指導すると考えられる人称代名詞の主格と所有格の指導を例にとり、導入から運用レベルへ高めるまでの過程を示します。ただ、机上の理想的な展開と考えられる過程を示しても実際性に乏しくなるので、筆者が実際に行った授業を記録を元に振り返ります。
(1)
一人称・二人称の所有格(第3時)
① Oral
Introduction(I)
Teacher:(自分を指して)Me, Koinuma. You?
Student: Naito.
※以上を数名に対して繰り返す。
T: My name. My name is Noriaki Koinuma. Your name
is ...?
S: Mari Naito.
※以上を数名に対して繰り返す。
② Mim-mem
T:(自分を指して)my
S:(自分を指して)my
T: my name
S: my name
T: My name is Noriaki Koinuma.
S: My name is Nori...
T: No, no. "My name is Mari Naito."
Right?
S: My name is Mari Naito.
※これを全員に言わせる。
③ Oral
Introduction(II)
T: My name is Noriaki Koinuma. Your name is
...?
S: My name is Takeo Harada.
T: Oh! Your name is Takeo Harada.
※以上を数名に対して繰り返す。
④ Mim-mem
※②と同様に次の表現を練習する。
T: your, your name, Your name is
~.
S: your, your name, Your name is
~.
⑤ Oral Practice
※例を示す。
T: I say,"Hi. My name is Noriaki Koinuma." You
say,"Oh. Your name is Noriaki ...." OK? Hi. My name is Noriaki Koinuma.
S: Oh. Your name is Noriaki
Koinuma.
※以上を数名の生徒に言わせる。
⑥ Communicative
Activity
※⑤の内容をペアで行わせる(縦列全員と行 わせる)。Hi側とOh側の両方を言わせる。笑 顔、視線、ジェスチャーに留意させる。
⑦ Performance
※巡回中に上手なペアを見つけ、数組に発表 させる。どこがよかったかをコメントさせ、 さらにアドバイスをする。
⑧ Consolidation
※今日習った表現をもう一度確認する。また、それを家族と練習してくることを宿題にする。
(2) 三人称の所有格(第14時)
① Recollection
※導入をスムーズにするために記憶を呼び起 こす。
T: My nickname is Nory. What is your nick- name,
Kagawa-san?
S: My nickname is Yumi-chan.
T: Oh, Your nickname is
Yumi-chan.
② Oral
Introduction(I)
T:(男女4人の絵を示して)This is Kentaro. His nickname is
Ken. This is Yujiro. His nickname is Yu. This is Akiko. Her nick- name is Aki. This is Yoshiko. Her nick- name is Yocchan.(一人を指して)What is Kentaro's nickname?
S: Ken.
T: Nory is my nickname. Yumi-chan is your
nickname. (Kenをさして)And Ken is your nickname?
S: His nickname.
T: Right. Ken is his nickname.
※4人について繰り返す。herに注目させて。
③ Mim-mem
T: This is Kentaro.
S: This is Kentaro.
T: his
S: his
T: His nickname is Ken.
S: His nickname is Ken.
※4人について繰り返す。herに注目させて。
④ Oral Practice
※例を示す。
T: What is your nickname?
S: My nickname is Sato-chan.
T: Oh, your nickname is
Sato-chan.
※以上をペアで行わせる。
⑤ Communicative
Activity
※例を示す。
T:(1組立たせそのうちの一人と入れ替わる) This is Michiko. Her
nickname is Michi.
※もう一人とも入れ替わってhisの例を示す。
4人組で紹介し合う。ペアを入れ替えて紹介し合う。
⑥ Performance
※(1)と同様
⑦ Consolidation
※(1)と同様
(3)
一人称・二人称の主格(第27時)
① Oral
Introduction
T: Hi. My name is Noriaki Koinuma. I am from
Tokorozawa. You, from Tokorozawa?
S: No. Itabashi.
T: Oh, you are from Itabashi. Then you say, "I am
from Itabashi."
S: I am from Itabashi.
※同様のことを数名の生徒に対して行う。
T: I am a teacher. English teacher. You are a
teacher?
S: No.
T: Right. You are a student. Then you say, "I am a
student."
S: I am a student.
T: I am a student?
S: No. Teacher.
T: Good. Then you say,"You are a teacher."
S: You are a teacher.
② Mim-mem
※順に以下の表現を練習する。
I, am, student, I am a student.
you, are, teacher, You are a
teacher.
③ Oral Practice
※例を示す
T: My name is Noriaki Koinuma. I am
from Tokorozawa. I am a teacher. And
you?
S: My name is Yumiko Masuoka. I am from Otsuka. I
am a student.
T: Oh, your name is Yumiko Masuoka. You are from
Otsuka. You are a student.
※上記S-Tの対話をペアで行わせる。パート
ナーを変えて行わせる。
④ Performance
※(1)と同様
⑤ Consolidation
※(1)と同様
4.指導上の留意点
入門期指導に限ったことではありませんが、オーラル・ワークを行いながら文法指導も行おうとする場合、次のような点に留意する必要があります。
(1)
「気づく、考える」機会を与える
たとえ新出事項であってもすべてを説明によって理解させようとせず、既習事項を駆使して与える中で、気づかせたり考えさせたりする場面を必ず設けるようにします。すると、生徒の頭の中は活性化され、また次の機会ではどんなことを学べるのだろうかと期待するようになります。
(2) 個人で発言する機会を保証する
いくらオーラルで授業を進めているといっても、教師が一方的に話していたのでは、生徒の運用力を高めることはできません。また、一見活発に活動しているように見えるコーラス・リピートには、個人に言わせると言えないという大きな落とし穴がある可能性があります。単位時間内に、最低一度は個人に発言させる機会を与えるようにしてください。
(3) 地に足のついた活動を行う
コミュニケーション活動が大切だからといって、基本的な表現の訓練をほとんど行わずに性急にプロダクションをさせる授業をよく見ます。しかし、それでは活動が終わったら、その表現は頭から抜け落ちてしまうでしょう。最低限の基本表現が自信をもって言えるようになるまで、徹底した訓練を行ってください。
(4) 自分で復習できる材料を与える
オーラル・ワークによる文法指導の最大の弱点は、学習したことが生徒の記憶以外に残らないことです。これでは家庭学習を指示しても生徒は戸惑うばかりです。そこで、本校では授業中に導入や練習で使った絵等を毎時間ワークシート化し、家庭学習にも使用するよう指導しています。しかし、それでもモデルとなる音声がないという問題があり、現在、入門期の授業内容をテープ化することを検討中です(※平成10年度からは生徒全員に小型カセットテープレコーダーを貸し出して、その日に学習したことを録音して持ち帰らせています)。
※『楽しい英語授業』第16号(明治図書、1999.4)に掲載されているものを加筆・修正しました。
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