この活動は、筆者の前々任校である埼大附属中英語科の研究「生徒が主体的にコミュニケーション活動に取り組む授業」の一環として平成元年度より全学年で行っていたもので、平成7年度から勤務した前任校・筑波大附属中でも行ってきました。以来、英語科のカリキュラムに位置づけられて、1年生の後期は誰が担当しようとも行ってきた活動です。
出題者となる個人が「私は何でしょう」というクイズを出題し、残りの生徒が質問をしながら答えを捜し当てるゲーム活動です。当時、全国のいろいろなところで紹介させていただいたので、その頃は多くの学校で実施されていたようです。
ビデオでゲームの概要を理解させ、教師の作った問題で練習をした後、生徒どおしの活動に移らせます。附属中では40年以上前に放送されていたNHK教育テレビの『A Step to English』という番組の映像を使っていましたが、そのような映像が手に入らない場合はことばで説明すればいいでしょう。
・出題者は「What Am I?カード」を使ってクイズを作成し、事前チェックを受ける。
・毎時授業の最初に2人出題し、残りの者が5〜6人のグループ対抗で答えを探し当てる。
・質問者に質問点(1点)が与えられ、正解者も正解点(適宜)が与えられる。
(「おりがみ」:2年生女子)
1. I am a thing.
2. I can become many things.
3. I am colorful.
4. I am thin.
5. You can play with me.
クイズの作り方としては、最初は答えのジャンルを示す程度のものにし、段々と答えが絞られていくようなものにします。
初期のカードには、事前に「目標」と「クイズの内容」のみを書かせていましたが、実際の質問に対して戸惑う者が多かったので、後にはこれに「予想される質問とその答え」を書かせてみました。これに対して上記の出題者は次のような予想を書いてきました。
1. How big are you?
→ I'm bigger than hand.
2. How much are you?
→ I'm about one hundred yen.
3. What can you do?
→ I can become many things.
4. Do we have you? → Perhaps.
5. Who has you? → Many children.
このようにしたところ、出題者が答えに窮する場面が少なくなりました。なお、上記の問題の出題者は、実際に8つの質問を受けましたが、うち3つは用意してきた文で切り抜けました。
さて、出題者への指導を十分に行っても、解答者となる残りの生徒が活発に質問できなければ、この活動を長期間維持できません。そこで、質問のための色々な表現集を提供する一方、「出題者がI am a man. でクイズを始めました。答えを引き出すための質問を5つ書きなさい。」のような質問作りの練習を定期的に行っています。
そうしたところ、解答者の方も出題の内容によって様々な質問を意欲的に出すようになりました。しかも、これまでのように画一化された質問ではなく、その生徒の個性あふれる質問が飛び出すようになりました。
この活動でも、「書くこと」と「話すこと」の両面を評価できます。「書くこと」については、出題者の「What Am I?カード」のチェックによってヒントの文の内容・レベルを調べることができます。また、「話すこと」については、ゲーム中の活動(出題者、解答者)を観察し、その様子を記録しておくようにします。
(6) 成果と課題
「What Am I?」は、毎年生徒が毎回楽しみにしている活動です。しかし、当初はゲームそのものへの関心が強すぎるきらいがあったので、出題者個人の指導に力を入れるようにしました。特に、それまでの経過から予想される質問を割り出し、それぞれについて解答を用意させてみました。
その結果、これまでの生徒よりも格段に自信をもって発表し、質問にも的確に応答できるようになりました。これは、質問への対策を事前に十分行っていたため、自信を持って発表に臨めたからだと思われます。
この活動は、英語科で「話すこと」のコミュニケーション能力を高める重要な活動ととらえていましたが、同時に「書くこと」との力を伸ばす活動でもあることがわかったので、両者の関連を十分に図りながら改良を加えて実施していきました。
筆者の前勤務校では、 "What Am I?" を中学校でできる最高のコミュニケーション活動の一つと考え、長年実施してきました。その理由は次のような点からであす。
・タスク、ゲーム性、工夫できる機会があり、生徒が目標をもって主体的に取り組める。
・既習事項を総合的に運用させることによって、言語材料の定着を図ると共に、突発的状況を乗り切る方策能力を養うことができる。
・復習として毎時間行うことで、小さな活動を積み重ねて着実に力をつけることができる。
そこで、この活動の内容と具体的な指導のノウハウをこれから紹介しましょう。
