(3) 話し方について

話す内容が決まり、話の構成も考えました。ようやく生徒に話をする実際の場面になるわけですが、そのときに注意したいことが何点かあります。それをここでお話ししましょう。

 

① 笑顔で話す

生徒に何か話すときは、できるだけ笑顔で話すようにします。もちろん、笑って話す場合ではないという内容のときは別です。仮に最終的には生徒を叱るような内容のときであっても、褒める場面のときは笑顔で話したいものです。そうすることによって、生徒がこちらの話を受け入れやすくなります。

 

筆者もできるだけそうするようにしています。ただ、自分の生徒からは「笑顔の向こう側にある先生の瞳が怖い…」とよく言われます。顔は笑っていても目が真剣だということのようです。もっとも、しっかりと話を聞いてもらうには多少の緊張感は必要でしょうから、生徒にそう思われているということはプラスに受け取っています。

 

② 明るい口調で話す

笑顔と同時に大切なのが、明るい口調で話すということです。褒めるような場面があったとしても、口調が暗いとこちらの真意が伝わりません。生徒と直接話す場面では、できるだけ明るく話しかけるようにしましょう。

 

これは筆者自身に言っていることでもあります。時々、褒めているのに生徒が緊張した顔をしているので、どうしたのかと尋ねてみると、「先生の口調が怖いので、褒められている気がしません」と言われることがあります。そういう時は、「ごめん、ごめん」と頭の後ろをかきながら謝るようにしています。そして、「じゃあ、明るい声で話すようにしましょう。」と切り替えます。

 

③ 生徒に質問し、答えを拾いながら話す

生徒をこちらの話に乗せるために大切なことは、随所で生徒に質問を投げかけて、それに答えさせるということです。教師が一方的に話していると、生徒はその話を聞いている振りをして実は聞き流してしまうからです。そしてそれがいつものことになると、もはやその教師の話は聞いてもらえません。

 

また、質問をして生徒に答えさせながら話すのは、その話を生徒の心にストンと落とすためにも重要です。生徒が反応するということは、それだけ生徒が教師の話をよく聞いて、それについて自分の考えを言おうとしている…、つまり頭を回転させているからです。その状態を維持することで、目的とする結論まで生徒の集中力を持続させます。

 

④ 生徒の稚拙な発言も否定せずに拾う

生徒の答えを拾いながら話すという行為は、生徒の意見や考えを教師が大切にしているというメッセージを送ることになります。したがって、どんなに稚拙な発言であっても、一度はそれを受け止め、そこから次の話につなげる道を探るようにして話します。そうすると、答えた生徒に満足感を与えられるだけでなく、その様子を見ているすべての生徒に安心感を与えることができます。

 

この姿勢は英語の授業を行う上でもとても大切なことです。なぜなら、このやりとりを日本語で話すときにしっかりやっていると、英語の時間にも生徒がいろいろと発言してくれるからです。英語の授業で生徒に話させようとしたら、それ以前に日本語で話すときに発言することに慣れさせておかなければなりません。よく考えればわかることですが、日本語ですら発言しない生徒が、それより精神的バリアー(affective filter)の高い英語で話すはずがないからです。

 

⑤ 生徒に答えを見つけさせるように話す

生徒に何かを伝えたいとき、教師がすべて話してしまわないようにして、生徒に答えを見つけさせるようにします。その理由は、基本的には生徒の発言を拾いながら話すことと同じです。ただし、もう1つ別の重要な理由があります。それは、生徒に考えさせて答えを見つけさせることで、教師が伝えたいことを強く脳裏に刻むことができるからです。

 

これは英語の授業と同じです。演繹的にすべて教えてしまうのと、少し時間と手間はかかる帰納的な手法で生徒に気づかせるように教えるのとでは、最終的にどちらが効果的かということになります。多くの場合は帰納的に教えた方が生徒の“真の”理解度は高くなります。演繹的に教えた方がいい場合もありますが、すべてその方法でやっていると、生徒は受け身になって自分で考えようとしません。演繹的に教え込むと、そのときはわかったような顔をしますが、しばらくすると忘れてしまいます。逆に、自分であれこれと考えた末にたどりついた答えは、なかなか忘れないものです。

 

⑥ 叱らないで反省の弁を述べさせるようにする

生徒が何かまずいことをしたとき、そしてそれを自ら報告したときは、できるだけその生徒を叱らないで反省の弁を述べさせるようにします。叱る必要がないのは、その生徒はすでに自分がまずいことをしたと自覚しており、実は反省もしているからです。叱る必要があるのは、自分がしたことを自覚していない場合です。そして、「やってしまったことは悪いけど、正直に話してくれたことはとてもいいことです」と伝えます。

 

この方法の利点は、まずいことをしてしまった生徒本人だけでなく、集団全体に教師が必要以上に叱責する人間ではないことを示せることです。それによって、次にまた同じようなことが起こった場合も、事件の露見が容易になります。大抵は本人が自分で報告に来ます。それは、生徒が自分はまずいことをしてしまったが、それを素直に先生に報告すれば、自分が反省していることを先生が認めてくれると思っているからでしょう。

 

逆の場合はどうでしょうか。何かまずいことを起こしてしまった生徒を、集団の中でカンカンに叱ったとします。そのときはその生徒を叱ることができ、他の生徒にも示しがついたと教師は満足できたかもしれません。しかし、それをしてしまったら、もう次からは生徒が事件を報告してくれなくなります。「これを言ったら、また先生にカンカンに怒られる…」そう思ったら、口を開かないのは当然です。

 

なお、上記のことはその場で即叱らなければならないことが起こった緊急の場合を除いての話です。どんな場合でも上記のような平静さで進めるというわけではありません。

 

⑦ 視聴覚補助を使いながら話す

これは授業と同じことです。何かを伝えたいときは、視聴覚補助、特に視覚補助を使いながら話すと効果的です。ここで言う視覚補助とは、何も大げさな視覚教材を指しているわけではありません。黒板にちょっと絵を描いたり、話の道筋がわかるようにキーワードを書き足していったりというレベルのもので大丈夫です。

 

視覚補助を使うと、生徒はそれを見ようとして顔を上げ、話している人を見るようになります。ところがずっと話だけをしていると、多くの場合は生徒が下を向いたまま話を聞くようになります。特に、結果的に生徒に反省を促すような内容のときはなおさらです。そうなると、生徒の表情が見にくくなりますし、こちらの表情を生徒に伝えるのも難しくなります。

 

また、聴覚補助があればそれも有効です。たとえ映像が無くても、具体的な音声があれば生徒は集中してその内容を聞き取ろうとします。そして、それが生徒の心を動かすような情報であったり意見であったりすれば、生徒はそこからも何かを学んでくれます。

 

以上が筆者が考える話し方のポイントです。

 

4. 話を効果的にするための留意点 へ

◇本コーナーのトップページへ戻る

◇ホームへ戻る