(2) 全校週番によりよい週番活動を行うように話した例から

◇状況

勤務校には、学級週番を統括する全校週番という生徒の活動があり、2年生の1月から3年生の12月までに全生徒が順番にそれを経験するシステムがあります。クラス毎に毎回5~6名(2020年は3月から6月まで活動できなかったので、毎回10名)の生徒が担当して、1年間でその学年の全生徒が経験します。勤務校の生徒活動の大きな特徴の1つである自治活動の根幹を支える活動です。

 

その自治活動に対して、教員も持ち回りで全員が指導にあたります(これを「週番教員」と呼びます。(1)の話を参照)。1回に2名が指導にあたり、年間で2~3回担当します。基本的には生徒の自治活動ですので、指導教員としてそれをどうサポートするかは各教員に任されています。ただ、筆者としてはどうせ関わるなら、その全校週番の生徒たちにできるだけ達成感を持った活動をしてもらいたいと思い、数年前から毎回同じ話を全校週番の生徒にしています

 

なぜ毎回同じ話をしているかというと、その話をすると生徒たちの目が輝いてとても生き生きと活動に臨んでくれるだけでなく、最終日の週番引き継ぎ式で自分たちの活動の成果を自信を持って次の全校週番に引き継ごうとする話をしてくれるからです。

 

今回はその話をするために書いた原稿を紹介し、その原稿を書く際に意識したことを解説します。ただし、通常は前週末にある週番引き継ぎ式後に話すのですが、今回は筆者がそれに参加できなかったので、週番活動が始まった2日目の反省会で話すものに書き換えました。もちろん、実際に話す時は原稿を見て話しているわけではないので、実際に話した表現は多少異なっています。 

 

◇実際の話(原稿から) ※○数字及び太字は「話の工夫」の説明のために今回入れたもの 


①最後に、本来なら週番引き継ぎの後に毎回話していることがあるのですが、その時に先生がいなくてそれができなかったので、今日その話をさせてください。

 

最初にみなさんに聞きたいことがあります。みなさんはこの全校週番を楽しみにしていましたか? それとも「面倒くさいなあ」とか「できればやりたくないなあ」とか思っていましたか?

(誰かを指名して言わせてみる。答えられなくてもいい)

いきなりそんなことを言われても困るかもしれませんね。「面倒くさいなあ」なんて思っていたなんて答えられるわけがないですよね?

 

③実は、正直を言うと、先生は毎回「面倒くさいなあ」と思っています。だって、自由な時間が無くなるし、余計な仕事が増えるし…。先生がそんなことを言うなんてとんでもないと思われるかもしれませんね。でも、それが先生の正直な気持ちです。今回も先週まではそうでした。

 

④もちろん、そういう気持ちのまま週番活動には入りません。みなさんと一緒の今週もそうです。それはどうしてかというと、先生は「どうせやるなら、いやいややるのではなく、楽しくやろう」といつも気持ちを切り替えるからです。つまり、週番活動を「やりたくないこと」ではなく、「楽しみ」に変えるのです。どうせ同じ事をするなら、楽しくやりたいというのが先生の主義です。そして、みなさんにもどうせやるなら、楽しく週番活動をやってもらいたいと思っています。

 

⑤では、どうやったら週番活動を「楽しみ」に変えられるでしょうか? どうしたらいいと思いますか?

(誰かを指名して言わせてみる。期待する答えが出たら、それを利用する。期待する答えでなくても、そこから自分の考えに持って行く)

先生の場合は、番活動の「楽しみ」とは自分が取り組んだことで生徒が何か変容することです。つまり、自分が何か呼びかけたり、ここをこうすればもっと上手くいくかなと思ったことを実行したことで、全校生徒の生活状況が向上したという実感を得ることです。

 

⑥ところで、みなさんは週番活動を行う目的は何だと思いますか?

(誰かを指名して言わせてみる)

週番活動の大事な仕事としては、遅刻者はいないか、掃除はしっかり行われているかなどを点検することですよね。でも、週番の仕事はそれだけでしょうか? 他に大切な仕事はありませんか? 週番活動を行っていて、みんなにどうなって欲しいですか?

(誰かを指名して言わせてみる。答えが出なければ…)

では、少し言い方を変えましょう。正門のところでみんなで挨拶をしているのは何のためですか?

(誰かを指名して言わせてみる)

 

⑦もちろん、みんなに明るく元気に学校生活を送ってもらいたいからですよね? そうだとすれば、週番は点検をしているだけでいいのでしょうか? 週番のみなさんが率先して「おはようございます」とみんなに声をかけているのはなぜでしょうか?