ここでは、授業の最初の約10分間で、継続的にWhat Am I?を実施できるようにするための指導の手順を紹介します。活動を軌道に乗せるためには、4~5時間かけてじっくり指導してください。
① 活動を理解させる
導入としては、活動の様子がわかるビデオ(NHKの A STEP TO ENGLISH等)があると一番いいでしょう。もし無ければ、New Horizon(東京書籍)の昭和62~64年版2年生のLesson 4(What Am I?)を使うとわかりやすいです。
次に、実際に行わせたい活動の要項を示します。その際には、ゲームの実行例や活動に必要な表現集なども用意します。そして、一通り説明したら、教師対生徒で数問実行してみます。すると、説明では理解しきれなかった生徒も、周りの生徒の行動ですっかり理解できるようになります。
② グループで問題を作成させる
まずはグループで知恵を出し合って問題を作らせ、問題作成の基本を仲間と協力し合いながら習得させるようにします。ただし、ここではヒント文作りを学ばせたいので、タイトル選びで時間をとられないように課題を与えてしまった方がいいでしょう。
③ グループで問題を出し合わせる
いよいよ自分たちで作った問題を使ってゲームを実行させてみます。グループ毎に順番に出題し、残りのグループが回答者となるようにします。なお、出題・回答は代表者にさせるのではなく、ヒントを言う者、回答をする者など役割分担をさせ、全員が活躍できるようにするのが肝心です。
④ 個人で問題を作成させる
今度は、本番に向けて個人で問題を作らせます。タイトル、ヒント文ともに生徒個人のオリジナリティーが発揮できる場面です。うまく作れない生徒もいるので、期間巡視で援助してあげます。
⑤ グループ内でゲームを試行させる
個人作成の問題をすべて実施するためとルールを確認するために、グループ内でゲームを実行させてみます。得点もしっかりと付けさせ、本番さながらの雰囲気をつかませるようにします。
⑥ 全体会のリハーサルを行う
ここまで来たらゲーム活動の基本はマスターできているはずですが、生徒に活動の主体を預けるからには、最後の詰めをしっかりします。そこで、教師が出題者となってゲームを実行し、出てきた問題点を一つずつチェックして、質の高い活動をするためのポイントを示してあげます。
ここでは長年の経験から、実際の活動に移る際の留意点をいくつか紹介します。
① 問題作成について
個人に問題を作らせるので、その取り組みや仕上がりには個人差がります。したがって、他の教育活動と同様に、その生徒を励まし個性を生かす方向で指導にあたります。また、時代背景からか、問題そのものに中学生として不適切な事柄や仲間を揶揄するようなものが出てくることもあるので、必ず内容は事前にチェックして、不適切なものは指導します。
② ゲーム実施について
この活動を長期間楽しいものに維持するためには、何らかの演出が必要です。
まず第一に、教師自身が気分を高揚させて活動に臨むようにします。それは、教師が活動を楽しんでいるのが見えなければ、生徒は楽しいと思わないからです。
第二にゲームの進行に変化をもたせます。出題者の入退場やゲームの進行中に、盛り上がり感や緊迫感をもたせるBGMを使うと効果があります。
第三に、競争心を失わせないようにします。そのためには得点の累計を定期的に示すのが一番いいでしょう。
それ以外にも、実行中に出てきた問題点は、その都度生徒と共に考え改善していくようにします。
③ 発達段階に応じた指導について
この活動を教育効果の高いものにするためには、生徒の学習発達段階と精神的レディネスに応じて、常に活動内容を改善していくことが必要です。具体的には、新出事項を含めたヒント文を問題に入れさせたり、新出文型を使った質問や凝った質問をした場合は得点を倍にしたりする等の方法が有効です。
④ 評価について
この活動では、学習意欲の向上をねらいとした形成的評価にも重点を置くようにします。例えば、よい問題はそれを具体的に誉めたり、うまい質問をした生徒を誉めたりします。すると、本人はもちろんのこと、周りの生徒の意欲も向上します。また、英語科通信などを使ってクラスを越えた成果の発表をするのも有効です。
もちろん、最終的な評価にも利用します。発表に関してはあらかじめ設定しておいたいくつかの観点で得点をつけ、質問に関しては意欲や貢献度を積極的に評価するようにします。
この活動の実践は、授業時間の一部を割く勇気と指導を継続する気力を必要としますが、その分効果も大きいということを経験者として述べておきましょう。新学習指導要領でも「話すこと」は「発表」と「やりとり」の力を伸ばすことを謳っていますが、この活動はそれを実現するのに最適な活動の1つです。
なお、別ページに次のような生徒用の指導資料(テキストのみ)があるので、参考にしてください。
○What Am I? 活動の概要(新バージョン)
○What Am I? 問題作成のポイント
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