「作者について」でも紹介しているように、筆者はある教科書の著者を長年務めています。主な仕事は、教科書の構成を考えたり、実際に本文や練習問題を執筆したりすることです。それ以外の重要な仕事の1つに教師用の指導書を執筆することがあります。たいていは「指導編」の指導案を書くことで、多い時には丸一冊分(1年生と3年生を半分ずつ)書いたこともあります。
とても大切な仕事なので、基本的には依頼された原稿執筆を断ったことはありませんが、ある時に1つだけ執筆をお断りした原稿がありました。それは「定期テストの例」でした。指導書には毎回定期テストの例が入っており、営業からの要望では教科書の採択及び指導書を売るためには定期テストの例を入れることは必須であるとのことでした。それをお断りしたのには私なりの理由がありました。もちろん、「書けないから、書きたくない」というわけではありません。
前任校(埼玉大学教育学部附属中学校)に勤めている間、筆者は埼玉県中学校英語教育研究会(限埼玉県英語教育研究会)の本部事務局を担っていましたが、同研究会では毎年自作の「学力調査問題」を作成しており、事務局は作成委員会の運営や問題の申し込み及び配送の事務も行っていました。その時に、毎年のようにほんの数件(数人の先生)ですが、「2学期の中間テストに間に合うように送ってほしい」という要望がありました。学力調査は生徒の学力を県レベルで把握するために行っている「実力テスト」であり、日々の指導の成果を評価するための定期テストにはそぐわないものですが、定期テストを作るのが面倒だという一部の先生から「ちょうどよいもの」と思われていたようです。印刷の都合などで指定された期日までに配送が間に合わないとわかったときには、かなり強い口調で苦情を言われたこともあり、同じ教師として怒りと失望を感じたのを覚えいます。
その時の気持ちが指導書の編集会議でも蘇り、まったく個人的な感情としてその原稿の執筆をお断りしたというわけです。つまり、自分が書いた「定期テストの例」がそのままコピーされて使われるかもしれないということが、同じ教師としての良心から許せなかったのです。自分が書いた原稿がサボりたい教員の怠け心を助長してしまうかもしれないということに耐えられなかったのです。もっとも、そのときの指導書にも「定期テストの例」は載りましたから、結果的には私が断った分がどなたか他の編集委員の先生の手を患わせただけだったのですが…。
そのような筆者が、今回は自分や同僚が作成した定期テスト(筆者の学校では「定期考査」)を丸々3年分すべてそのまま公開しようとしているのには、指導書に定期テストを載せることに反対する気持ちを上回るだけのプラスの影響力があると考えているからです。つまりそれは、今回更新した「テスト作りの基本と事後指導」で述べていることが理想論や架空の話ではなく、筆者の勤務校では長年実際に行われてきたことであるという証拠を示すことで、一人でも多くの先生によりよい定期テストを作成するきっかけにしてもらいたいという思いからきたものでした。
もちろん、筆者が定期テストの例を公開することで、先述したような教師の怠け心を助長させないように、実際の問題を含むテスト関連の資料はPDFで提供しています。これならそのままコピーして使うということはないでしょう。もっとも、「例」としてアップしたからには、部分的に問題を流用したりアイデアを拝借したりということは一向にしていただいて構いません。むしろ、先生方が作成する定期テストの向上に役立つのであれば、どんどん利用してください。
そこで、今回はまずそのとりかかりとして各学年の「前期中間考査」の「問題用紙(冊子)」、「解答用紙」、「放送問題台本」、「模範解答」をアップしました。また、「~と事後指導」を行うために作成している資料も併せてアップしました。これだけでもかなりの量になるので今回は各学年1回分ですが、今後少しずつ残りの回の分もアップしていく予定です。(7/3/2021)
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