修学旅行に関する話題の第3弾です。できれば、36の「修学旅行(その1)」と42の「修学旅行(その2)」をお読みになってからこちらにお戻りください。
前回の話からおわかりのとおり、勤務校では5つのコースの選択制による修学旅行を1978年より行ってきています。この間の前半20年分の経緯は本校著の『生きる力を育む修学旅行と校外学習』(図書文化,1997)に書かれていますが、その後も筆者が着任した1995年から見ても大きくは変わっていないので、現在まで40年以上もほぼ同じように実施されてきたと考えていいでしょう。そこで、今回は現在の修学旅行がどのように企画・運営されているかということをご紹介します。
(1) 位置づけは「総合学習」の1つ
平成10(1998)年の学習指導要領の改訂により、教育課程に「総合的な学習の時間」が設けられました。勤務校ではこれを「総合学習」として教育課程に位置づけています。実は、この総合学習は、本校では学習指導要領より30年早い1968年から行われてきています(詳細はここでは割愛します)。そして、平成12年以降は修学旅行を「総合学習」の1つに位置づけてきました。
当時の学習指導要領の補足説明では、それまで行ってきた学校行事等を安易に「総合的な学習の時間」に入れないようにとされました。当然、学校行事の1つである修学旅行もその対象になります。しかし、本校では「修学旅行」は学校行事でありながら教科学習の延長でもる「学を修める旅行」としており、数ヶ月をかけて毎週2時間の事前学習を行い、旅行中も数々の学習活動を行うので、あえて教育課程上も「総合学習」に位置づけています。
(2) 運営主体は「教科」
多くの、いやほとんどの学校の修学旅行は「学校行事」であるとともに「学年行事」でもあると思います。すなわち、実際の内容の企画・運営は対象学年の学年担任団が行うということです。ところが、勤務校の修学旅行は基本的に教科学習であり、各コースの学習内容の企画・運営も教科が行っています。ここが一般的な学校で行われている修学旅行と決定的にちがうところです。最近では「学を修める旅行」にふさわしい内容にしようと、単なる物見遊山の観光旅行のような修学旅行から抜け出した活動を行う修学旅行も増えてきましたが、それらも教科学習がベースの活動というほどではないでしょう。
“教科学習がベースの活動” とは具体的にどういうものかというと、長年続けられている3つのコースの例で説明します。もっとも、コース名からも想像はつくと思うのですが…。
① A(文学)コース(国語科担当)
川端康成の『伊豆の踊子』、井上靖の『しろばんば』『夏草冬濤』他、太宰治の『富嶽百景』を読み、それぞれのゆかりの地を訪れる。生徒が事前に研究課題を設定し、事前学習でそれらについて調べ、当日の活動でそれを自分の目で確認する。活動場所の主体は、上記の本の舞台となっている伊豆半島及び富士山周辺である。
<筆者の目から>
担当教科外である筆者が着任初年度(1995年)に引率者として同行したときは、「これが本当に中学生にさせる旅行か?大人の文学マニアの旅行でもここまではやらないだろう…」と驚いたものです。圧巻は『伊豆の踊子』の舞台になった福田屋(城ヶ島温泉)に泊まり、物語のとおりに主人公たちのたどった道を歩くというもので、小説の中に出てくるいろいろな場面を自分で体験できるということでした。また、ご自身も作家であり井上靖の中学校時代の同級生でもあった金井廣氏(故人)の話を聞けたというのも貴重な体験でした。
② B(産業)コース(社会科担当)
水産業や製茶業などの現場を訪れ、日本の水産業や製茶業の最前線の姿を理解するとともに、それらを通して日本人の食生活について見つめ直す。水産業のときは静岡県焼津市を中心に、製茶業のときは静岡県牧之原台地周辺を中心に活動する。
<筆者の目から>
担当教科外である筆者が着任24年目(2018年)に引率者として同行したときは、上記とはやや異なる目標のコースでした。活動場所を八ヶ岳西側山麓(長野県)とし、同地区の農業がどのように発展してきたのかを「水路の開発」という視点から学んでみようというものでした。また、中の1日はグループ毎に分かれて地元の農家にお世話になり、農作業を体験させてもらいました。大変だったのは貸切バスでの移動は最低限で、あとはとにかく歩いて歩いて実際の治水施設を確認したことでした。
③ C(自然)コース(理科担当)
環境教育を主な目的とし、「自然環境の保全と地域開発」を大きなテーマとしている。自然観察、自然保護運動、日本における過疎化問題などを研究の柱として、生徒が事前に研究課題を設定し、事前学習でそれらについて調べ、当日の活動でそれを自分の目で確認する。活動場所の主体は富士山周辺(山梨県)である。
<筆者の目から>
担当教科外である筆者が着任10年目(2004年)に引率者として同行したときには、「授業で行う実験を現場でも行うことで、さらに実生活に近い経験を積ませて学習を深化させるのだな」と思いました。富士五湖や押野八景で水質調査を行う定番の活動のほか、山中湖で釣りをさせて外来魚(ブルーギル、ブラックバス等)が湖の生態系を席巻していることを体験的に学習させる余興的な活動もあり、楽しく確実に学びを深める工夫がなされていました。
(3) 大切なのは事前学習と事後学習
① 事前学習
(1)にも書きましたが、勤務校の修学旅行はコース別学習から始まります。ほぼ例年、2年生の1月末から週に2時間の「総合学習」の時間がそれに充てられます。本番は3年生の5月の連休の翌々週に行われることが多いので、毎年8~10回、計16~20時間の事前学習が行われます。
学習のやり方や内容はコースによって様々ですが、どのコースも最初は担当教員による資料提供から始まり、段々とグループや個人で研究課題の追究が行われるようになり、それをコース内で議論したり資料を作成したりして、本番の活動に向けての準備をしているようです。この事前準備があるからこそ、修学旅行の本番中も生徒一人一人が主体的に活動するのです。
② 事後学習
学年約200人が自分の興味関心に合った5つのコースに約40人ずつに分かれますが(希望調査の第2希望まででほぼ収まる)、他のコースの活動内容も知るために、最終日は途中で一度1カ所に集まり、バスをクラス毎に替えて、学校までの復路をバス内報告会にします。このときに毎回のように聞かれるのが、「自分のコースは最高だった!」という感想です。どのコースも事前の学習をたっぷりと行い、それを自分の目と身体で確認してきたからこそ、自信を持ってそう言えるのでしょう。
また、事後学習はたいてい2回(計4時間)行われます。前半の2時間はコース毎のまとめの時間です。後半2時間は合同発表会を行い、各コースの学習内容を発表して学び合うという機会を設けています。そして、全員にレポートが課されます。そのレポートは10月末に行われる「学芸発表会」(他校の「文化祭」にあたる行事)の「修学旅行」の部屋で展示され、在校生や保護者だけでなく、一般の見学者(毎年約2,000名が来校)にも読まれています。
以上が勤務校の修学旅行の概略です。次回は「その4」として、筆者が担当した「E(野外生活実践)コース」を例に取って、企画・運営の概略をお話しします。(4/4/2020)
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