(誰かを指名して言わせてみる)

もちろん、みなさんの挨拶によって「今日も一日頑張ろう」ってみんなに思ってもらうためですよね? まさか、週番になったら挨拶をするものだと考えてしているわけではないですよね?

 

⑧さあ、そこでみなさんに課題を出します。と言っても、先生の方からこれをやりなさいと何かを強制するものではありません。その課題とは、「自分がこれをやったら仲間の生活状況が良くなった」と思えそうなことを考えて、それを実行することです。内容は何でも構いません。今週の目標から考えてもいいでしょう。みなさんの一人一人が感じていることから出発しても構いません。とにかく、それぞれが独自の目標を持ってそれを実行することを課題にします。

 

⑨そして、その成果を金曜日の週番引き継ぎで発表してください。先週の人の発表を聞いていると、「~ができなかったので、来週の人は頑張ってください」というのが多かったですが、そんな発表はいりません。そんな発表は無意味で無責任です。自分ができなかったことをただ発表して次の人は頑張ってなんてひどいです。そうではなくて、「自分はこういうところを頑張ったら、こういうところが改善した」という感想がほしい。そして「ぜひ来週の人もそうしてほしい」とか「来週の人も何か考えて実行してほしい」と語ってほしい。

 

⑩今現在何かそういう目標がある人はいますか?

(挙手を促す。おそらくいないだろう)

あと数日しかありませんが、一人一人がそういう目標を立てて、それを実行してみて、その成果を発表してほしいんです。もちろん、うまくいかないこともあるかもしれません。それでもいいんです。大切なのは、漫然と決められたことだけをやるのではなくて、自分で考えたことをやってみるということなんです。それを先生は「攻めの週番活動」と呼んでいます。

 

⑪実は、過去にも毎回この話をして先輩達がみんなそれを実行してくれています。みなさんとはまだ2日間しかお付き合いしていませんが、今回集まったみなさんはとてもいいメンバーですね。仕事はきちんとやるし、挨拶もしっかりする。その仕事と挨拶にもう少しこだわりの意味を持たせてみましょうよ。そうするだけで、週番活動がもっと面白くなりますよ。

 

この話はもっと早くしたかったんですが、その機会がなくて今日になってしまいました。明日から期末考査だというのに遅くまで残って仕事をしてくれて、さらに先生の長話を聞いてもらって申し訳ありませんが、これもみなさんに週番活動を楽しんでもらいたいという思いから話しているのだということを理解してもらえると嬉しいです。

 

⑬では、先生からの話はこれで終わりです。明日も頑張りましょう。  


◇話の工夫

上記の話をするにあたって、原稿を作成する上で意識したことを段落ごとに説明します。各項目の○数字は、上記の話の段落数字と一致しています。  

 

①特別に話をするということを伝えます。このように言うと、多くの生徒が顔も体もこちらを向けて話を聞く準備を整えます(それまでは生徒同士が向き合って反省会をしている)。細かいことですが、話を聞く時は話をする人を見るという姿勢ができるまで待つことをせず、話を聞く準備ができていないのに話し始めると、「私の話は聞く価値がないもの」というメッセージを送ってしまいます。 

 

②生徒がハッとするような話題を向けます。これによって生徒の頭が回転し始めます。さらにここでは生徒に発言を求めて緊張感を高めています。どうでもいいことをダラダラ話すだけだと、生徒はそれを聞き流してしまいます。

 

③生徒が「ええ~!?」と思うようなことを言います。つまり、常識的な話の流れを覆すのです。教師は普通こういう場面でそのような「後ろ向きな」ことは言わないであろうと思われるようなことを伝えます。こういう気持ちを伝えると、たいていの生徒は驚いて目を見開くか、苦笑いします。ただ、それは生徒の正直な気持ちを代弁したものであるはずです。そうすることで、教師が生徒の正直な気持ち(本音)を理解した上でその話をしているということを示すことができます。

 

④上記の話の方向から一転して、常識的な(前向きな)方向へ話を持って行きます。そうすることで、③のような話に落胆してしまっているかもしれない前向きな生徒へも教師としての信頼感を与えて安心させることができます。そして、どのように考えて「後ろ向きな」気持ちを「前向きな」気持ちに変えたのかを述べます。つまり、自分の心の持ちようによって気持ちを切り替えることができることを話してあげます。

