お金じゃない!

新年度が始まったところで、今年も教員不足が話題になっています。筆者の世代は1980年代の大量採用時代でしたので、その頃の教員がここ数年で大勢定年退職したこと、「教職はブラックだ」という認識が広まって教員志望の大学生が減っていること、などが最も大きな原因でしょう。「産休、育休教員の代替が見つからないから」はそれらが原因で十分な教員が確保できなかったことで起こった現象でしかありません。

 

筆者の7つ年上の義兄は校長までやった中学校の理科の先生でしたが、70歳を目前にした今年、なんと小学校の授業を任されているそうです。「小学生は孫みたいに可愛くて面白い」と満更でもない気持ちで勤務しているようですが、そこまで対象を広げないと教員が確保できないというのがやはり問題です。

 

これに対して、政府は50年以上前に決められた、残業手当に代わる4%の特別手当てを増額する案や、学級担任手当てを創設することなどを考えているとのことです。それはそれでいいことですが、それらによって教員の忙しさが解消されるかといえば、「それではまったく効果はない」と言わざるをえません。

 

まず、教員の忙しさの一番の原因は、やらなくてはならない仕事の種類と量に対して、圧倒的に人員が足りないということです。ある新聞の記事によれば、教員がやらなければならない仕事の種類は他の国に比べて圧倒的に多いことがわかっています。他の多くの国では、教員は授業だけをやっていればよく、生徒指導、進路指導、部活動指導、そして最近多くなっている保護者対応などは、基本的に他の專門の人が担っています。したがって、現状を抜本的に変えるには、教員の増員というより、授業以外の仕事をしてくれる人をきちんと学校現場に配置するという組織改革以外にありません。

 

これに対して、政府の改革案は学校現場の実情をまったく無視した見当違いのものであると言わざるをえません。給料を上げれば良い人材が集まる、給料を上げれば忙しい教員にも報いることができる、…。有識者が集まってその程度の結論を出しているのなら、メンバーを総入れ替えした方がいいでしょう。

 

だいたい、多くの教員はお金のために働いているのではありません。もちろん、生活するのに最低限の賃金と文化的な生活を送るための少しの余裕は必要ですが、それらがあればそれでいいという人が圧倒的に多いのです。

 

金銭的な見返りではなく、児童・生徒の成長に役立つ指導をすることができて嬉しいということが、教師の最大の原動力なのだということを検討会議の“有識者”にわかってもらいたいと思います。その仕事をする余裕を持つことができるようにしてほしいのです。

 

現在、将来の教員を目指す学生たちに少しでも多く自分が長年かけて培ってきた知見を引き継ごうと、毎週一所懸命に教材の準備をして授業をしていますが、それもお金のためではありません。準備にかける時間まで含めれば、筆者の時間給など小学生の一日のお小遣い並みになってしまいます。それでも頑張っているのは、次世代を担う立派な人材を育てたいと思っているからです。

 

最後に、もう一度教員の待遇改善、いや、これからの教育をダメにしないためのポイントをまとめておきます。

 

① 教員はお金のために働いているのではない。給料のアップは現在の問題の解決策にはならない。

② 教員の負担軽減は、授業以外の仕事を他の専門家に任せる制度の確立とそれを担える人材の確保をする以外にない。

 

以上です。“有識者”のみなさん、よろしくお願いいたします。(5/21/2023)

 

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