令和3年度から完全実施された新学習指導要領には、過去に例がないくらい教員に意識改革を迫る記述があります。ただ、よくよく読み込んで見れば、その多くは別に新しいことではなく、以前から大切だとされながらなかなか実現されなかったことを少し異なった角度から謳っているのだということがわかります。そこで、ここではその改訂の主旨とねらいについて見ていきましょう。
1. 基本的な考え方
今回の改訂について、文科省からは次のような基本的な考え方が示されています(『幼稚園教育要領、小・中学校学習指導要領等の改訂のポイント』、太字は原文では下線)。
○ 教育基本法、学校教育法などを踏まえ、これまでの我が国の学校教育の実践や蓄積を活かし、 子供たちが未来社会を切り拓くための資質・能力を一層確実に育成。その際、子供たちに求められ る資質・能力とは何かを社会と共有し、連携する「社会に開かれた教育課程」を重視。
○ 知識及び技能の習得と思考力、判断力、表現力等の育成のバランスを重視する現行学習指導要領の枠組みや教育内容を維持した上で、知識の理解の質をさらに高め、確かな学力を育成。
○ 先行する特別教科化など道徳教育の充実や体験活動の重視、体育・健康に関する指導の充実 により、豊かな心や健やかな体を育成。
これを見ると、今回の改訂の最大のポイントは、育てるべき資質・能力を明らかにした上でそれを確実に育成することを私たち教員に求めていることだと読み取れるでしょう。
2. 知識の理解の質を高め資質・能力を育む「主体的・対話的で深い学び」
また、知識の理解の質を高め資質・能力を育む「主体的・対話的で深い学び」を目指すことについては、次の2点をあげています(項目タイトル以外の太字は原文では下線)。
○「何ができるようになるか」を明確化
知・徳・体にわたる「生きる力」を子供たちに育むため、「何のために学ぶのか」という学習の意義を共有しながら、授業の創意工夫や教科書等の教材の改善を引き出していけるよう、全ての教科等を、①知識及び技能、②思考力、判断力、表現力等、③学びに向かう力、人間性等の三つの柱で再整理。
○我が国の教育実践の蓄積に基づく授業改善
我が国のこれまでの教育実践の蓄積に基づく授業改善の活性化により、子供たちの知識の理解の質の向上を図り、これからの時代に求められる資質・能力を育んでいくことが重要。小・中学校においては、これまでと全く異なる指導方法を導入しなければならないと浮足立つ必要はなく、これまでの教育実践の蓄積を若手教員にもしっかり引き継ぎつつ、授業を工夫・改善する必要。
以上からは、育成を目指す資質・能力を①知識及び技能、②思考力、判断力、表現力等、③学びに向かう力、人間性等の3つの柱に整理し、指導はこれらの観点に基づいて行い、評価もこれらの観点で行うことにするということがわかります。
なお、ここで取り上げられている育成を目指す資質・能力の詳細は「2. 育成を目指す資質・能力の三つの柱について」で、主体的・対話的で深い学びについては「5. 『主体的・対話的で深い学び』について」で、改めて取り上げて解説します。
3. 各学校におけるカリキュラム・マネジメントの確立
今回の改訂で初めて出てきた表現として「カリキュラム・マネジメント」ということばがありますが、これについて文科省は次のように定義しています。(『カリキュラム・マネジメント』)。
「社会に開かれた教育課程」の理念の実現に向けて、学校教育に関わる様々な取組を、教育課程を中心に据えながら、組織的かつ計画的に実施し、教育活動の質の向上につなげていくこと」
少々ややこしいので、もう少し一般的な表現がないかと探すと、日本教育新聞のネット記事で次のように説明されています。
「各学校が教育課程(カリキュラム)の編成、実施、評価、改善を計画的かつ組織的に進め、教育の質を高めること」(「カリキュラム・マネジメントって何?」日本教育新聞)
つまり、よりよい教育を目指して各学校が教育課程を工夫することと言えるでしょう。
今回これを取り上げた主旨を文科省は次のように述べています。
○ 教科等の目標や内容を見渡し、特に学習の基盤となる資質・能力(言語能力、情報活用能力、問 題発見・解決能力等)や現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力の育成のためには、教科等横断的な学習を充実する必要。また、「主体的・対話的で深い学び」の充実には単元など数コマ程度の授業のまとまりの中で、習得・活用・探究のバランスを工夫することが重要。
○ そのため、学校全体として、教育内容や時間の適切な配分、必要な人的・物的体制の確保、実 施状況に基づく改善などを通して、教育課程に基づく教育活動の質を向上させ、学習の効果の最 大化を図るカリキュラム・マネジメントを確立。
つまり、教育活動の質を向上させ、学習の効果の最大化を図るために、各学校が教育課程を工夫することが大切であると言っているわけです。
また、そのための主な改善事項として、言語能力の確実な育成、理科教育の充実、伝統や文化に関する教育の充実、道徳教育の充実、体験活動の充実、外国語教育の充実、の6点があげられています。小学校で外国語(英語)が教科化されたのは、この中の6つ目の改善事項から来ているということがわかります。
さて、ここまで読んでみると、ここで言う「カリキュラム」とは単に時間割や表面的な指導計画の作成に留まらないことがわかります。指導計画を“表面的な”という形容詞で表したのは、ここで言う「カリキュラム」は、育成を目指す資質・能力、「主体的・対話的で深い学び」をしっかり念頭に置いて作られるものを指していると解釈できるからです。
それをもう少し端的に言うと、指導計画を作成する際は、英語学習をとおしてどのような生徒を育てたいか、つまり「育てたい生徒像」のようなものを学校や教員がきちんと持ち、その実現を目指して指導計画を作る必要があるということでしょう。
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