 

⑤気持ちを前向きに保つための具体的な方法を話します。何のヒントも与えずに「自分で考えろ」というやり方もあると思いますが、筆者の場合は答えのヒントや考えを進めるためのステップを与えるようにしています。そうすると、生徒の頭の中の回転がスムーズになり、次の話を聞きやすくなると考えているからです。

 

⑥通常であれば、ここで⑤の話をさらに詳しくすることも考えられますが、ここでは一見すると別の話題に振ったように見えて関連した内容に話に話題を変えています。一番の理由は、週番活動を行う上で忘れがちな大切なことを伝えたいからです。ここではいきなり生徒に質問をする形を採っていますが、それはここでも生徒の思考を促すことを優先しているからです。

 

⑦週番活動として当たり前に行っていることに意味づけをするための話をしています。このような話は生徒をハッとさせます。当たり前になっていることにかぎって、その趣旨をよく理解せずに行っていることが多いので、改めてそれを意識させることをねらっています。

 

⑧「課題を出す」というタスクを与えることで、生徒に目標意識を持たせます。ただ漫然と「~は大切だ」という話をしても、生徒の気持ちは高まりません。具体的な行動目標を示すことで生徒のやる気が高まります。ここでは課題の方向性こそ同じですが、一人一人に自分でその課題を見つけるように言うことで個人の自由度を高めています。これによって生徒が自分で考えるようになります。

 

⑨この課題には「発表会」がることを告げます。単に「~をしておきなさい」ではなかなか生徒が動きません。課題の成果を発表する機会があるということを知ることで、さらにその課題に積極的に取り組むようになるのは授業を運営する上での工夫と同じです。

 

⑩課題を達成する上での重要な考え方を示します。課題では「結果」が大切ですが、そこに至るまでの「過程」も大切であるというメッセージを送ります。そして、そこにこそ週番活動を行う醍醐味があることを伝えます。

 

⑪課題達成の見通しについて話します。先輩の例を示すことで、自分たちもできそうだという見通しを持たせてやる気を喚起します。後半の部分では、それまでの活動の様子でわかった良い部分を話してあげます。課題についてだけを話していると、そこまでの活動を否定されたような印象を持たれる可能性があるからです。よい部分は積極的に褒めることで自己肯定感を高め、さらに上を目指そうという気持ちにさせます

 

⑫今回の話をなぜしたかを説明します。今回指導する3年生は筆者の授業を受けた経験がないため、筆者がどのような話をする教師であるかがわかっておらず、それまでの話の浸透度を高めるために必要な話だと考えました。また、短い期間で生徒との人間関係を作ろうとするスタンスがわかる表現も入れてあります。

 

⑬話の終わりを宣言します。生徒を緊張感から解放する合図として大切です。

 

◇話の成果

今回の話では以下のような成果がありました。

 

◆朝の立哨指導時に登校する生徒にかける声が明るく元気になりました。また、それまで遠慮がちに声をかけていたような態度だったのが、全員がそろってはっきり声をかけるようになりました。

◆個々の生徒が課題としてあげていた点を改善しようとする具体的な動きが見られました。例えば、朝の学級週番の集まり(所定の時間に学年毎に学級週番が集まり、そこで全校週番から連絡を行う)が遅いと感じていた学年では、時間が来る前に各教室を回って声がけをするようになりました。もちろん、生徒が自分で考えたことです。

◆週の最後に行われた次週の週番との引き継ぎ会では、多くの生徒が自分が目指したこととその実行の内容、そしてその効果を語っていました。

 

◇こぼれ話

週番引き継ぎ会では、週番委員会を指導する教員から活動の様子についてお褒めのことばをいただきました。また、その話の中に出てきたことの中に筆者が生徒に話したことと共通の内容(週番の仕事は何も取り締まりを行うことだけではなく、元気に挨拶する姿が学校を明るくするという点)があり、今週の生徒たちの意識を強化するとともに次週の生徒たちへの事前指導にもなったと思います。

 

ただ、今回は実活動日数が少なく(4日)、しかもうち2日間は前期期末考査で活動時間及び活動内容が少なかったので、通常の週番活動のような達成感を味わえるほどにはなっていなかったように思います。また、人数も多かった(通常の5~6人→10人)であったことも、一人一人の活動の質をこちらが期待するレベルまで高めるまでには至らなかった理由であったと思います。それは週番引き継ぎ会での個々の生徒の発言の薄さに現れていたように思います。

 

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